ランニングシューズは厚底が定番化しつつありますが、日本人ランナーだけに限ると薄くて軽いシューズに根強い人気があります。ただし、薄くて軽いだけでなく機能面でも妥協したくない。そういうランナーに適しているのが、アディダスのアディゼロジャパンです。
そのアディゼロジャパンがフルモデルチェンジを行い、アディゼロジャパン5として発売が開始しました。アディゼロジャパン5を実際にフルマラソンで試す機会をいただいたので、どのようなシューズなのかについてレビューをしていきます。
いきなり10kmの自己ベスト更新
ファーストインプレッションは「未完の大器」でした。最初は2km程度のジョグだけでしたが、これまでのアディゼロジャパンとはまったく違う方向性に戸惑いつつもポテンシャルの高さに驚きました。
個々のパーツ性能がかなり向上しているのは伝わってきます。ただ、それらの性能がまだ融合しきれていないという感じを受けたのも事実です。ランニングシューズはデータの蓄積で進化しますが、フルモデルチェンジをするということは、データの蓄積を最初からやり直すことでもあり、最初の1足はどうしてもチューニングが甘くなります。
また、前足部の幅がかなり広くなったのも違和感の原因でした。これまでのアディゼロジャパンは足を拘束してきたわけですが、新モデルは足先を開放している感じがあり、そこに不安を感じました。
このため、いきなりフルマラソンで試すのではなく、最適な走り方などを把握してからのほうがいいと判断し、レース4日前にポイント練習として10kmのペース走を行いました。
ペース走なので本来は同じペースで走らなくてはいけませんが、最初の1kmはあまり深く考えずに足が動くままに任せました。最初の1kmが3分43秒と完全にオーバーペースでしたので、ここで3分55秒前後にペースを設定し直して残り9kmを走りました。
結果は38分47秒。これは10年前に記録した私の10kmの自己ベストを45秒以上も上回っています。
2月サブ3に挑戦するために、様々な試行錯誤をしているのもあるので、アディゼロジャパン5だけが影響したわけではありません。ただし、この数ヶ月で1度も40分を切っていなかったことを考えると、影響は小さくありません。
前足部やや後ろで受けて踵で押し出す
このシューズの特徴は、従来のモデルよりもドロップを1〜2ミリアップさせている点にあります。そして前足部のBOOSTフォームを薄くして、前足部は「受ける」ことに集中できるようになっています。
このため、着地としてはフォアフットが基本ですが、指先で受けるというよりは、前足部でも土踏まず側で力を受けるのが理想です。そして滑らかに踵を地面に押し付けて、その反発力で推進力を生み出します。
前足部で受けて、踵で加速し、前足部で抜く。これが上手くハマったときに、従来のアディゼロジャパンにはない推進力を得ることができます。イメージとしては「まっすぐ入って、まっすぐ抜く」という感じですが、言語化するのが少し難しいところです。
走る前は前足部の緩さが気になりましたが、実際に走ってみると違和感はまったくありません。私は裸足で走ることも多いので、むしろ開放されている方が負荷が少なくて、下半身がリラックスするのがわかります。
10kmのペース走で、よく考えられているランニングシューズなのは理解できましたが、大事なのはフルマラソンを走ってどうなるかということです。日本一早いマラソンレポートで紹介した花蓮太平洋縦谷マラソンで、実際にレースで履いてみたので、その結果をレビューします。
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強風のレースで3rdベスト達成
花蓮太平洋縦谷マラソンでは、30kmまで距離走のつもりで走る予定でしたが、10kmのペース走の疲労が残っていたのと、飛ばされそうなくらいの強風だったというのもあって、スタート直後に「無理なく走り切る」をテーマに変更しました。
ペース走の感じからすると、4分15秒/kmくらいなら出せそうだったのですが、どうやってもこの日のコンディションでは4分25秒/kmがいいところ。それ以上を出すと確実に失速してしまうので抑えて走ることにしました。
強風ではあるものの、接地面積が広いからか走りそのものがブレることはありません。傾斜のある上り坂でもしっかりと地面を掴んでくれるので、グイグイと上っていくことができます。ただし、上り坂は踵からの反発力を受けにくいので、思ったほどはスピードが出ていなかったかもしれません。
アディゼロジャパン5が本領を発揮したのが、向かい風をもろに受けるレース後半でした。気を抜くと足が浮いてしまいそうになるくらいの強い風。それでも着地が安定しているので、失速を最小限に抑えてくれます。
私は力がある方ではないので、向かい風がかなり苦手なのですが、シューズのおかげでなんとか前に進めます。さすがに4分25秒を維持するのは無理でしたが、それでも4分30〜40秒程度で粘れます。
前方にいたランナーは風に負けて失速していき、気がつけば全体の7番手にまで順位が上がっていました。
スタートしたときの足の重さからすると、私も30kmで失速するかと思いましたが、BOOSTフォームが効いていたのでしょう。そこから大きく崩れることもなく、淡々とゴールを目指せます。さすがに残り5kmくらいになると疲労感がありますが、残り3kmでスパートする余裕がありました。
結果は3時間10分47秒。
今年2月の愛媛マラソンが3時間19分37秒で、この数年のベストタイムでしたが、これも大きく上回り、フルマラソンの3rdベストとなりました。
スピードに乗りやすく疲労感が少ないシューズ
マラソンのタイムは、ランニングシューズだけで決まるわけではありません。ただし、ランニングシューズはランナーをサポートしてくれる大切な相棒のひとつです。シューズのポテンシャルが高ければ、それだけいい走りをしやすくなります。
そういう意味で、アディゼロジャパン5は、終始頼りになる相棒でした。今回のレースでは自分の調整不足でスピードに乗ることはできませんでしたが、10kmのペース走ではスピードに乗った走りを体感できました。
フルマラソンでは安定感がかなり高く、それでいて疲労感が少なく、後半に失速しにくいという特性を感じることができました。サブ2.5やサブ3を狙うランナーにとっては、十分に選択肢のひとつに入るランニングシューズです。
スピードに乗りやすいという意味では、フルマラソンを歩かずに走りきれるだけの走力があるなら、サブ4ランナーにも履いてもらいたい1足でもあります。もちろん、十分な練習を行える環境があることが前提になりますが。
いずれにしても薄くて軽いだけでなく、高機能なランニングシューズを求めているならアディゼロジャパン5は、その要求を満たして余りあるポテンシャルを持ったランニングシューズです。迷っているなら間違いなく「買い」の1足というのがレビューの結論です。
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