裸足フルマラソン日本記録更新の伊豆倉健城「裸足だから速い」

今年の東京マラソンで、フルマラソンの日本最高記録が更新されたのはまだ記憶に新しいかと思います。ただ今年の4月に開催されたかすみがうらマラソンで、もうひとつの日本記録が更新されたことを知っている人はどれくらいいるでしょう。

2時間42分38秒(オフィシャルタイム)

トップランナーからすれば物足りないタイムかもしれませんが、これが裸足で出された記録だと聞くと、誰もがその速さに驚くかと思います。裸足のフルマラソン、日本最高記録を更新したのは伊豆倉健城さん。

裸足ランニングの世界では日本記録の更新は間違いなく、それをいつ達成するかという点で注目されている存在でした。RUNNING STREET 365では伊豆倉健城さんに独占インタビューを行い、その速さの秘密について語ってもらいました。

目次

かすみがうらマラソンでの激走

2017年のかすみがうらマラソンは、伊豆倉さんをはじめとする裸足ランナーにとって鬼門となる大会でした。レース途中で気温がぐんぐん上昇し、立っているだけでも足に水ぶくれができるコンディション。

一般的にフルマラソンでいい記録を出すためには「自分のコンディション・気温などのレースコンディション・最高の結果を出せるシューズ」が必要だと言われています。裸足ランニングの場合はシューズが不要ですが、その代わり路面のコンデションがとても重要になります。

2017年のように路面が熱くなると記録を出すことは難しくなります。2018年のかすみがうらマラソンも風が強いという予報でしたが、スタート時間には風も止み、更には路面がややウェットで最高の路面コンデションが整いました。

普段は腕時計をしてレースに出ることのない伊豆倉さんですが、この日は2012年に高岡尚司さんの出した2時間45分39秒に照準を合わせるために、腕にしっかりと時計が巻かれています。それだけの意気込みで望んだレース。

結果はすでにご紹介したように2時間42分38秒で、日本最高記録を3分縮めてのゴールとなりました。

伊豆倉健城が裸足になった理由

小さな頃から足が速く、リレーの選抜メンバーに選ばれていた伊豆倉さんですが、所属していたのは陸上部ではなくテニス部でした。「テニス部では補欠だった」とのことですが、陸上部の助っ人をした経験もあるとのこと。

マラソン歴は9年で、最初は有名ブランドのランニングシューズでランニングを始めました。その後、ランナーによくあるパターンで、オーバーワークによる腸脛靭帯炎を発症します。

そこで出会ったのがビブラムファイブフィンガーズです。ちょうど日本で裸足ランニングや裸足系シューズが広まり始めた時期で、その普及のために飯能ベアフットマラソンの開催が決まった時期でもありました。

ビブラムファイブフィンガーズと出会い、裸足ランニングへの興味が高まったところでの飯能ベアフットマラソンの開催。まるで伊豆倉のために敷かれたレースがそこにあるようですが、第1回大会で伊豆倉さんは見事優勝します。

このときはまだシューズの部もあった飯能ベアフットマラソンですが、シューズランナーを抑えての優勝。ここから裸足ランニング界でも注目を浴びる存在となっていきます。

日本最高記録を出すための練習方法

日本最高記録を出すくらいだから、さぞかし走り込んでいるんだろうと思われますが、実は月間走行距離は100kmちょっととのことで、最近は15度の傾斜をつけたトレッドミルでの走り込みが中心です。

裸足ラン仲間が言うには、「最近ランニングフォームが変わった」とのことです。伊豆倉さん自身も次のように語っています。

「身体的な強化というよりもフォームがより効率的になったことが大きく寄与していると感じているので、個人的に走り方の改善が裸足ランニングの記録向上の近道と思っています。」

練習方法として面白いのは「基本的には裸足では走らない」ということです。レース前に裸足で走ることはあっても、日常の練習で裸足になって足裏を鍛えるということはしないそうです。多くの裸足ランナーにとっては驚きかもしれません。

