【シューズレビュー】フルマラソンを裸足で走るベアフットランナーがALTRA「TORIN 9」で箱根を走ってみた

足本来の自然な動きと快適な履き心地を実現したことで、多くのランナーから注目されているアルトラのランニングシューズ。ベアフットランナーの私も、以前から気にしていたのですが、クリールのシューズトライアルで履いたことがあるくらいで、じっくり向き合ったことはありませんでした。

ところが先日、「ALTRA Press Conference & Group Run」に招待していただき、そこで「TORIN 9」を履いてのグループランに参加。そして、提供していただいたシューズを履いて、ラン仲間と箱根を駆け上がってきたので、そこで感じた「TORIN 9」の魅力について忖度なしでレビューしていきます。

目次

足に貼り付くようなフィット感で重さを感じさせない

「TORIN 9」の重さは28.5cmで269g。私の手元にあるモデルは25.5cmで241gですので、デイリートレーナーとしては標準的。重くもなく軽くもなくといったところですが、実際に走るときには重さを感じることはありません。

その理由は「フィット感」にあります。公式の発表としては「履き⼝とヒールの構造を改良しフィット感がさらに向上」とありますが、中足部も足に貼り付くようなフィット感があり、抜群の追従性を実現しています。

シューレースが緩みにくい構造になっているのもフィット感の高さに影響しています。私はデイリートレーナーの場合、シューレースの締め直しをほとんどしないため、履くたびに少しずつ緩くなっていきます。でも「TORIN 9」は何度履いてもシューレースが緩みません。

それゆえに、さっと履けないというデメリットもあるのですが、履き続けていても圧迫されることもありませんし、ストレスをまったく感じません。

ミッドソールは足入れしたときには前足部の柔らかさが気になりましたが、数回履いたら感触が変わって走りやすくなっていました。足が慣れたのかソールが馴染んだのかはわかりませんが、第1印象の「柔らかすぎる」という感覚は完全に消え去りました。

ただ、足の指はしっかり動くことには変わりありません。指を広げられるだけでなく、1本ずつ上下左右に動かすことができ、他のシューズにはない「研ぎ澄まされていく感覚」で走れるのが面白いところ。

箱根の石畳で高いグリップ力と下り坂の走りやすさを実感

アルトラといえば「ゼロドロップ」ですが、最近は「いきなりゼロドロップは不安」という層に対して、ロードロップのランニングシューズもラインナップしています。ただ、私はフルマラソンを裸足で走ることもあるので、ゼロドロップへの不安はまったくありません。

なのでいきなりゼロドロップの「TORIN 9」を履いても、それなりに履きこなせるだろうということで、ラン仲間と企画していた箱根ランに「TORIN 9」を履いていくことにしました(実は裸足で箱根峠を越えて三島まで走ったこともあります)。

不安要素は前日に雨が降っており、ロードシューズでは足をすべらせてしまうかもしれないということ。ただ、「TORIN 9」のアウトソールはあらゆる路面でも高いパフォーマンスを発揮する「Vibram® XS DURA」。高いグリップ力を備えているということで、思い切って雨で濡れた石畳に突入しました。

結果としては、期待以上のグリップ力を発揮して、1度も足を滑らせることなく、箱根の山を駆け上がることができました。ここまで高いグリップ力があるなら、ちょっとしたトレイルなら「TORIN 9」で入り込んでも、気持ちよく走れるかもしれません。

ある程度の予想はしていたけど、相性の悪さを感じたのは急勾配の上り坂でした。グループランでしたのでスピードを出すシーンはありませんでしたが、上り坂では踵が完全に浮いてしまいます。ちょっとした坂道なら問題ありませんが、何キロも坂が続くようなシーンでは少し走りづらさを感じます。

一方で下り坂は快適そのもの。重心が後ろにあるのでスピードのコントロールをしやすく、走らされている感覚はまったくありません。私は下りに少し苦手意識がありましたが、この日は「もっと下ってみたい」という気持ちにさえなるほど。

ちょっとした驚きだったのは、600m以上の高低差を駆け上がっても、ほとんど疲れなかったということです。「TORIN 9」はロングディスタンスに適しているシューズと聞いていましたが、正直なところ半信半疑でした。でも、今ならはっきり言えます。「TORIN 9はウルトラマラソンにも適している」と。

ただし、ウルトラマラソンをフルマラソンの延長として走るタイプのランナーだと、スピード面で満足できないかもしれません。あくまでも旅するようにウルトラマラソンを楽しみたい。そんなランナーにぴったりなのが「TORIN 9」です。

私は走って旅をするのが好きなのですが、そのような使い方にも間違いなくフィットします。

接地の負荷についてどう考えるか

ALTRA「TORIN 9」のシューズ特性を確認するために、Runmetrixを使用してランニングデータを計測しました。同じコースで計測したアシックス「NOVABLAST 5」、LI-NING「SUPERLIGHT 23」のランニングデータと比較していきましょう(「SUPERLIGHT 23」のみ別日に計測)。

