2020年度版ランニングシューズの選び方【特性を理解して選ぶ】

次世代ランニングシューズがほぼすべてのメーカーから出揃いました。ニューバランスだけは、日本での発売は今秋からということですが、アメリカではすでに販売されていますので、ニューバランス好きのランナーは発売の情報を楽しみにしていることと思います。

ヴェイパーフライのような速く走るためのランニングシューズの登場で、マラソン大会がない状況にも関わらず、シューズ業界はとてもにぎわっています。ただ、こうなってくるとどうやってシューズを選んでいいかわかりませんよね。

そこで、今回は基本に立ち返って、ランニングシューズをどう選ぶべきかについてお話します。

目次

「速く走れる」は能力の向上ではない

まず頭に入れておいて欲しいのは、市場をにぎわしている次世代ランニングシューズについての考え方です。これらのシューズの多くがカーボンなどの補強材を使い、さらには衝撃吸収性が高く反発力の強いミッドソールを採用しています。

特にどのメーカーもミッドソールの開発に力を入れており、従来はEVAと呼ばれる低価格で耐久性もよく軽い素材が使われていましたが、この部分をそれぞれが独自開発を行い、軽くて反発力があり、衝撃吸収性も高いものを作り出してきました。

次世代ランニングシューズが2万円前後と高額なのは、このソール材の製造費と開発費用がかかっているためです。

これらのランニングシューズはランニングエコノミーが向上するため、どのレベルの選手が履いても自己ベスト更新につながるとされています。少なくともヴェイパーフライシリーズはそのようなデータが出ており、初級者でも自己ベスト更新を出せます。

ここで勘違いしてはいけないのが、自己ベスト更新ができたことが必ずしも自分の能力が上がったわけではないということです。フルマラソンの自己ベストが4時間5分だった人が、次世代ランニングシューズを履いてサブ4を達成したとしても、それは自分の努力の結果とは限りません。

ドラクエなどのRPGゲームに出てくる武器のようなものです。そもそも攻撃力が45くらいなのに、鋼の剣を手にしたら攻撃力が50に上がったみたいな話で、一見すると強くなっているように見えますが、自分のレベルは変わっていません。

トップアスリートは命を削りながら1秒を縮めます。レースに勝つこと、タイムを縮めることが仕事だから次世代ランニングシューズは必須です。だから一時期トップ集団の足元がピンク色に染まりました。でも、私たち市民ランナーはそれでいいのかというのは、よく考える必要があります。

自分のレベルを上げたいのかタイムを追い求めたいのか

次世代ランニングシューズが発売になったことで、ランナーはひとつの決断を迫られています。それは「自分自身のレベルを上げたい」か「マラソンのタイムを縮めたい」かのどちらかです。「マラソンのタイムを縮めたい」が強いのであれば、もちろん選ぶべきシューズは2万円以上するランニングシューズです。

でも、それを履いて自己ベスト更新できるのは2〜3回がいいところでしょう。シューズも進化していくので、もう少しできるかもしれません。最初の数回はシューズのおかげでタイムは縮まります。でも、シューズが馴染んできたらそこからはこれまでのランニングシューズと同じです。必ず伸び悩みます。

それでもサブ3やサブ4といった称号を手に入れることができれば自信になりますし、最後まで失速せずに走り切るという楽しみも得られます。ですので、次世代ランニングシューズが悪いとは思いません。これから間違いなく主流になりますし、履いて当然という流れにはなります。

とはいえ自分の運動能力を向上させたいと思っている人からすると、速く走れるシューズを履いてタイムを縮めることは本質的ではありません。自分自身のレベルを上げたいというのが目標なら、別にランニングシューズは何でもいいわけです。

むしろ自分を測るという意味では、同じランニングシューズを選び続けるのがベストです。シューズによってタイムが変わっていたのでは、自分が成長しているかどうかを判断するのが難しくなりますので。逆にいえば次世代ランニングシューズを履いても自分のレベルアップは可能です。

実際に大迫選手などのトップランナーは、最新のランニングシューズを履いてもレベルアップを続けています。このあたりは心のあり方の問題です。

  1. 次世代ランニングシューズを履いて速くなったつもりの人
  2. 次世代ランニングシューズを選ばず自分自身のレベルアップを目指す人
  3. 次世代ランニングシューズを履いて自分自身のレベルアップを目指す人

ランナーとして大事なのは「1」にならないことです。これからランニングシューズを選ぶという人は、このことだけは忘れないようにしましょう。

用途に合わせてランニングシューズを使い分ける理由

ここ数年のトレンドは、用途に合わせてランニングシューズを使い分けるという考え方です。かなり細かく使い分けている人もいますが、市民ランナーであれば次のような分け型が一般的です。

  • レース用
  • スピード練習用
  • ジョグ用(リカバリー用)

この考え方は、「レースペース」「レースペース以上」「レースペース以下」というように考えると分かりやすいかもしれません。それを踏まえた上で、それぞれの用途に合わせたシューズの選び方、考え方を解説します。

レース用シューズの選び方(フルマラソン)

