アディダスから2022年12月1日に発売された「ADIZERO SL」はシリアスランナーのジョグシューズであり、初心者から中級者までのレベルなら、フルマラソンでも使えるランニングシューズです。ただ、今回はフルモデルチェンジということもあり、本当にフルマラソンで走れるのか気になりますよね。
走れるだけならどんなシューズでも走れるわけで、フルマラソンで走れるといっても「ADIZERO SL」をあえて選ぶ理由がないと購入に踏み切れないかと思います。そこで、今回は実際に「ADIZERO SL」を履いて国宝松江城マラソン(フルマラソン)を走ってみました。
柔らかなフィット感が心地いい
ADIZEROシリーズは軽量アッパーで足に張り付く感覚のシューズが多いのですが、ADIZERO SLは足を柔らかく包み込むようなフィット感があり、いい意味でアディゼロらしくない優しい履き心地が特徴の1足です。
国宝松江城マラソンの遠征では、移動中もずっとADIZERO SLを吐いていましたが、シューレースを緩くしておくことでスニーカーのような感覚で歩くこともでき、長時間履いていてもストレスを感じることもありません。
ただ、柔らかなフィット感の裏返しではありますが、走るときにはしっかりとフィッティングをしていないと、追従性が遅れますし、シューズが脱げてしまうのではないかと不安になる人もいるかもしれません。このシューズのポテンシャルを活かせるかどうかはフィッティングが大きなカギを握ります。
そこまで気にする必要はないかもしれませんが、シューレースがやや解けやすいようにも感じます。マラソン中に解けることはありませんでしたが、松江の街を散策しているときに何度か解けたので、気になる人はシューレースは2重に結ぶか、解けにくいシューレースに交換するのがおすすめ。
いずれにしても、フィット感は従来のアディゼロシリーズにはない優しさがあり、安心して走りをシューズに委ねられます。ただパフォーマンスがフィッティングに依存するので、高いパフォーマンスを発揮したいときには、1回ずつフィッティングしてから履くようにしてください。
どんな着地方法でもきちんと足を運べる
ランニングシューズは一般的に、走り方に合わせて選ぶ必要があります。たとえばフォアフット着地のランナーはフォアフット着地向けのランニングシューズを選ぶことで、ロスのない効率のいい走りができます。そして、ほとんどのランニングシューズは、ひとつの走り方に特化して設計されています。
このため、フォアフットのランナーにも踵着地のランナーにも適したシューズというものは存在しないというのが一般的な考え方になります。ところが、ADIZERO SLはその常識を大きく変えるランニングシューズとなっています。
フォアフットで走ると高い推進力を得ることができ、ミッドフットでは高い安定感と反発力、そして踵着地でも足を転がすように走れます。それを確認するために今回の国宝松江城マラソンでは、序盤をフォアフット、中盤をミッドフット、終盤と下り坂を踵着地で走ってみました。
国宝松江城マラソンはスタート直後に5車線の広い道路に出るので、他のマラソン大会のようにスタート渋滞がなく(少し先の宍道湖大橋でやや混みますが)、いきなりペースアップができます。このスタートをフォアフットで走ることで、前足部に埋め込まれたLIGHTSTRIKE PROが反発力しスピードに乗れます。
キロ4分45秒狙いで入ったのですが、推進力が高すぎてキロ4分30秒まで簡単に上がります。そこから中盤にかけてはミッドフットにシフトしましたが、ここではLIGHTSTRIKE EVAがソール全体で反発して、安定したペースを刻めました。
そして、この日は30km以降をゆっくり走るプランだったので、そこからは踵着地に移行。キロ5〜6分までペースを落としましたが、ソールがロッカー構造になっているためしっかりと足を回すことができ、最終的には3時間28分58秒のサブ3.5を達成しました。
このように、ADIZERO SLはどのような着地でも適応できるように設計されており、ランナーを選ばない本当のオールラウンダーとなっています。
推進力が優しいから走らされている感が少ない
ADIZERO SLを購入するか悩んでいる人は、アディオスプロのようにカーボンの補強が入っていない点が引っ掛かっているかもしれません。確かにアディオスプロやボストン、タクミセンのような強い反発力はないのでスピードを出しにくいシューズです。
