ケガ予防のためや疲労の早期回復のためにストレッチをしているという人もいると思いますが、ついつい面倒になってサボってしまうこともありますよね。そもそも効果が分かりづらいので、そもそもストレッチをしていないという人もいるかと思います。
そんなストレッチについて、新潟医療福祉大学の中村雅俊講師と八幡薫さんが、その効果や持続性についての研究を行い、ストレッチングによる筋力・筋肉量への影響、柔軟性の持続効果を科学的に解明しました。今回はその研究結果をベースにランニングにおけるストレッチの役割についてご紹介します。
ストレッチを継続すれば関節や筋の柔軟性が上がる
これまでストレッチの効果としては、関節や筋の柔軟性を増加させることが挙げられますが、ストレッチを継続すれば、筋肉が太くなったり、筋力がアップしたりする可能性もあると言われてきました。今回の研究では本当にこれらの効果があるのかを確認しています。
結論から言えば「関節や筋の柔軟性は上がるが、筋力はほとんど変わらない」という結果になっています。関節の柔軟性は35.4%向上し、筋肉の硬さも低下(柔らかくなっている)しており、ストレッチをすることで確実に体が柔らかくなることがわかっています。
柔軟性が35.4%も向上するというのは、かなり大きな変化で、ランナーであればケガの予防にもつながりますし、トレランなどの不整地を走るときにも、路面の変化に対して対応しやすくなります。血行がよくなるので、体の隅々にまで酸素を届けやすくなるといったメリットもあります。
可動域も広がりますが、これはストレッチ効果というよりも、慣れのほうが大きいということが今回の研究でわかっています。慣れでも可動域が広がるならいいですよね。可動域が広がればストライドを大きくしやすくなり、ダイナミックなランニングフォームで走れるようになります。
このようにストレッチをすることで必ず体に変化が現れ、ランナーにとって好ましい状態になることが明確になりました。ただし気をつけなくてはいけないポイントもあります。
ストレッチは継続しないと柔軟性が元に戻る
今回の研究でストレッチをすることで、関節や筋が柔らかくなることがはっきりとしましたが、体が柔らかくなったからといって、ストレッチを止めてしまうと5週間で元の硬さに戻ってしまうという研究結果も発表されています。ストレッチは継続しないと意味がないというわけです。
走力もトレーニングを継続しないと落ちてしまいますが、筋肉の柔軟性はそれよりも早いペースで低下していきます。このため、良い状態を維持したいのであれば、ストレッチを習慣化する必要があります。例えば寝る前に10分程度の時間を確保して、毎日続けることが重要です。
タイミングはいつでもいいのですが、体が冷えている状態よりも、温まっている状態のほうが効果が高いので、お風呂上がりがおすすめです。もしくは朝起きて散歩をしたあとにストレッチをするというのでも構いません。大事なのは無理なく継続できるということです。
反対に食後のストレッチはNGです。ストレッチをすることで筋肉の血流が改善されますが、それは内蔵への血の流れを邪魔することになります。消化を促すための内臓へ血を送りたいタイミングでストレッチをすると、消化不良を招いてしまいますので気をつけてください。
研究の詳細についてはこちら
https://www.nuhw.ac.jp/research/2021/03/post-58.html
トレーニングやレース直後はストレッチよりも補給
ランニング直後に疲労抜きのために、ストレッチをする人もいますが、実は疲労抜きのためのストレッチは効果がほとんどないことが、定説となりつつあります。これに関しては今回の研究では触れられていませんが、ストレッチに直接的なリカバリー効果がないというのが定説になりつつあります。
継続的なストレッチによって疲労しにくい体にすることはできますが、ストレッチが直接的に疲労を抜くということはありません。体が温まっている状態でのストレッチになるので、柔軟性の向上につながりますし、毎日走っている場合には習慣化しやすいというメリットはあります。
でもリカバリーを考えるなら、走った直後に行うべきことはストレッチではなく「食べる」ことです。ランニングで失われた糖質やミネラル、タンパク質などをすみやかに補いましょう。ランニング終了から30分以内が理想です。そうすることでリカバリーを早めることができます。
ストレッチに時間をかけると、栄養を補給しやすい30分のゴールデンタイムが失われてしまいます。効果の薄いストレッチと効果の大きい補給のどちらを優先すればいいのか言うまでもないと思います。いまだに「練習後はストレッチをすること」というトレーナーがいますが、その方は情報のアップデートが何年もされていません。
ストレッチによって足に溜まった乳酸を減らすことはできますが、そもそも乳酸は疲労物質ではないというのが今の常識です。ストレッチはランニングによって失ったグリコーゲンをさらに消費するだけですので、まずは補給を心がけてください。
まとめ
- ストレッチは関節や筋の柔軟性を高める
- ストレッチをやめると柔軟性が元に戻る
- ランニング直後のストレッチでは疲労は抜けない
今回お伝えした内容はこの3点です。すでに知っているかもしれませんが、ランニング前の静的ストレッチも意味がないなど、これまで常識だと思われていたことが間違いだったということが、ここ最近の研究で次々と明らかになっています。
ただし、ストレッチそのものに意味がないわけではありません。むしろ健康でケガをしにくい体を手に入れたいなら、ストレッチは毎日の習慣として継続してください。柔軟性が上がりランニングにプラスの影響を与えます。ポイントは三日坊主にならないこと。
とにかく継続です。ランニングと同じように続けないと効果は維持されません。ただしランニングとセットで行うのではなく、お風呂上がりなどの別のタイミングで行ってください。ランニング直後のストレッチは意味がないだけでなく、補給のタイミングを逃してしまいます。
ストレッチはとても地味なトレーニングで、なかなか継続するのが難しいのですが、だからこそライバルと差をつけられるポイントになります。何歳になっても気持ちよく走り続けたいのであれば、やらない理由がありません。「少なくとも現時点の常識では」という注釈付きですが。