アディダスの最新テクノロジーをつぎ込んで開発された『Ultraboost 19』。定番モデルの発売前に、様々な限定バージョンを発売するなど、アディダスの力の入れようが伝わってくる1足です。
そんなUltraboost 19を実際に履いて試す機会をいただけたので、どのようなランニングシューズなのか、どう履けばいいのかについてレビューします。
レースを走るためのランニングシューズではない
まず初めに伝えておかなくてはいけないのが、Ultraboost 19はレースを走るためのランニングシューズではないということです。フルマラソンはもちろんのこと、ハーフマラソンにも10kmなどの短い距離のレースにも適していません。
Ultraboost 19は片足で310g(27cm)もあります。ADIZERO TAKUMI SEN 5で170gですので、その差は140gもあります。レース用シューズというのは軽さが重要です。できれば200g以下が理想です。
ただ、フルマラソンを走れないシューズというわけではありません。実際にこのシューズを履いて42km以上走りましたが特に問題があったわけでもありません。走ることはできるけど、コンセプトがそこにないということです。
実際に履いてみるとわかりますが、キレイなフォーム、きれいな足の運びをして走ろうとすると、思った以上にスピードが出ません。優等生な走りをしようとすればするほど、力が失われていくのが分かります。
でも、それが悪いことというのではありません。コンセプトがレース用ではありませんし、真面目な走り方に合わせて設計もされていないというだけのことです。まずは、レース用シューズではないということを頭に入れておきましょう。
踵部のホールド感が高く安定感がある
Ultraboost 19の特徴は踵部の赤いパーツにあります。この部品を導入したことで、踵部のホールド感が増しています。クリップのようにしっかりと足を固定するので、シューズを軽く感じるというのが面白いところです。
踵が安定すれば、接地も安定します。着地したときに膝がブレることもありませんので、下り坂でガツガツ走ることができます。
ランニングフォームとしては、踵着地で前足部に向かってローリングするような運びをすると、無理のない走りができます。BOOSTフォームが踵部に集中していますので、フォアフット着地ですとそれを活かし切ることができません。
踵着地でローリング。
フォアフット全盛の時代においてもこのような仕様になっているのには、もちろん意味があります。このシューズが最高のポテンシャルを発揮するのは、そんなきれいな走り方のときではありません。
どういうときにUltraboost 19が最高のポテンシャルを発揮してくれるのか。このシューズはどう履きこなすべきなのかを次章で詳しく説明します。
上手く走ろうとせずに自由に走ろうとする
Ultraboost 19で速く走るポイントがあるとすれば、腰をグッと落としてバスケットボール選手のように走ってみることです。この走り方をすると、BOOSTフォームの力を最大限に感じることができます。
ただ、当然ですがそんな走りですと、1kmも続けることができません。
でも、そもそも1kmも走ることを想定していないとしたらどうでしょう?100mや50m、いやたった1歩のことだけを考えて作られたなら。そんなことがあるのかと思うかもしれませんが、Ultraboost 19はまさに1歩のためのランニングシューズです。
そういう性質を考えると、ランニングシューズというよりは、トレーニングシューズに近い特性があります。前への推進力だけでなく、左右への動きにも対応しています。地面をグッと踏んで方向転換する。
そういう走り方はマラソンランナーには考えられませんよね。でも、私たちは小さかった頃にはそんな走り方をしていたはずです。思いつきでスピードを上げ、フォームなんて気にせずに足を動かしていたはずです。
そんな自由な走りに応じてくれるランニングシューズがUltraboost 19です。
上手く走ろうとすればするほど、走りがおかしくなります。反対に、自分の本能のままに腰を落として自由に走れば、Ultraboost 19は最高の反応スピードで応じてくれます。
Ultraboost 19はシティランのためのシューズ
美しいフォームで走るランナーが、このシューズを履いたときに感じるのは、力がきちんと戻ってこないということかもしれません。着地したときのエネルギーがBOOSTフォームで吸収分散されて、足に戻ってきません。
特に接地時間の短い走りをしている人ほど、それを顕著に感じることになります。
本来のBOOSTフォームは押しただけの力を返してくれます。ただ、そこにほんの少しだけタイムラグがあるため、最適な時間だけ足を地面に設置させておく必要があります。ですので、速く走るランナーほど違和感があるかもしれません。
反対に、ランニングフォームなんて気にせずに、自由に走り回るシティランをするのには最適です。ただ、日本ではまだシティランという文化がありません。ランニングの楽しみ方はどうしても競技性のあるマラソン大会が中心になります。
シティランのイメージがしにくいという方は、街で鬼ごっこをしている人たちを思い浮かべてください。急停止、急発進、左右への揺さぶり、走行中の加速などマラソンではありえない動きの連続です。
でも、そういう走りをするならUltraboost 19は最高の相棒になります。
どう履きこなすかは自分次第
さて、それではシティランが広まっていない日本で、Ultraboost 19はどう履きこなせばいいのでしょう?レースでも使えないし、重さがあるのでリカバリーランにもあまり適していません。マラソンでは考えられないイレギュラーな動きをするためのシューズ。
これをどう履くかの正解はありません。自分なりにシティランをするというのもいいですし、クロスカントリーのように起伏のあるコースを自由に駆け抜けるのでもいいかもしれません。
ただ、お行儀よくきれいなフォームで走るのはなしです。特にフォアフットで足を高速回転させるような走りをしたいなら、Ultraboost 19は選択肢から外れます。
腰を落としてしっかり地面を踏み込んで、自分を開放する。障害物をひとつひとつクリアしていく。そういう場面を自分でイメージできるかどうか。イメージと実際の動きが一致したとき、マラソンでは感じられない快感があります。
そんな走りに意味があるかどうか?
そう考えた人は、すでに常識といいう罠に囚われています。走ることはもっと自由でいいのだということをUltraboost 19は教えてくれます。意味があろうがなかろうが楽しければそれでいい。
これがUltraboost 19を履いて走るということです。
月間何キロ走ったとか、1キロを何分で走ったとか、このシューズを履いて走るとそれがとても小さなことに思えます。「それで君は楽しいのかい?」その問いに即答できるランナーさんはどれくらいいるのでしょう。
Ultraboost 19は私たちランナーを、これまでと違う世界へと誘い出してくれます。これを履けば、ストリートがすべて自分の遊び場になる。そこに興味を持てるならUltraboost 19は買いの1足です。
Ultraboost 19商品概要
Ultraboost 19 | |
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サイズ | 22.0-32.0cm |
自店販売価格 | 22,000円(税別) |
重さ | 310g(27.0cm片足) |
ミッドソールドロップ | 10 mm ヒール:29mm / 前足部:19mm |