このためシリアスに自己ベスト更新を狙うというランナーにとっては、レースシューズとしてはおすすめしません。そういうシリアスランナーにとってはレースシューズではなく、ジョグシューズになるのがADIZERO SL。
推進力が優しく、走らされている感覚がないのでリカバリーランにも使えますし、LSDのようにゆっくりと長い距離を走るのにも使えます。走らされる感じもなく、スピードのコントロールもしやすいので、オーバーペースになりがちな初心者から中級者のレースシューズになるというわけです。
大事なのは自分の走力に合わせて用途を選ぶということ。フルマラソンを3時間前後で走るランナーと5時間前後で走るランナーとでは、ADIZERO SLの使いどころが違うということをしっかりと頭に入れておきましょう。
もちろん推進力がまったくないわけではありません。強引な推進力ではないというだけのこと。ただ推進力を生み出すには少しだけコツがあり、フォアフットもしくはミッドフットで走るときには、足を速く下ろすことを意識してください。そうすることでソール材が優しく反発してくれるので、足が自然と前に進みます。
踵着地の場合には、膝下の回転を意識して足裏を転がすように走ればOKです。
スピードを上げすぎるとクッション性が不足
ADIZERO SLに弱点がないかというとそうではなく、やはりスピードを出すのには向いていません。軽量なのでキロ4分30秒くらいまでは簡単に出せますし、走力が高いランナーならサブ3も達成できるシューズです。ただ、スピードを出すのに適しているかというと「否」です。
どんな走り方にも適しているランニングシューズではありますが、フルレングスでLIGHTSTRIKE PROを採用しているアディオスプロと比べるとクッション性は弱く、スピードを出すと足にかかる負荷がかなり大きくなってしまいます。
私の場合ではキロ4分30秒よりもスピードを出すと足への衝撃が大きくなる感覚があり、そこがADIZERO SLでフルマラソンを走るスピードの限界だと感じました。これには個人差があるかと思いますが、無闇にペースを上げると後半に失速するので気をつけてください。
弱点というほどではありませんが、履き口(トップライン)がやや高めですので、くるぶしを覆うタイプのソックスでないと靴擦れしてしまう可能性があります。レースで履くソックスで問題がないか、きちんと事前に確認しておきましょう。
また、耐久性が高いシューズになっていますが、ゆっくりと劣化していくので性能が低下していることに気づきにくいシューズでもあります。走り方にもよりますが、500〜1,000kmが買い替えの目安になるかと思います。ジョグシューズとしてはもっと使えますが、レースで使うならそれくらいで買い替えがおすすめです。
ADIZERO SLはリーズナブルな価格帯のランニングシューズですので、買い替えしやすいのもメリットのひとつ。無理に長く履き続けるのではなく、少なくともフルマラソンでは、できるだけフレッシュな状態でスタートラインに立ちましょう。
サブ4までなら難なくこなせるオールラウンダー
最初にADIZERO SLの発売を聞いたときに、なぜこれを発売するのかわからないというのが正直な感想でした。アディダスにはアディオスプロやタクミセンのようなハイスピードモデルもありますし、中級者向けのボストンもあります。
トレーニング用のシューズとしてはボストンやジャパンを使えるので、ADIZERO SLの使いどころが見つからないのでは?と思ったわけです。でも、実際にフルマラソンを走っていて感じたのは、これこそが多くのランナーに必要なシューズだということです。
ADIZERO SLはアディダスのランニングシューズの新しいスタンダードであり、ほとんどのランナーにとってはこれを1足持っていれば、ジョグからレースまですべてこなせます。国宝松江城マラソンの翌日にちょっとしたトレイルを走りましたが、汚れが目立った以外にはまったく問題ありませんでした。
フルマラソンならサブ4までなら難なくこなせますし、反発力がそこまで高くないのでフィジカルトレーニングにも使えます。インパクトが強くないので、買うかどうかを迷ってしまいそうですが、これは間違いなく「買い」の1足です。
まずはランニングショップなどで試し履きをしてみましょう。もっとも、履いた瞬間に「これで走りたい」ってなると思いますけどね。