どんなシューズでも少し履けば、その特性が分かりどう走れば、シューズのポテンシャルを引き出せるのかを理解できるのが私の特性のひとつです。設計者の意図を汲み、シューズの力を引き出してレビューをしてきました。
ところが、時々その意図がまったく分からないシューズに出会うことがあります。そのひとつがリーボックのフロートライドシリーズでした。
フロートライドというのはリーボックが開発したソール材です。
そして、そのネーミングをそのまま冠したランニングシューズをラインナップしています。100gのランニングシューズで注目された「フロートライドラン ファスト プロ」はこのシリーズのフラグシップモデルに当たります。
フロートライドは宇宙靴開発のために生まれた素材で、ミッドソールを通常のEVAより約50%軽量化することに成功し、さらに反発性とクッション性を両立しています。
ただし実際に履いて走ってみると、軽さは分かるものの私には反発力やクッション性が伝わってきませんでした。もしかしたら、宣伝のためだけに誇張表現しているのかもしれないとも疑ったりもしました。
でもアメリカのランニング誌「ランナーズワールド」にて、クッション性と反発性を両立させたフォーム材が高い評価を受け、ベストイノベーションプロダクトを受賞しています。
実際にアメリカで高く評価されて受賞までしているとなると、誇張表現であるわけがありません。
それでも短い時間の試し履きでは、どうしてもフロートライドの良さが掴むことができず、「よく分からないシューズ」ということで、これまでRUNNING STREET 365でもレビューをあまりしていませんでした。
今回エントリーモデルであるフォーエバー フロートライド エナジーを、1週間じっくりと履いてレビューできる機会をいただき、これまでよりも時間をかけてフロートライドと向き合うことができました。
ただし、フォーエバー フロートライド エナジーもファーストインプレッションとしては「特徴のないシューズ」というのが率直な感想でした。
可もなく不可もなくで、エントリーモデルなら仕方がないかと思いながら走りましたが、いくらなんでもこんな平凡なシューズであるはずがないと考え、シューズの特性を探るべく様々なトライを行いました。
それでも個性が感じられず、もう無理かなと諦めかけたときに、一瞬だけ体がスッと前に進むのを感じました。自分でも何をしたのかは分かりませんでしたが、まるで水の上を滑るような感覚が残っています。
その瞬間、脳内のシナプスが次々と接続されていきます。「フロートライド(FLOAT RIDE)=浮きに乗る」。まさにソール材の名前そのものが、このランニングシューズを履きこなすヒントになっていたことに気づいたわけです。
そこで、私が試したのは忍者が水の上を渡るときに使ったとされる水蜘蛛のイメージです。地面を押したり蹴ったりするのではなく、膝下で接地した足をそのまま後ろに流すようにして走ります。
するとどうでしょう。体がスッと前に進みます。力を込めなくてもどんどんと前に進んでいきます。まるで魔法でも使っているかのようです。
ただ、その感覚は長くは続きませんでした。走り方に問題があるのではなく、これまで使っていない筋肉を使うため、ふくらはぎの奥深くにある筋肉が悲鳴を上げました。ただ、そこでひとつのことを確信しました。
フロートライドは「走る」のではなく「乗る」ということ。
それに気づいてからはフォーエバー フロートライド エナジーでランニングすることが、楽しくて仕方ありません。まるで新しいおもちゃを手にした子どものように、フロートライドで走っています(筋肉に過負荷にならない範囲で)。
なぜフロートライドがそのような走り方に合うのか、その答えは分かりませんが、推測することは簡単でした。
足を蹴らずに後ろに流す感覚というのは身に覚えがあります。それはジムにあるトレッドミルの走り方で、トレッドミルは地面が動くので、物理的にどうしても足が後ろに流されてしまいます。
フロートライドの走り方は、足が流されてしまう走り方を再現したもので、普段からトレッドミルを使っている人にしてみれば、自然な動きなわけです。
