日本一早いマラソンレポート「第62回愛媛マラソン」

愛媛マラソンをはじめて走ったランナーが口を揃えて言うのが「沿道の声援がすごかった」ということです。2025年に開催された「第62回愛媛マラソン」は気温2℃前後という極寒という、とても観戦日和とは思えないような環境でありながら、かつて川内優輝選手が走ったときを上回るであろう盛り上がりを見せました。

そして気付いたことがひとつあります。「愛媛マラソンは松山市の文化として根付いている」ということ。ここではそんな第62回愛媛マラソンがどのような大会だったのか、どのようにして文化として根付いているのかを実際に走ったランナーの1人としてレポートします。

目次

愛媛マラソンは松山市民の認知度が高い大会

実家が松山にある(愛媛マラソンのコースのすぐちかく)関係で、愛媛マラソンには毎年参加しています。だからエリートのためのマラソン大会から「市民マラソン」へと移行した経緯や、当時の大会の認知度などもある程度は把握しているつもりです。

愛媛マラソンが市民マラソンになったのは、2010年の第48回大会からです。それまでは陸連登録者のみの大会でしたが、2010年から誰でも参加できる大会になっています。ただ、5000人の定員に対して応募が約3800人しかなく、当然ながら認知度もそれほど高くありません。

それから15年が経過し、現在では愛媛マラソンの開催を知らない松山市民はいないのではないかというくらい、市民に定着したイベントになっています。

  • 県知事や都知事が走ることで注目度アップ
  • 南海放送が全面的にバックアップ
  • 職場や同級生など知り合いの誰かが必ずでている

知名度が高い理由はこんなところでしょうか。地方都市ということもあって、東京や大阪のようにイベントが重なることが少ないというのもあるかもしれません。東京では土日はいくつものイベントがあり、趣味も多様化しているのもあって、マラソン大会に興味のない人が大多数です。

でも、愛媛マラソンは松山という街のど真ん中に位置取り、テレビニュースでも新聞でも早い段階から取り上げられていて、メディアをチェックしている人であれば、誰もがいつ開催されるかを把握しています。実際に私は前日にお寺でばったり従兄弟に会ったのですが、従兄弟はまったく走らない人なのに「明日は身動き取れなくなるから」と、愛媛マラソンのことを把握していました。

また、どの大会に行っても、必ずといっていいほど通行止めに対して苦情を申し立てている現場に遭遇します。ところが、たまたまなのかもしれませんが、ここ数年の愛媛マラソンでそんな光景を1度も目にしたことがありません。みんな開催されて道路が止まることを知っているわけです。

そして、開催を把握しているだけでなく、応援者として参加しているわけです。小さな子から高齢者まで、幅広い世代が沿道に出てきて、知人ではないランナーにも声援を送っています。さらに高校生のボランティアが全力で応援するというのも定番化しており、とにかくとんでもない声の圧を感じられます。

極寒での開催となった第62回愛媛マラソン

2025年の第62回愛媛マラソンは、今季最強寒波の影響もあって、「場合によっては中止かも」と心配されましたが、幸運にも最強寒波が少しだけ身を引いてくれて、前日までの寒さも風の強さもありません。ただ、寒さは予想どおりで、松山城のお堀の水に薄く氷が張っていました。

ここ数年の愛媛マラソンは気温も高く、走りやすい印象だったのですが、かつての愛媛マラソンが戻ってきたようでした(1度、レース中に雹が降ったこともあります)。ただ、ありがたいことに太陽が顔を出しており、風も弱いので待機していて凍えるということはありません。

足裏が冷え切って、感覚がほとんどない状態でのスタートだったのも、かつての愛媛マラソンそのまま。5kmくらいまで足裏の感覚がないまま走り続けました。ただ、4km付近の交差点を曲がったところで、これまで見たこともないくらい沿道に人が詰めかけていて、いきなり元気をもらえました。

コースは久しく変わっておらず、松山市街地を抜けると大きなアップダウンと小さなアップダウンが続きます。愛媛マラソンの難しさは一定のペースで走れないこと。このため、ランニングウォッチよりも自分の感覚を大切にするほうが良い走りになります。

市街地を抜けた先の地域は「風早」と呼ばれており、その名前のとおり、いつも強い風が吹いているのですが、今年は風がほとんど気になりません。このため体温を奪われることもなく、手に持っていたホッカイロも途中で使わなくなったほどベストコンディション。

愛媛マラソンの嬉しいのはエイドが充実していること。エイドの距離が短いだけでなく、スポーツドリンクがVAAMということもあり甘すぎません(1ヶ所だけポカリスエットだったはず)。あとはポンジュースも出てきますし、松山銘菓の一六タルトや山田屋まんじゅう、坊っちゃん団子なども用意されています。

しかも、暑さ対策もしっかりしており、各エイドには塩や塩タブレットなどもあります。そして、どのエイドでもボランティアスタッフが、全力で応援してくれます。しかもみんな楽しそうなので、こちらまで笑顔になってしまうのも愛媛マラソンならでは。

