回復効く魔法はない「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」

数年前からアメリカでは、リカバリーの重要性が注目されています。様々なリカバリー方法が考案され、そして大きな街であればリカバリー専門施設がいくつも軒を連ねているような状況です。

その影響もあって、日本でもリカバリーアイテムが販売され、リカバリーの重要性が語られるようになってきました。ただ、日本ではまだ「練習こそが記録を伸ばす」という文脈が根付いています。

アメリカと日本では、リカバリーに対する考え方や環境が1周遅れくらい違います。そんなリカバリー先進国のアメリカで話題になった1冊の本があります。「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」リカバリーの本質を追い求めたベストセラーです。

「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」はすでに日本でも発売されていますが、残念ながらあまり注目されていません。このことからも、日本にはまだリカバリーの文化が根づいていないことが分かります。

この本は「科学的根拠のないリカバリーがまかり通っている」ことについて語られていますが、1周遅れの日本では、科学的根拠のないリカバリーがまだ流行ってもいませんので、手にした多くの人が頭に「?」マークを浮かべることになるかと思います。

この本から分かるのは、日本のランニング業界はだいぶと世界から取り残されているという事実です。

ただ、この本を読んで何も得られないというわけではありません。リカバリーの本質にかなり近づいている内容ですし、訴訟社会のアメリカでよくそこまで書けるなというような内容になっています。

訴えられないように、うまく濁しているので、人によってはモヤモヤするかもしれませんが。

それを別にしても、もしかしたら多くの人は最後まで読み通すことは難しいかもしれません。この本では、ほぼすべてのリカバリー方法を否定しているからです。例えば、トレーニングやレース後のアイシング。

走ったあとにアイシングをすると回復が早まると信じている人もいますが、この本ではアイシングで効果があるのは、すぐにまたレースに戻らなければいけないときだけとしています。

午前中に10000mの予選があって、その数時間後に決勝があるような場合にはアイシングは有効ですが、フルマラソンを走り終えて次の日に疲労を残さないためのアイシングは、むしろ回復を遅らせるだけとしています。もちろん根拠も合わせて示されています。

そのような、リカバリーに対する否定が延々と続きます。

ですので、最新のリカバリー方法について知ろうと思った人が、この本を手にしたら悲しいことになるかもしれません。「すべての最新リカバリー方法はプラシーボでしかない」と結論付けられ「何も得られない」結果になるためです。

ただし、本書ではプラシーボでも「意味はある」としています。マラソンに限らず多くのスポーツはフィジカルだけでなくメンタルが影響します。プラシーボがそのメンタルにプラスの作用をするのであれば、意味はあるわけです。

それでも、私が「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」を読み終えて感じたのは、「サンタクロースはいない」と知ってしまったときの虚無感に近いものでした。

世の中には知らないほうがいいこともあります。本書を手にしてしまった私は、これから世の中の様々なリカバリー方法について「プラシーボでしかない」と思いながら向き合うことになります。

この世界にサンタクロースはいないと知ってしまったわけです。

ただ、「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」の中には1つだけ重要な真実が書かれていました。それは睡眠に関するものです。詳細はネタバレになるので書きませんが、結論としては睡眠が大事だということです。

それも私たちが思っている以上に睡眠を重視しなくてはいけないという内容とその根拠が書かれています。

そして、1周遅れの日本人ランナーにもこれはとても重要なポイントになります。高価なリカバリーアイテムやサプリメントなんて買わなくても、最高のリカバリーを得られるという事実。

リカバリー業界がアメリカから乗り込んでくる前に、この本が発売されたことで、根拠のないリカバリー方法が蔓延するのを防ぐことができるかもしれません。

ただ、日本においてはまだ「リカバリーは大事」と言い続けなくてはいけない状態にはあります。でも、間違ったリカバリーや効果のないリカバリーをしても意味はありません。

回復をしっかりとさせたいなら、魔法のアイテムに頼らずに、十分な睡眠を確保する。

とてもシンプルなことですが、日本人ランナー、いや日本で働くほぼすべての人が最も軽視していることでもあります。軽視はしていないのでしょうが、睡眠よりも仕事や娯楽が優先されているのが現状です。

ちなみに、ここに書かれていることがすべて正しいと言いたいわけではありません。「ちょっとその論法は無理がある」と言いたくなるような内容も含まれています。でも、商売人に踊らされないようにするという意識はとても重要です。

他の人が勧めていたから、トップアスリートが使っているからという理由だけで、(プラシーボ以外の)効果もないサプリメントを摂取するようなことを、この本を読むことで止められます。

私も、あるトレイルランナーが常用しているサプリメントを飲んでいました。そのサプリメントについて、医者に「科学的な裏付けは一切ない」と言われても「科学が全てではない」と飲み続けていました。

でも、「Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実」を読んで、それらのサプリメントの購入を止めました。それから1ヶ月が経過して、コンディションは以前と変わりありません。睡眠を意識するようになって、むしろ向上しているかもしれません。

この本は1冊1,944円もしますが、それでこれからの人生において、必要のないサプリメントを買わないで済むようになるなら安いものです。そして、リカバリーにとって本当に重視すべき睡眠の意識が高まります。

ただし、サンタクロースがいることを信じたい人は、手にしないほうがいいかもしれません。この本を読まなければ、リカバリーについてあれこれ夢を抱くこともできます。私はその楽しみを失ってしまいました。

それでも本物のリカバリーを手に入れたい。自分のリカバリー方法が正しくないのであれば、それを正したいと思っているなら手に取る価値はある1冊です。購入するかどうかは……自分で決めてください。


Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実
著者:クリスティー・アシュワンデン
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