「重大な副作用」が追記されたことで、話題になっているロキソニンですが、多くのマラソンランナーが、このロキソニンのお世話になっているのではないでしょうか。マラソンブームの前はロキソニンを飲むことに抵抗のあるランナーも少なく、あたり前の感覚で服用していた人もいますよね。
レース後半のきついときに合わせてロキソニンを飲む。ウルトラマラソンを走るランナーなら「常識」に近いかもしれません。ロキソニンを使う人は「ものすごく効く」「楽に走れる」と言います。まさに魔法の薬ですね。
ところがこのロキソニンは「重大な副作用」に追記されたようにいくつかの副作用があります。そしてどの重大な副作用よりも、もっとおそろしい事態を引き起こします。そこで、ここではマラソンランナーがロキソニンとどう向き合っていけばいいのかについてお話します。
ロキソニンとは
まずはロキソニンについての基本的な話をしておきましょう。ロキソニンは第一三共が発売している薬で、ロキソプロフェンナトリウム水和物を主成分とする錠剤です。1錠に無水物で60mg分のロキソプロフェンナトリウムが含まれています。
このロキソプロフェンナトリウムは、飲んだだけでは効果がなく体内で血液中に取り込まれ、肝臓で活性体になり鎮痛剤としての効果を発揮します。
人間の組織が損傷した場合、プロスタグランジンという物質が発生して、炎症(痛み・熱・腫れ)を引き起こします。ロキソプロフェンナトリウムは、このプロスタグランジンの発生を防ぐことができるため、組織が損傷しても痛みを感じなくて済むというわけです。
ポイントは痛みを引き起こす物質を抑制するという部分で、損傷そのものが治るわけではないということです。
ロキソニンの種類
ロキソニンは処方箋ですので、医師の処方がないと購入することができません。ですので、少し前のウルトラランナーはあの手この手を使ってロキソニンを入手していました。ところが、ロキソニンは安全性が高く副作用も少ないということで、2011年に一般医薬品の「ロキソニンS」が第一三共ヘルスケアから発売になっています。
このロキソニンSは処方箋のロキソニンと成分は同じですので、当然効用も変わりません。Sとなっているから、効き目が薄いと思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはないので注意してください。
とにかく、以前は簡単には手にはいらなかったロキソニンは、ドラッグストアで簡単に購入できるようになりました。いろいろ危険性が注目されていますが、ドラッグストアで買える程度の薬だということを覚えておきましょう。
ロキソニンをマラソンで使う理由
すでにお伝えしましたように、ロキソニンは「痛みの原因となる体内物質を作らせない」薬です。繰り返しになりますが、ロキソニンは治療をしているのではなく「痛みの原因を発生させない」という薬です。痛みを隠す、痛みをごまかす薬と言ったほうがわかりやすいでしょうか。
ただし、痛みは確実に消えます。痛みを発生させないように作られた薬なので騒然といえば当然ですよね。仮にマラソンやウルトラマラソンの途中で足を挫いても走れることもあります。本来なら痛みが発生して、走るのをやめるところでも痛くないから走れます。
ロキソニンの鎮痛成分であるロキソプロフェンナトリウム水和物が、すぐに血液中に溶け込むというのも、ロキソニンがマラソンやウルトラマラソンで使われやすい理由になっています。早い人で15分、半分近い人が30分でその効果を感じています。
プラセボ効果もあるので、ランナーはもっと早く痛みが引くかもしれません。
- 痛みの原因を抑制する
- すぐに効く
これが、ロキソニンがマラソンで使われる最大の理由です。なんと便利な薬なのでしょう。なのにドーピングの禁止薬物の対象にはなっていません。ということはルール上は服用してもまったく問題ありません。
ウルトラマラソンの世界大会では、あたり前のように服用されていた時代がありました。現在ではどうなっているかはわかりませんが。
ロキソニンの副作用
以前ニュースにもなっているので、すでに知っている人もいると思いますが、ロキソニンには副作用があります。
ロキソニンの副作用は「胃に負荷がかかる」ということです。ロキソニンが作らせなかった痛みの原因となる体内物質のプロスタグランジンは、胃の粘膜を正常に保つ役割も兼ねているので、ロキソニンを飲むことで胃の粘膜が不足することもあります。
このため、胃潰瘍などのトラブルを抱えている人には、ロキソニンを投与してはいけないことになっています。胃の弱いウルトラランナーなどは、レース後にかなり気持ち悪くなることもあるようです。
