私たちの東京マラソン2026 Vol.4 「それぞれの到達地点」

過去最多の参加者で大きな盛り上がりとなった東京マラソン2026。世界中からランナーが集まり、さらには芸能人などの著名人やインフルエンサーも参加して、メディアやSNSを東京マラソン一色に染まりましたが、そもそも東京マラソンを走っているのは特別ではないごく普通のランナーがほとんど。

RUNNING STREET 365では、そのような特別ではない一般のランナーがどのように東京マラソンとどのように向き合うのか連載してきましたが、いよいよ東京マラソン当日を迎え、それぞれのスタイルで42.195kmを駆け抜けました。私たちにとっての東京マラソン2026がどのような大会だったのかをレポートしていきます。

目次

午前7時15分新宿集合

東京マラソンの号砲は9時10分。会場入口はそれぞれ割り振りがあり、決められた入口からしか入場できないため、集合写真を撮るために西新宿で待ち合わせしました。東京マラソンからのアナウンスでは7時〜7時半の入場をおすすめしていたので、集合時間は7時15分。

私はマラソン大会に1人で参加することが多く、大会前に待ち合わせなんてほとんどしたことがないのですが、緊張感を共有できていいものですね。今回並走することになった前川さんも、スタート前に話をしてリラックスできたとレース後にコメントしてくれました。

集合写真を撮って、さて入場と思ったのですが、私が入るゲート3まで想像以上に歩くことに。あちこちに案内が出ているので迷うことはないのですが、地下を移動しているので方向感覚もなくなり、なかなかゲートにたどり着けずにちょっと不安に。

もっともゲートは混雑しておらず、順番待ちもほとんどなくカバンチェックをしてセキュリティシールを貼ってもらい、10秒くらいで通過できました。ゲートや時間帯によって混雑具合は異なるのかもしれませんが、東京マラソンの入場ゲート通過時間の目安としては、7時半前後にしておいて問題なさそうです。

中に入ってからは1人で準備をするのですが、ゲートから入ってすぐに荷物預けがあり、トイレも行列に放っていましたが導線上にあるので迷うことはありません。私がスタートするKブロックの位置を把握していなかったので、少し迷いそうになりましたが、所々で「◯ブロックはこちら」という案内があって助かりました。

ただ、下調べをサボった私が言うことではありませんが、東京マラソンがはじめてという方は入場ゲートやスタートブロックの待機位置などは事前に調べておくことをおすすめします。レース前の不安は少しでも小さい方がいいですから。

須藤彩花さんの東京マラソン2026

須藤彩花さんの目標タイムは4時間15分で、スタートブロックはF。ちょうど真ん中くらいの位置で、スタートまでにかかった時間は13分22秒。マラソンのタイムはグロスタイムが正式タイムということになっていますが、さすがにこれだけのロスがあると、ネットタイムがそのランナーの完走タイムになります。

実際に東京マラソンの速報記録でも、グロスタイムよりも上にネットタイムが表示されます(小さな配慮ですがこのあたりが東京マラソンが愛される理由のひとつ)。

この日の最高気温は17℃前後の予報で、実際にエイドで給水するランナーも多く、厳しい環境でのレースとなりましたが、須藤さんは「暑さは気にならなかった」とのこと。むしろ天気が良くて気持ちよく走れたそうです。昨年の夏に北海道マラソンを走り、暑いレースの経験をしていたのがプラスに作用したのかもしれません。

初めての東京マラソン(そもそも走歴が1年半)でしたが、海外の方が多くて、応援の盛り上がりがお祭りのようで楽しかったというのが、実際に走ってみた印象だったようです。また、友人の応援を見逃さないように、応援ポイントをすり合わせしていたので、見逃すことなく応援してもらえたのも彼女の力になりました。

もちろん友人の応援だけでなく、途切れることのない沿道の声援のおかげもあって、苦しいと感じることもなく走り切ることができたとのこと。追っていたペーサーの方が途中で終了してしまい、若干モチベーションが下がったようですが、それでも自己ベストを13分も更新。

目標には届かず、そして実はサブ4も視野に入れていたとのことで、満足はしていないようです。むしろ、終わった後にあまり疲労がなく、前半のペースをもう少し上げればよかったと後悔しているとコメント。このあたりは参加人数の多い東京マラソンの難しいところ。どうしても回りのペースに合わせることになるので。

