
「ADIZERO EKIDEN COLLECTION」の発売に合わせて発表されたアディダスの「ADIZERO EVO SL WOVEN」。多くのランナーから支持されている「ADIZERO EVO SL」の別モデルということで、さっそく購入された方もいるかと思います。
ただ、既存のモデルを使用している方にとっては買い替える意味があるのか悩ましいところ。これから「ADIZERO EVO SL」の購入を検討するという人にとっては、スタンダードモデルと何が違うのか気になっているはずです。そこでここでは、スタンダードモデルと何が変わったのか、「ADIZERO EVO SL WOVEN」の特長について、詳しくレビューしていきます。
アッパー素材に伸縮性が高い「WOVEN UPPER」を採用

「ADIZERO EVO SL」と「ADIZERO EVO SL WOVEN」の違いはアッパー素材にあります。「ADIZERO EVO SL WOVEN」には伸縮性に優れた「WOVEN UPPER」を採用しており、スタンダードモデルのアッパーと比較よりも伸びやすく、窮屈さを感じないようになっています。
ただし、全面的に伸びるのではなく、伸びてほしくない部分にはしっかりと補強がされています。また、かかと部のホールド力も向上しており、これまで以上に足に馴染みやすく仕上がっています。
それらを総合すると「フィット感が向上」となり、足との一体感をより感じられるシューズに仕上がっていることになるのですが、実は必ずしもそういうわけではありません。伸縮性に優れた素材になったことでフィット感が高まったものの、それによってスタンダードモデルとは方向性が違うシューズに仕上がっています。
それはまるで生物の「派生」のようで、環境に対する適応を行った結果、これまでとは違ったポテンシャルを備えたシューズになっています。もちろんソールが同じですので、使い方によっては「ほとんど違いはない」という結果になることもあります。
ただ、私の場合は実際に走ってみてすぐに「同じではない」という感覚が強くなったので、どのあたりが「同じではない」と感じたのかを次章以降で詳しく解説していきます。
ADIZERO EVO SL WOVEN のメリット・デメリット

ADIZERO EVO SL WOVENを最初に履いたのは、「ADIZERO EKIDEN COLLECTION」の発表会「ADIDAS EKIDEN DAY」でした。ここでシューズを提供していただいたのですが、ちょうど「ADIZERO EVO SL」を履いてハーフマラソンを走ったあとだったこともあり、そのときから違和感がありました。
足はしっかり包まれているのに、まるでサンダルを履いて走っているかのような感覚が拭えません。脱げるわけがないのに、走っているときに脱げてしまうのではないかという不安。その不安の正体を探るために2週間近く履き続けて答えが出ました。
それはやはり「WOVEN UPPER」によるもので、ただ私にとっては不安要素でしたが、他のランナーの場合は必ずしも不安要素にならず、むしろ安心感につながるというのが私の答えです。いったいどういうことなのか、ここではADIZERO EVO SL WOVENのメリットとデメリットに合わせて説明していきます。
ADIZERO EVO SL WOVEN のメリット

- 前足部を圧迫しない(足の指を動かせる)
- 優しいフィットで安心感がある
- 冬のランニングで温かい
実際に履いてみてまず感じたのは、足が自由に動くということでした、スタンダードモデルはアッパーによってつま先が拘束されており、足の指を動かすことができません。それ自体にもメリット・デメリットがあるのですが、最近は足の指を動かせるデザインが主流になっていて、それに合わせた形になります。
窮屈さがないことで足がリラックスしやすく、それでいて足を包みこむ優しいフィット感が備わっているので、ムダなチカラを入れることなく走れるというのがADIZERO EVO SL WOVENのメリットになります。また、スタンダードモデルだと足が窮屈だと感じていたランナーも、ADIZERO EVO SL WOVENならそのストレスなく快適に走れます。
さらに WOVEN=織物ということもあって、 ADIZERO EVO SL WOVENに足を入れると暖かさを感じます。これは夏になるとデメリットになるのかもしれませんが、自分の熱をシューズの外に漏らさないので、これからの冬シーズンのランニングを快適にしてくれるといったメリットもあります。
ADIZERO EVO SL WOVEN のデメリット

- スタンダードモデルよりも重い
- 足裏とインソールの間に空間ができる
- EKIDENカラーはウェアとのコーディネートの難易度が高い
ADIZERO EVO SL WOVENは、フィット感向上のために「WOVEN UPPER」を採用したことでシューズがわずかに重たくなっています。カタログ値では同じ重さになっていますが、25.5cmの実測値で20gほど重たくなっています(ADIZERO EVO SLは付属のシューレースを使用)。
たった20gと思うかもしれませんが、ADIZERO EVO SL WOVENはアッパーが伸びることもあって、20g以上の違いを感じます。実際に足を地面からリリースする瞬間、ジョグペースだとソールの上がりが追いつかず、足裏とインソールの間にわずかながら隙間ができます。サンダルのように感じた正体がこれです。
また、EKIDENカラーに限っての話ですが、ウェアのコーディネートが難しいといったデメリットがあります。鮮やかなブルーは美しいものの、主張が強いのでウェアはブラックかホワイト、もしくは同系のブルーで合わさないとシューズが浮いてしまいます。
ただし、これはシューレースをホワイトにするなどで、緩和させることも可能です。何よりもこれからさまざまなカラーリングが増えていくことになるので、そこまで大きなデメリットにはなりません。ただ、暖色系のカラーを好無ランナーの方は、新色登場まで待つことも検討したほうがいいかもしれません。
スタンダードモデルとの比較

