2024年あたりから、ソール厚さが40mmを超える厚底のランニングシューズをメーカーが次々と発売しはじめました。当初は初心者向けモデルが中心でしたが、最近ではアシックスの「マジックスピード 4」や「ナイキ ズーム フライ 6」のように、スピードを求めるランナー向けのシューズもソール厚さが40mmを超えています。
ところがマラソンの競技規則(日本陸上競技連盟競技規則)として、ランニングシューズのソール厚さは40mm以内であることが規定されています。それなのになぜソール厚さが40mmを超えるランニングシューズが存在するのか、そのようなランニングシューズとランナーはどう向き合うべきかについて提案していきます。
ルールとしてはランニングシューズのソール厚さは40mm以内
すでにお伝えしましたように、マラソンにおける競技規則である「日本陸上競技連盟競技規則」や「IAAF規則」において、ランニングシューズのソール厚さは40mm以内と定められています。「以内」ですので、40mmまではOKであり、製造による多少の個体差は許容されます。
この40mmというのは、ヴェイパーフライの登場でランニングシューズが厚底化したときに、何らかのルールを定めないとランニングシューズによる助力が大きくなりすぎるということで、国際陸上競技連盟が定めたものになります。
ちなみに「日本陸上競技連盟競技規則」の場合、この規則を適用除外とすることもできます。ただし、その場合の記録は国内のみで通用するものとなります。たとえばソール厚さの規則が適用除外となるマラソ大会で、世界記録を出しても、世界記録としては認められません。
また、「日本陸上競技連盟競技規則」を準用していないマラソン大会においては、競技規則にソール厚さの規定がない場合は、ソール厚さが40mmを超えていても問題はありません。反対に日本陸連の公認大会でなくても、競技規則が、日本陸上競技連盟競技規則を準用していたり、ソール厚さが40mm以内と規定されていると、ルール違反になります。
たとえば、横浜マラソンは日本陸連の公認大会でも公認コースでもありません。ただし、競技規則は「日本陸上競技連盟競技規則を準用」としており、その場合は競技のルールとして、ソール厚さ40mm以下のランニングシューズを履いて(もしくは裸足で)スタートラインに立つ必要があります。
ランニングシューズのソール厚さはメーカーの自由
マラソンのルールでソール厚さが40mm以下となっているなら、ソール厚さが40mmを超えるランニングシューズを製造しているメーカーに問題があるのでは?と疑問に思う人もいるかもしれませんが、もちろんそこは何も問題はありません。
ソール厚さ40mmというのは、あくまでもマラソンのルールであり、ランニングのルールではありません。むしろランニングにルールなんてありません(マナーを守るなどの不文律はありますが)。毎日健康のためにランニングする人のソール厚さが50mmあっても、それはランナーの自由です。
そして、メーカーにとってソール厚さ40mmというのは、製品開発における足枷でもあります。「ソールがあと2ミリ厚ければ、もっと素晴らしいシューズになる可能性がある」という解析結果が出たときに、40mmという制約によって開発できなくなるというのは理不尽であり、納得もできない開発者も出てくるはずです。
よりよいランニングシューズを作りたい。そのためにソール厚さ40mmを忘れて開発しよう。そういうメーカーがあってもいいですし、走りやすいランニングシューズになれば、それだけランニングを継続できる人も増えて、ランニング業界が活性化することになります。
ただし、メーカーがそのランニングシューズを、マラソンシューズとして販売するのはNGです。悩ましいのは、多くのメーカーが「マラソン大会での記録更新をサポート」といったニュアンスの表現を使っている点にあります。「マラソン大会で履いて」とは明記していませんが、そうとも受け取れるグレーな表現にしています。
正直なところ、それにはがっかりさせられていますが、それは個人的な感情なのでここで深掘りはしないでおきましょう。とりあえず、メーカーがソール厚さ40mmを超えるランニングシューズを販売するのは、何も問題ないということだけ頭に入れておいてください。
ソール厚さ40mm超えのシューズでフルマラソンを走ってもいいのか
ソール厚さが40mmを超えるランニングシューズがある現状で、それを履いてレースに出てもいいのか。知りたいのはそこですよね。
有名なランニングインフルエンサーやブロガーだけでなく、メーカーの方ですら「一般のランナーはチェックされないので、ソール厚さ40mmを超えるランニングシューズでマラソン大会に出場しても問題ない」と説明している動画や記事がいくつもあります。
それを受けて問題ないと思い込んでいる人もいるようですが、実はそんな簡単な話ではありません。マラソン大会によっては明確なルール違反になるため、失格にされることもあります。では、どのような大会ならNGで、どのような大会ならOKなのかを見ていきましょう。
日本陸上競技連盟競技規則が適用(準用)される大会
