アシックスから発売になるサブ4達成のためのランニングシューズ「S4」を、レビュー用に提供していただいたので、ちょうどエントリーしていた愛媛マラソンで履いてみました。愛媛マラソンはサブ3.5で翌年の優先エントリーができるということで、サブ4ではなくサブ3.5狙いで走ってみました。
レースで実際に利用したレビューだけでなく、ファーストインプレッションやメタスピードシリーズとの違い、シューズのポテンシャルを発揮するための走り方など、購入するかどうかで迷っている人が知りたいであろう内容をご紹介していきます。
アシックス「S4」に適した走り方
アシックスの「S4」はサブ4に挑戦するランナーのために開発されたランニングシューズで、カーボンプレート搭載かつ、ミッドソール上層には軽量クッションフォーム材「FF BLAST TURBO」を採用するなど、デザインも機能もフラグシップモデルであるメタスピードシリーズを彷彿とさせる1足です。
ただしメタスピードシリーズのように、キロ3〜4分でポテンシャルを発揮するシューズではなく、「まさにサブ4用」というシューズに仕上がっています。具体的に言えば、キロ5〜6分くらいのペースで走ったときに、踵部の反発を強く感じることができ、足裏の後方を押し出してもらえる感覚があります。
それよりも速く走ろうとするとフォアフット気味になり、徐々に踵部の反発を受けられなくなり、ランニングエコノミーが低下していきます。軽量なのでスピードを出すことは可能なのですが、正しい位置で着地しないと、それがロスになり思うようにスピードに乗ることができません。
この反発をイメージすると上の図のようになります。着地したときに紫色の矢印のような力をかけることで、赤色の反発力が生まれて、これが推進力となって前に進めるというのが、おそらくシューズの設計コンセプトになります。
図からもわかりますように、着地点がかなり後ろにあります。これをメタスピードのようなフォアフットシューズの感覚で履くと、着地点がズレてしまうため、反発力が小さくなってシューズのポテンシャルを活かせない走りになるわけです。
ただ、このスイートスポットはそれほど狭くなく、踵に対して斜め方向からしっかりと力をかければOK。膝を斜め後ろにできるだけ速く落とすようにして走ることで、優しく押してくれるような反発力で安定した走りができるようになります。
ただし、これはアシックスが推奨している走り方ではなく、実際に走ってみて感じたものになります。ですので、もっとランニングエコノミーを高める走り方があるかもしれませんが、私が試した限りでは、この走り方こそがS4のポテンシャルを最大限に引き出せます。
S4とメタスピードシリーズの違い
S4はアシックスのメタスピードにとても似ているので「どこが違うの?」と気になっている人もいるかもしれません。確かにS4はメタスピードと同じような見た目をしているのですが、この2つは似て非なるもので特性がまったく違います。
履いた瞬間にわかるのはフィット感です。S4とメタスピードは同じ素材のアッパーを使っているので、機能や軽さは同じなんですが、メタスピードのほうが部分的な補強が細かく施されていて、アシックスらしい包み込む感覚があります。
S4も中足部のフィット感はしっかりしていますが、前足部のフィット感は緩め。S4は多くのランナーに届くようにとメタスピードよりも5,000円近く安くなっていますが、そういうところに価格の差が現れています。ただ、走り出したらそこまで気になりません。
次に走り方ですが、S4はすでにお伝えしましたように、踵部のやや前方にスイートスポットがあるので踵着地に近いミッドフットが最適解ですが、メタスピードはフォアフット。これはもう明確に違いがあり、そして同じ感覚で走っても出せるスピードが違います。
比較のためにNOVABLAST 2、S4、METASPEED SKY+の3種類で「追い込みすぎない」感覚でできるだけ速く走り、Runmetrixでその結果を計測した結果が次のようになります。
それぞれ約2km走ってみたところ、S4はNOVABLAST 2よりは遥かにスピードが出るものの、METASPEED SKY+ほどでないことがわかります。ピッチもNOVABLAST 2よりも増えており、ジョグシューズよりも明らかに弾んでいることがわかりますが、こちらもMETASPEED SKY+ほどではありません。
もちろんマラソンにおいてはスピードが出ればいいというわけではなく、オーバーペースが失速につながることを考えれば、S4は上手くチューニングされています。着地時の負担も少なく、姿勢も安定しているので従来のランニングシューズよりも後半の失速を防ぎやすくなっています。
だとすればシリアスランナーはジョグシューズに使えるのでは?と思うかもしれませんが、S4とMETASPEED SKY+ではフォームがまったく違うため、シューズの一貫性が失われてしまいます。発表会でこれからS4を履くかと聞かれた川内優輝選手が「自分の走り方とは違うから……」と濁しましたが、それくらい2つは別物になります。