まずはジョグのペースを見ていきましょう。

ALTRA「TORIN 9」
アシックス「NOVABLAST 5」
LI-NING「SUPERLIGHT 23」

ジョグペースで走ったときには、同じデイリートレーナーという位置付けになる「NOVABLAST 5」と同じようなスコアが出ていますが、走った感覚は全く異なります。「NOVABLAST 5」はスピードが出すぎるので意識してペースを落とす必要があり、反対に「TORIN 9」は走り出しのペースが上がらず、徐々に「NOVABLAST 5」のペースに到達しました。

どちらにも共通しているのは安定性の高さで、ジョグペースであれば、上半身がブレることもありません。ただ、軽量シューズ「SUPERLIGHT 23」と比べると上下動が大きく、上半身もあまり使えていません。上半身を使わなくても走れるとも取れますが、スコアとしては明らかな差があります。

慣れや相性もありますが、個人的には最も走りやすく感じたのは「NOVABLAST 5」。「TORIN 9」はテンポよく走るためのシューズではなく、スピードに乗るのは不得意なシューズですので、ジョグにおいても「快適」とは言えません。

ただ、それこそが私たちランナーがもっとも勘違いしているポイントなのかもしれません。「速く快適に走れるほうがいい」という思い込み。それについては後ほど詳しく解説します。その前にレースペースでのデータを見ていきましょう。

ALTRA「TORIN 9」
アシックス「NOVABLAST 5」
LI-NING「SUPERLIGHT 23」

レーススピードと言いたいところですが、「TORIN 9」はまったくペースを上げられませんでした。着地したエネルギーを推進力に変えることができないので、裸足よりもスピードに乗りにくい感じがあります。ジョグよりもスコアは良くなっていますが、走れている感覚はありません。

ただ、「TORIN 9」がスピードを出すことを目指したシューズではないので、これはある程度予測はしていました。心拍数を高く保って走るというよりは、乳酸閾値の範囲内で、足の指周りの筋肉を整えながら走る。コンセプトがそこにあるので、スピードがでないことに驚きはありません。

最初からそうなるのがわかっていながら、あえてそのデータを計測したのは、感覚だけでなく数値としても納得できるものが欲しかったためです。もちろん、私がそのような結果になったというだけで、人によっては「TORIN 9」でもペースを上げられるという人もいるのでしょう。

このような結果から私がアドバイスするなら、「TORIN 9 を履いて走るときはペースを気にしない」ということになります。あくまでもデイリートレーナーであり、もしくはウルトラマラソンのようなゆっくり長く走るときに適した1足であることは、データがはっきりと示しています。

TORIN 9 は2足目のジョグシューズ

ベアフットランナーとして、「TORIN 9」をどう評価するか。

まず、個人的には「TORIN 9」はベアフットシューズではないと感じました。裸足で走るのと同じゼロドロップですが、「TORIN 9」は裸足で走るよりも足の指が動きます。指先が自由に動くだけでなく、中足部から足の骨が動くのを感じられます。

これは裸足ランニングにはない感覚です。そして裸足ランニングの場合、上りは快適で下りが難しい傾向にあるのですが、「TORIN 9」はその正反対の特性を持っています。28mmとはいえソールがあるということが、ベアフットとの大きな差を生み出しています。

ただ、それらがネガティブな要素かというとそういうわけではありません。指が大きく動くから、履いて走るだけで足回りの筋肉が鍛えられたりほぐされたりします。スピードには乗りにくいものの、それゆえに疲れにくく長い距離も走れます。ゆっくり長い距離を走れれば、毛細血管が拡張され持久力は高まります。

それならジョグシューズは「TORIN 9」にするのが正解かというとそうでもありません。たとえばカーボンプレートのはいった厚底シューズをレースで履く場合、それに見合った筋肉も育てなくてはいけないため、ジョグでもドロップのあるシューズを履いておく必要があります。

このため、おすすめの活用方法としては、2足目のジョグシューズに「TORIN 9」を用意するということ。ドロップのあるジョグシューズと「TORIN 9」を交互に使う。もしくは3日に1回ほど「TORIN 9」を履く。そういう使い方をすることで、レースに適した足づくりができます。

もしマラソンでタイムを狙うのではなく健康のために走りたいというのであれば、購入するシューズは「TORIN 9」だけでOK。ウルトラマラソンや旅ランなどの長い距離を走ることが多いランナーも「TORIN 9」があれば、他に必要ありません。

むしろ「TORIN 9」を色違いで2足購入し、ランニングだけでなく普段履きにもするのもありかもしれません。そうすれば走ってない時間もトレーニングになり、疲れにくい体が手に入ります。もちろんお気に入りの1足を履き続けるというのもありです。

大切なのは「1足持っておく」ということ。速くなりたいランナーも健康のために走り続けたいランナーも、「TORIN 9」を持っておくことで、理想の自分に近づけます。ただ繰り返しになりますが、「TORIN 9」に速さを求めないことです。

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この記事を書いた人

重松貴志のアバター 重松貴志 ランニングトレーナー

東京・神奈川エリアを中心に「走れるためのカラダづくり」をベースとしたパーソナルトレーニングを実施。ランニングを始めたいという初心者から、自己ベスト更新を狙うシリアスランナーまで幅広くサポートしています。

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