重大な副作用に追加された「小腸・大腸の狭窄・閉塞」などはこの延長線上にある症状です。とはいえこれらの症状が出る確率はかなり少なく、市販薬として発売されている薬で、この症状は数件しか発生していません。
だから安全というわけではありませんが、この程度のリスクのある薬はいくらでもあります。薬とは本来そういうものなのです。
ちなみにロキソニンは胃腸に負荷がかかるから、医者からは「胃薬を一緒に飲む」ように胃薬を処方されます。ただ、市販されている太田胃散のような薬ではあまり効果は期待できません。
ロキソニンによる胃痛は、胃の粘膜が不足することが問題です。このため胃の粘膜を保護できる「ムコスタ(レバミピド)」が必要ですが、これを入手するにはお医者さんの処方箋が必要です。市販品でも胃の粘膜守る薬があるかもしれませんので、胃痛が心配な人はロキソニン購入時に薬剤師さんに相談してください。
マラソンランナーとロキソニンの向き合い方
さてここまでは前置きです。前置きがかなり長くなりましたが、本題はここからで、マラソンランナーがロキソニンとどう向き合っていくべきかについてのお話をします。
ロキソニンは痛みを感じさせなくさせる薬ですが、痛みは体からのSOS信号です。なのでその信号を無視するとどうなるか……ときには取り返しのつかないほど、症状が悪化してしまうこともあります。
わかりやすい例を挙げると、レース中に捻挫してその痛みをロキソニンでごまかして、残りの距離を走ったとします。なんとかゴールできたとしても、捻挫の状態からさらに負担を掛け続けるわけですから、ランナー人生が終わってしまうほどの後遺症が残る可能性もあります。
トップアスリートが人生をかけた大勝負で使うならともかく、市民ランナーがそこまでして走る意味があるのか。その点をよく考えてください。これを読んでいる人は大人だと思いますので、判断は各自がすればいいとは思います。ただ1つだけ問います。「本当に飲む必要があるのでしょうか?」
倫理的にどうかという視点は置いておきます。
ロキソニンSは市販されている薬とはいえ、副作用があります。痛みをごまかす代わりに胃を痛めるという副作用があります。その痛みを回避するためにさらにロキソニンを飲むという人がいますが、これはもう何がなんだかわかりません。
まず「必要以上に服用しない」これが基本です。飲まないで済むなら飲まないにこしたことはありません。
- 傷めた足をかばいながら走ったらもう一方の足も痛めそう
- トレイルの途中で足を挫いてしまい、救助もあまり期待できないから自力でなんとか下山したい
こういうときはロキソニンは有効です。ケガを悪化させないために使用するのは薬本来の役割ですから。でも、リタイアという選択肢があるなら、ケガも悪化させることもありませんし、体に無駄な負担をかけることもありません。
ロキソニンを使わなければ走れないような状態で、走るのはどうかという問題もここでは考えません。マラソンランナーは走れるなら走りたい生き物ですからね。例えば10年目にして初めて東京マラソンに当選したけど、膝をケガしてしまった。
走ってしまいますよね。
これを「やめておけ」って止めるランナーはほとんどいないと思います。「やめておけ」と言われてDNSを選ぶランナーも。そういうときにロキソニンを使う気持ちはよく分かります。ただリスクから目を背けることだけはやめてください。
まとめ
とても大事な話かつ、複雑な話なのできちんとまとめておきます。
- ロキソニンSとロキソニンは同じもの
- ロキソニンSはドーピングにはならない
- ロキソニンは胃腸に負担をかけることもある
- ロキソニンを飲むと痛みが発生しなくなる
- 痛みは発生しないけど、損傷箇所が治るわけではない
- 損傷箇所を無視して走り続けるので後遺症が残ることもある
このポイントをしっかりと頭に入れて、自分で服用するかどうかを判断しましょう。
ロキソニンは使い方次第では痛みに対して非常に有効ですが、使い方を間違えれば体を壊してしまう可能性もあります。ロキソニンを服用するということは、そのリスクを受け入れるということだと頭に入れておきましょう。間違っても「自分だけは大丈夫」なんて考えないようにしてください。
リスクを承知で服用するマラソンランナーを止める理由はありません。ただ安易に「痛みを止めたい」ということだけで使用するのは「ちょっと待って」と釘を差しておきます。まずはロキソニンについてしっかり学び、そのうえで服用の判断をしてください。