久しぶりの攻撃的なランニングシューズを履きました。足を入れた瞬間に全力で駆け出したくなる衝動に駆られる。「アディゼロ タクミ セン 8(ADIZERO TAKUMI SEN 8)」は、そんな超攻撃的なランニングシューズでした。
女子単独5kmの世界記録を更新するなど、5〜10kmの距離で圧倒的な存在感を示す「アディゼロ タクミ セン 8(ADIZERO TAKUMI SEN 8)」をアディダスさんに提供いただきましたので、都内で1番の急坂「まぼろし坂」を駆け上がってみました。
軽量で圧倒的なスピードを引き出してくれる1足
5kmからハーフマラソンまでのスピードレースで圧倒的な存在感を誇っていたアディゼロ タクミ センが「アディゼロ タクミ セン 8(ADIZERO TAKUMI SEN 8)」でフルモデルチェンジ。5本指グラスファイバー「ENERGYRODS」を搭載して、さらなるスピード領域へと連れていってくれる1足に進化しています。
アディゼロ アディオス プロとどこが違うの?スピードを出せるならフルマラソンに使えるのでは?といろいろ疑問を感じている人もいるかと思いますので、まずはシューズスペックの部分でアディゼロ タクミ セン 8の特徴を見ていきましょう。
アディゼロ アディオス プロとの明確な違いは「余白の少なさ」にあります。アディゼロ タクミ セン 8はスピードを出すために、通常のランニングシューズにある余白がほとんどありません。表現を変えれば「無駄を限界まで削ぎ落とした1足」です。
重さは25.5cmの実測で174gで、いかに削ぎ落とされているかが分かるかと思います。
アディゼロ アディオス プロはスピードを出せるシューズとはいえ、42.195kmも走ることを想定しているので、足に対する優しさも残しています。しっかりとホールドしてくれますし、着地に適したスイートスポットも比較的広め(アディゼロ タクミ セン 8と比べれば)。
でもアディゼロ タクミ セン 8は足への優しさもホールド感も最小限で、スイートスポットも驚くほど狭くなっています。そういう意味では誰にでも扱えるシューズではなく、しっかりとトレーニングを積んで自分で走りをコントロールできるシリアスランナー向け。
ただしハマったときの気持ちよさは、他のシューズの比ではありません。そしてその感覚を味わってしまうと、もう他のランニングシューズでは満足できなくなるかもしれません。圧倒的な加速度と追従性がもたらしてくれるのは、自分史上最高のスピード領域です。
包み込むのではなく貼り付くようなフィット感
アディダスのランニングシューズは、フィット感にこだわったシューズづくりをしています。シューズによっては日本人の足型に合うように製造しており、しっかりと足を包み込んでくれる安心感があります。ところがアディゼロ タクミ セン 8には優しく包み込むようなホールド感はありません。
ではシューズがブレるのかというとそういうことではなく、足にはフィットしているのでそのような問題は起きません。ホールド感がないのにフィット感があるというのは、どこか矛盾しているように思えるかもしれませんが、これはちょっとした言葉遊びのようなもの。
一般的なランニングシューズ:シューズに足を入れてフィットさせる
アディゼロ タクミ セン 8:足にシューズをフィットさせる
この2つの違いはわかるでしょうか。一般的なランニングシューズはシューズが主導権を握っていますが、アディゼロ タクミ セン 8は足に主導権があります。まずそこに足があって、そこにソールやアッパーを貼り付けていくのでフィット感が高まるわけです。
高いフィット感があるので、シューズの追従性は尋常ではないくらい高く、どんな走りをしても足がシューズに振り回されることはありません。ほぼ自分の体の一部のような感覚になり、自由自在に足とシューズをコントロールできる。アディゼロ タクミ セン 8は「シューズ」より「装備」と表現したほうがしっくりくるもしれません。
都内で1番の急坂「まぼろし坂」に挑戦してみた
アディゼロ タクミ セン 8を履いた瞬間に感じたのは、シューズがスピードを求めているということ。それは直感的なものですので上手く説明するのが難しいのですが、さまざまなシューズを履いていると、シューズごとの性格のようなものを感じられるようになります。