タイムを目指さないのであれば、レース用シューズは何でも構いません。そもそもシューズを使い分ける必要もありません。ランニングシューズを休ませるという意味で、2〜3足をローテーションするのはありですが。もちろんヴェイパーフライなどの次世代ランニングシューズでもOKです。でも高いですよね。

1万円以下のランニングシューズで、軽くてフィット感の高いものを選びましょう。クッション性は好みで構いません。あるほうが後半の失速を防げますが、ないからといって走れないわけではありません。シューズを頼らないという意味では、クッション性は無視してもいいでしょう。要は「好きなものを選べ」と。

タイムを目指すなら、次世代ランニングシューズがマストです。いま抗っても数年後にはランニングシューズの多くが高反発ソール+カーボンもしくは他の補強材タイプのシューズばかりになります。ターサージールやアディゼロジャパンなどのクラスのシューズは将来性が不透明です。

間違いないのは今のところナイキのヴェイパーシリーズですが、自分の足に合うかどうかはとても重要です。フィット感がいまいちだと思うなら、他社のシューズも試してみましょう。アシックスのメタレーサーやミズノのMIZUNO ENERZY、アディダスのアディゼロ プロあたりが日本人の足に合いやすいのでお試しください。

スピード練習用

スピード練習をレース用シューズで走る人もいますが、インターバルなどのスピード練習はレースよりも速いペースで走ります。ですのでスピード練習は、もっと速く走れるシューズが理想です。FuelCell 5280やアディゼロタクミなどがそれにあたります。

ハーフマラソン向けとされているランニングシューズもOKです。レース用シューズよりも軽いものが理想で、動きを速くして心拍数を上げやすいものを選びます。重いシューズだとスピードが上がらずに、心拍数もそこまで上がりません。意味のあるポイント練習にするには「軽さ」がひとつの基準になります。

そういう意味でヴェイパーフライNEXT%くらい軽量ならレース用でもスピード練習にもなります。むしろサブ4やサブ3を狙う人のスピード練習用シューズとして最適かもしれません。ただし楽にスピードを出せてもあまり意味はありません。

きちんと必要なだけの心拍数を上げつつ、スピードに乗れるシューズを選びましょう。

ジョグ用(リカバリー用)

シューズ選びで最も難しいのが、このジョグ用シューズです。ジョグは楽に走っているように見えますが、遅筋の毛細血管を発達させる役割もあります。ですので、それを促すランニングシューズがベストですが、それとは別にリカバリーの要素もあります。

  • クッション性の高いものを選ぶ
  • クッション性がほとんどないものを選ぶ

考え方はこの2つにわかれます。遅筋の毛細血管を発達させるのが目的なら、クッション性があり赤血球を壊すことなく走れるシューズがベストです。膝に負担をかけないようにソールの幅が広いことも重要です。下記のようにソールの中足部があまりくびれていないものが安定感も高くておすすめです。

  • ナイキ リアクト インフィニティ
  • ホカオネオネ クリフトン
  • ミズノ ウエーブシャドウ
  • アシックスメタライド

一方でこれとは真逆の考え方もあります。クッション性の高いものは足を守りますが、足を過保護にしています。足に優しいシューズで走れば走るほど、足の指の使い方などが下手になります。ですので、ランナーによっては裸足で走る人もいます。

裸足は難しくても、ワラーチのような裸足感覚のシューズを選ぶ人もいます。足が本来持つ機能を取り戻すことを目的とし、感覚の鋭い足を手に入れることができます。自分自身のレベルアップという意味では、このようなクッション性のないシューズを選ぶという考え方もあります。

  • ビブラムファイブフィンガーズ
  • メレル ベイパー グローブ

このあたりが裸足感覚シューズですが、薄さを追求するなら地下足袋でもかまいません。ただし、最初は10kmも走れないと思います。いきなり長い距離を走るのではなく、ゆっくり時間をかけて足を鍛えていきましょう。

まとめ

2020年はランニングシューズが大きく変わる1年になりました。まずは次世代ランニングシューズの第1段。ここから完成形に向けてさらにチューニングが進んでいくことでしょう。ただ、このシューズでタイムを縮めても、必ずしも自分が速くなったわけではありません。

自分を鍛えるために、自分を成長させるために走り始めたという人は、そのことを忘れないようにしましょう。強力な武器を使って走るというのもマラソンの一面ではありますが、本質ではありません。本質はやはり自分自身のレベルアップです。

そのためには用途にあったシューズを選び、練習の質を高めることが重要です。そういう意味では「なぜそのシューズを選んだか」を自分で説明できることが重要です。ジョグ用のランニングシューズでビブラムファイブフィンガーズを選ぶなら、なぜそれを選んだかを自分の言葉で説明できるようになりましょう。

「誰かがおすすめしたから選ぶ」から卒業してみませんか?

自分なりにランニングシューズの特性を調べて、自分の目的にあったものを選ぶ。最初は間違っていてもかまいません。失敗だって成長の糧になります。そういう経験がランナーとしてのレベルアップにつながりますから。

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