日本一早いマラソンレポート「RUNS:INTO KK」

東京2025世界陸上開幕前夜、今年の4月にその役割を終えたKK線(東京高速道路)を舞台に、東京都主催のランニングイベント「RUNS:INTO KK」が開催されました。イベントでは1マイルを走る「1mileレース」、ギネス記録™に挑戦する「100m×1時間リレーギネス世界記録™チャレンジ」、そしてハーフマラソンの距離を仲間とバトンをつなぐ「ハーフマラソンリレー」の3種目が行われました。

東京2025世界陸上開幕を盛り上げるためのイベントということもあり、会場となったKK線には小池都知事も応援に駆けつけ、さらにはランニングインフルエンサーもトークや走りで、一夜限りの特別なイベントを盛り上げていました。このレポートでは、残念ながら会場に来られなかったランナーさんのために、「RUNS:INTO KK」がどんなイベントだったのか、詳しくご紹介していきます。

目次

ひと夜限りの東京2025世界陸上前夜祭イベント「RUNS:INTO KK」

まず「RUNS:INTO KK」について簡単に説明しておきましょう。このランイベントは今年4月に廃止となり、東京の交通を支える大動脈の役割を果たし終えたKK線を舞台に開催されたランイベントです。KK線は今後、都民の憩いの場として再開発される予定となっており、このイベントは一夜限りの開催となります。

さらに「RUNS:INTO KK」は、2025年9月13日に開幕する東京2025世界陸上を盛り上げるための「前夜祭イベント」でもあります。なぜ金曜日の夜に?土曜日なら参加できたのに。そう感じておる人もいるかもしれませんが、世界陸上の開幕が土曜日なので、これだけは仕方ありません。

舞台となるKK線は全長約2kmありますが、今回利用したのはその一部で、片道400mと100mを組み合わしたコース設定で、1マイル(片道400mを2往復)と100mリレー、そしてハーフマラソンリレーは、400mと100mを組み合わせた往復1kmのコースで実施されました。

種目としては個性的で繋がりのないように感じる3種目ですが、実はひとつのコースになっているのは驚きであり、このイベントが考えに考えて開催されたものであることが伝わってきました。違う個性を一つにまとめるという意味では、世界中からトップアスリートが集結する世界陸上を表しているようにも感じられます。

前日の天気予報では雨になっており、土砂降りの取材を覚悟していましたが、イベント終盤に少し降ったくらい。気温も涼しく、ここ最近としては信じられないようなランニング日和。そんな「RUNS:INTO KK」について、詳しくレポートしていきます。

走る原点を思い出させてくれた「1mileレース」

1mileレースは「1マイルファミリー」「1マイルキッズ&ジュニア」の2部門で実施され、ファミリー部門では4歳以上お子さんと保護者が出走。4歳の子どもにとって1マイル(約1.6km)は決して楽な距離ではなく、泣きながら走り続けている子もいました。

ところがある程度の年齢になってくると、子どもが親の前を走り、お父さんもお母さんもヘロヘロになってついていくのがやっとというファミリーも。どの時点で親と子の速さが逆転するのかはファミリーごとに異なるのでしょうが、それぞれの家族の現在地が見えるようで、微笑ましく感じました。

キッズ&ジュニアは小学生から中学生ということで、この年齢になると先頭は本格的に走れる子も少なくありません。いずれの種目もタイム測定はありませんでしたが、彼らにとってタイムは大切ではなく、「全力で挑む」ことだけに集中しているようでした。

その感覚は私たち大人のランナーが忘れがちなもの。自分の走力からペースを決めて、最後まで走り切るために知恵を絞る。それはそれで「大人の走り」ではありますが、走る楽しさをどこかに置き忘れてしまいがち。でも子どもたちは、余計な計算もなく、全力で走り、全力で楽しむわけです。

走るというのは本来楽しいものであり、私たち人間の本能的なものでもあります。それがいつの間にか「走るのは嫌い」「走るのは苦手」となってしまっている。走ることは楽しいこと。全力を尽くすのは人間の本能だということを思い出させてくれました。

そして、今回KK線を走った子どもたちは、きっと走ることがもっと好きになり、いずれ日の丸を背負って世界陸上に出場するアスリートになる可能性もあります。走ることを楽しんだ子どもたちは、きっと世界陸上をキラキラした目で観戦するはずです。私たちがカールルイスの走りに胸を躍らせたように。

若きチャレンジャーが躍動した「100m×1時間リレーギネス世界記録™チャレンジ」

1mileレースの後に行われたのは、中学生から大学生までの学生アスリートとランニングインフルエンサーによるギネス記録™への挑戦です。100mの距離を1時間で何人繋げるかというチャレンジで、世界記録に挑戦という意味で世界陸上に繋がります。

