リカバリーに特化したランニングシューズとして2018年注目されたアキレスのランニングシューズであるMEDIFOAM。「これだけのシューズが作れるなら、レース用のシューズも出して欲しい」という要望に応えて、2019年2月に待望のレースモデルが発売になりました。
「MELOS」と「ITEN」の2つのラインナップがあり、MELOSはソールに樹脂スパイクを搭載しているため、陸上トラックでも路面をしっかりと掴むことができ、ITENはラバーソールを使うことで安定感が増しています。
今回はこの2足のうち「ITEN」を履いて走る機会がありましたので、どのようなシューズなのか、どう履きこなすべきなのかについてレビューをしていきます。
安定感のDNAを引き継いだ軽量シューズ
これまで発売されていたリカバリーシューズとしてのMEDIFOAMは、着地の安定感がずば抜けて高いシューズでした。MEDIFOAMを履いて下り坂を走ると、着地したときに膝のブレが発生しないので、安心してスピードに乗ることができました。
また、通常のロードを走っているときにも「まっすぐに走れる」という感覚を得ることができました。この安定感が、ケガをしないためのシューズとして注目されている所以でもあります。
そして、ITENは間違いなくそのDNAを受け継いでいます。ソール材としてのMEDIFOAMは前足部だけにしか使われていませんが、着地したときの安定感は変わらず維持されています。
安定しているから安心して体重を乗せることができます。
それでいて「軽い」というのが第一印象です。
リカバリーシューズとしてのMEDIFOAMは、安定感はあるものの重たいシューズでした。下り坂では気になりませんが、フォーム材の硬さもあって、上り坂では軽快さが失われてしまいましたが、ITENにはそれがありません。
26.5cmの片足重量が188gですので、他社のレースモデルと同等の軽さで、なおかつ他社のレースモデルよりも安定感があります。レースシューズは走るために設計されているため、通常は歩くときに違和感があるものですが、ITENにはそれがまったくありません。
間違いなくスピードに乗れるシューズ
本当はフルマラソンで試してレポートしたいのですが、すでにエントリーしているフルマラソンがないため、今回は本当にレーススピードに耐えられるのかという視点で1kmのタイムトライアルをしました。
その結果をお伝えする前に、私の走力についてお伝えしておく必要があるかと思います。2018−2019シーズンでのベストタイムは次のようになっています。
フルマラソン:3時間19分58秒(愛媛マラソン)
ハーフマラソン:1時間36分24秒(TAMAハーフマラソン)
1km:3分28秒(練習タイムトライアル)
今回の計測は1週間前に60kmのウルトラマラソンを走った後に行っていますので、疲労がそれなりに残っている状態です。起床時心拍数が通常は50程度ですが、この計測時は55程度まで上がっています。
この状態で1kmのタイムトライアルを2本行いました。1本目と2本目の間には3kmのジョグを挟んでいます。
1本目:3分32秒
2本目:3分32秒
自己ベストと同じタイムとはいきませんでしたが、疲労具合を考えればかなりスピードが出ています。ただし、このときの印象はシューズを持て余しているというものでした。シューズのスペックに走力が追いつかずに走りがぐちゃぐちゃになっている感覚でした。
それともうひとつ気になったのは、自分の足にフィットしていないという点です。この点については次章で説明するとしましょう。
とにかく、この時点では「自分の走力では履きこなすことが難しい」という感じを受けました。キロ4分で走るときにランニング効率が上がるシューズとされていますが、それ以上のスピードになったときに制御しきれませんでした。
逆に言えば、走れるランナーならまだまだこのシューズのポテンシャルを活かす余力があるということです。
フィット感は洗濯することで解決した
まず、このシューズを選ぶときに試し履きを行いました。最初に履いたのが「MELOS」で、従来のMEDIFOAMと同じ25.5cmを選びましたが、足先が窮屈に感じます。これは実は従来のMEDIFOAMも同じような違和感がありました。
要するに私の足の形と、MEDIFOAMの木型がマッチしていないということです。これは実際にシューズを選ぶときに致命的な問題になります。トップランナーはオーダーでシューズを作りますが、これは自分の足型に合ったシューズを得るためです。
「MELOS」は親指が窮屈になるため「ITEN」を選んだわけですが、この2足の違いはソールだけでなくアッパーの補強の仕方にあります。MELOSは足の先端部に補強を入れてあるため、指先の伸びがありません。