さらに、コース途中では高橋尚子さんがハイタッチでランナーに元気を与えてくれます。それも1人1人に声を掛けてくれます。しかも沿道の声援があるので、ランナーは歩きたい気持ちを抑えて、最後まで走り切るので、完走したときの満足度も高くなります。

愛媛マラソンは変化を恐れず改善し続ける

昨年の愛媛マラソンは、さまざまな変化があり、たとえば受付会場を南海放送から城山公園へと変わり、さらにおそらく国内初のNFT完走証を導入しています。面白いのは、紙での完走証を全員に配っているのにNFT完走証も導入しているという点です。NFTという新しい技術に慣れない人のことも考えているわけです。

紙の完走証はクリアファイルに入れてくれるのも以前から変わらず。大事なところをいきなりなくすのではなく、誰もが困らないように同時運用しているわけです。こういう気配りが愛媛マラソンのあちこちに詰まっていて、今回もそれを感じる点がいくつもありました。

まず驚いたのが、受付で参加者の手首に巻く本人確認のバンドの色が、オレンジからシアンに近いブルーに。愛媛マラソンといえば「オレンジ」なのですが、おそらくウェアなどでオレンジ色を着る人が多く(ボランティアもオレンジ)、バンドの色をオレンジ色にすると、確認しづらいという声があったのでしょう。

そうなると次に使いたくなるのがオレンジの葉をイメージする緑ですが、緑は一部のボランティアのウェアに使われていて、やはりランナーのウェアにも多い。そこでシアンに近いブルーにしたのだと思いますが、きっと「伊予路の青空」をイメージしたのでしょう。

このバンドの色が秀逸で、オレンジのバンドのときは、走り終えてすぐに外していたのですが、ちょっとおしゃれな感じがあって、しばらく付けておきたい気分になっています。ただ、これを導入したときから課題であった「お刺身を食べようとしたらバンドが醤油に浸かる」問題は相変わらずですが。

他にも、愛媛マラソン名物であったトンネルでの学生の応援がなくなっていました。おそらくランナーから「さすがにうるさい」という苦情が入ったのでしょう。大会名物であっても、ランナーが快適に走れることを優先する愛媛マラソンならありそうな話です。

いずれにしても、よりよい大会にするために、ランナーが満足できるように、新しいことに挑戦しているのが愛媛マラソンの魅力のひとつです。それが地元のランナーを増やし、そして応援に来てくれる人を増やす。応援に来た人は「次は自分も」となる好循環が生まれています。

マラソン大会を文化にするというのは、どの大会でもできることではありません。松山という街の規模だからできることでもあり、他の大会が簡単に真似ることができない特徴のひとつ。だからこそ、愛媛マラソンは唯一無二の存在として、高い人気が続くのでしょう。

お接待文化が愛媛マラソンを盛り上げる

愛媛マラソンがここまで盛り上がっているのは、お接待文化が根付いていることも影響していると、私は考えています。私自身もかつてお遍路で四国を歩いたことがあるのですが、高知県から愛媛県に入ったところで、お接待のあり方が大きく変わったのを覚えています。

愛媛県のお接待は「見返りを求めずとにかく注ぎ込む」ケースが多く、頑張っている誰かに何かをしてあげるのは当たり前というような感覚を持った人にたくさん出会いました。愛媛マラソンもその文化の上に根付いているので、ホスピタリティに優れています。

どういう経緯でそうなったのかはわかりませんが、ゴール後のお接待では最初から極寒を想定していたのか、5つのブースで汁物をランナーに提供していました。おかげでランナーは走り終えたあとに凍えるような思いをせずに、しっかり栄養補給ができました。

もともと愛媛マラソンのレース後のお接待は、以前から屋台泣かせなところがあり、ランナーは無料でいただけるパンやおにぎり、汁物だけで昼食にできてしまうほど充実していました。今回はその内容がさらにパワーアップしていた感がありました。

また、コース上ではサロンパスのお接待をしている人も多く、多くのランナーが活用していました。ランナーが何を求めているのかをしっかり考えている。ただ与えるだけでないことが、お接待文化の根付いた愛媛県らしさのように感じます。

愛媛マラソンは先着順ではなく抽選になっており(先着順のアスリート枠もあり)、それでも定員割れしていない人気の大会です。しかも今回は約1.1万人も参加しているのに、抽選落ちしている人がいます。なので希望した人が誰でも出られるわけではないのですが、まだ走ったことがない人は、ぜひエントリーしてみてください。

ランナーなのに愛媛マラソンを走っていないというのはもったいないことです。松山は観光地としても進化しており、10年以上行っていないという人は、いまの松山を見てびっくりするかもしれません。ここにしかないグルメやお土産が充実していて、そして道後温泉も松山城もあります。

ちなみに、愛媛マラソンの参加者には道後温泉の入浴券が配られます。こういうところも気が利いているところ。きっとこれからも進化して、なかなか参加できないプレミアムな大会になる可能性もありますので、「いつか走ろう」ではなく「来年は走ろう」がおすすめです。

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