また、数ヶ月足を痛めない正しいフォームを意識的に練習したおかげか、走り終えた後に痛みや怪我がゼロだったことに自分の成長を感じられた点として挙げていました。まだまだ、ランナーとして体が完成していないからこその不安。そしてそれを乗り越えたことによる達成感。自己ベスト更新だけでなく収穫の多いレースになったようです。

東京マラソンをまた走りたいかと聞いてみたところ、「絶対走りたいです!当たるように一年徳を積みます!」と気持ちのこもった答えをもらえました。

初エントリーでいきなり当選。19年ずっと走れていない人からすれば羨ましく感じるかもしれませんが、こればっかりはマラソンの神様の気分次第。それでもきっと彼女はまた、東京マラソンを走ることになるような気がします。

それが来年なのか、10年後なのかはわかりませんが、彼女のランニング人生は始まったばかり。ランニングをはじめて1年半で東京マラソンを走れたことは、きっと彼女の大きな財産になるはずです。

前川房子さんの東京マラソン2026

「東京マラソンが終わってさみしい」。東京マラソンが終わった2日後の前川房子さんのコメントです。すぐ名古屋ウィメンズマラソンが控えているというのに(全力で体のメンテナンス中だそうです)。

彼女のスタートブロックはJ。彼女にとって3回目の東京マラソンですが「いつもだいたいJブロック」とのこと。この一からスタートまでにかかった時間は22分20秒。もう先頭は7km先の水道橋を通過している頃。そう考えると4万人が走るというのはすごいことです。

とにかくスタートからゴールまで大混雑というのが、前川さんの東京マラソン2026の印象。過去最高の参加者ということもあって、3年前よりも混んでいるように感じたそうです。実際に並走して感じたのはランナーの多さ。彼女の目標タイムの4時間30分にランナーが集中するというのもあるのでしょう。

人数が多いので流れに乗れれば楽だけど、追い抜きがとにかく大変。とくにペースランナーの集団を追い抜くのに苦労していました。

須藤さんと違って、暑さは感じていたけどビル影があったから、トータルではベストコンデションだったようです。さらに、沿道でもコース上でもたくさんのラン仲間に出会えており、ランニングクラブに所属したり、積極的にランイベントに参加、SNSの投稿も頻繁にしたりしていることが、東京マラソンをより楽しいものにしていました。

また、予定していた場所で待ってくれているはずのコーチがいなかったものの、別の地点で全力応援してくれたのと、しばらく会えていなかったラン仲間のサプライズ応援があったのも嬉しかったとのこと。実際に、ペースダウンしかけていても、誰かに会うたびにペースを取り戻していて、並走しながら応援の偉大さをあらためて感じました。

予定では33キロまでキロ6分20秒で、後半に上げて走るつもりだったようですが、さほど上がらず距離走が足りていなかったと反省。それでもネットタイムで4時間39分21秒で自己ベスト更新。

かつてフルマラソンは「完走」が目標だった彼女が、ランニングとの向き合い方を大きく変えて走れる人になり、そして目標に届かなかったことを悔しいと感じている。それだけでもラン仲間の1人として誇らしく思えます(本人には直接言いませんが)。

また、今回は私が並走する形になりましたが、それはそれで楽しかったとのこと。彼女の友人も2人で走っていて、東京マラソンを楽しめたとのことから、「誰かと走るマラソン」というコンセプトもありなのではという提案がありました。

東京マラソンの種目に「ペア」というのがあると、また違った楽しさがプラスされそうです。もちろん東京マラソン以外のマラソン大会が実施してもいいのですが、マラソンの新しい可能性になるかもしれません。

ちなみに、「また走りたいですか」との質問に対しては、「もちろん!出来ることならば走りたい」とのこと。東京マラソンの注目度は年々上がっており、すでに狭き門となっていますが、東京マラソンを駆け抜ける彼女の姿をまた見てみたいところです。

重松貴志さんの東京マラソン2026

今回の私のミッションは須藤さんか前川さんに追いついて、並走しながら取材をすること。ところが私はKブロックで3人の中で1番後ろ。しかもトイレの列に並んでいる間にブロックが移動してしまい、さらに後ろからのスタート。

