日本一早いマラソンレポート「東京マラソン2025」〜熱狂の落としどころ〜

直前まで最強寒波の影響で冷え込んでいた東京も、マラソンの開催に合わせるかのように気温が上がり、大会当日の3月2日には最高気温が20℃を上回る予報。それでも男子は2名が2時間3分台の好タイムで熱いレースを繰り広げ、一般のランナーも暑さはあるものの、東京マラソンならではのビル陰を利用しつつ、気持ちよさそうに走っている様子が印象的でした。

そんな2025年の東京マラソンですが、今年はこれからの方向性が明確になった大会のように感じました。マラソンブームを作り出す要因となった東京マラソンが、その熱狂の落としどころを見つけたというのが、大会を通じての印象です。どこを落としどころにしたのか、これまでと何が違ったかについてレポートしていきます。

目次

インターナショナルになった東京マラソン2025

実際に走った方も、沿道に応援に行った方も共通で感じたのが「外国人が多い」ということかもしれません。実際に東京マラソン2025は過去最多の18,000人の外国人ランナーが参加しており、全体の参加者数が38,000人ですので、2人に1人は外国人ということになります。

昨年も外国人が多いと感じましたが、今年はそれを上回っており、しかも沿道も多くの外国人が応援に詰めかけていました。それもアジアのランナーだけでなく、世界中の159もの国から参加者が集まり、本当に国際色豊かという言葉がしっくりくる大会になっていました。

外国人参加者が増えることで日本人の参加枠が減ることから、まだ1度も抽選に当たったことがないという人は、外国人枠の増加をすんなりと受け入れられないかもしれませんが、東京マラソンはすでに日本人だけのものではなく、アボット・ワールドマラソンメジャーズのひとつであり、世界に門戸を開いています。

「スポーツに国境はない」使い古された言葉ではありますが、まさにそれを体現しているのが東京マラソン2025です。それも、ただ外国人ランナーを受け入れているだけでなく、きちんと英語で対応しているボランティアスタッフを見かけ、そういう時代になっていることを強く感じました。

東京マラソン2025に参加した私のラン仲間も、ゴール後に英語でボランティアスタッフに案内されたとのことで、東京マラソンの公用語は英語と言っても過言ではないくらい、東京マラソンはインターナショナルな空間になっていました。

それを手放しで喜ぶのかどうかはそれぞれに想いがあるかと思いますが、すでに東京マラソンはそちらに舵を切っています。ただ、それは日本人ランナーをないがしろにしているのではなく、より魅力的な大会にするための選択であることは、ランナーに知っておいてもらいたいことのひとつです。

外国人ランナーがもたらすもの

外国人ランナーが増えたことで、コース上の雰囲気は明らかに変わりました。外国人ランナーにもシリアスランナーはいて、日本人と同じように黙々と走り続ける人もいますが、底抜けに明るいランナーも多く、東京マラソンというお祭りを心から楽しんでいるようです。

沿道の声援も、まるで外国に来たのではないかと錯覚してしまうほどノリがよく、日本語や英語、中国語が入り交じった東京マラソンならではの空気感がそこに出来上がっていました。そういうことが何年も積み重なっていくと、日本人も、これまで以上にオープンな性格になっていくのかもしれません。

ただ、外国人ランナーが増えるということは、それだけ沿道の観客が減ることを意味します。あたり前のことなのですが、38,000人の日本人が参加する場合(参加者が日本人だけだったことはありませんが)と、20,000人の日本人+18,000人の外国人が参加する場合とでは、集客力に大きな差ができます。

外国人ランナーは応援者と一緒に来日しているケースもありますが、日本人ランナー1人が巻き込む人の数はその比ではありません。実際に、マラソンブームが盛り上がっていた頃は、隙間がないくらい沿道に応援者が詰めかけていたように記憶していますが、今年は浅草周辺でも「隙間なく」というほどでもありませんでした。

ただそれはネガティブなものではなく、むしろちょうどいい「落としどころ」のように感じました。東京マラソン2025は応援のボリュームが適切で、沿道まで来たのに応援するスペースがないなんてことはありません。かといってスカスカというわけでもなく、「ちょうどいい」がそこにはありました。

それを東京マラソン財団が望んでいたのかどうかはわかりません。ただ現実として、過去の熱狂、そしてアフターコロナに起きたマラソン離れに対して、いい着地点を見つけたように感じます。外国人ランナーを受け入れていくのは簡単なことではないため、すべての大会で真似できるわけではありませんが、閉塞感を抜け出す突破口になることを、東京マラソン2025は示してくれました。