ITENは足のサイドを補強しているので、指先には余裕があります。このため、ITENのほうが私にとっては少し履きやすいため、こちらを選んだというわけです。ところが実際に履いてみると、シューズ全体がフィットしていない感覚がありました。
それでも自己ベストに近いタイムが出ているわけですから、足にフィットする人が履くと、とんでもないタイムが出るだろうなと思ったわけです。
それとは別に、ITENがどうも汚れやすいということが気になって、最初のタイムトライアルのあとに、シューズを手洗いしました。洗濯石鹸の「ウタマロ」を使って汚れを落としました。
シューズがきれいになった翌日は、用事があってノーランデーとなりましたが、足の疲労も少しは抜けているだろうと思い、中1日でタイムトライアルに挑んでみることにしました。
驚いたのはシューズを履き直してシューレースを締めていくと、前回とはまったく違うフィット感があったということです。
シューズを洗ったことで素材が柔らかくなったのか、他に理由があるかは分かりません。ソックスは同じものを使っています。メーカーの見解も分かりませんが、とにかくシューズのフィット感が改善されました。
フィット感が改善された状態で10秒短縮
フィット感が改善されたとはいえ、やはり足型がマッチしていないことには変わりなく、親指はやはり窮屈なままです。前回よりはまだいいのですが、とりあえずこの状態で1kmを走ってみます。
1本目:3分27秒
疲労が抜けているとはいえ、いきなり自己ベストを更新しています。さらに前回と同様に3kmのジョグをして2本目を走ります。ただもう少しフィットしそうな感じがあったため、2本目の前に再度シューレースを締め直しました。
2本目:3分22秒
なんとフィット感を上げただけで5秒縮まっています。さらに2日前の計測よりも10秒も速くなっています。このときは前回のような持て余している感覚はありませんでした。きちんと意識したように足を動かせています。
シューズはフィット感が重要とRUNNING STREET 365でも伝えてきましたが、驚くほどの改善で、それに応じてスピードを出せるITENのポテンシャルの高さに驚かされました。
おそらく足型がマッチする人が履けば、もっといい走りができるのでしょう。わたしももう少し頑張ってみたくなりましたが、普段走ることのないペースで膝に違和感が出そうになったので、今の体でははここが限界と判断し、やめておきました。
MEDIFOAMレースモデル『ITEN』の総括
本当は長い距離を走ったうえでのレビューをしないと意味がないのは分かっていますが、タイミングとしてそれが難しいので、レースモデルとしてスピードに焦点を合わせてレビューをしてみました。
・軽くて安定している
・足にフィットするかどうかが重要
・サブ3を狙うランナーなら文句なしに買い
・汚れやすいのが気になる
・レースモデルで12,500円はコストパフォーマンスが高い
重要な項目をまとめてみるとこのような感じになります。
まずはなんといっても、MEDIFOAMのDNAである抜群の安定感があるということです。安定しているから、しっかりと体重を乗せることができ、次の一歩もブレることなく踏み出せます。それでいて軽いので足運びも負担がありません。
このように、シューズそのもののポテンシャルは非常に高いことが分かりましたが、同時にフィットしていないと、それを最大限に活かすことができないという結果になりました。おそらくですが、靴下選びも慎重に行う必要があります。
それでもサブ3を狙うランナーや、それ以上のタイムで走りたいランナーは間違いなく買いです。ただし、足にフィットすることを確認してから購入しましょう。できれば、正しいフィッティングのできる店員さんのいるお店で。
また、唯一気になったのは汚れやすいという点です。素材が原因なのか、私の使い方が悪かったからかは分かりませんが、他のシューズよりも走った後の汚れが気になったということだけお伝えしておきます。
それでも、最近のランニングシューズの価格が高騰していることを考えると、レースモデルで12,500円という価格は驚きです。コストパフォーマンスにも優れており、まずは試してみるということもできます。
理想の使い方としては、従来のMEDIFOAMを組み合わせるという方法です。
スピード練習・レース:MELOS or ITEN
リカバリー・ロング走:ADUCTOR2 or LSD
MELOSやITENをリカバリーで履くというのも悪くありませんが、ほぼ間違いなくスピードを出したくなってリカバリーになりません。速く走らないためにあえて重いシューズを履くことをおすすめします。
いずれにしてもMELOSとITENは、2019年に注目の1足となることは間違いありません。クセも少ないシューズですので、1分1秒を削り出したいというランナーさんは要チェックです。