アシックスを代表するランニングシューズであるGEL-KAYANO。その30代目となる「GEL-KAYANO 30」がフルモデルチェンジするというのは以前お伝えしましたが、そのローンチイベント「GEL-KAYANO 30 Launch Forum in Japan」に参加し、実際に履いて走ることができました。
初心者向け、もしくはシリアスランナーやトップアスリートのジョグシューズという位置づけのGEL-KAYANO 30ですが、「神は細部に宿る」という言葉がまず思い浮かんだ1足。ここではそんなアシックス渾身の1足をレビューしていきます。
サイズ感はワンサイズ上でもいいかも
まずは実際に足を入れたときのファーストインプレッションから。イベントで試走するために25.5cmのシューズをお願いしていたのですが、手配ミスがあったのか25cmが渡されました。0.5cmだからまぁいいかなと思っていたのですが、つま先がしっかり当たります。
そこで25.5cmにしてもらおうと思ったら、どうも25.5cmがないとのこと。ただ「他のモデルよりも小さいようで、サイズアップを希望する人が何人かいる」とのことなので、26cmで提供してもらいました。結果的にはつま先は違和感なしでしたので26cmで正解でした。
ただし、すべての人がワンサイズアップでいいというわけではなく、これは人それぞれなので実際に店舗で足を入れて確認したほうがいいかもしれません。もっともGEL-KAYANOのDNAを継いでいるということは、サイズ感に大きな変化はないはずなので、旧モデルを履いている人は同じサイズでいいかもしれません。
前足部の作りがゆったりしているので、前足部はホールド感がなく指がやや動きます。ただ走ったときには前足部が沈み込むのであまり気にする必要はなさそうです。中足部から後方にかけてのフィット感はアシックス特有の包み込むスタイルで、安心感があります。
重さは片足26cmで実測値が284gなので、従来のモデルよりも軽く仕上がっています。決して軽量というわけではなく履いたときの存在感はありますが、走り出せばシューズに振り回されることもなく、重さはまったく気になりません。
準備運動で片足で立つ動きがありましたが、このときの安定感は抜群です。最近の厚底シューズは片足で立つのが難しいモデルも多いのですが、GEL-KAYANO 30は安定性を強みにしているだけあって、しっかり地面を掴んでくれるのでフィジカルトレーニングとも相性がいいかもしれません。
GEL-KAYANO 30は膝の動きに無駄がなくなる
GEL-KAYANO 30は安定性と快適性を兼ね備えたシューズとして開発されましたが、走り出して気付いたのが体重移動がとても簡単にできるということです。足裏でしっかり地面を掴んでおきながらも、膝がまっすぐにスライドするので体を乗せておくだけで前に進みます。
ランニングシューズによって膝の動きが制御されているイメージで、他の人の走りを見ても膝がまっすぐにスライドしているのがわかります。そのときの可動域が短いというのもGEL-KAYANO 30の特徴です。感覚的には地面をリリースしたあとに、20cmくらいしか膝が前に出ません。
このためストライドを伸ばすような走り方ができません。絶対にできないかというとそうでもないのですが、GEL-KAYANO 30が促すように走ると、股関節の可動域が狭くなってストライドが伸びません。その代償ではありませんが、膝の動きが安定して動きに無駄がなくなります。
おそらく初心者が履いた場合、膝が必要以上に動かないのでケガのリスクを最小限に抑えられるはずです。反対にすでに自分なりの走り方やクセが固定しているベテランランナーのほうが、走り方が馴染むまでに時間をかける必要があります。
GEL-KAYANO 30は決まった膝の動きをするようにデザインされているので、筋力のない初心者は自然とそれに適した走りになりますが、独自のフォームで走れるように筋肉がついている場合、GEL-KAYANO 30が促す動きを筋肉が邪魔するわけです。
