シューズレビューのためにアディダスに提供していただいた「ADIZERO JAPAN 8(アディゼロジャパン8)」。発売から少し経過してしまいましたが、ようやく「ADIZERO JAPAN 8」のポテンシャルを最大限に発揮できるキロ3分台のスピード領域で走ってきました。
それまで3km程度の朝ランでも履いて「やっぱり薄底はいいな」くらいの感想だったのが、スピードを出したことでイメージが大きく変わりました。「ADIZERO JAPAN 8」はアディゼロジャパン史上最高の1足で、それでいてさらなる進化への余力を感じさせる1足でした。具体的にどのような点が優れているのかレビューしていきます。
ファーストインプレッションは「ジャパンが戻ってきた」
歴代のアディゼロジャパンを履いてきた人に、理想のナンバリングは?と聞いたら、おそらく多くの人が「ADIZERO JAPAN 4」だと答えるのではないでしょうか。それくらい完成度が高いランニングシューズだったわけですが、機能性でいえばそれ以降のシューズのほうが優れています。
私も「ADIZERO JAPAN 4」を最高傑作だと思っている1人ですが、ハーフマラソンの自己ベスト更新を達成したのは「ADIZERO JAPAN 5」。でも、やっぱり「ADIZERO JAPAN 4」のほうが好き。フィット感がすばらしく、BOOSTフォームも程よい配置で気持ちよく走れます。
しかもランニングシューズは厚底の時代に突入し、最近のアディゼロジャパンはラインナップはしているけど、存在感があまりなく、アディダスとしてもそこまでリソースをかけて開発していないのではと思ってしまうほど薄底であること以外の魅力が弱いシューズとなっていました。
ところがですよ、「ADIZERO JAPAN 8」を履いた瞬間に直感的に感じました。「これこそ私たちが待ち望んでいた、進化したアディゼロジャパンだ」ということを。フィット感は「ADIZERO JAPAN 4」のような包み込む感じではなく、アディゼロタクミのように皮膚に張り付くような仕上がり。
そして、いい意味で存在感が消える軽さを備えています。実際に25.5cmで片足192gとかなり軽量。これまでのアディゼロジャパンとは似ていないのに、どこかアディゼロジャパンらしさを感じさせてくれる1足。走る前から走れるシューズだということが伝わってきます。
ただ、アディゼロタクミほどは削ぎ落とされておらず、メインのトレーニングシューズにもなるほど、しっかりとした強度を備えています。そのあたりはアディゼロジャパンのDNAとして引き継がれており、デザイン的にはフルモデルチェンジになっていますが、きちんとアディゼロジャパンらしさを感じられます。
一瞬でトップスピードに入れて安定感も高い
すぐにでもシューズレビューをしたかったのですが、あいにく腰の調子が悪くてまともに走れない状態が少し続いていたので、1週間くらいジョグ用のシューズとして履いていました。そのときの感想としては「平凡なシューズ」というのが本音です。
最初に足入れをしたときの期待に対して、そこまでではない残念な気持ちになっていたのですが、腰の調子が戻ってきたところでスピードを出してみたら、評価が180°変わりました。これはアディゼロジャパンの皮を被ったアディゼロタクミです。
もちろんフィーリングはアディゼロジャパンなのですが、持っているポテンシャルがタクミそのもの。腰に不安がある上に、もう数ヶ月もキロ3分台で走っていなかったので、おっかなびっくりでスピードを上げたのですが、簡単にキロ3分台の前半まで上がります。それも軽い登り坂で。
驚くべきはその安定感で、スピードを上げれば上げるほど着地が安定していきます。キロ3分台なのでフォアフットになるわけですが、前足部全体で着地できる感覚があり、その衝撃をしっかりと推進力に変えてくれるので、さらにスピードが出ます。
その加速力はこれまでのアディゼロジャパンにはないもの。シューズの構造が前足部にLightstrike Proを採用したのは2代前の「ADIZERO JAPAN 6」からですが、「ADIZERO JAPAN 6」も「ADIZERO JAPAN 7」もそこまでLightstrike Proを活かしきれていない感じがありましたが、「ADIZERO JAPAN 8」はしっかり反発します。
