
限界の向こう側の景色を見たことがありますか?きっと多くのランナーが限界を超えたところで挑戦することをを諦めてしまうのでしょう。目標としていたタイムを出せないとわかった瞬間、そのレースは実質的な終わりを迎え、それ以降も頑張ることに意味を見いだせるランナーはそう多くありません。
少なくとも私はそう思っていました。でも、「Wings for Life World Run 2026」東京会場で限界の向こう側で踏ん張る自分に出会うことができました。過去2年は、カメラを構えて取材する立場だった私が、今年は多くのランナーと共にスタートラインに立ち、そして向こう側の世界を知ることになりました。
エントリーするかどうかという最初の関門

過去2年の取材で、Wings for Life World Runの可能性を感じ、これはとんでもないイベントになると思いましたが、ただそれは取材をする側の視点でのこと。参加者がどう感じているかを知るには、自分で走るしかないということで、一般のランナーと同じくアプリからエントリーしました。
私はこの大会を知っているので、エントリー手続きで躓くことはありませんでしたが、もしかしたら、多くのランナーはその前の段顔で戸惑うのかもと感じながら登録作業をしていました。「Wings for Life World Run」が何なのか、よくわからない。エントリーしなかった理由のひとつになる可能性があるなと。

その理由として考えられるのが、情報量の多さ。まず世界最大規模のチャリティランイベントであり、世界同時スタートであること。これだけで、ほとんどのランナーは情報過多。それに加えて「アプリラン」「アプリランイベント」という参加方法があって、そこにチームとかキャッチカーとかが登場して頭がパンクしそうになります。
ただ実態はとてもシンプルだから、1度でも参加したことがある人はリピートするし、他の人も巻き込みたかなるから、Wings for Life World Run 参加者の輪がどんどん広がっています。とはいえ、そこに少し高いハードルがあるのは事実。実際にエントリーをしながら「これでいいのかな?」が頭から離れることはありませんでした。

エントリーをしながら「これはいいな」と感じたのが、寄付(参加費)を追加できる仕組み。Wings for Life World Runでは参加費がすべて脊髄損傷の治療法発見に役立てられますが、このイベントの参加費はたったの3,900円です。
世界規模の物価高とイベントの規模を考えると、もう少し高くてもいいなと思っていたところ、エントリー時に追加で寄付できると知り、わずかですが参加費にプラスして寄付できました。
イベントを最大限に楽しむにはオープンイヤーイヤホンが必須

Wings for Life World Run を参加するにあたって、ほとんど下調べをしなかったので、どこかに記載があったのかもしれませんが、このイベントを最大限に楽しむにはオープンイヤーイヤホンが必要になります。イベントはWorld Runアプリを使って行うのですが、イヤホンがあればイベントMCの声や、キャッチカーの情報を受け取れます。
MCの声は500mごとに受けられる仕組みになっており、最初は聞き流していたのですが、後半になってペースの維持が難しくなったあたりから、イヤホンから聞こえる応援の声が少しずつ刺さるように。何度も苦しくなったとき、その言葉が力になって踏ん張れました。

面白いと感じたのは、音楽(Youtube Music)を聴きながら、World Runアプリの音声も楽しめる仕組みになっていたこと。アプリから音声が流れると、音楽の音量が小さくなり、アプリの音声が止まると、音楽の音量が元に戻る。とてもシンプルですが、その切り替えが走りにリズムを生んでくれたような気がします。
それが成立したのはイヤホンがあったからこそで、会場にオープンイヤーイヤホンを持って行ってなかったら、レース展開やイベントの体感がまったく違ったものになっていたような気がします。もちろん、人によってはイヤホンなど必要なく、集中して走りたいという人もいるかもしれませんが。

何を言いたいかというと、Wings for Life World Run を走るなら、イヤホンを着けて走ったほうがいいということ。公式からアナウンスがあったのかどうかはわかりませんが、強くアピールしたほうがいい部分。むしろ、イヤホンメーカーと手を組んで、Wings for Life World Runモデルを出してもいいくらい、イヤホンは大切だと感じました。
アプリもかなりよくできていて、まずアプリの動作が安定しています。ただ、スマホのGPSで距離測定をすることになるので、精度は端末ごとに異なりますし、走る場所を選びます。たとえば国立競技場の周りを走ると、屋根と建物の影響でまともに計測できません。このあたりの正確性と公平性は、イベント規模がさらに大きくなったときに課題になるかもしれません。
限界の向こう側で立ち止まらずに走り続けるという体験

