UAベロシティ エリート2が発売されたときに、アンダーアーマーから「レビュー用に貸し出しできますよ」と提案されましたが、ひと目惚れしてしまい、借りたら返したくなくなりそうだったので提案を丁重にお断りして自腹で購入することに。
とにかくかっこよくて気持ちが上がる1足なんですが、実際に走ってみると「エリート」シューズということもあり、デザイン性だけではない、もっと本質的な魅力を感じることができました。そこで今回は「UAベロシティ エリート2」について忖度なしの本音でレビューしていきます。
UAベロシティ エリート2は私が待ち望んだ1足
アンダーアーマーはコンプレッションウェアが主力のスポーツブランドで、ランニングシューズに関しては後発組という位置づけにあります。ただ、トップブランドの後追いをすることなく、自由な発想でランニングシューズを開発しており、新製品が出るたびに驚かされることが多々あります。
「UAスリップスピード」がまさにそんな1足で、トレーニングシューズとサンダルを一体化するという発想は伝統やノウハウを備えたランニングシューズブランドでは思いついたとしても、実際に商品化するのは難しく、アンダーアーマーならではの1足といえます。
UAベロシティ エリート2のベースとなった「UAフロー ベロシティ ウインド」も、アウトソールをなくしてしまうという驚きの発想でデザインされており、バランスの良さと安定性、そしてランニングシューズらしからぬデザイン性の高さにひと目惚れして即購入。
そしてUAベロシティ エリートの初代モデルが発売され、クリールシューズトライアルで試走したところ、あまりに自然とスピードが出て、そのポテンシャルの高さに驚かされました。ただ、初代モデルはデザインが気に入らなかったので購入にいたらず。
そんなUAベロシティ エリートの2代目として「UAベロシティ エリート2」が登場したわけですが、「これこそ私は待ち望んだ1足」ということで、貸し出してくれるというありがたい提案をお断りして、私のランニングシューズコレクションの1足に仲間入りしました。
位置づけとしては今シーズンから来シーズンまでの勝負レースで履く1足。すでに愛媛マラソンと彩湖リレーマラソンで履いており、「このシューズで正解だ」という確信を持っています。どのようなところでそう感じたのかを解説していきます。
走らされる感じはないけどスピードに乗れる
UAベロシティ エリート2の強みは重量バランスとフィット感にあります。アウトソールをなくしていることで、一般的なランニングシューズよりも重心がやや高めにあり、さらにコンプレッションウェアのブランドらしく、アッパーに薄い素材を使いながらも、きっちりと足に寄り添ってくれます。
このため、きちんと自分の足でコントロールできている感覚が強く、厚底×カーボンプレートのランニングシューズにありがちな、走らされる感はありません。いつも通り走っているけど、キロ10〜20秒速いという感覚です。もちろんエリート向けシューズですので、重量そのものが軽いというのも影響しています。
また、最近のレーシングシューズのような沈み込むほどの柔らかさはありません。クッション性よりも反発性を重視しているため、普通の厚底レーシングシューズを求めている人だと、履いて走ったときに「他の厚底よりも疲れる感じがある」となるかもしれません。
私は裸足でフルマラソンを走ることもあり、体を使った衝撃吸収を得意としており、そもそもランニングシューズに高いクッション性を求めていません。このため、UAベロシティ エリート2のような反発性重視のランニングシューズとは相性がよく、クッション性が低いことは気になりません。
このあたりは好みの差が出るところでしょうか。ただ購入を検討している人に伝えておかなくてはいけないのが、一般的な厚底レーシングシューズとは違うラインのレーシングシューズだということ。他社の厚底は個性はあるものの向かっている方向は同じ。でもアンダーアーマーは1社だけ違う方向を向いています。
結果としてどちらも「速く走る」ということになるのですが、アプローチの仕方が違うといえばわかってもらえるでしょうか。ですので、UAベロシティ エリート2は好みがわかれる1足になります。ただ「やっぱり薄底が好き」というランナーとは相性がいいかもしれません。
鍛えるほど自分のポテンシャルを引き出してくれる
トップアスリートの場合には厚底のレーシングシューズを履くことで、鍛え上げた走力を最大限に発揮できますが、サブスリーを狙うレベルくらいのランナーですと、シューズに走らされてしまって後半に大失速し、失敗レースになることが多々あります。
ところがUAベロシティ エリート2は自分のポテンシャル以上の走りを促されることはなく、基本的には練習でやってきたことに対して少しだけ上積みしてくれるシューズになります。自分の走力を100だとすれば、100を出し切ることで105や110といった結果を出すことができます。
このため、すでにお伝えしましたように速く走れているという感覚はあまりありません。これをどう判断するかはランナーごとに変わるのですが、大事なのは「自分を鍛えること」になります。しっかりトレーニングを積めば、それだけのリターンを得られます。
とてもあたり前のことのように思えますが、厚底×カーボンプレートのシューズが主流になってきたことで、ランナーから「自分を鍛える」発想が失われつつあります。たとえば一般的な厚底シューズは、鍛えていても鍛えて来なくても、自分のポテンシャルを遥かに超えたスピードで走れます。
先程の走力の話でいえば自分の走力が100なら、一般的な厚底シューズは120のところまで引き上げてくれます。でも鍛えられていないのに120で走るからオーバーペースで失速するわけです。もちろん鍛えれば120を維持できますが、すでに上限を知ってしまっているので楽しくはありません。
でもUAベロシティ エリート2は鍛えないと120までは上がりません。それは練習をするときのモチベーションになります。100だとか120だとか抽象的な話になってしまいましたが、UAベロシティ エリート2はトレーニングするのが楽しくなるシューズだと考えてもらえればわかりやすいかもしれません。
UAベロシティ エリート2の魅力は見た目だけじゃない
実際に走って強く感じるのは、グリップ力が高いということと安定性が優れているという点です。しっかり地面を掴んでくれるので、地面に対して軽く触れるくらいの感覚で足を回してもスピードに乗れてしまいます。このため、筋力に頼る必要がなくなるので、消耗を防ぎやすくなります。
見た目がよくてこのシューズを選んだわけですが、最初に手にしたときはまだ自分の走力がまったく足りておらず、少しもどかしい思いをしましたが、それから1ヶ月以上、しっかりと走り込みをして、走れる感覚が戻るにつれて、UAベロシティ エリート2は頼れる相棒になってきました。
そうUAベロシティ エリート2は「道具」ではなく「相棒」なんです。きちんと積み重ねていけばそれに見合うだけの助力をしてくれて、練習をサボれば力を貸してくれない。だからそれに応えようと思って日々のトレーニングをがんばりたくなる。
ただ、長く陸上競技としてマラソンをしてきた人からすると、このデザインは異端に見えますし、本当にこんなシューズで走れるのかと不安になるかもしれません。でも足を入れてみればきっとわかってもらえるはずです。このシューズには高いポテンシャルが備わっていることを。
繰り返しになりますが、UAベロシティ エリート2を履いただけで自己ベストを大幅に更新できるようなタイプのシューズではなく、走り込んだ距離に見合ったリターンを得られるタイプのシューズですので、楽して速くなりたい人にはおすすめしません。
でも走るのが好きで、練習しただけ速くなっていく感覚が好きという人なら、全力でおすすめできる1足です。マラソンシーズンはそろそろオフになりますが、ここからハーフマラソンなどのスピードレースを走るという人にもおすすめです。個人的にも次のシーズンまで勝負シューズとして履き続けるつもりです。