そしてシューズが軽いから足をしっかり回せます。スピードを出しても走りがブレないので、安心してスピードを出せるという魅力もあります。はっきり言って、これまでのアディゼロジャパンとはまったく別物。「ADIZERO JAPAN 8」は戦えるシューズとして、大幅に進化しています。
フルマラソンで使えるかどうかは未知数
あまりにも簡単にスピードを出せるので、下り坂ではキロ2分台まで上げてしまったのですが、そこまでスピードを出せるとなると気になるのはフルマラソンに使えるのかということですよね。申し訳ないのですが、今回はそこまでレビューできておらず、その部分はまだ未知数です。
ただ、アディゼロタクミのスペックを備えているなら、フルマラソンで「ADIZERO JAPAN 8」を履くのはリスクが高いかもしれません。おそらく多くの人がオーバーペースになり、後半に失速することになるはずです。もちろんペースコントロールできるベテランランナーであれば、その心配はいりませんが。
では、どういうときに使うべきかというと、トレーニングであればインターバルのようなスピード練習。レースであればマイルレースからハーフマラソンくらいでしょうか。個人的にはハーフマラソンでも潰れてしまわないか不安で、10kmくらいが限界な気がします。
それでいてジョグをするとなると平凡なシューズになるので、ランニングシューズは1足しか買わないという人にもおすすめできます。ただし、その役割はアディゼロボストンが担っているので、「ADIZERO JAPAN 8」を誰におすすめするかを考えると、少し頭を悩ませることになります。
しかも軽さを追求するならアディゼロタクミもあるわけで、「ADIZERO JAPAN 8」は立ち位置がすごく難しいランニングシューズとなっています。あえて誰かにおすすめするとするなら、薄底のランニングシューズを愛用している人というところでしょうか。
また、ベアフット系のランナーも足に合えば走りやすいかもしれません。しっかりと指を使って走れるので、比較的裸足に近い感覚で走れます。そういう意味ではやはり、目先のタイムではなく本質的な速さを追求する人にこそ履いてもらいたい1足です。
ただし、購入者のレビューなどを見ていると「破れる」という声がいくつかあり、アッパーの耐久性はそれほど高くない可能性があります。レースで結果を出すためのシューズですので、耐久性が低いのは悩みどころですが、長く履ける1足が欲しいという人は、耐久性に不安があることを頭の片隅に入れておいたほうがいいかもしれません。
ADIZERO JAPANの進化は止まらない
あまりに高評価なレビューなので、提灯記事なのではないかと思う人もいるかもしれません。実際にアディダスから提供してもらっているのも事実。でも、そもそもアディゼロジャパンを愛用している1人として、本当にこれは待ち望んでいたランニングシューズです。
ただ、おそらくここが完成形ではありません。同時に発売された「ADIZERO BOSTON 12」はこれ以上の進化をイメージできないほどの仕上がりで、かなりの完成度を感じることができました。ところが「ADIZERO JAPAN 8」は、おそらくこの1足からリスタートが始まります。
たとえばフィット感の部分は、まだまだ進化できる要素があります。そもそも「ADIZERO JAPAN 8」は、欧米でのネーミングである「ADIZERO ADIOS」の名前がプリントされており、日本人の足に対する最適化を行っていません。
おそらく厚底が主流になったり、コロナ禍でランニングシューズが売れなくなったことで、これまでのように日本専用モデルを作るのが難しくなったのかもしれません。ただ、そこは紛れもなく伸び代であり、もし完成形に近づいてきたら、きっと「ADIZERO JAPAN」の文字がプリントされるはずです。
安定感も少し過保護なほどに高く、まだ削ぎ落とせる要素がありそうです。ただ悩ましいのが薄底であるということで、ここまで厚底が定着するとかつてほどには売れなくなっており、存在価値が問われる1足になっているのも事実。
とはいえ、「ADIZERO JAPAN 8」はそんなネガティブなことも吹き飛ばすくらい個性があり、用途を間違えなければ、買って損することはないランニングシューズです。これまでアディゼロジャパンを愛用してきたという人は、ぜひ騙されたと思って最新モデルを履いてみてください。きっと気に入ってもらえるはずです。
ADIZERO JAPAN 8
価格:16,500円(税込)
品番:H03615