まだ日本では知名度が高いとはいえないステアクライミング(階段マラソン)ですが、エリートランナーの年間シリーズレースが開催されるなど、徐々に競技者の裾野が広がりつつあります。ただ、年間開催数が少ないのもあり、毎年試行錯誤をしながら参加している人も多いはず。
どんなペースで駆け上がるのがいいのか、そのコツを知りたいと思っていた人に朗報です。昨秋、あべのハルカスで開催されたステアクライミングレース(SJC大阪大会)にテクニカルスポンサーとして技術協力していた古野電気が、エリートランナーのバイタルデータを数値化して公表してくれました。
すべての選手動向の可視化を実現
SJC大阪大会では、高層ビルなどの建設現場にも構築できる古野電気のウェーブガイドLANを、通信環境の整わない非常階段に簡単装備。バイタルセンサーと連携することで、選手の動向やラップタイム、さらには走行中の選手のストレスレベルを、あべのハルカスから少し離れた場所に設置されたイベント会場でリアルタイムに公開する仕組みが導入されました。
このようなデータをリアルタイムに別会場で見られること自体がとても高いテクノロジーであり、マラソンのように選手をカメラで追い続けることが難しいステアクライミングの新しい楽しみ方として期待されています。
今回は実際に計測されたデータをグラフにしたものが公開されており、階段マラソンを制するために何が必要なのかを感覚ではなく数値として、全国の階段マラソンファンに共有されることになりました。これにより、2024年は参加者が明確な方向性を持ってトレーニングを組めるようになります。
具体的に、どのようなデータが公表されたのかを見ていきましょう。
高度評価
エリート男子のグラフからもわかりますように、トップを競う選手ほど高度チャートは限りなく直線を描いています。また、各階でのラップタイムが平均化を見ても、優勝した緒方航選手は20階(高度約100m)まで区間6位で通過するものの、自分のペースを守り切り平均ラップタイムの誤差(ペースバラツキ)がわずか1.7秒という驚異的な安定度を見せています。
2位となった高村純太選手は、先行逃げ切りで攻めたもののペースダウンし、平均ラップタイムの誤差が20.3秒あり、優勝の緒方選手とは対象的なレース展開となりました。あべのハルカスのように高度が高いステアクライミングレースにおいては、ペースが安定していることが強みになることがこのデータからわかります。
また、エリート女子はエリート男子に比べて曲線を描く差は小さく、このグラフからも拮抗したレース展開がうかがえます。トップのサンドホファー・リン選手が、平均ラップタイムの誤差(ペースバラツキ)が16.1秒と最小で、こちらも安定走行で自分のペースを守り切り見事に優勝しています。
これらの結果により、ステアクライミングにおいては、いかにしてペースを維持するかがとても大きな課題になるかがわかってもらえたかと思います。ぜひ今回のデータを参考にして、2024年のステアクライミングレースに向けてのトレーニングを行ってください。
きっとこれまで以上の結果が待っているはずです。
ストレスレベル(参考値) エリート男子
今回のイベントでは、イベント会場に設置された大型ビジョンで選手の順位動向をリアルタイムに紹介するとともに、各選手のストレス度をバイタルセンサーから読み取り、イベント会場で応援する方々に紹介されました。
参考値として、一部(上位5)選手のストレス度の推移を紹介しています。全選手も含めストレスレベルが10を超える選手は少ない中、エリート男子で優勝した緒方航選手は、スタートから7分あたりまで10から13と高いレベルで推移しており、安定したラップタイムを刻む裏での高いストレスレベルにあったことがわかります。
これをどう認識するかの判断は難しいのですが、階段マラソンにおいては感覚に任せて駆け上がるのではなく、意識的に「自分をコントロール」してペース配分することが大切だと推定できます。とはいえ、他の選手も優秀な成績ですので、必ずしもそれが正解と言い切ることができません。
おそらく、これからさらにデータが増えて、より良い結果を出すためのノウハウが構築されていくものと考えられます。このような科学的なアプローチがあることで、選手それぞれが工夫していくことで、ステアクライミングの文化が飛躍する。そんな未来を期待せずにいられません。
総合プロデューサーコメント
今年(2023年)の大阪大会は、昨年ドバイでスタートした世界選手権大会を日本にはじめて誘致(2023WORLD STIRCLIMBING CHAMPIONSHIPS)しての開催となりました。本競技を、”観ても楽しいスポーツ” にする為、FURUNO様には「ウェーブガイドLAN」技術を活かし垂直方向への安定したWi-Fiのインフラを確立いただきました。
これにより現地会場でのパブリックビューイングやライブ配信を実施でき、階段内でのレース中の模様を多くの方にお楽しみいただく事ができました。さらに、この大会の為に特別に開発いただいたレース中の選手のバイタルデータ(走行中のストレス度)や位置情報を一度に観れる仕組みを創っていただきました。
会場ビジョンに選手映像と併せて選手の数値データを観ながら応援できるスタイルは世界の他の国々でも実施していない画期的な取組みとなりました。この仕組みをさらに応用すれば、日頃から階段を上る動機づけになると強く感じます。