アディダスから新しく発売される「ADIZERO JAPAN 6(アディゼロ ジャパン 6)」を提供いただいたので、実際に走ってみて感じた特性などをレビューしていきます。厚底ランニングシューズが主流となるなかでラインナップされたアディゼロ ジャパン 6。
いったいアディダスにはどのような思惑があり、そして私たちランナーはどのような使い方をすればいいのかという視点でチェックしながら走ってみましたので、購入を迷っている人はぜひ参考にしてください。きっと自分に必要なシューズかどうか判断できるようになるはずです。
世界記録を更新したモデルのDNAを引き継いだシューズ
2007年9月に開催されたベルリンマラソンでエチオピアのハイレ・ゲブラシラシエ選手が2時間4分26秒の世界記録を樹立したときに履いていたランニングシューズがアディゼロ ジャパン(アディゼロ アディオス)です。アディゼロ ジャパン 6はそのシューズのDNAを引き継いだランニングシューズになります。
世界モデルは「アディゼロ アディオス」ですが、日本で発売されているモデルのみ「アディゼロ ジャパン」と命名されています。アッパーのフィット感がとても優れている1足で、さらに27cmで230g(25.5cmの実測が219g)と軽量でスピードを出しやすいモデルとなっています。
これまでのモデルはBOOSTフォームを前足部に採用していましたが、今作からはアディゼロ アディオス PRO 2.0にも搭載しているLightstrike Proクッショニングを前足部に採用し、従来のモデルよりも高い反発力が得られるランニングシューズとなっています。
アッパーは評価が高かったアディゼロ ジャパン 4に近いフィット感を目指しており、前作の5でアッパーが硬いと感じた人も、このモデルならフィット感に満足できるように改善されています。
薄底であることのメリットをどう活かすか
本来ならこのシューズがエリートランナーも使用する1足になっていてもおかしくないのですが、ご存知のようにランニングシューズに大きな革命の波が押し寄せて、マラソン大会で記録にこだわるなら、厚底✕補強部材のシューズを履くのが常識になっています。
アディダスも世界のトップランナーに満足してもらうために、アディゼロ アディオス PROを発売し、様々な記録を塗り替えています。そうなるとアディゼロ ジャパン 6の役割が見えなくなります。いくらLightstrike Proクッショニングを採用してもアディゼロ アディオス PRO 2.0よりはポテンシャルが落ちます。
もっとも厚底シューズに対してまだ抵抗がある人もいるので、そのようなランナーのニーズに応えるための1足が必要という意味でラインナップされているのもありますが、アディダスには他の考えもあります。それは足を鍛えるためのランニングシューズも必要だということ。
厚底のランニングシューズはクッション性に優れているので、長い距離を走っても疲労しにくくケガを防止したり、ベストコンディションでポイント練習に挑めたりするなどのメリットがありますが、足にとっては過保護すぎて筋力が低下しやすいという問題があります。
だから筋力を落とさないためにも、従来どおりの薄底のランニングシューズがランナーには必要だと考えたわけです。その役割を担っているのがアディゼロ ジャパン 6というわけです。厚底シューズほどの衝撃吸収力がないので、スピードを出して走ったときの衝撃が筋肉を刺激して、足を強化してくれます。
Lightstrike Proクッショニングを前足部だけに採用し、片足230gと軽量にしているのも、すべてスピードを出すためで、そのスピードによって足を強化するためにこのシューズがあります。ただ、理屈の上ではそうであっても、実際に使えるのかどうかは別の話です。
本当にスピードを出すことができるのか、そして足を強化するための1足になりうるのか。実際に走って確認してみました。
軽量であることを活かして峠を走ってみた
まずは約2kmの直線で160mほど上がる峠を、アディゼロ ジャパン 6で走ってみました。足を強化するために坂道はとても有効なトレーニング場所ですので、軽量であることを活かして走ってみたときにどのような反応をするのかを見てみました。
まずは峠に行く前に軽くジョグから入ります。フィット感はジャパン 4とジャパン 5の中間くらい、しっかりとホールドしてはくれますが、さすがに最高傑作ともいえるジャパン 4までは届かないかなという感じです。ただし、これは好みの差があるので人によってはアディゼロ ジャパン 6のほうが気に入るかもしれません。
ただ木型はアディゼロ ジャパンそのものですので、普段からアディゼロ ジャパン 4と5を愛用している私にしてみると安心感があります。新しいボストン 10は踵のフィット感がいまいちでしたが、ジャパン 6はしっかりと踵を固定してくれます。
反発力はLightstrike Proになって高くなっているはずですが、BOOSTフォームとはまた違った粘り気のある反発のように感じます。BOOSTフォームは爆発的な反発を感じましたが、Lightstrike Proはもっと優しい感じ。感覚なので伝えにくいのですが、BOOSTは「バンッ!」という感じでLightstrike Proは「グッ!」という感覚。
