ADIZERO ADIOS PRO 3の簡単なレビューは先日行いましたが、今回はじっくりと履いて、どのような特性を備えたランニングシューズなのかについてレビューしていきます。結論からいえば、過去のモデルとは似て非なるシューズへと生まれ変わっています。
ADIZERO ADIOS PRO 2の完成度が高かったので、正直マイナーチェンジだと思っていましたが、これは紛れもなくフルモデルチェンジ。過去の限界を軽々と超えていった1足になっていました。自己ベスト更新も目指すランナーに履いてもらいたいシューズですが、ただ履けば速くなるというわけではなさそうです。
反発力のレベルが従来モデルとは比較にならない
ADIZERO ADIOS PRO 3を履いて走ってみて最初に感じたのは、反発力が従来比でかなり大きくなっているという点です。初代も2代目も高い反発力があり、数々の記録を塗り替えてきたシューズですが、ADIZERO ADIOS PRO 3を履いてみると、過去のモデルに大人しさを感じるほど明らかな差があります。
後ほど、ADIZERO JAPAN 5・ADIZERO ADIOS PRO 2と比較した分析結果をご紹介しますが、ADIZERO JAPAN 5の反発力を「1」としたら、ADIZERO ADIOS PRO 2が「3〜4」、ADIZERO ADIOS PRO 3が「10」といったところでしょうか。
もちろん10倍跳ねるわけではありませんが、地面を押した力のリターン割合は体感でADIZERO JAPAN 5の10倍近くあります。ADIZERO JAPAN 5もBOOSTフォームを採用したモデルとはいえ、登場したときには「跳ねすぎる」と評価されていたシューズです。
そんなシューズよりも弾む感じがあり、自然にストライドが伸びる感覚があります。これはカーボンロッドが一体化したことによる変化がひとつと、シューズそのもののスイートスポットが広がった感じがあり、前足部のどこで押してもしっかりとリターンをもらえる感覚があります。
ADIZERO ADIOS PRO 2では地面を押したときに、地面側に少し力が逃げる感じがありましたが、ADIZERO ADIOS PRO 3は押したものがそのままリターンされるので、黙っていてもスピードに乗れてしまいます。今回のモデルでここまでスペックアップしたら、後継モデルはどうするつもりなのか不安になるくらい大きな変化。
断言しますが、ADIZERO ADIOS PRO 3は従来のモデルとはまったくの別物です。コンセプトは同じかもしれませんが、従来モデルは史上最強の羊だったのが、ADIZERO ADIOS PRO 3は羊の皮を被った狼。一見すると同じに見えますが、中身はまったく違います。
好みが分かれそうなアッパー素材と反応の速さ
あまりに衝撃的だったので、先に結論に近い部分を話してしまいましたが、少し落ち着いてレビューしていくとしましょう。まずは履き心地ですが、ここは好みが分かれるかもしれません。前作のアッパーも個人的には好きなのですが、ADIZERO ADIOS PRO 3を履くと「考えすぎ」かなという感じがあります。
最近のランニングシューズは解析を行ったうえでデザインされますが、コンピュータ上でいろいろとテストができてしまうので、「最適」を追求しやすくなっていますが、設計上での最適化と実際のシューズとしての最適化が必ずしもイコールではないわけで、ADIZERO ADIOS PRO 2はまさにそのような立ち位置にあります。
科学的に最高のシューズだったかもしれませんが、もっとシンプルでいいのだということをADIZERO ADIOS PRO 3が証明しています。最低限の補強と通気性と軽量性を両立させるアッパー素材を使い、ランニングシューズがこれまで進んできた進化の王道に戻った感じがあります。
新しいアッパー素材を採用したことで軽量化したとのことですが、軽さに関しては誤差の範囲内。ただ、すでにお伝えしましたように反発力が高いのもあり、体感的な軽さはADIZERO ADIOS PRO 3のほうが圧倒的に優れているように感じます。
さらにADIZERO ADIOS PRO 3のアッパーは面で力を受けてくれるので、足の動きに対しての反応性が高く、思い通りにコントロールできます。ただ、素材変更によりフィット感が合わなくなったという人も出るかもしれません。ただこれは好みの問題であり、理論的なシューズスペックとしては確実に上がっています。