東京マラソンの楽しみ方はランナーの数だけある

これも使われすぎた言葉ですが、東京マラソン2025は「多様性」を感じる大会でもありました。実際に東京マラソン2025から、男性でも女性でもない「ノンバイナリー」のカテゴリーが追加されています。さらに2人1組で参加できる 特別な車いす(バギー)を使ったカテゴリーも試験的に実施されました。

東京マラソンは外国人への門戸を広げただけでなく、何らかのハンディを抱えた人でも参加できる大会を実現するために、さまざまな取り組みを2025年から始めています。ランナーだけでなくなく、応援する人も、支える人も大切にしてきた東京マラソンがさらに一歩踏み込んだわけです。

ただ、多様性を感じたのは東京マラソンの取り組みだけではありません。コースを走っているたくさんのランナーの表情を見ていたら、東京マラソンの楽しみ方はランナーの数だけあるということに気付かされました。楽しみ方がランナーの数だけあるというのは他の大会でも同じですが、東京マラソンはその幅が広いように感じます。

自己ベスト更新を目指して、日々コツコツと積み重ねてきたランナーもいれば、東京の街を走ることを楽しむランナーもいます。初めてフルマラソンを走るランナーもいて、きっとこれが最後のレースというランナーもいたはずです。今年の東京マラソンはそういうランナーをすべて包み込むような懐の深さを感じました。

完全な平等というものを実現するのは不可能なことなのかもしれません。それでも東京マラソンはそれを諦めていません。少なくとも、現状に満足するのではなく、より良い方向に進むように試行錯誤を続けていることが、大会を通じて伝わってきました。

東京マラソンは人気の大会なので、「自分なんかが走ってもいいのか」と考えてしまう人もいるかもしれませんが、走りたいのであれば迷うことはありません。まずはエントリーして、当選したら自分なりの方法で東京マラソンを楽しみましょう。今の東京マラソンは、それをしっかりと受け止めてくれます。

東京マラソンは日本一ではなく唯一無二

東京マラソンを日本一の大会と表現することがありますが、今回取材してみて感じたのは、東京マラソンはもうその次元にはいないということです。常に前を向いて、新しいことにチャレンジしてきた結果、日本一ではなく、唯一無二の存在になっています。

比較する対象が国内ではなく世界になっていて、そして世界でも東京マラソンは注目される大会になっています。大会そのもののホスピタリティはもちろんのこと、東京という街が外国人を受け入れる体制が整っていて、多くの外国人ランナーが注目しています。

それでいて、外国人ランナーだけを優遇するのではなく、参加費は日本人ランナーのほうが安くなるなど、バランス感覚に優れています。もちろん、すべてが完璧なわけではありません。今年は暑さもあり、エイドで紙コップが足りなくなるといったトラブルも起きたようです。

一応、運営のために伝えておきますが、気温が高くなるということで、直前になって紙コップの追加をしたとのことです。足りなかった事実は変わりませんが、何も手を打たなかったわけでないことは頭に入れておいてください。きっと来年以降に同じことは起きないはずです。

むしろ完璧ではないという点で個人的に気になったのは、荷物の返却までの距離です。これは東京マラソンがずっと正解を探し続けているように感じるポイントのひとつです。42.195kmを走り終えてから20〜30分歩いて荷物を受け取りに行く。すべてを出し切ったランナーにしてみれば、想像以上に大変なことです。

運営もそんなことは大会運営も百も承知で、いまのスタイルになっています。ゴールした3.8万人を上手く分散させることを考えると、現段階での最適解がいまの形なのでしょう。それでも荷物の返却は、大規模大会に共通する悩みのタネのひとつで、東京マラソンであってもまだ正解が見つかっていないように感じます。

もっとも、そういう点も含めて改善点を探し続けるが東京マラソンの素晴らしいところ。同じミスをせず、それでいて改善のためにチャレンジすることをやめない。そういうスタンスを取り入れる大会が最近増えてきましたが、それもこれも多くの大会が東京マラソンを意識し、そこから学んでいる結果なのでしょう。

それでも、やはり東京マラソンは特別です。他の大会が真似たくても真似できない存在になっています。だからこそ、1人でも多くのランナーに体験してもらいたいところですが、きっとまたしばらくは、抽選に当たらない時代が続くかもしれません。ただ、それも含めて東京マラソンらしさです。

繰り返しますが、東京マラソン2025は「完璧」ではありませんでした。ただ、どこを目指すかを明確にし、マラソンブームによる熱狂の落としどころを見つけました。ただ、そこで満足しないのが東京マラソンのすごいところ。来年はどんな新しい変化と驚きを見せてくれるのか、今から楽しみで仕方ありません。

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