普段ランニングドクターをしているラン仲間のお医者さんが、さいたま国際マラソンに一般ランナーで参加したときに、レーシュ終盤で多くのランナーが熱中症で倒れているのを見て「サブ4でエントリーしているランナーを助ける必要があるのだろうか」と感じたものの、危険な状態の人を放っておけず、自分のレースは諦めて救護に回りました。
マラソンでランナーが倒れたとき、一刻を争う事態になることが珍しくありません。2002年~2011年までの10年間で107件の心肺停止のケースが発生しています。1年に10件以上発生しています。もう少し軽度のものや熱中症や低体温症も含めると、ランナーにとって周りのランナーがいつ倒れてもおかしくない状況にあります。
いつ周りの人が倒れても適切な行動をとれるようになるには、きちんとした基礎知識が必要になります。もしマラソン大会中に倒れた人がいて、どうしていいか分からずに、そのまま走り続けたけど「それでよかったのかな?」と思ったことのある人は、まずは救護の基本だけでも頭に入れておきましょう。
まずは覚悟を決める
まず倒れた人が視覚に入ったら、一旦レースから離れる覚悟を決めてください。ここが一番大切です。むしろこれがすべてかもしれません。せっかくエントリーできた大会であればあるほど、レースを手放すということがランナーにはとても難しい選択になります。
自分は見過ごしても誰かが助けてくれる。
それは一つの事実ですが、あなたが助けない理由はどこにあるのでしょう?他人であっても同じ大会を走り、同じゴールを目指す仲間です。仲間を助けるのに理由はいりません。
レースを放棄することになってでも、倒れた人を助けられるランナーでいてください。助けるための技術がなくてもできることはたくさんあります。
倒れた人に対して最初に行うこと
まずは意識の確認です。「大丈夫ですか?」と話しかけて「大丈夫、大丈夫」と返してくればひとます安心ですが、倒れ方がおかしかったり、ろれつがまわらない、そして何よりも返事がない場合はすぐに行動を切り替えましょう。
すべきことは大声でスタッフを呼ぶことです。ランニングドクターもいるかもしれません。東京マラソンのような大きな大会であればスタッフは近くにいますが、小さい大会であればそうはいきません。走っているランナーを止めて先にいるスタッフを呼んできてもらうように伝えて下さい。
スタッフを呼んですぐに来れない場合は、呼吸の確認をして、呼吸をしていない場合は胸骨圧迫が必要です。ただし、講習を受けたこともないような場合はうまくできない可能性があります。その場合も周りのランナーに助けを呼びかけてください。
熱中症で倒れたような場合は、手持ちの水分があれば提供し、倒れた人に直接日光が当たらないように影を作ってあげましょう。手持ちのもの、周りにあるもので風を送れないか考えてください。倒れこんだ人がまだ動けそうなら木陰など涼しい場所に移動させてください。
結局大したことは何もしていないじゃないかと思うかもしれません。そんなことありません。助けを呼ぶだけでも立派な救護活動です。あなたが足を止めたことで、他のランナーも気にかけますし、ランニングドクターに発見してもらいやすくなります。
応急手当の講習を受けよう
それでも何もできなかったことを悔しく感じるかもしれません。多くのマラソン大会では応急手当の講習会が開かれます。マラソン大会以外でも救護の研修はいたるところで行われています。そのような講習会を知ったときは、できるだけ参加するようにしましょう。
マラソンのためではありますが、日常生活でも役に立ちます。使わないと忘れてしまう技術なので、1度受講したからOKではなく、年に2回ぐらいは受講することをおすすめします。とくに今はAEDという非常に優れた機器があります。いざというときに使いこなすことが出来るようにしておいて、マイナスになることはありません。
ランニングドクターや救急スタッフが駆けつければ、そこで引き継ぎをすればOKです。ただ駆けつけたスタッフがあまりにも頼りなさそうなら、きちんと判断ができる人が来るまで倒れた人のそばにいてあげてください。
最初に声を掛けた人がいつまでも側にいることで、倒れた人は安心できます。「大丈夫だから、もう行っていいよ」と言われても、少なくとも自分で安全が確信できるまでは側にいるようにしましょう。
繰り返しになりますが、最も大事なのは足を止めて救護をするという気持ちの切り替えです。まずはそこから始めましょう。