この手のギネスチャレンジは、イベントとしても確実に達成できるように、ハードルが低い記録に挑戦することが多く、正直なところ「100m×1時間リレーギネス世界記録™チャレンジ」もそうなんだろうと思っていましたが、実際には実現するかどうか、やってみなければわからない、かなりシビアなチャレンジでした。

100mの直線で前方からやってくる前走者からバトンを受け取る。トップスピードで向かってくるわけですから、陸上部の学生といえども経験したことのない緊張感があり、その上でタイムも狙わなくてはいけません。しかも1人平均で14.2秒がボーダーライン。

陸上部ならそれほど難しくないと言いたいところですが、すでにお伝えしましたように未経験のバトンリレーや失敗できないというプレッシャー、それに加えて夜のKK線というスピード感がいつもと違う環境で、自分のポテンシャルを出しきれない学生もいたはずです。

ただ、1人のミスはみんなで取り戻すことができ、1人の緊張はみんなで緩めることができます。だからバトンを落としてしまっても「落ち着けば大丈夫」「気にしないで」といった声が自然と湧いてきます。

250人を超える人数がひとつのチームになり、そして新記録となる253人目の寺田明日香さんが駆け抜けて、その後もバトンを繋いで256名でギネス記録™を塗り替えました。みんなで大きなことを成し遂げる。それは学生アスリートにとって宝物であり、記録だけでなく、記憶に残るレースになったはずです。

あらゆるランナーが混じり合う「ハーフマラソンリレー」

「RUNS:INTO KK」のメインイベントは1周1kmのコースを21周走る「ハーフリレーマラソン」です。出走したのは、ランニングインフルエンサーを中心としたオフィシャルサポーター選抜チームを含めた166チーム。世界陸上に合わせて来日した外国人チームもあり、国際色豊かな種目になりました。

ただ、豊かなのは国籍だけでなく、走力も年齢も幅広く、フルマラソンなどのマラソン大会であれば混じり合うことのないさまざまなランナーが抜きつ抜かれつを繰り広げていました。リレーマラソンの面白いところはボーダーレスであることで、「ハーフマラソンリレー」はまさにそれを象徴すらかのような混じり合いでした。

興味深かったのは、他のリレーマラソンよりも笑顔の比率が多かったということ。金曜日の夜の開放感が影響したのか、それともチームで揃えたTシャツがそうさせるのか。コンパクトな会場が楽しめる雰囲気を作り出しているようにも感じます。いずれにしても、とにかく多くのランナーが笑顔で走り出していました。

面白いのはレース後半になるにつれて、真剣な表情なランナーが増えてきたこと。スタート直後は、非日常が生み出す雰囲気に影響されていたものの、周回を重ねることで仲間への想いや、真剣に走る楽しさを取り戻したのかもしれません。ただ、そういったランナーもバトンを渡し終えて仲間に囲まれたら、一瞬で笑顔に戻ります。

東京2025世界陸上という特別なレースを大切な仲間と走る。それは貴重な体験であり、しかも東京のど真ん中にあるKK線がコース。高層ビルの光がまるでスポットライトのように自分自身を照らし、今日という日の主役になったかのような気分で駆け抜ける。こんな素敵な思い出は、きっと一生忘れられない宝物になったはずです。

そして、さまざまな立場の人たちが混じり合い、それぞれが仲間のために走る。そしてチームメイトやライバルチームに声援を送る。スポーツマンシップの本質がギュッと詰まっている。「ハーフリレーマラソン」はそんな清々しさや爽やかさも感じることができました。

ただ「ハーフリレーマラソン」出場選手のゼッケン番号の色が緑だったのだけは違和感が。夜のレースとしては黒の背景に緑の文字は読み取りにくく、ゼッケンの配色も不思議な組み合わせ。おしゃれなのかもしれませんが、リレーマラソンだし、ゼッケン本来の役割を考えるともう少し視認性がいい配色でも良かった気はします。

マラソンの盛り上がりを確信させてくれた「RUNS:INTO KK」

今回、「RUNS:INTO KK」の会場を取材していて、強く感じたことがひとつあります。それは日本の市民マラソンは完全に息を吹き替えたということ。コロナ禍で走り始めたランナーがマラソン大会に挑戦するようになり、休止していたランナーも戻ってきたのも影響しているのかもしれません。

実際に2025-2026シーズンは数日で定員に達した大会がいくつもあります。もしかしたら、これはかつてのような勢いを取り戻したのではと感じていましたが、「RUNS:INTO KK」でさまざまな層のランナーが混じり合って走る姿を見て、確信に変わりました。もう完全復活宣言をしてもいいでしょう。

一夜限りの特別なイベントというのがもったいないようにも感じましたが、「RUNS:INTO KK」を作り出した東京都なら、また魅力的なランイベントを生み出してくれるはずです。そのときは、迷うことなくランイベントに参加することをおすすめします。

もちろんRUNNING STREET 365でもご紹介しますので、その日が来るのを首を長くして待つとしましょう。

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