ADIZERO JAPAN 5・ADIOS PRO 2との比較
シューズレビュー用にカシオのモーションセンサーを導入しましたので、今回はモーションセンサーを使って、ADIZERO ADIOS PRO 3がADIZERO JAPAN 5(BOOSTフォームモデル)やADIZERO ADIOS PRO 2とどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
条件はそれぞれ1周約1kmのコースを2周。まずはジョグペース(キロ6分想定)で走り、その後にレースペース(サブ3想定:4分15秒/km)で走って比較しています。
ジョグペース(キロ6分想定)
6:00/km設定 | Japan 5 | Adios Pro 2 | Adios Pro 3 |
---|---|---|---|
総合スコア | 73 | 69 | 69 |
走行ペース | 5:45/km | 5:41/km | 5:39/km |
ピッチ | 176 | 178 | 178 |
ストライド | 0.98 | 0.98 | 0.99 |
骨盤を軸とした全身の連動 | 65 | 64 | 62 |
動きの力強さ | 52 | 49 | 52 |
スムーズな重心移動 | 87 | 90 | 91 |
左右対称性 | 83 | 77 | 76 |
安定性 | 91 | 88 | 88 |
負担の少ない接地 | 76 | 67 | 66 |
ジョグペースで走った結果を比較した場合、ADIZERO ADIOS PRO 2とADIZERO ADIOS PRO 3は似たような数値になりましたが、いずれもJAPAN 5と比較すると「左右対称性」と「負担の少ない接地」の値が明らかに低くなっています。
この結果からは、ADIZERO ADIOS PRO 2とADIZERO ADIOS PRO 3は跳ねやすく、上下動が大きくなってバランスが崩れたことが考えられます。本来であれば反発力を水平方向のベクトルにしなくてはいけないのに、垂直方向のベクトルになっているのでしょう。
この部分に関しては走り方を最適化すれば、解決する問題です。ただ、ジョグのようなゆっくりペースで走る場合には、どうしても走りを無理に抑えてしまうので、結果的に悪い評価になっているのが現実。ここからわかるのは、ゆっくりペースで履くと余計にロスする可能性があるということです。
レースシューズなのでジョグで使うという人は少数派かもしれませんが、キロ6分程度ではシューズのポテンシャルを活かせないということだけは頭に入れておきましょう。
レースペース(サブ3想定:4分15秒/km)
4:15/km設定 | Japan 5 | Adios Pro 2 | Adios Pro 3 |
---|---|---|---|
総合スコア | 75 | 76 | 70 |
走行ペース | 4:29/km | 4:38/km | 4:26/km |
ピッチ | 182 | 184 | 185 |
ストライド | 1.22 | 1.17 | 1.22 |
骨盤を軸とした全身の連動 | 71 | 71 | 71 |
動きの力強さ | 66 | 64 | 64 |
スムーズな重心移動 | 72 | 77 | 80 |
左右対称性 | 80 | 90 | 71 |
安定性 | 94 | 84 | 91 |
負担の少ない接地 | 77 | 75 | 62 |
キロ6分ではポテンシャルを発揮できそうにないADIZERO ADIOS PROですが、サブ3のレースペースだとどうなるのかを見てみましょう。本来ならもっと速いペースで走るシューズですが、レビューアーである私のスキルにも限界があるので、4分15秒/kmを想定します。
ここで想定外の結果が出てしまいました。ADIZERO ADIOS PRO 2は総合スコアが目に見えて上がりましたが、ADIZERO ADIOS PRO 3は動きの力強さがアップしたものの、負担の少ない接地が大幅に下がっており、総合スコアが伸びません。
ただ、自分の感覚としては、ADIZERO ADIOS PRO 2とは比べ物にならないくらいの反発力を感じており、スピードも4分15秒/km設定に合わせるのが難しいくらいでした。感覚的には走れているのに、このような結果になったのは、やはり反発をコントロールしきれていないからかもしれません。
