アディダスの先行発売が始まっており、9月15日の一般発売を控えている「ADIZERO PRIME X 2 STRUNG」。ルールに縛られない自由な発想で、アディダス史上最高のランニングシューズとして開発された1足ですが、気になっているものの買うかどうか迷っている人もいるかと思います。
そんな「ADIZERO PRIME X 2 STRUNG」をアディダスさんに提供していただいたので、実際に履いて走ってみたインプレッションなどをレビューしていきます。速さを求める1足に隠されていた「ADIZERO PRIME X 2 STRUNG」の可能性について詳しく解説していきます。
重さはあるけど走り出すと軽くなる
ADIZERO PRIME X 2 STRUNGを最初に手にしたインプレッションは「重たい」ということ。これは前作も同じだったのですが、ランニングシューズの重量の大半はソールですので、ソール厚を上げれば当然ながら重たくなってしまいます。
ただランニングシューズというのは走るためのシューズであり、着地したときの反発力がシューズの重さを上回れば重さを感じることなく走ることができます。ADIZERO PRIME X 2 STRUNGはまさにそんなコンセプトのシューズで走り出せば重さは気にならなくなります。
むしろ気になったのはシューレースホールが少ないこと。今回から採用された新しいアッパー素材STRUNGはとても通気性が高いものの、肌に張り付くタイプのフィット感ではなく、「これくらいのフィット感で大丈夫?」と走り出すまでは少し不安に。
ソールが重たくてフィット感が緩いとシューズのバランスが崩れて、走っているときにストレスになってしまいます。ところがそこはさすがアディダス史上最高峰のテクノロジーを搭載したシューズ。面でフィットしなくてもいくつもの線で固定している感じがあり走っていてズレるようなことはありません。
もしかしたら、フィット感の再定義も狙っていたのかもしれません。これまでのランニングシューズでフィット感というと皮膚のような感覚になるものを求められていましたが、アッパー素材が以前とは大きく変わり、そのようなフィット感を実現するのが難しくなっている。
だからフィットしていないようできちんと足をホールドしている。ADIZERO PRIME X 2 STRUNGはそんな新しいフィット感への挑戦をしているのかもしれません。締めるところは締めて、緩めるところは緩める。この技術がもう少し成熟すると、レースシューズにも反映されるのかもしれません。
前足部の反発力により本当に弾むように走れる
前作との大きな違いは、3層構造のLIGHTSTRIKE PROを搭載したことにあります。設計の狙いとしては「真ん中の新ミッドソールが、軽量化を実現しながらも前足部と中足部にバネのような弾力をもたらす」構造になっているのですが、これが見事にハマっています。
厚底シューズの反発力というのがイマイチよくわからない、感じられないという人でも、ADIZERO PRIME X 2 STRUNGを履けば最初の1歩でわかるはずです。まるでバネが仕込まれたかのような反発力があり、体がしっかりと押し出されます。
他のメーカーにも「跳ねる」シューズがありますが、ADIZERO PRIME X 2 STRUNGに関しては異次元です。この最適解を見つけるために、どれほど時間をかけて解析したのでしょう。気が遠くなりそうなほど長かったであろう試行錯誤の苦労が伝わってきます。
これがそのままADIZERO ADIOS PROに技術転用できればすごいことなのですが、残念ながら現時点でこの反発力が成立しているのは、カーボンプレートが2枚あるから。そう考えると密度の違うLIGHTSTRIKE PROを組み合わせるのが現実的なのかもしれません。
現時点で実現不可能なことでも、こうやってルールに縛られることなくデザインしていくことで、次に繋がる可能性が見つかってきます。もちろんすべてのアイデアが製品開発に活かされるわけではありませんが、ルールに縛られていたら、最初からアイデアも湧いてきません。
いずれにしてもADIZERO PRIME X 2 STRUNGはこれまでにない反発力を備えており、走力に関係なく、その恩恵を受けることができるシューズに仕上がっています。だからこそレースで使えないなら意味がないのでは?と思うかもしれませんが、ADIZERO PRIME X 2 STRUNGにはおすすめの使い方があります。
簡単にスピードに乗れるけどおすすめなのは旅ラン
アディダスの考えとしてはADIZERO PRIME X 2 STRUNGを「最速シューズ」としてアピールしたいのかもしれませんが、レースに使えないとなると購入を戸惑ってしまいますよね。スピード練習のためだけに購入できる値段でもありません。
購入したところで出番がなく、靴箱の片隅に追いやられている初代モデルを持っているという人もいますよね。でも初代モデルも含めて、ADIZERO PRIME Xには最適な使い方があります。それが自分の足で旅する旅ランです。
たとえば東海道53次を走ってみたり、1人箱根駅伝をしてみたり。ランニングの楽しみ方はマラソンだけではなく、自分の足で世界中のあちこちを駆け抜けることにあります。そのとき「ソール厚が40mmを超えているから認めない」なんてことは誰も言いません。
規格外シューズで走ってもいいですし、裸足や地下足袋、ワラーチで走るのもOK。旅ランにルールなんてありません。ただ、旅ランにADIZERO PRIME X 2 STRUNGをおすすめしているのは、決して旅ランにルールがないからではありません。
旅ランは1日40〜60km走ることも可能ですが、翌日もまた40〜60km走ることになります。足に疲労を溜めないことが求められるのですが、ADIZERO PRIME X 2 STRUNGは高いクッション性も推進力もあり、力を使わずに前に進めます。
今回は伊豆急行線沿いのアップダウンある17kmの距離を走ったのですが、いろいろあって走力がガタ落ちしている状態&炎天下だったにもかかわらず、走り終えての疲労感はまったくありません。しかもリズミカルに走れるので坂道もものともせず、久しぶりに気持ちのいいランになりました。
マラソンという枠に縛られずに走りを楽しみたい人の1足
残念ながら現在拠点としているところは、フラットな道がほとんどないためタイムトライアルのようなことは全くできないのですが、代わりに2.5kmで200mも上がる激坂があり、そこでもADIZERO PRIME X 2 STRUNGを試してみました。
実はこの夏に何度も挑戦したのですが、走力ダウン&体重アップにより途中で歩いてしまったり、止まってしまったりを繰り返していました。ところがADIZERO PRIME X 2 STRUNGで走るとキツさはあるものの、ギリギリ耐えられる範囲内、結局最後まで足を止めずに走りきれました。
これも「ソール厚が40mmを超えているからルール違反」なんてことは誰も言いません。自分の中で少しだけ「シューズのおかげ」という負い目はあるものの、走り切れたことに自信を持てて、モチベーションも上がります。
このようにADIZERO PRIME X 2 STRUNGはマラソンという枠に縛られず、自分なりのランニングを楽しみたいという人に履いてもらいたい1足です。もちろんシリアスランナーが履くのもいいのですが、個人的にはファンランナーにこそ選んでもらいたい1足です。
ただし、ソールが高いのである程度の体幹は求められます。足首まわりの筋力がない人が履くと、足をくじいてしまう可能性もあります。でも、そういうものもADIZERO PRIME X 2 STRUNGを履いて走ることで鍛えることもできます。
レースで使えない。それは事実ですが、使用用途は無限にあります。
ここまでスタイリッシュならファッションアイテムにもなります。もしかしたら前作との最大の違いはそこにあるかもしれません。用途がないから買えないということはもうありません。休日の普段履き、そして旅ランシューズとして、アディダスの最新テクノロジーを搭載した1足を購入してみてはいかがでしょう。