このため、ベテランランナーがいきなりGEL-KAYANO 30を履いて、20kmや30kmを走ると膝に違和感が出るかもしれません。ですので、それなりに走力があると自負している人ほど、まずは5kmくらいの距離から始めて、徐々に足を慣らしていくことをおすすめします。
踵着地でないとポテンシャルは発揮できない
アシックスとしてはGEL-KAYANO 30を入門モデルや、タイムを狙うランナーのジョグシューズという位置づけにしています。このため、踵着地を前提としたデザインとなっていることを、実際に走ってみると強く感じます。
少し前からランニングフォームはフォアフットがトレンドですが、フォアフットだとGEL-KAYANO 30の特徴である「4D GUIDANCE SYSTEM」が上手く機能しません。踵着地はケガをしやすいというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、GEL-KAYANO 30を履くならその考えは捨ててしまいましょう。
GEL-KAYANO 30は踵着地のシューズで、踵着地でこそ安定性と快適性の両立というポテンシャルを発揮します。ただ安定性がすごいので、これでスピード練習したら膝の故障リスクも下がるのにと感じたので、実際に無理してスピードを上げてみました。
このときフォアフットになると前足部が沈み込んでバフバフした感じになるだけで、上手くスピードに乗れません。やっぱりキロ6〜7分くらいがいいのかなと思ったのですが、最後に踵着地でストライドを短くしてピッチを上げるという走り方を試してみたら、キロ3分台まで簡単に上がりました。
このような使い方が正しいとは限りませんが、踵着地ならスピード練習にも使えます。ただランニングフォームが崩れてしまう可能性があるので推奨はしません。とはいえ、GEL-KAYANO 30はただのジョグシューズではなく、スピードもそれなりに出せるポテンシャルを備えているのも事実です。
ちなみに踵着地のシューズなので下り坂は得意なのですが、登り坂にめっぽう弱いシューズとなっています。レースで履くのであれば、登り坂は無理にペースを維持して走るのではなく、心拍数を確認しながら高負荷にならないようにペースを抑えるなどの工夫が必要です。
初心者は記録が伸び悩むまではこれでOK!
結論としてはGEL-KAYANO 30はとてもクオリティの高いシューズで、これからランニングを始める人も、ジョグで距離を積み重ねたい人にもおすすめの1足になります。しっかりと膝を守ってくれるシューズなので、初心者が最初に履くシューズとしても最適です。
それでいてスピードもそこそこ出せるので、初心者は記録が伸び悩む段階になるまでは、GEL-KAYANO 30を相棒にしてもOKです。サブ4もしくはサブ3.5までならGEL-KAYANO 30で十分に対応できます。ただ、その先もしくはその手前で記録が伸び悩んだら、GEL-KAYANO 30はジョグシューズにしてレース用にはもっと軽くてストライドが伸びるシューズを選びましょう。
すでにフルマラソンを歩かずに完走できるレベルなら、GEL-KAYANO 30は距離を積むためのジョグシューズやリカバリーシューズとして満足できる相棒になってくれます。ただし、すでにお伝えしましたように、膝の動きに体が慣れるまでは距離を伸ばしすぎないように気をつけましょう。
そして、これまでGEL-KAYANOを「入門モデルでしょ?」と敬遠していた人にこそ履いてもらいたいところ。これはただの入門モデルではなく、アシックスの開発部門が細部にまでこだわった芸術品ともいえる1足で、走ることがもっと楽しくなる1足でもあります。
ただ、ここまで大きなモデルチェンジがあり、とてつもない完成度で登場したことで、ひとつだけ懸念事項があります。次モデルはいったいどこをアップデートするのかということ。GEL-KAYANO 30はフルモデルチェンジしたばかりですが、すでにチューニングもされており、足りないものがなにもありません。
この1足を超えるニューモデルにアシックスの開発部門が挑んでいる。自ら上げたハードルをどう超えてくるのか。それは1人のランナーとして楽しみでもあります。ただ、今はGEL-KAYANO 30のあるランニングライフを存分に楽しむとしましょう。