スタートラインを通過したのは号砲から27分後のこと。さて、ここから前の2人に追いつかなくてはいけません。理想は1ブロック前の前川さんに追いつくことなのですが、スタート直後ということもあって人が多くて、見つけられる気がしませんでした。

まずは5時間のペースランナーを追い抜き、続いて4時間45分のペースランナー。キロ6分を切るペースで追いかけていたので、そろそろ追いつきそうなのですが見当たらず。15km手前まできて、もしかしたら前川さんを追い抜いてしまっていたかも不安になってきたところで、緑色したヘアスタイルの前川さんに追いつきました(目立つって大事ですね)。

さらに前を走る須藤さんに追いつこうとすると、30km地点くらいまで走ることになるかもしれませんし、それ以前に見つけられない可能性も高いと判断し、そこからは前川さんと並走。少し余裕のあるペースで東京マラソンを俯瞰して見ながら走ることに。

落ち着いて見えてきたのは、とにかく人が多いということ。そしてコースだけでなく沿道にも外国人が大勢いたということです。とくに台湾の応援団が多く、それに加えて中国の応援。あちこちで「加油」の声援があり、まるで中国や台湾を走っているかのような気分に。

前回出場した10年前とはコースそのものが違いますが、外国人の多さもランナーの多さも違います。だから走っていて10年前の東京マラソンを思い出すことはほとんどなく、新鮮な気持ちで目の前の風景を楽しむことができました。

フルマラソンはこれまで何度も走ってきましたが、並走するという経験は実はあまりありませんでした。引っ張るだけなら難しくないのですが、引っ張りすぎるとそれは前川さんの東京マラソンではなくなってしまいます。だから、時には程よく距離をとりながら。

それでも、マラソン中に感じたことをその場で誰かに話せるというのはいいものだなと。マラソンは孤独なスポーツですが、孤独にしているのは自分自身であり、東京マラソンを走りながら本当はもっとオープンで自由なスポーツだということに気付かされました。

タイムは4時間34分42秒と自分の持ちタイムからするとかなり平凡。裸足でフルマラソンを走ったかのようなタイムでしたが、これくらいのペースでいいのかもという気づきもありました。タイムを追って速いペースで走るのも楽しいのですが、何かを感じるためにスピードを落としてみる。

そのスピードでしか見えないものがあることを認識できたのが私にとっての大きな収穫でした。前回は「東京マラソンも同じ42.195km」という感想でしたが、今回感じたのは「東京マラソンも楽しい」ということ。そしてこの楽しさをまた誰かと共有してみたくなりました。

走る楽しさの幅が広がる東京マラソン

東京マラソンとは何なのか。ランニングやマラソンの情報を発信している立場になってから、ずっと考え続けている答えのない問い。かつての私にとって東京マラソンはたくさんある大会のひとつでしかなく、10年の経験を経てその魅力を少しだけ理解できるようになりました。

まず、ランナーそれぞれにとっての東京マラソンは異なり、向き合い方も目標も違います。でも、それでいいのだということに、今回2人のランナーから話を聞くことで気づきました。4万人の参加者がいれば4万通りの東京マラソンがあります。

そもそも42.195kmも走ることがすごいことなのに、スタートラインに立つまでのハードルが高い。でも、それも含めて東京マラソン。ランニングライフの中心にいるわけじゃないけど、実際に走れるチャンスが巡ってきたときには、ここでしか得られない特別な体験ができます。

そこはゴールではなくランニングライフの通過点ですが、体験することで走る楽しさの幅が広がる素晴らしい経験ができます。「いつか東京マラソンを走るために」その想いはランナーとしてのモチベーションを高め、私たちを高い場所にまで引き上げてくれます。

「東京マラソンとは何なのか」に対する答えはまだ出ていませんが、こうやって2人のランナーの声を聞き、自分自身も2回目の東京マラソンを体験したことではっきりしたことがあります。私たちにとって東京マラソンは特別な存在だということ。

特別な存在でない私たちの東京マラソンは、特別なハプニングもなく、連載として読み応えもなかったかもしれませんが、最後まで読んでいただきありがとうございます。次はあなたの番です。簡単には走れませんが、諦めずに応募し続けて、ランニングライフに新しい彩りを加えてくれることを期待しています。

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