S4はあくまでもレースでサブ4を達成することに特化したシューズで、オールマイティに使えるわけではないということを、NOVABLAST 2やMETASPEED SKY+と比較して感じました。逆に考えれば、サブ4を狙うことだけを目標にするなら最高の相棒になる可能性があります。
アシックス「S4」でフルマラソンを走ってみた
ランニングシューズで最も大事なのは「フルマラソンを走ったときにどうなるか」ですよね。1kmで強い反発力を感じたとしても、それが30km以降でも続かなくてはいけません。そこで提供していただいたS4を履いて、愛媛マラソンを走ってきました。
愛媛マラソンはいつもBブロックスタートなのですが、今回は参加者が例年よりも少なかったからかAブロックスタートです。周りはそれこそMETASPEED SKY+のようなハイスペックモデルを履いたランナーばかり。ちょっとだけ場違い感は否めませんでした。
この日はサブ3.5狙いで、キロ4分50秒前後で走り切るつもりだったのですが、Aブロックのハイペースに巻き込まれて、ペースを抑えてもキロ4分30秒前後になってしまいます。S4もそれくらいのスピードを出せることはわかっていましたが、問題は自分の体が最後まで持たないということ。
必ずどこかで失速することになるのはわかっていましたので、本来なら早い段階でキロ4分50秒まで落とすべきでしたが、走りながらひらめいてしまいました。S4は後半の失速を防げるシューズというのがコンセプトのひとつですので、あえて失速するシチュエーションにするのもありかなと。
ミッドフットで着地すれば反発をもらえて、足さえ動かしていれば大失速をすることがないシューズと聞いていたので、それを信じてオーバーペースで走り続けます。結局32kmまでキロ4分台で走り続け、予定通りそこから失速が始まります。
35kmまではキロ5分ちょっとをなんとかキープしていましたが、36kmはキロ5分36秒。サブ3.5ならまだ余裕がありますが、これ以上の失速は避けたいところ。そこで、しっかりと踵部で反発を受けられるように、足がブレずにまっすぐ進むように意識して走ります。
そうすることで少しの失速はあったものの、立ち止まってしまったり、歩いたりすることもなく、結果的には3時間27分6秒で完走。最後まで踵部を押し上げるような感覚が消えるようなこともなく、コンセプト通りにきちんとサポートしてくれました。
実はこの日は走り出してからすぐに「今日はダメな日」と感じるほど、コンディションが整わず、かなり厳しいレースになる予感がありました。でもS4を信じて気持ちを切らさずに走り続けたら何とかなりました。完全にシューズに助けられましたが、S4がいかによくできたシューズなのかがよくわかったレースにもなりました。
サブ4を狙うために最適でもカラダづくりも必要
S4は愛媛マラソン直前に提供いただいたのもあり、レース前に合計10kmも走らないままスタートラインに立ちました。走り方は事前のテスト走行で把握していましたが、私の場合はフォームを完全に変えて走ることになるのが、不安要素のひとつとして残っていました。
フォームを変えるということは普段と違う筋肉を使うということで、案の定前半の早い段階で足首周りが痛み始めました。走り終えてからは足裏にもかなりのダメージが。激痛というほどではありませんが、結果的には翌日まともに歩けないくらいの負荷が積み重なっており、愛媛マラソン後半も本当に耐えるだけのレース展開でした。
それでもシューズを信じて、S4に合わせた走り方を維持した結果、大きな失速もなくサブ3.5を達成できたわけです。ただ、ここではっきりしたことはS4を履いてレースに出るなら、S4に適した足になるようにトレーニングする必要があります。
トレーニングの使い方としては、ポイント練習でS4を履いて、ジョグはNOVABLASTのようにクッション性が高いシューズで足の疲労を抜きながらのんびりと走るのがおすすめです。S4はレースシューズだから本番だけと説明する人もいるかもしれませんが、S4で走るための足ができていないことには42.195kmに耐えられません。
足になじませるためにも1週間に2回のポイント練習、ポイント練習をしないなら週2回はジョグでもS4を履くのがおすすめです。それくらい個性のあるシューズで、慣れていないと扱いきれない可能性もあります。
サブ4をサポートしてくれる1足ですが、履いたらすぐにサブ4を実現してくれるわけではありません。サブ4を達成したいなら、まずは走れるカラダづくりが重要です。間違ってもいきなりレースで履くのではなく、S4を履きながら気持ちよく走れるフォームを見つけて、その走り方を体になじませましょう。
サブ4は1夜にしてならずです。S4はサブ4達成のための最高の相棒ですが、力を貸してくれるのは、それに見合うトレーニングを積み重ねた人だけです。安易に「サブ4」できるからといって導入するのではなく、きちんとトレーニングを行ってからスタートラインに立ちましょう。