
命を削りながら走るフルマラソンやハーフマラソン。そこには極限状態だからこそ得られる高揚感や満足感があります。でも、それがマラソンのすべてかといえば、そんなことはありません。むしろ、速さの限界を追求するのは、ランニングの魅力のひとつに過ぎません。
「速さ以外に何か魅力があるの?」。そう感じた人はぜひ「東北風土マラソン&フェスティバル」を走ってください。マラソン大会のあるべき姿について、いかに自分の視野が狭かったことに気付かされるはずです。マラソン大会はもっと自由でいい。東北風土&フェスティバル 2026はそんなことを教えてくれる大会でした。
走り終えてからが本番。誰も帰宅しないマラソン大会

第1回からずっと気になっていた「東北風土マラソン&フェスティバル」。なかなか縁に恵まれず参加することが叶わなかったのですが、ラン仲間の提案により。今回初めての参戦となりました。
大会のイメージとしては、エイドが充実していて、走り終えてからのグルメやお酒も充実しているということ。まだ走ったことがないけど、気になっているというランナーも似たような印象を持っているかと思います。

でも、実際に現地に足を運んでわかったのは、これはマラソン大会ではなくグルメイベントだということです。美味しいグルメや地酒、ビールをベスコン(ベストコンディション)で楽しむために、21kmや42kmを走る。メインは会場に展開された東北の旨いものブースたちであり、それをいかにして満喫するかを追求したイベントです。
それを象徴するのが、「走り終えても誰も帰らない」という、マラソン大会ではなかなか見かけない風景でした。似たような大会を挙げるとするなら、オホーツク網走マラソンくらい。ただ、オホーツク網走マラソンは、あくまでもランニング部分がメイン。

東北風土&フェスティバルは、メインがレース後にあります。参加者は完走後に5種類の日本酒とワインを試飲でき、さらには会場内で東北のA級グルメからB級グルメまで幅広い種類のグルメを楽しめます。
今年は最高気温が23℃になるとの予報もあり、完走したランナーは、まずはビールのブースに駆け込み、喉の渇きをうるおしたらグルメブース。そして、お腹が少し満たされたら、日本酒の試飲。楽しすぎてあっという間に時間が過ぎていきます。

ちなみに会場には東北の酒蔵が16も出店しており、それに高畑ワイナリーなど2つのワイナリーも参加。ブルワリーも3つと、まさに東北をまるっと味わうことができます。その利き酒エリアを囲むように、三陸の海産や仙台の牛タン、米沢牛、石巻焼きそばなど、個性豊かなブースがランナーの胃袋を満たしてくれます。
ブースの方と最近の東北情勢について話ができるのも、東北風土マラソン&フェスティバルの魅力です。私が印象的だったのは、震災直後に何度も訪れていた石巻が大きく変わっていると聞けたこと。その話を聞いたことで、「また行かなくちゃ」という気持ちが湧いてきただけでも、この大会に参加した意味があるというものです。
1周21kmで東北のグルメを満喫できるエイドが10ヶ所も

東北風土マラソン&フェスティバルのコースは長沼を途中でショートカットしながら、ぐるっと1周する21km。フルマラソンはこれを2周するコースなのですが、実際に距離が正確かどうかはわかりません。というよりも、誰も距離の正確性について考えたりしません。
参加者の多くが、タイムや順位を気にすることなく走っているためで、多くのランナーは約2kmごとにやってくるエイドで足を止めて、東北のグルメを満喫します。ひとつのエイドで5分滞在したら、エイドだけで50分かかります。

実際に私の完走タイムは3時間21分55秒。おそらくワースト記録になります。でも、そりゃそうだろうと。レース中盤で1kmのラップが14分になっていたのですが、この区間のエイドは餃子が用意されていて、焼き上がりを待つのに行列に並んでおり、そういう区間が10ヶ所もあるわけです。
もちろんすぐに食べられるエイドもあります。でも、はっと汁のようにじっくり味わいたくなる料理も用意されていることもあって、結局のところタイムや順位なんてどうでもよくなります。1秒速く走ることよりも、1秒でもエイドでゆっくりしたくなる。

