
8月に入り、暑さもいよいよ本格化してきました。それでも地域によっては「昨年ほどの暑さではない」と感じている人もいて、今年の夏はしっかり走り込みができそうということで、今シーズンこそは自己ベスト更新を狙える気がしているのではないでしょうか。
マラソンで結果を出すには、夏の走り込みがとても重要になるのですが、ここで問題になるのが「月間走行距離」という考え方です。「月間○○km走らなくてはいけない」という思い込みが、コンディション悪化を招くこともあります。
そこで今回は、そもそも月間走行距離とは何なのか、初心者ランナーでも理解できるように、その正体についてわかりやすく解説していきます。
月間走行距離が多いほどマラソンの成績が上がる

これは事実として知っておいてもらいたいことなのですが、「月間走行距離とマラソンタイムには相関関係があり、月間走行距離が多いほどマラソンタイムが短縮される」ことが数々の論文で証明されています。
いくつかの論文から読み取れるのは、月間走行距離600kmくらいまでは走れば走るほどタイムは縮まる傾向にあるということ。もちろん個人差はありますが、ヒトという生物の傾向であり、基本的には誰もが走れば走るほど速くなります。
これに対して「私は月間走行距離200km以下でサブ3を達成した」という人がいます。別にそれはおかしなことでもありませんし、否定するようなことでもありません。実際に月間走行距離200km以下でサブ3を達成できる人は珍しくありません。
そのことと、月間走行距離が多いほどマラソンの成績が上がるというのは、ベクトルがまったく異なる話です。月間走行距離200km以下でサブ3を達成した人が、月間走行距離600kmまで走るようになれば、もっと早いタイムをだせるというだけのことです。
サブ3を達成したのはその人の特性の話で、長距離への適性や体重、日常生活の内容なども影響するので、それが「月間走行距離なんて短くてもいい」という話にはなりません。目標達成と成長限界は、必ずしも一致するわけではありませんので。
自分のポテンシャルをどこまで引き出すか。月間走行距離とリンクするのはこの考え方です。
自分のポテンシャルを最大限に引き出したいなら、いろいろなことを犠牲にしてでも月間走行距離600km(個人差あり)をひとつの目安にして練習メニューを組む必要がある。そこに意味があるかどうかも個人の考え方の話であるので、ここでは一旦無視します。
走行距離は1週間で10%しか延ばしてはいけない

月間走行距離が話題になるのは月末で、SNSなどで「今月の月間走行距離は○○」といった報告投稿が上がるタイミングです。この報告は本当によくないなと感じています(あくまでも個人的に)。
身近な人がどれくらい走ったかというのは、とても大きな刺激になります。それがポジティブに作用することもありますが、大抵はネガティブに作用します。
走力的に月間走行距離200kmくらいが限界なのに、身近なライバルが300km走ったという報告を目にして「もっと走らなくては」と意気込んでしまうことが多々あります。その結果、オーバートレーニングによってケガをするという流れを、これまで何度も目にしてきました。
月間走行距離を考えるときに大切なのは、「何km走ったかではなく、何km走れる走力があるのか」ということです。自分の走力に見合った走行距離になっていることが大事で、SNSで「サブ3には月間走行距離300kmは必要」と投稿されているのを見て、いきなり月間300km走ってしまうというのは絶対にやってはいけません。
走行距離をいきなり伸ばすと、間違いなくケガをします。このため、走行距離はゆっくり伸ばす必要があります。一般論としては、1週間で10%を目安に延ばします。1週間の走行距離が30kmなら、翌週は33kmがMAXとなります。
その33kmを無理なく走れるようになったら、翌週から36.3km(四捨五入で36kmでOK)まで延ばします。「無理なく走れるように」というのが抽象的ですが、疲労が溜まらない範囲というのを目安にしてください。
月間走行距離が200kmの人が、月間走行距離を300kmにする場合を考えてみましょう。仮に1ヶ月を4週間とすると、週間走行距離は50kmということになります。
| 期間 | 週間走行距離 | 月間走行距離(4週間) |
|---|---|---|
| 1週目 | 50km | 200km |
| 2週目 | 55km | 205km |
| 3週目 | 60.5km | 215.5km |
| 4週目 | 66.55km | 232.05km |
| 5週目 | 73.205km | 255.255km |
| 6週目 | 80.5255km | 280.7805km |
| 7週目 | 88.57805km | 308.85855km |
単純に計算すると、最短で7週間かけて月間走行距離を200kmから300kmに伸ばすことになります。途中で違和感を感じたり、疲労の蓄積を感じたらさらに1週間ずつ増えていきます。
月間走行距離はこれくらいゆっくり増やすのが基本で、誰かの報告や投稿に刺激を受けて、いきなり増やすものではありません。
なぜ月間走行距離が短いのにサブ3を達成できるのか