そもそもリーボックがターゲットにしているのが、ジムなどでフィットネスを行う人たちで、そういう人たちはランニングも屋外ではなく、トレッドミルを使うわけです。シューズ構造の原点がトレッドミルにあってもおかしくありません。
その走りにぴったりなランニングシューズがフロートライドというわけです。
これがフロートライドの設計者の意図に合っているかは分かりません。あくまでも想像です。ただ、少なくとも今回履いたフロートライド エナジーのポテンシャルを引き出せる走り方のひとつなのは間違いありません。
ただ、この走り方ではスピードを出すのは簡単ではありません。フルマラソンを3時間20分くらいで走る私の場合、フォーエバー フロートライド エナジーですと、キロ5分〜5分30秒くらいが最も気持ちよく走れます。
リーボックが公表しているフロートライドシリーズチャートではサブ4.5〜5以上のランナーのレース向け、サブ3.5〜4のロング走やLSD、リカバリー向けとなっていますので、私の感覚ともほぼ一致します。
今回履いたフォーエバー フロートライド エナジーはできるだけ力を入れずに、足も消耗させずに気持ちよく走るシューズという位置づけです。
おそらくこれよりも上のクラスのフロートライドは、足を流しつつも前足部で地面を蹴る、押し出す、もしくは回転数を上げるという動作が加わってスピードを出すのでしょう。
ただ不思議なもので、フォーエバー フロートライド エナジーを履いていると、ランニングはこういうのでいいのではないかという気持ちにさせられます。
自己ベスト更新を狙って走るランニングも楽しさはありますが、例えば朝起きて、目が完全に覚める前にフォーエバー フロートライド エナジーを履いてランニングに出かける。スピードも何も考えずに水の上をライドするように走る。
自分を追い込むこともなく、体の反応に任せて前に進むと、徐々に目が冷めていき、それと同時に心も体も満たされていく感覚に包まれます。いつまでも走り続けたい気分になるけど30分くらいで切り上げる。
それは至福のひとときです。
そういうランニングなら毎日でも続くはずです。頑張ろうと思うから練習が続かなくなります。結果が出ないから諦めてしまいます。でも、最初から頑張らず結果も目指さないでフォーエバー フロートライド エナジーで気持ちよく走る。
欧米にはそういうランニング文化があるのかもしれません。マラソン大会に向けて頑張るのではなく、人生を楽しむためのランニング。フロートライドはそんなランニングをサポートするのに最適な1足です。
もちろん、フロートライドラン ファスト プロのように、世界で戦うランニングシューズも用意されていますし、フロートライド ファストのように、自己ベスト更新を狙えるラインナップもあります。
でもフロートライドのポテンシャルを最大限に引き出せるのは、エントリーモデルのフロートライド エナジーかもしれません。
ただし、ひとつだけ気をつけたいのは、フォーエバー フロートライド エナジーに合った走り方をしない限り、フォーエバー フロートライド エナジーはどこにでもある平凡なランニングシューズになってしまうということです。
地面を蹴るのでもなければ、地面を押すのでもない。忍者の水蜘蛛をイメージして滑るように足を後ろに流す感覚。これを意識して走ってみてください。トレッドミルで走ったことがある人は、トレッドミルでのランニングを意識してみましょう。
最初はふくらはぎが痛むかもしれませんので、違和感があったらすぐに止まってください。フォーエバー フロートライド エナジーに合った筋肉の使い方ができるようになるまでしばらくかかりますので、気をつけてください。
慣れてしまえば、フォーエバー フロートライド エナジーは最高の相棒になって走る喜びを与えてくれるはずです。
これだけの体験ができて、税抜で1足9,990円というのはかなりお買い得なランニングシューズです。ガツガツ走るのではなく、もっとのんびり自分のペースでランニングを楽しみたい人におすすめです。
フォーエバー フロートライド エナジー商品概要
価格 | 9,990円(税抜) |
サイズ | MEN'S:25.0-31.0cm LADIES:22.0-27.0cm |
重さ | 250g/27cm |
オフセット | 10mm |