ニューバランスから発売されたばかりの「FuelCell SuperComp PACER」は、ハーフマラソンまでの比較的短い距離を走るためのランニングシューズです。日本では駅伝用シューズにも分類されるシューズですが、この「FuelCell SuperComp PACER」をニューバランスに提供していただきました。
そこで実際にFuelCell SuperComp PACERを履いて、New Balance YOYOGI PARK FKTや伊豆高原の坂道などを走ってみたので、どのようなシューズなのか、本当にスピードを出せるシューズなのかについて、詳しくレビューをしていきます。
フィット感はシビアだけどハマると気持ちいい
FuelCell SuperComp PACERはスピード重視のシューズということもあり、無駄をすべて削ぎ落とした1足に仕上がっています。このため軽量ではあるももの、マラソンシューズのような包み込むような柔らかなフィット感はありません。
ソックスの厚みの違いでフィット感が大きく変わってくるので、基本的には履くたびにシューレースを緩めて、フィッティングからやり直す必要があります。ただこれはFuelCell SuperComp PACERに限ったことではなく、スピード重視のレーシングシューズ全般に共通する特徴です。
ただ、そのフィッティングを怠らなければ、シューズがランナーのポテンシャルを100%引き出してくれます。ベストなフィッティングでハマったときには、まるでシューズがそこにないかのような心地よさがあり、裸足に近い感覚で地面を感じながら走れます。
そういう意味ではベストサイズのシューズを選ぶことが重要で、ウィズ(幅)も含めてニューバランスのショップで足型を計測してもらった上で、最適なサイズを提案してもらうのがおすすめです。なんでもネットで購入できる時代ですが、FuelCell SuperComp PACERの1足目だけは実店舗で購入してください。
知らないうちにトップスピードに到達
一般的に駅伝シューズと呼ばれるスピード重視のランニングシューズは攻撃的な印象が強く、履いた瞬間に背筋が伸びて気持ちが引き締まります。ところがFuelCell SuperComp PACERはそのような面はまったくなく、どちらかといえば頼りなさを感じます。
ただ実際に履いて走ってみると、不思議とスピードが上がります。New Balance YOYOGI PARK FKT(1マイル)で履いて走ったときには、スピードを出しすぎて失速しないようにと意識してペースを落としたのに、1kmの自己ベスト更新するかのようなペースになっていました。
着地がとても柔らかで、感覚的には反発力がないのに実際にはきちんと反発をしていて、簡単にスピードが出るようになっています。スピードが出ているけど走らされている感がないので、自分できちんと走りをコントロールできます。
おそらく、最適なタイミングで反発が起きるように、かなりのチューニングを行ったのでしょう。樹脂プレートではなくカーボンプレートを選んだのも、このナチュラルな反発力を生み出すために、試行錯誤した結果というのが伝わってきます。
FuelCell SuperComp PACERがフルマラソン用ではなく、ハーフマラソンまでの比較的短い距離を走るためのランニングシューズとしているのは、簡単にスピードが上がるからオーバーペースになって、後半に失速する可能性があるからかもしれません。
正直なところ「これでフルマラソンを走ってみたい」というのが実際に走ってみての感想です。薄底のほうが走りやすいと感じている人は、FuelCell SuperComp PACERでフルマラソンを走ってみるのも選択肢としてはありです。ただ、オーバーペースにだけは気をつけましょう。
軽いから激坂でもケイデンスを上げて走れる
シューズの軽さもFuelCell SuperComp PACERの魅力のひとつ。シューズが軽いので、上り坂を走るときでもしっかりとケイデンスを上げることができるので、傾斜のきつい坂道でも心肺機能さえついてくれば、グイグイと登れます。
また、前足部はそれほどタイトではなく、むしろ余裕があるので地面をしっかりと掴めるのもFuelCell SuperComp PACERの特徴になります。前足部は緩くても中足部でしっかりと固定しているのでシューズがブレることはありません。
スピードモデルなのにシューレースホールが少ない設計になっているのは、足の甲に近い部分の屈曲性を良くするためと考えられます。無理なく屈曲できるので、それだけカーボンプレートとミッドソールをしならせやすく、高い反発力を得られるから、坂道でもテンポよく走れるのでしょう。
もちろん軽さはフラットなコースでも強み。良いシューズは走ったときに存在感がなくなるのですが、FuelCell SuperComp PACERも軽くて、反応が早いのもあってシューズを履いて走っているという感覚がなくなります。
こういうシューズはレビューをするのがとても難しいのですが、ランニングシューズは履いていてストレスがないことがとても重要。最近の厚底シューズは走りやすいもののシューズの存在感が強めで、自分主導というよりはシューズに合わせにいく感があります。
FuelCell SuperComp PACERはシューズ主導ではなく自分主導。自分が速く走る意思を示すことで、より高いレベルの走りが実現します。ただサポートされている感覚もほとんどないので、高反発シューズが苦手という人でも気持ちよく走れるはずです。
結論:ナチュラルにスピードを上げたい人におすすめ
悩ましいのはFuelCell SuperComp PACERをどこで利用するかということ。5kmや10kmのレースやハーフマラソンで力を発揮するシューズですが、フルマラソンを主戦場にしている人は、調整のためにハーフマラソンに出ることはあっても、あまり短い距離のレースには出ませんよね。
そうなるとFuelCell SuperComp PACERを持っていても宝の持ち腐れになってしまいそうですが、おすすめの使い方はインターバルやペース走に使うことです。スピード練習で心肺機能に高い負荷をかけられる領域に簡単に入れるので、ケガを回避しつつ走力を高められます。
合わせて行いたいのが100〜200m程度のダッシュやHIIT。短い距離でしっかりと追い込めるので、筋力アップにも繋がります。軽い上り坂で100〜200mのダッシュを入れることで、マラソンでのペースを上げやすくなります。
すでにお伝えしましたように、薄底のシューズが好きというのであれば、FuelCell SuperComp PACERをフルマラソンに使うのもOK。ただし、ソールが柔らかく耐久性などはそこまで高くはないため、フルマラソン用のシューズと比べると早いサイクルで交換が必要になるかもしれません。
このためジョグで履くのはおすすめしません。ポイント練習で履くときも、アップはジョグ用のシューズを使って、追い込むときだけFuelCell SuperComp PACERに履き替える。マラソン大会でも会場への往復は普段履きを使ってアップとレース中だけ履きましょう。
使いどころが難しい1足ですが、スピードを求める人にとっては最適解のひとつなのは間違いありません。自己ベスト更新を目指してしっかりと追い込みたい人や、薄くて軽くて反発のあるシューズが好きな人は、ぜひ店舗でチェックしてください。