どのような理由があれ、ソール厚さ40mmを超えるランニングシューズで走ることはルール違反になります。マラソンはルールのあるスポーツですので、ルール違反は失格を意味します。
一般のランナーはシューズチェックをされないとはいえ、審判員の方に「マジックスピード 4はルール違反だから失格ね」と競技中に止められたとしても文句は言えません。
ただし、ソール厚さの項目が「適用除外」となっていれば、問題なく履くことができます。
ソール厚さの規定がある大会(40mm以下と記載)
日本陸上競技連盟競技規則が適用されない大会でも、大会の競技規則にソール厚さの規定があり「40mm以内」と明記されている場合は、ソール厚さ40mmを超えるランニングシューズで走ることはルール違反になります。
ソール厚さの規定がある大会(陸連登録者は40mm以下と記載)
この場合は、日本陸上競技連盟競技規則が適用される大会であっても、ソール厚さが適用されるのは陸連登録者だけです。陸連登録者でなければ、ソール厚さがどれだけ厚くても違反にはなりません。そんな大会があるの?と思うかもしれませんが、陸連登録者のみ規定が適用される大会というのは意外とたくさんあります。
日本陸上競技連盟競技規則が適用外でソール厚さの規定がない
小規模大会の場合は競技規則もなく、もちろんソール厚さの規定がないケースもあります。そのようなマラソン大会なら、ソール厚さが40mmを超えるようなシューズを履いても問題ありません。自由に好きなランニングシューズを履いてください。
マラソンはランニングシューズという道具を使って行うスポーツ
ソール厚さ40mmを超えるランニングシューズを履いてもいいのかどうかは、マラソン大会ごとに判断が異なるということを理解してもらえたかと思います。ただそれはルールとしての話であり、ソール厚さにはもうひとつ大きな問題が隠れています。
それは「一般のランナーは調べられないから問題ない」という考え方です。確かにそれは事実です。入賞でもしないかぎり失格にされるようなことはまずありません。でも、それを理由にルール違反となる行為をしてもいいかどうかは別問題です。
そもそも、「一般のランナーは調べられないから問題ない」という人は、もし何かあったときに、あなたを守ってくれるわけではありません。たとえば次のようなケースが将来的に起こる可能性があります。
・日本陸上競技連盟競技規則が適用される大会
・ソール厚さが42mmのランニングシューズを選択
・完走タイムは2時間59分59秒
あなたはサブ3を達成したことが嬉しくて記録証とシューズの写真をSNSに記録をアップ。それを見た人が「ルール違反のシューズだから記録は無効では?」とコメント。
そんなコメントは無視してもいいのですが、でも心にモヤモヤがずっと残りますよね。胸を張ってサブ3を達成したと言えなくなってしまう。場合によっては炎上することも考えられます。でも「一般のランナーは調べられないから問題ない」と言った人もメーカーも、まず間違いなく守ってくれません。
モヤモヤを背負い続ける覚悟がないなら、レースではソール厚さ40mm以内のランニングシューズを選んでください。
もっとも、他人の評価がなくても、RUNNING STREET 365としては、ソール厚さ40mmを超えるランニングシューズがルール違反となる大会で、そのようなシューズを履くことはおすすめしません。なぜなら、それを履くことは「助力を受けている」ことになるためです。
それを前提に問います。「あなたは助力を受けて出した記録に満足できますか?」
これはスポーツマンシップの話になります(もしくは倫理観や道徳観)。スポーツマンはフェアでなくてはいけません。正々堂々とルールに従って競い合う。それがなければ、競技そのものが成立しなくなります。
厚底シューズの登場で、マラソンはランニングシューズという道具を使って行うスポーツに変化しました。それ以前のマラソンシューズは足を守るくらいの感覚で、ルール上は「履いてもいい」となってる程度の存在でした。ところが、この数年でランニングシューズは、スキー板やラケットのような道具になりました。
道具である以上はルールが適用されます。それが「ソール厚さ40mm以内」というわけです。おかしなことに大会ごとにそのルールが適用されたり、されなかったりしているというのが現状。でも、「ソール厚さ40mm以内」のランニングシューズを使って走るのが「マラソン」であり、そうでない場合は「42.195kmの距離を走った」だけです。
かつてキプチョゲがフルマラソンの距離を2時間以内に走り切りましたが、さまざまな助力があったため、フルマラソンを走ったことになっていません。それと同じです。
でも、結局は自分で決めることです。マラソン大会でソール厚さ40mmを超えるランニングシューズを履いている人を見つけても「違反ですよ」なんてことを言ったり、審判に告げ口したりもしません。私自身がそのルールを守っていればいいと思っているだけですので、それを押し付けるつもりもありません。
私は考えるための材料を提供しただけです。あとは、あなたがソール厚さ40mmを超えるランニングシューズとどんなスタンスで向き合うかを自分で考えて、自分で決めてください。