メリット・デメリットからだけでもADIZERO EVO SL WOVENの特長を把握してもらえたかと思いますが、ここではさらに深堀りして「ADIZERO EVO SL」と「ADIZERO EVO SL WOVEN」の違い、アッパーが違うだけで何が変わるのかについて解説します。
それぞれ2kmほど履いて走り、ジョグペースとサブ3ペースをRunmetrixを使ってデータを取っています。
ジョグでの比較


| 骨盤を軸とした全身の運動 | 動きの力強さ | スムーズな重心移動 | 左右対称性 | 安定した姿勢 | 負担の少ない着地 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| EVO SL | 73 | 58 | 86 | 86 | 84 | 67 |
| EVO SL WOVEN | 72 | 56 | 86 | 89 | 88 | 67 |
ソールが同じということもあって、ジョグペースではスコアそのものは近い値になり、さらに6角形の形も似ています。ただ、個々の数字を見ていくとそれぞれの個性が出ています。
ADIZERO EVO SL WOVENは指を使って地面を掴めるので、安定感が増していいるため「安定した姿勢」や「左右対称性」が高くなっています。一方でADIZERO EVO SLは前足部を拘束することで力の分散が起こりにくく「動きの力強さ」の値が大きくなっています。
そして、ADIZERO EVO SL WOVENはやはり足裏がインソールから離れる感覚があります。ただし、それは私の足の場合であって、足の幅が広かったり、甲が高かったりすると発生しない可能性はあります。その場合は、おそらくADIZERO EVO SL WOVENのフィット感が気に入るはずです。
渡しの場合は、ADIZERO EVO SLのほうが肌にフィットする感じがあり、走りに集中できました。このあたりはかなり個人差があると考えられます。
サブ3ペースでの比較


| 骨盤を軸とした全身の運動 | 動きの力強さ | スムーズな重心移動 | 左右対称性 | 安定した姿勢 | 負担の少ない着地 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| EVO SL | 84 | 71 | 72 | 94 | 88 | 75 |
| EVO SL WOVEN | 74 | 71 | 62 | 94 | 88 | 70 |
サブ3ペースでは大きな差が出ました。「骨盤を軸とした全身の運動」「スムーズな重心移動」「負担の少ない着地」の3項目で、同じソールとは思えないような数値になっています。
このペースになるとADIZERO EVO SL WOVENでも、ソールの反発が大きくなるのでインソールとの間の空間はほとんど生まれないのですが、指が動くこともあってどうしても乗り切れない感覚がありました。小細工ができるので走りに集中できていないようにも感じました。
一方のADIZERO EVO SLは、きちんと脚に体重を載せれており、さらに前足部で地面を押すときにロスがなく、ややオーバーペースになってしまいました。
興味深いのはどちらのシューズもジョグペースよりも左右対称性が上がっている点です。アッパーがどうであれ、ADIZERO EVO SLのソールはある程度のスピードを出して圧縮することで高い反発力を生み出していることがデータからわかります。
「ADIZERO EVO SLを履くと後半重たく感じる」という声を聞いたことがあり、私もハーフマラソンで同じように感じたのですが、後半になると力が足りずにソールを圧縮できていないため、反発力がなくなり重たく感じるのかもしれません。
ただし、これらの結果は「私」の場合であり、ランナーによっては反対の結果が出る可能性もあります。ここで分かってもらいたいのは、アッパー素材によって走りが変わるということです。そして、どちらが適しているかはランナーによって異なります。

ADIZERO EVO SL WOVENは選択肢のひとつ

ADIZERO EVO SLとADIZERO EVO SL WOVENの比較によって、それぞれのシューズの特性を把握できてもらえたかと思います。あくまでも「私の場合」では、ジョグをする場合にはADIZERO EVO SL WOVENのほうが適していて、スピード練習をするにはADIZERO EVO SLが適しているという結果になっています。
では2足を使い分けるのかというと、レーシングシューズよりは安いとはいえ19,800円もするシューズなのでそれは現実的ではありません。ですので、私が選ぶなら「ADIZERO EVO SL」ということになります。ジョグでの結果はあまりよくありませんが、数値の差はフォーム改善などで埋まるレベルです。
一方で足の幅が広かったり、足の甲が高かったりして、スタンダードモデルである「ADIZERO EVO SL」を窮屈に感じていたなら、選ぶべきは「ADIZERO EVO SL WOVEN」です。ただ、実際に履き比べないとわからないので、店舗で試し履きすることをおすすめします。
足にフィッティングして、軽くその場で縄跳びをイメージしてジャンプしてみてください。そうすることで、どちらが自分の足にフィットしているかがわかります。窮屈さを感じないことが前提ですが、それで足が浮くことなく、しっかり足の一部になっているほうがおすすめです。
そもそも「ADIZERO EVO SL」が少し窮屈だというなら、迷わず「ADIZERO EVO SL WOVEN」です。最新だから高性能だろうと安直に考えて飛びつくのではなく、それぞれの個性をしっかり把握して、自分に最適なモデルを選ぶようにしましょう。