重たいシューズですと峠道に入ると回転数が落ちるのですが、アディゼロ ジャパン 6は回転数を維持しやすく、無理なく坂道を駆け上がっていけます。残念ながら私の心肺機能が付いてこれずに何度か立ち止まってしまいましたが、上り坂なのに淡々と進めます。
安定感も高くて足がブレる感じもありません。さらにアウトソールの形状が大幅に変わっていて、グリップ力が高いのもあってきちんと地面を掴めます。ただ問題は下り坂です。アディゼロ ジャパン 6はフォアフット前提ではデザインされているので、下り坂で踵着地なると安定感が失われます。
それを回避するには、下り坂でもフォアフットになるように前のめりに走る必要がありますが、そうなるとキロ3分よりも速くなるので、またしても心肺機能の限界がやってきます。エリートランナーであれば下りも問題なく履きこなせるかもしれませんが、サブ3を狙うレベルのランナーではコントロールしきれませんでした。
もちろん慣れなので、何回かすれば走りをコントロールできるようになります。それでも足への衝撃もかなり大きく、かなりダメージが残りそうです(実際に残りました)。もっともそれは「足を強化する」ための狙い通りですので、それほど大きな問題ではありません。
上りだけでなく下りでも履きこなせるようになったら、足の筋力がかなり強化できている状態ですので、レースでもこれまで以上のスピードを出せるようになります。このシューズを履くだけでなく筋トレもしなくてはいけませんが、足の強化と考えたときには、アディゼロ ジャパン 6は理想的な1足になりそうです。
スピード練習に利用できるかの検証
峠の坂道を走ってみて感じたのは、足の回転数を上げやすいということ。ということはインターバルやペース走といったスピード練習にも適しているのではないかということです。軽くて反応がいいので、一気にトップスピードに乗ることができるので、HIITなどにも使えそうです。
本来ならここでいつも1kmのタイムトライアルをしているのですが、峠を走ったあとのダメージが思いのほか大きく、とても1kmをトップスピードで走るのは無理だったので、今回は200mを3本と400mと1本走って、加速からトップに入るまでの感覚を確認しています。
疲労感が高いのでMAXまで上げるのではなく、1km換算で3分20秒ペースになるくらいまで抑え気味でしたが、ピッチが200spmを簡単に超えているのは、やはりシューズの軽さと反応の速さが影響しているのでしょう。
同じトレーニングシューズのボストン 10よりも5〜10spmくらい高い数字になるので、心肺機能にもしっかりと負荷をかけられます。しかもスピードを出せば出すほど着地が安定していくので、それなりに鍛えているランナーであれば、ハーフマラソンくらいならレースでも履けるポテンシャルはあります。
もちろんフルマラソンを完走することも可能ですが、厚底シューズと比べるとダメージの蓄積が大きいので、後半の失速につながる可能性はあります。なまじスピードが出るので、余計にオーバーペースになりやすいので、抑え気味に走る必要がありそうです。
ただ、スピード練習用として考えると、まったく問題ないどころかボストン 10よりもおすすめの1足です。予算にどれくらいの余裕があるかにもよりますが、レースシューズをアディゼロ アディオス PRO 2.0にするなら、ジョグ用やロング走用がボストン10、スピード練習用がアディゼロ ジャパンという使い分けが良さそうです。
結論:足を衰えさせないための1足
アディゼロ ジャパン 6はとにかくピッチを上げやすいシューズで、アディゼロ ジャパン 5の置き換えとしても、しっかりと足を支えてくれますし、インターバルトレーニングやペース走といったスピード練習にも使える1足です。
ただし反発力を重視した感があり、クッション性はそこまで高くありません。だからこそ、スピード練習で履いて、足の筋力を上げるのに使ってもらいたいところです。厚底シューズが主流になって、足が過保護になりすぎて筋力ダウンするのを防止するのに、アディゼロ ジャパン 6は有効です。
1週間に1回でも2回でもいいので、アディゼロ ジャパン 6を履いて追い込む練習をすることで、40代50代になっても若い頃のスピードを維持できます。ただし、走るだけでなく合わせてスクワットやジャンプなどの筋トレも必要です。アディゼロ ジャパン 6は地面を感じやすいので、そんなフィジカルトレーニングにも使えそうです。
以前のモデルのように必要以上に弾むという感覚がなく、安定性も高いのでただ走るだけでなく、ラダートレーニングなどにも使えて、徹底して体を作り上げたいという人におすすめです。もちろん、このシューズを履いて自己ベスト更新を狙うのもいいでしょう。
1秒でもタイムを削りたいならアディゼロ アディオス PRO 2.0、本質的に過去の自分を超えていきたいならアディゼロ ジャパン 6。こんな選び方でもいいかもしれません。いずれにしても大事なのは、自分でどのような場面で使うのかを明確にイメージできることです。それができれば、アディゼロ ジャパン 6は最高の相棒になってくれるでしょう。
あえてマイナスなことを書いておくなら、汚れやすいといったことでしょうか。これはアディゼロ ジャパン 4も同じで、スウェードのような生地をつま先の補強に使っているのですが、白色というのもあって汚れが目立つのが悩ましいところです。まぁ洗えばいいだけですけどね。