東京を代表するマラソン大会といえば、もちろん東京マラソンですが、東京マラソンが始まる前、都内のランナーの多くが走った大会が板橋City マラソン。始まりは1998年、当時はまだ荒川市民マラソンという名前でした。
第2回大会以降、毎年3月に開催されるため、天候の影響を受けやすく、毎年のように違った表情を見せてくれる大会でもあります。
今年の板橋Cityマラソンは、程よい南風が吹き、気温も10℃前後でのスタート。ここ数年で最高のコンディションで始まりましたが、陰のない河川敷コースを走るランナーを、徐々に直射日光が容赦なく襲いかかる展開となりました。
スタートは9時ですが、参加人数が15000人と多く、さらにコース幅が狭いこともあって、最終ランナーがスタートラインを越えるまでに22分近くかかりました。ただこれは例年のことで、毎年参加しているランナーから不満の声は聞こえません。
上記の写真はスタート後ではなく、スタート前の行列です。ただ、このゆっくりとしたスタートも含めて板橋Cityマラソンです。
あわてず焦らず笑顔でスタート。これは、スタートから大会を盛り上げているアナウンスや、ずっとハイタッチで選手を送り出す土佐礼子さんと杉浦太陽さん、そして板橋区長の存在が大きいように感じました。
20分以上も選手を見送るのは、送り出す側も大変ですが、そんな素振りを見せないゲストを選ぶところに、板橋Cityマラソンの運営の素晴らしさを感じます。さすがに経験豊富なスタッフが揃ってるだけあって、細かなところまで配慮が行き渡っているのが伝わってきます。
そこまでお膳立てされると、ランナーはベストを尽くすだけでいいタイムが出そうですが、マラソンはそんなに甘くはありません。
42キロで折り返しが1回だけの河川敷コース。21キロのフラットな1本道は、タイムを出すのに適してそうですが、それだけの距離をひたすら真っ直ぐに進むのは、思いのほか苦痛を伴います。目に入ってくる景色にも大きな変化がありません。
機械のように、ただひたすらに足を動かし続けていると、自分がロボットにでもなったような気分になります。単純作業が得意な人には最適なコースでも、集中力が長く続かない人には、板橋Cityマラソンのコースは恐怖感すらあります。
唯一の救いは、他のランナーとの距離が近いということでしょうか。通常は周りのランナーの存在を邪魔に感じている人も、板橋Cityマラソンでは他のランナーの存在に救われているはずです。周りのランナーがみんなでペースを作り出すので、エスカレーターに乗っているように前に進みます。
ただし、みんなの走りがうまくシンクロしている時間帯は良くても、後半に疲れがやってくると、集団全体の失速に巻き込まれてしまいます。なんとか粘ろうとしても、周りが落ちているとそこに引きずられてしまいます。
さらにこの日は、雲がほとんどない晴天ですので、知らないうちに脱水状態になっています。大失速をしているランナーはそれほど多くなかったのは、適切な位置にエイドが置かれていたからなのでしょう。ただ、残り2キロとなったときに、まだエネルギーが残っているランナーはひと握りです。
今回は前半のコンディションが良かったため、前半でタイムの貯金をして、後半に湯水のごとく貯金を使っていったランナーさんも多かったかと思います。
春先の暖かく走りやすそうな天候というのが、実はかなり厄介なコンディションで、今年の板橋Cityマラソンは、まさにそれが表面化していたように感じます。
そんな中でも、最後までペースを落とすことなく、イーブンペースで大人の走り走り続けているランナーさんももちろんいました。きちんと天候を考えて、後半に失速しないように前半を抑えて入ったのでしょう。
ランナーにとっての理想の走りとは、そういう冷静な判断と自分をコントロールするということです。苦しみに耐え抜いて完走するのではなく、現状をクレバーに判断し、最適なスピードを導き出す走りができるかどうか。
この日のレースはそれを試されるような形になりましたが、参加したランナーさんの多くは、後半のペースダウンを強いられたように見えます。ただそれを嘆く必要はなく、大切なのは次に活かすということです。
板橋Cityマラソンをシーズン最終戦にしているランナーさんも多いかと思いますが、今回の結果を糧にして、シーズンオフに走れる体づくりを目指すことになるのでしょう。足りないのは体力なのか、それとも筋力なのか、はたまた精神力か。
今年はそれら全てが揃わないと、思ったような走りが難しいレース。もちろん、コンディションを言い訳にする必要はありませんが、練習の成果を出しきれなくてもおかしくありません。
大事なのはここからです。自分に足りなかったものを冷静に判断し、それの改善を意識してまた1年間鍛え直す。
板橋City マラソンはそんな、自分の現在地を確認するのに最適な大会でした。関東圏なら日帰りで参加できるランナーも多いかと思います。最近は参加枠が埋まるのに時間がかかるようになりましたが、使い方によってはとても魅力的な大会です。
走り終えた後の広場では、たくさんの食べ物ブースがあり、格安でランナーの胃袋を満たしてくれます。今年のように風が弱ければ、心ゆくまでのんびりと過ごすことができる、緩い空気が会場を包み込んでいます。
コース途中は声援も少なめですが、スタート地点に戻ってきたら暖かな出迎えがあります。
天候次第で大きく変わってしまう大会ですが、久しく出ていないというランナーさんや、まだ走ったことのないというランナーさんは、ぜひ来シーズンは板橋City マラソンも視野に入れておきましょう。
自己ベスト更新を狙うのではなく、今の自分の課題を見つけるためのレースができます。1年の総括に最適な大会ですので、そういう大会があることだけでも、頭の片隅に置いておいてください。