裸足で走るとどうしても負荷がかかってしまい、足にダメージが残ります。そうなると練習で追い込むことができなくなるため、裸足で練習することは基本的にしないそうです。

もうひとつ面白いのは、レース直前の水曜日に必ず30kmを走るという点です。これはスロージョギングでも有名な故田中宏暁先生の影響によるもので、この他にも多くの部分で田中宏暁先生のメソッドを練習やレースに取り入れているそうです。

それほど走り込まなくても結果が出したということは、走る才能も大きいのかもしれません。でも必要以上に走りすぎてケガをしてしまうランナーさんにとって、本当に今の練習でいいのか考え直すきっかきになるかと思います。

ちなみに伊豆倉さんが参考にしている田中宏暁先生の著書「賢く走るフルマラソン」は2005年に出版されているため、すでに新品での入手は困難です。ただし「ランニングする前に読む本」が昨年出版されていますので、気になる人はぜひチェックしてください。


ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング (ブルーバックス)
著者:田中宏暁
楽天ブックス:ランニングする前に読む本 最短で結果を出す科学的トレーニング (ブルーバックス) [ 田中 宏暁 ]

伊豆倉流ランニングとの向き合い方

裸足での日本記録を更新するくらいですから、ストイックな生活を送っているのかと思いきや、むしろ特別なことを意識していないそうです。例えば、食事にこだわるランナーも多いと思いますが、伊豆倉さんはこう言います。

「家族持ちが(レース用の)食事を求めちゃいけない」

彼はランナーであることの前に、家族のいる1人の男であることを大切にしています。家族を大切にするという姿勢が、裸足ランニングへの家族の理解に繋がっているのかもしれません。

レース中の栄養補給もスタート前にウィダーインゼリーを2本飲むだけ。あえて気をつけている点があるとすれば、プロテインを使って回復を促すくらいのことだそうです。基本的には細かいことは何もしないとのこと。

レースにおいても「痛みは気にしない」と言います。ただ、この言葉の裏には2つのポイントがあります。ひとつは、痛みに耐えられるだけの心の強さ、そしてもうひとつは痛くならない走り方をしていることです。

「裸足で走ることでのマメや水ぶくれ、打ち身や切り傷は数え切れません」

2時間台でフルマラソンを裸足で走ると、どうしても水ぶくれはできてしまいます。でもそれを気にしないで、最後まで走り続ける気持ちの強さが伊豆倉さんにはあります(昨年のかすみがうらマラソンでは、路面が熱くなりすぎてさすがに耐えられなかったようですが)。

ランニングフォームを実際に見てみると、まったく無駄のない走りをしていることが分かります。接地からリリースまでのスムーズさと、上半身の使い方。そこに無駄がないからダメージを最小限に抑えられるのでしょう。

日本記録更新は通過点

残念ながら裸足でのフルマラソン日本記録を更新しても1億円はもらえません。それどころか、非公認記録ですのでこれから裸足ランニングの世界で語り継いでいく以外に、記録として残ることもありません。

それでも伊豆倉さんは、さらなる日本記録更新を目指しています。「2時間30分を切る」次のステップはそこにあるそうです。もちろん簡単なことではありませんが、簡単ではないからこそ、静かに闘志を燃やすことができます。

裸足ランナーもサブ3ランナーが続々と出ていますので、伊豆倉さんがこの日に出した記録もいずれ誰かに抜かれてしまいます。ただ、そのときには伊豆倉さんはもっと遠い場所にたどり着いているのでしょう。

彼が裸足で走る理由はとてもシンプルです。

「裸足のほうが速いから」

裸足だから速いと言い切れる裸足ランナーは、まだまだ少数派です。ただ、彼には確信があり、そして実際に今回の日本記録更新でシューズを履いていた過去の自分を追い抜いています。

裸足ランニングにはまだまだ可能性があり、日本記録更新は通過点。もっと先を見据えているというその向上心は、裸足ランナーでなくても見習いたいところです。そして、これからのさらなる飛躍を期待せずにはいられません。

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