ADIZERO ADIOS PRO 2の反発力は上手く推進力に変えることができているのに、ADIZERO ADIOS PRO 3はただ上方向に跳ねているだけ。反発力が強力になっているがゆえに、履きこなせておらず思わぬ結果になってしまいました。
フォーム変更&フィッティング調整で再チャレンジ
4:30/km設定 | 再テスト1 | 再テスト2 |
---|---|---|
総合スコア | 76 | 75 |
走行ペース | 4:12/km | 4:12/km |
ピッチ | 184 | 184 |
ストライド | 1.29 | 1.29 |
骨盤を軸とした全身の連動 | 74 | 76 |
動きの力強さ | 70 | 68 |
スムーズな重心移動 | 77 | 77 |
左右対称性 | 85 | 83 |
安定性 | 91 | 91 |
負担の少ない接地 | 68 | 65 |
比較結果に納得がいかず、ADIZERO ADIOS PRO 3を履いて、もう1度フォームチェックをしてみました。カシオのモーションセンサーの指摘としては、着地位置が前方すぎて、膝を伸ばす勢いを推進力に変えられていないとのことなので、数日かけてフォームを見直しました。
さらにADIZERO ADIOS PRO 3のフィット感が甘く、踵が浮いてしまう感じがあったので、1番上のシューレースホールを内側から外側に変更しました。これがドンピシャでハマった感じがあり、今回は期待通りの数値になっています。
前回と大きく変わったのが「動きの力強さ」です。上に向いていたベクトルを前方にできたことで、ソールの反発力がきちんと推進力に変わっているのがわかります。同じ感覚で走ってるのに前回よりペースも速くなっているため、間違いなくシューズのポテンシャルを引き出せています。
ところが、モーションセンサーのアドバイスで「母指球で蹴り出そう」とあったので、それを意識したらスコアが落ちました。スピードがかなり上がりすぎたのもあって、無理に減速した結果、また反発力が上向きのベクトルに近づいてしまったのでしょう。
これではっきりしたのは、ADIZERO ADIOS PRO 3を履きこなすには、正しいフォームかつ適切なブレーキをかけないスピードで走るということです。ADIZERO ADIOS PRO 2は走り方はそこまでシビアではありませんでしたが、ADIZERO ADIOS PRO 3はしっかりと合わせにいく必要がありそうです。
結論:履きこなせるなら最高の相棒になる1足
ADIZERO ADIOS PRO 3は間違いなく、アディダスの最高傑作になる1足です。おそらく次のモデルが発売されるまでに、数々の記録を打ち破ることになり、多くの市民ランナーが自己ベスト更新を実現することになるはずです。
ただADIZERO ADIOS PRO 2と比べると、やや気難しいところがあるランニングシューズであると、今回のレビューで感じました。履いただけで反発力を強く感じて、ストライドが伸びたり、簡単にスピードを上げられたりします。
ところが実際には力のベクトルが垂直方向を向きやすく、反発力をきちんとコントロールできるかどうかが、自己ベスト更新の鍵を握ることになります。従来モデルよりも反発が大きい分だけ、きちんと反発力をコントロールできないと上下方向のロスが生まれるので注意が必要です。
それだけ反発を得られるということで、その反発力を水平方向に変換できれば、驚くほど簡単にスピードに乗れてしまいます。ここは諸刃の剣といったところでしょうか。スムーズに移行できる人もいるかもしれませんが、人によっては慣れるまで1足消耗する可能性もあります。
ただ、ADIZERO ADIOS PRO 3の持つポテンシャルは間違いなく本物。それを活かせるかどうかは自分次第。そういう意味ではやや難易度は高めですが、ADIZERO ADIOS PRO 3を履いて自己ベスト更新をしようとするランナーならそこまで高いハードルではありません。
気になっているなら間違いなく「買い」です。進化という言葉では表現できないほど高いポテンシャルがあり、最高の相棒になってくれる可能性を秘めています。あとはこの暴れ馬を乗りこなせるかどうか。ランナー側のスキルを問われるランニングシューズですが、だからこそ履いてみてもらいたい1足です。