新作ランニングシューズが発売になるたびに、大々的な宣伝を行ってきたナイキ。ところが最も売れ筋のはずのナイキ エア ズーム ペガサス 36は、ほとんど話題になることなくひっそりと発売になりました。
今回のモデルですでに36代目となるナイキ エア ズーム ペガサスはなぜ、他のシューズのように推されることなくラインナップに加わったのでしょう。それを確認するために、実際にナイキ エア ズーム ペガサス 36を履いて走ってきましたので、実際に履いて感じたことについてレビューします。
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ナイキ エア ズーム ペガサスの歴史
レビューの前にナイキ エア ズーム ペガサスについて簡単にご紹介しておきましょう。ナイキのペガサスシリーズが誕生したのは1983年のことです。当時のランニングシューズに使われていたのはエアウエッジと呼ばれるEVAよりも衝撃吸収率の高いソール材です。
NIKEを世界的なブランドに押し上げたAIRの登場により、ペガサスにもビジブルエアが1996年に搭載されます。ところが1997年に1度ペガサスシリーズは廃止され、その後2000年に復帰。
そこから徐々に進化を遂げ、以前のような大きなAIRではなく、シート状のエアユニットが採用されるようになりました。ナイキ エア ズーム ペガサス 34までは、前足部と踵部の2ヶ所にエアユニットが組み込まれていました。
ところが、ナイキ エア ズーム ペガサス35で大きな方向転換をします。ジョグやリカバリーランなどのゆっくりのペースで走るときには、トップランナーでも足裏全体で着地することが分かり、エアユニットは分割ではなくインソールのように1枚構造になりました。
これにより、ペガサス34とペガサス35はまったく別物のシューズになりました。今回発売のペガサス36は、ペガサス35の流れをそのまま組み込んだ1枚のエアユニットを採用しています。
ナイキ エア ズーム ペガサス 36のファーストインプレッション
前置きはそれくらいにしておきましょう。まずは履き心地ですが、今回のペガサス36は履き口がスリムになっています。このため、シューズが脱げるのではないかと不安になるくらい、ゆるさを感じます。
ペガサス34からペガサス35に変わったときにも同じように、履き口のゆるさを感じましたが、今回はさらにゆるくなっている感じがあります。ズームフライも同様の傾向にあるので、これがナイキの出した履き口の正解なのでしょう。
ただ、このゆるさはフィッティングをしっかりすることで、ある程度解消されます。さらに最上段のシューレースホールは外側の穴を使うことで、しっかりとホールドした感じになります(それでも違和感はありますが)。
ゆっくりと走り出して感じたのは、ペガサス35と同じ足裏全体での着地が必要なシューズだということです。フォアフットで入っても、踵着地で入っても力がロスして、思ったようにスピードに乗れません。
中足部で着地して、そのまま地面を押し出す感覚で走ればソールの反発力によって、力を入れなくてもグイグイ前に進むことができます。反対に力を入れてガツガツ走ろうとすると、力をどんどん削られていきます。
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スピードを上げて走ってわかったペガサス36の使い方
ある程度慣らして、ナイキ エア ズーム ペガサス36の特徴を把握したところで、どれくらいのポテンシャルのあるシューズなのかを確認するためにペースを上げてみます。
皇居周りの5kmをタイムトライアルです。実は1週間前にも同じ場所で別のサブ3を狙うランナー向けのシューズでタイムトライアルをしています。そのときのタイムが20分43秒でした。
ちなみに私の1kmのベストが3分18秒、フルマラソンは今年の愛媛マラソンで3時間21分37秒がここ2〜3年でのベストタイムです。それくらいの能力のランナーである前提で読んでください。
ナイキ エア ズーム ペガサス 36で走る場合には、しっかりと足裏全体で着地して反発をもらうという走り方が適しているので、タイムトライアルでも「速く走ろうとしない」ことが重要です。
足に体重が乗ったのを確認して丁寧に地面を押し出します。タイムを見ながら走ると調整をしてしまうので、ペースは確認していませんでしたが、1週間前よりもゆったりとした感覚でした。
シューズにまだ慣れきっていませんが、シューズに上手く乗れたときには驚くような推進力があります。また、着地したときの安定感もありますので、ペガサス35とほぼ同じ感覚でリカバリーランやジョグに利用できそうです。
ただ、ペガサス35よりも推進力が数%上がっているような気もします。ただし、ナイキはそれについてはまったく触れていません。
- 改良をしたけど性能向上に確信を持てない
- 私の走力が1年前よりも上がった
考えられるのはこの2点です。感覚的には前者ではないかと思うほど推進力を感じます。ペガサス35よりもペガサス ターボに似ていると感じるほど、グッと押される感じがあります。
ただ、こういうシューズレビューで悩ましいのは、同時に履き比べができないということで、ペガサス35を履いたのは1年前ですので、記憶もあやふやですし、私自身も1年間で走り方がかなり変わっています。
今の自分がペガサス35を履いたら、ペガサス36のように推進力を感じるかもしれません。
皇居周りはアップダウンがありますが、足裏全体で着地するシューズですので、上り坂になると推進力が一気に失われます。着地がどうしても前足部側になってしまい、シューズの反発力をもらえません。
踵着地になってしまう下りもあまり得意なシューズではありませんが、クッション性と安定感があるので勢いに任せて走ることもできるため、こちらはそれほど気にはなりません。
むしろ踵で入ってから前足部への体重移動がスムーズに行えて、ドタバタせずに下ることができます。ただ、このときも「速く走ろう」という感覚ではなく、しっかり地面をつかもうとしながら走りました。
20分14秒
1週間前よりも30秒近く縮まっています。1週間前よりも気温が低いとうのもありますが、サブ3を狙うシューズと遜色ないポテンシャルがあることが分かりました。それも速さよりも丁寧さを優先したのにも関わらず。
ただ、キロ4分の先の世界で走るとなると、かなりの走力がないと難しいかと思います。さらにスピードに乗ってフォアフットになったとき、ランニングエコノミーが下がります。
まとめ
- キロ4〜5分程度で力を発揮する
- 足裏全体での着地が必要なのでスピードには乗れない
結論としては、この2つがペガサス36の特徴だと感じました。このシューズはレース用でもトレーニング用でも使えるとなっていましたが、オールマイティーなシューズではありません。
サブ3を狙うくらいまでならレースでも十分に使えますが、それ以上のクラスになるとリカバリーやジョグ、距離走のためのシューズという位置づけになります。また、キロ3分台で走るようなスピード練習には適していません。
ここまでのレビュー内容から分かるかもしれませんが、ポテンシャルとしてはペガサス35とほぼ同等のシューズです。劇的な進化はなく、ナイキが積極的に宣伝をしなかったのはマイナーチェンジに過ぎなかったからなのでしょう。
このため、ペガサス35から急いで乗り換える必要はなく、現時点で買い替えたいと思っているなら、モデルチェンジによって値段が下がったペガサス35のほうがコストパフォーマンスに優れています。
ただ、ペガサス35と同じように走れるわけですから、買い替え時にペガサス35の在庫がないならペガサス36に移行しても問題ありません。履き口の感覚が合うかどうかですが、これは走っていれば慣れます。
積極的に買い替える理由はありませんが、定番ならではの安心感がペガサス36にはあります。ひっそりと発売になりましたが、決して問題のあるランニングシューズというわけではありません。
むしろペガサスシリーズとして、大きく改良する必要のないほどポテンシャルの高い仕上がりになっています。キロ3分台で走るというのでなければ、この1足でレースもトレーニングも使える理想の1足です。