Wings for Life World Runはキャッチカーから逃げるレース。だから、どれくらいのペースで走り出すかがとても重要になります。速すぎるとキャッチカーに追いつかれる前に失速しますし、ゆっくり過ぎると力が余った状態でレースが終わってしまいます。
それなのに私は万里の長城マラソンの疲労が大きく、前日にジョグをしたらいつもよりキロ1分くらい遅いペース。これはもう出たところ勝負ということで、とにかく乳酸閾値を超えない範囲でペースを刻む作戦で行くことにしました。

もっとも、スタート直後は大混雑でペースを上げることができません。これが多くのランナーが集まるアプリランイベントのネガティブな部分。とはいえ、私たちを追いかけるキャッチカーが出発するのは30分後。そこまで貯金をつくるのも大事ですが、貯金を作れば後半バテるのは目に見えています。
だから、決めたペースを淡々と積み重ねるのが理想なのですが、ある程度混雑が解消されると、今度は周りのペースに流されてついついペースを上げすぎてしまいます。最初の1kmは6分43秒。次の1kmからはしばらく5分10秒前後で走っていたのに、流れができてからは4分50秒/kmくらいまでペースが上がります。

この流れに乗れるのがアプリランイベントのポジティブな部分。1人で走っていたら、ペースの起伏がなく今回のようなコンディションだと、ずっとペースが上がらないままキャッチカーに捕まる可能性もありました。でも、世界中のランナーといっしょに走っているという感覚が私を前に押し出してくれました。
ただ、限界はきちんとやってきます。いいペースで走れたのは21kmまで。ハーフマラソンの距離を超えたとアプリのアナウンスがあって、そこからは一気に5分30秒/kmに。限界を超えてしまったので、レースとしてはここで終わりなのですが、まだキャッチカーが追いつきそうにありません。

だから止まるわけにはいかず、ペースは落ちても気持ちを切らすこともできず、苦しみながらも足を動かして、ペースが落ちすぎないように限界の向こう側の領域で耐え続けました。これはランナーとして非日常の状態であり、Wings for Life World Run だからできたこと。
苦しくてペースも落ちて、気持ちが切れそうなのに、「誰かのために走っている」という想いが動力源になる。自分のためだったら早々に諦めていたのに、誰かのためだから頑張れる。最後は本当にどうにもならないくらい体が動きませんでしたが、スタートから130分、25.45kmまで粘ることができました。

ラン仲間と楽しみたい「Wings for Life World Run」

今回は取材ということで1人で参加しましたが、仲間と一緒に参加しているランナーを見て、だいぶ羨ましく感じました。沿道から仲間の声援を受けているランナーや、仲間とおそろいのウェアで一緒に走っている姿を見て、楽しそうだなと。
ランニングはシリアスに追い込む楽しさもあれば、走るという行為そのものを楽しむということもできます。「Wings for Life World Run」をどう楽しむかは人それぞれでいいのですが、今回シリアスに追い込んだ結果、来年は仲間と一緒に走るという楽しみ方も体験したいなと。

そのときにアプリランイベントに参加するのもいいのですが、20〜30人くらい集まってイベントにするのもいいのかなと。悩ましいのは日曜日の20時にスタートするということですが、これは世界同時開催ということを考えると仕方ないのは理解していますが、やはり人を集めるのは簡単ではありません。
私自身も今回は130分で走り終えましたが、コンディションがよくて、もしあと20分多く走れていたら、終電に乗れなかった可能性があります。私はフリーランスなので、もしそうなっても都内で宿泊すればいいだけなのですが、会社員で翌日が出社日になっているとそうはいきません。

仲間と一緒に走りたいけど、誰でも誘えるわけではない。これも Wings for Life World Run の悩ましいところです。本当に素晴らしい体験ができるし、1人でも多くのランナーにアプリランイベントに集結してもらいたいけど(そもそも定員がありますが)、門戸はそれほど広くありません。
ただ、やはり誰かと走る楽しさを味わいたいので、どんな形であれ仲間と一緒に参加する方法を考えるとします。とりあえず会社員のラン仲間には開催スケジュールが発表され次第、イベント翌日の有給申請をしてもらうとします。