アディゼロ タクミ セン 8の性格はかなり攻撃的で、履いただけでランナーの気持ちが高まるのですが、私の走力を考えるとフラットなコースでスピードを出しても、心肺機能が先に負けるのでシューズのポテンシャルを引き出せそうにありません。
そこで思いついたのが東京の坂道。東京にはいくつもの坂道があり、そのなかでも品川にある「まぼろし坂」は、自称ではありますが、都内で1番の急坂として知られています。そこを一気に駆け上ることで、シューズのポテンシャルを引き出せるのではないかと考えたわけです。
距離にして80mしかありませんが、傾斜は29%、高低差はGoogle Map調べでは18mもあります。まずは軽めにテストランをしてみたところ28秒。これだけで息が上がってしまいましたが、本番はここからです。
シューレースを緩めてフィッティングからやり直し、1本目よりも足の回転数を意識して駆け上がります。回転数を上げてもシューズがしっかりと追従してくれるので、体の動きだけに集中でき、坂道でもしっかりと反発をもらいながらグイグイと走れる感覚があります。
シューズを履いているというよりは、シューズと足が一体化している感覚。歩いているときに気になった不安定さはまったくなく、まっすぐに走れるのもアディゼロ タクミ セン 8の面白いところ。こういう感覚は実際に走ってみないとわかりません。
おそらく多くの人がショップで履いて「不安定すぎる」と感じたかもしれませんが、アディゼロ タクミ セン 8は止まっているときや歩いているときの安定性は削ぎ落とした1足。トップスピードの領域に入ったときに、初めて安定性を感じます。
2本目のタイムは21秒。1本目も軽めとはいえ手を抜かず走ったつもりでしたが、集中力を高めた本気モードで7秒も縮まるというのは想定外。追い込めば追い込むほど、自分の能力を引き出してくれる。アディゼロ タクミ セン 8にはそんな懐の深さがあるように感じます。
心肺機能を追い込みたいときにもおすすめ
スピードに取り憑かれると、やはりどれくらいのペースで走れるのか試したくなるのがランナー。1kmでのタイムトライアルに挑戦してみました。これに関しては、結論から言えば心肺機能が負けて、自己ベストからは2秒程度遅いタイムでした。
ただベストタイムを出したときよりも3kg以上体重が重たく、最近は大会もないのでスピード練習がおろそかになっていることを考えれば、実は驚くべきタイムなのかもしれません。もう少しペース配分ができれば、簡単に自己ベストを超えてしまうかもしれません。
ただ、ここで感じたことはタイムよりも、心肺機能を追い込みやすいということ。シューズの反応がいいので、一気に最高速度にまで加速でき、心拍数も簡単にレッドゾーンまで持っていけます。それはすなわち、心肺機能を追い込むトレーニングに最適だということを意味します。
逆にその領域まで心拍数を上げないのであれば、adizero Adios Pro 2のほうが足にも優しくておすすめです。息を切らしながらも、そのまま走りきれる距離でポテンシャルを発揮するのがアディゼロ タクミ セン 8。大事なのは目的や用途ごとに使い分けるということ。
結論:理屈抜きでスピードにこだわれるランニングシューズ
人間の本能には「速く走りたい」という欲求があります。その「速く」の考え方が多様化しているので、言葉にするのが難しいのですが、アディゼロ タクミ セン 8の追求する速さは、シンプルに走る速さです。一気に加速して、過去の自分を置き去りにするスピード。
そのためにムダを削ぎ落としていますし、人によってはクセが強いと感じるかもしれません。シューズが持つ性格も攻撃的で、足を入れた瞬間に「速く走れ」と急かされる感覚もあります。でも1度だけでもアディゼロ タクミ セン 8を履いて、本気で走ればすべての理屈は消えていきます。
「細かいことはどうでもいい。速さを求めるなら選ぶべき」これがアディゼロ タクミ セン 8に対する総評です。ハーフマラソンまでの距離で、速さを追求する人ならベストバイの1足。すぐにでも購入すべきです。
ただ、限界まで削ぎ落としているので、耐久性が他のランニングシューズよりも高くない可能性はあります。ただこれはアディゼロ タクミ セン 8に限らず、速さを求めるシューズが必ず抱えることになる課題のひとつ。
万能ではなくただただスピードに特化している。そのスタンスに心が揺れるのであれば、スピードスターの素質あり。アディゼロ タクミ セン 8を履いて、限界の向こう側の景色を目指してみてはいかがでしょう。