東京マラソンの参加費がアップしたことについて考える

東京マラソンの参加費が、これまでの10,000円(税抜)から15,000円(税抜)に値上がりしました。大幅な値上げで戸惑っている人もいるかもしれません。15,000円を超える参加費の大会となると、かなり数が限られ、ウルトラマラソンに近い金額になります。

「高いな」というのが率直な気持ちかもしれませんが、これによって興味本位で申し込みする人が減れば、倍率が下がって当選しやすくなるという考え方もできます。間違いなく倍率は下がりますし、そういう面ではこれまで走ったことのない人にはチャンスです。

ただ、この金額が妥当かどうかというのは悩ましいところですよね。関東圏のランナーであれば日帰り参加ができますので、遠征費がかからないというメリットがあります。トータルの出費で考えればまだ安いとも考えられますが、東京マラソンは全国から参加者が集まる大会です。

世の中には参加費が5,000円程度のフルマラソンもあります。もちろん、それらの大会と東京マラソンとでは大会の規模が違いますので、比較すること自体にそれほど意味があるわけではありません。

東京マラソンほどのホスピタリティがあり、参加することに意義のある大会の価値として新しい金額が妥当かどうかというのが重要です。

今回の参加費アップの理由としてはセキュリティ費用ということになっていますが、これに関しては「建前」と考えるべきでしょう。実際に数年前からかなりセキュリティが強化されています。入り口の手荷物検査や本人確認は厳重すぎるほどです。

ただ、それらのセキュリティは東京五輪に向けた予行演習的な意味もあります。2020年を過ぎれた、セキュリティはもう少し緩くなることも考えられます。

「そんなことを言って、シカゴマラソンの悲劇を忘れたのか?」と言う人もいますが、フルマラソンの大会において、テロを100%防ぐことはできません。厳重なセキュリティでスタート直後の爆破などは回避できるでしょう。

では、スタートから数百メートル進んだ新宿駅近くで爆破があったらどうでしょう?人が多く集まる銀座ならどうでしょう?いくらスタート地点やゴール地点のセキュリティを上げても、テロを防ぐことにはなりません。

ここではテロを防げるかどうかを議論する場ではないので、これ以上は書きません。ただ、セキュリティをどれだけ強化しても万全ではなく、それを参加費アップの理由として納得できるかというと難しいところです。

実際のところは東京マラソンの開催によって、東京都の財政を少なからず圧迫しているのと、スポンサーが以前ほどはお金を出せなくなっているというのが実情ではないでしょうか。あれだけの規模の大会を3億円(3万人×1万円)で開催するのは不可能です。

じゃあどこからお金を出すのかと言うと、東京都の財政かスポンサーということになります。東京都は大きな税収がありますが、たった3万人のランナーのために何億円も使えるほど余裕があるわけではありません。

東京五輪のための費用は膨れ上がっていますし、税収そのものは決して上向きというわけでもありません。しかもその3万人のすべてが東京都民というわけではありません。財政が厳しい中で、一部の人のためだけに税金を使うのには批判の声もあるはずです。

そして、頼みのスポンサーはランニングブームの終焉とともに、売上が以前ほどの伸びがなくなっています。しかも東京マラソンのメインスポンサーであるアシックスは、ここ数年のナイキの台頭によりシェアが徐々に減っているはずです。

東京マラソンは大きな宣伝になりますが、それに見合うだけのリターンがあるかと言うと、そうではないでしょう。それは他のスポンサーメーカーも同じです。どこも今まで通りお金を出し続けることはできず、未来はさらに闇の中にあります。

こういう状況では、ランナー側にも費用負担を要求するのは仕方のないことかもしれません。ここで5,000円もアップさせたのは大胆な決断だとは思いますが、足りなくなるごとにこまめに上げるよりはいいのかもしれません。こうやって話題にもなるわけですから。

何よりも、東京マラソンの1万円というのは、マラソン人口を増やすための戦略的な金額設定でもあります。決して安い金額ではありませんが、あれだけの規模のイベントに1万円で参加できるなら、「抽選で当たったら走ろうかな」とエントリーをしてくれます。

そして、普段走っていない人が当選して、そこからマラソン練習を始める。うまく走れた人もそうでない人も、そこで走るのをやめるのではなく「次はもっといい結果を出そう」とランニングを継続してくれるわけです。

マラソンブームは東京マラソンの存在なしには語ることはできず、その東京マラソンは参加費が1万円だったからエントリーした人がいたわけです。値上げに踏み切ったのは、東京マラソンがその役割を果たし終えたことを意味します。

もう新規のランナーを開拓するのではなく、成熟した文化として根付かせるフェーズに移行しているのです。そのためには受益者負担という考え方を定着させることが、これからのランニング業界の発展につながると考えているのでしょう。

ただ、ランナーとしてはすぐには受け入れることができないかもしれません。しかもマラソン大会は中止になった場合には1円も返金されません。これまでは東京マラソンが1回も中止になったことはありませんが、いずれ大雪での中止も考えられます。

そうなったときに、10,000円戻ってこないのと15,000円(税込みならそれ以上)戻ってこないのとではインパクトが違います。いくら規約に書かれているからといって、支払った金額に見合うサービスを受けられないのであれば、納得出来ないという人も出てくるはずです。

実際に、ここ数年は大会の中止が相次ぎ、多くの大会でその対応の悪さから炎上しています。危機管理のしっかりしている東京マラソンですので、中止のときのマニュアルもあるのでしょうが、ランナー側としては
戻ってこないかもしれない15,000円を支払うという感覚も持っておくべきです。

それは東京マラソンに限らず、どの大会にも言えることですが。

大会の参加費が上がったことで、「もう出ない」という人もいれば、「まったく問題ない」という人もいるはずです。どう行動するか各自が決めることですが、15,000円を払って、必ず走れるわけではない(ケガも含め)ということはきちんと頭に入れておきたいところです。

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