フルマラソンは同じエイドを2回通過するわけですが、2周目は1周目と違ったグルメが用意されているエイドもありました。フルマラソンでしか食べられない料理があるわけで、そうなるとエイドを飛ばすわけにもいきません。
もちろんタイム狙い、順位狙いのランナーもいましたが、誤解を恐れずに表現するなら「浮いてる存在」でした。通常のマラソン大会なら、速いランナーのためにゆっくり走るランナーはコースを空けたりしますが、東北風土マラソン&フェスティバルでは、速いランナーが安全なコース取りをするなどして、ゆっくり走るランナーに迷惑をかけないように走っている用に感じました。

速いランナーとゆっくりのランナーどちらが偉いという話ではなく、東北風土マラソン&フェスティバルにおいてはゆっくり走るランナーのほうがマジョリティだという話です。完走ではなく完食を誇る。こんな大会を私は他に知りません。
沿道の応援は決して多くはありませんが、地元の方が畑仕事をしながら手を降ってくれたり、家の前に出てきてくれたりと、アットホームな雰囲気を作り上げていました。画に書いたような平和な空間がそこにあり、刻々と変わる風景もあって、楽しい21kmとなりました。
既成概念を取り払えばマラソン大会はもっと自由になる

マラソン大会は自分を超えていくためにある。その考え方を否定するつもりはありません。でも、それだけがマラソンではないというのは、声を大にして伝えたいところ。特に東北風土マラソン&フェスティバルを走ったことで、その考え方に確信を持てました。
何かひとつでも常識ではないことを行えば、マラソン大会はとても個性的な大会になります。たとえば距離を42.195kmや21.0975kmにこだわらければ、これまでと違う層のランナーを集めることができ、マラソン大会の未来をより明るいものへと誘ってくれます。

東北風土マラソン&フェスティバルが捨てた常識は、「速く走る」というもの。上位入賞者の表彰はありましたが、それだけのことです。むしろ、いずれはそれさえ必要ないと大会運営が判断する可能性もあります。
これまであたり前だと考えてきたやり方を崩して再構築する。それはとんでもなく労力がかかる作業ですが、あらゆるマラソン大会がさらに発展するのに必要なステップだと感じています。だからこそ、他のマラソン大会関係者はみんな東北風土マラソン&フェスティバルを視察してもらいたいところです。

そこで見聞きしたことだけが正解というつもりはありません。東北風土マラソン&フェスティバルにだって足りないものはいくつもあります。でも従来の評価方法では測れない魅力が、この大会に詰まっていることだけは確かです。
レースに合わせて開催するライブや、ほとんど待たされることのないシャトルバス。行列のないトイレ。東北風土マラソン&フェスティバルの素敵なところを挙げるとキリがありません。それもこれも既成概念を振り払って、自由な発想で最適解を考えているからなのでしょう。

東北風土マラソンは仲間や大切な人と参加してもらいたい大会

今のところ東北風土マラソン&フェスティバルは、速く走ることもできる大会なので、個人で参戦するのはありです。マラソンシーズンの締めくくりとして、勝負レースにすることも間違いではありません。でも、それでは東北風土マラソン&フェスティバルを走る楽しさが半減します。
東北風土マラソン&フェスティバルは他のマラソン大会とはジャンルが異なり、もはや「東北風土マラソン&フェスティバル」という種目と考えてもいいくらい、個性的な大会になっています。それを楽しむために大事なのは、ラン仲間の存在です。

1人で淡々と走るのではなく、仲間と一緒に「美味しいね」「風が気持ちいいね」なんて話ながら走るのが、東北風土マラソン&フェスティバルの醍醐味です。だから、参加するならラン仲間やあなたにとって大切な人、を誘うのがおすすめです。
東北風土マラソン&フェスティバルはスタート時間がフレックスなので、東京から日帰りで参加することも可能。遠征が難しいという人でも気軽に参加できます。もちろん、おすすめは前後泊することです。ただ、そうなると周りの人を巻き込みにくくなるので、そういう視点から考えると、宿泊なしで遠征できるというのは大きな魅力になります。

東北風土マラソン&フェスティバル2027がどのような大会になるのかはまだわかりませんが、参加するなら「ラン仲間と一緒に走る」スタイルがベストなのは間違いありません。ぜひ、いまのうちにラン仲間に声をかけておきましょう。
ちなみに運がよければ湖畔を淡いピンク色の桜が染め上げるそうです。東北で少し遅れた花見ラン。そういうコンセプトでラン仲間を誘ってみるのもいいかもしれません。
東北風土マラソン:https://tohokumarathon.com