マラソンタイムと月間走行距離に相関関係があるとわかっても、やはり月間走行距離でサブ3を達成したという投稿を目にすると「自分もあまり走らずに自己ベスト更新を達成したい」となるものです。
そもそも仕事や家庭のことがあって、走れる時間が限られているという人もいますよね。それでも自己ベスト更新は狙いたいんだけど、やっぱり月間走行距離を伸ばさないと無理なの?とがっかりしている人もいるかもしれません。
もちろん、そんなことはありません。すでにお伝えしましたように、月間走行距離と本質的に相関関係があるのは、引き出せるポテンシャル量です。たくさん走ったら、自分のポテンシャルを引き出せるだけで、自己ベスト更新は別の方法で達成できます。
実際に「月間走行距離200km以下でサブ3を達成(自己ベスト更新)」した人も存在します。では、なぜその月間走行距離でサブ3(自己ベスト更新)ができたのかを解説していきます。
マラソンタイムは月間走行距離と相関関係にありますが、それと同じくらい影響があるのが「体重」です。ある程度走り込んでいる人なら、マラソンタイムは体重で決まると言っても過言ではないほど体重は重要です。
日本のトップランナーであれば、適正体重の80〜85%くらいしか体重がありません。少し古いデータですが、東京2020に向けてのMGC出場選手データを朝日新聞がまとめていますので、そちらを参考にしましょう。
| 身長 | 体重 | 適正体重 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 中村匠吾選手 | 172cm | 55kg | 65.08kg | 84.5% |
| 服部勇馬選手 | 176cm | 63kg | 68.15kg | 92.4% |
| 大迫傑選手 | 170cm | 52kg | 63.58kg | 81.8% |
| 鈴木健吾選手 | 163cm | 47kg | 58.45kg | 80.4% |
どのタイミングでの計測値なのかはわかりませんので、これだけで判断することはできませんが、服部選手以外は適正体重の80%台になっています。
一般的に体重が1kg減るとマラソンタイムが2〜3分縮まるとされています。サブ3をなかなか達成できなかったランナーをパーソナルトレーニングのレッスンをしたことがあるのですが、最終的に「2〜3kg痩せたらすぐに達成できる」と伝え、彼がそれを実行したところ、簡単にサブ3の壁を破っていきました。
要するに「月間走行距離200km以下でサブ3を達成(自己ベスト更新)」した人というのは、練習量が少なくても体重が軽く、その気になれば月間走行距離も200km以上こなせる走力がある可能性が高く、決して不思議なことではありません。
また、適性もしくは才能というのもあります。人にはそれぞれ向き不向きがあり、たまたまその人がマラソンに適性があったということで、その人のやってきたことを真似たところで、上手くいくとは限りません。もちろん、その人の努力を否定するものではありませんが。
他にも仕事の種類も影響します。デスクワークと現場仕事では1日の歩数が大きく異なります。仕事で毎日2万歩以上歩いているなら、あとはポイント練習だけでもそれなりのタイムを出せます。
- 体重が適正体重の90%未満
- マラソンへの適性がある
- 毎日仕事でたくさん歩いている(1日2万歩以上)
このような条件を満たしていれば、月間走行距離が短くても速く走れる可能性が高くなります(適性というのが曖昧ではありますが)。
結論としては、「月間走行距離を増やせないなら、体重を落とすことで自己ベスト更新は狙える」ということになるのでが、基本的に適正体重の90%未満まで体重を落とすことはおすすめしません。走っていて自然とそうなったなら構いませんが(それでもおすすめしませんが)、無理な減量は不健康になるだけです。
不健康さと引き換えの自己ベスト更新というのは、命を削って走っているのと同じです。そこまでしても速さを求める覚悟があるなら、それは本人の意思を尊重しますが、そこまでの覚悟がないなら体重は落としすぎないようにしてください。走るだけが人生ではありませんので。

大切なのは月間どれだけ走ったかではなく「今日何をするか」

月間走行距離というのは、ランナーを惑わす魔物だと私は考えています。増やせば増やすほど走力は上がりますが、その方法が間違っているとケガを招くだけですし、簡単に消耗してしまいます。
たとえば、月間走行距離を300kmに設定していて、残り1日で30km走れば達成できる状況にあったとします。月間走行距離という魔物に取り憑かれていると、気温が35℃を超えていようが、仕事で疲れていようが30km走ってしまいます。そして、消耗してリカバリーできないままマラソンシーズンに突入して結果を出せなくなる。
ランナーにとって、大事なのは目標を設定したときに、それを達成するために「今日何をするか」を明確にして、それを実行するということ。今日のメニューが月間走行距離に引っ張られてはいけません。
今日やるべきトレーニングの積み重ねが月間走行距離であり、月間走行距離からの逆算で今日のメニューを決めないことです。どうしても月間走行距離を基準にメニューを組むなら、休んでしまった日の走行距離を他の日に割り振らないようにしてください。
そして、他の人の月間走行距離を気にしないこと(できれば自分の月間走行距離も)。短い月間走行距離で素晴らしいマラソンタイムを出せるのは、その人だからできることです。
それでも、忘れないでもらいたいのは「月間走行距離とマラソンタイムは相関関係にある」ということ。走れるのに気分が乗らずに走らなかったというのを繰り返していたら、いずれ思うようなタイムを出せなくなります。だから、可能な範囲で隙を見て走る。隙を見て歩くというのを意識しましょう。
大切なのは、自分ができる範囲でベストを尽くすということです。それはレースも練習も同じ。毎日自分に「今日はベストを尽くせたか」と寝る前に問いかけてください。その答えが「YES」である日を少しずつでも増やしていくこと。
どういう状態が「ベストを尽せた」になるのかは、また別の機会でお話するとしましょう。
