順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の研究によると「遺伝的に肉離れしにくい女性アスリートは疲労骨折のリスクが高い」ことがわかりました。反対に肉離れしやすい女性アスリートは疲労骨折のリスクが低く、これらは遺伝で決まっているとのこと。
これは男性アスリートには見られない特長で、女性アスリートだけが抱えているケガのリスクになります。少し専門的な話になりますが、自分の体を知っておくことはランニングを続けていく上でもとても大切なことですので、女性ランナーは知識として頭の片隅に置いておきましょう。
骨密度と筋の硬さは遺伝によって決まる
私たちがスポーツをするとき、その結果はトレーニング内容やその日のコンディションだけで決まるわけではないことは、すでに多くの人は理解していると思います。どれだけ努力してもすべての人がフルマラソンを2時間ちょっとで走れるわけではありませんし、160km/hのボールを投げられるようになるわけでもありません。
私たちの体には遺伝的な要素がかなり多く影響しており、短距離が得意な人もいれば長距離が得意な人もいて、お酒をどれだけ飲んでも酔わない人もいれば、すぐに顔が赤くなる人もいます。このような遺伝的要素が女性アスリートのケガに理教していることが順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の研究によってわかりました。
調査されたのは疲労骨折および肉離れ等の筋傷害の受傷歴と、唾液から得られたDNAをもとに解析したI型コラーゲンα1鎖遺伝子多型(rs1107946, A/C)の関連性です。専門用語が入っているので分かりにくいのですが、要するに肉離れと疲労骨折が遺伝とどのような関係にあるのかを調査されました。
CC型とAC型の女性アスリート
・疲労骨折の受傷歴を有する人が多い(17.8%)
・筋傷害の受傷歴を有する人は少ない(9.9%)
AA型の女性アスリート
・疲労骨折の受傷歴を有する人が少ない(9.0%)
・筋傷害の受傷歴を有する人は多い(18.6%)
CC型やAC型というのは遺伝子のタイプだと考えてください。遺伝子を調べたらCC型とAC型の女性アスリートは疲労骨折しやすいけど肉離れしにくいことがわかり、AA型の女性アスリートは反対に疲労骨折しにくいけど肉離れしやすいことが判明しています。
これをさらに詳しく調べると次のことがわかりました。
CC型とAC型の女性アスリート
・骨密度が低い
・筋が柔らかい
AA型の女性アスリート
・骨密度が高い
・筋が硬い
このように体の特長が遺伝によって決められており、遺伝的な骨密度の高さと筋の柔軟性は両立しにくいということを、女性ランナーは把握しておく必要があります。これは男性には見られない特長で、女性ランナーだけが抱えているリスクになります。
自分なりにケアをすればケガのリスクを抑えられる
ここで大事なのは自分がどのタイプなのか知っておいて自分のケアに活かすということです。自分の型をきちんと知りたいのであれば、DNA検査などが必要ですが、ある程度は体の柔軟性で判断できるはず。体が硬いという認識があるならAA型、柔軟性が高いならCC型もしくはAC型です。
それぞれに適した体のケアをしていれば、肉離れや疲労骨折といったケガを回避しやすくなります。
AA型が心がけるケア方法
AA型は骨密度が高く、筋が硬いといった特長がありますので、気をつけるべきは肉離れです。このタイプの女性ランナーはウォーミングアップをしっかりと時間をかけて行う必要があります。いきなりポイント練習をするのではなく、しっかりジョグと動的ストレッチをして体を温めてから、ポイント練習をしましょう。
また普段から柔軟性を高めるための準備も必要です。お風呂上がりや睡眠前にストレッチを行って柔軟性を高めておきましょう。なおかつ疲労を溜めないことも重視してください。ポイント練習をする日に疲労が残っているようなら、1日予定をズラすなどして無理をしないように心掛けましょう。
筋肉に違和感があったら、すぐにトレーニングをストップすることも大切です。無理に走っていいことはありません。きちんと体の声を聞いて、肉離れが起きないようにケアをしましょう。
CC型とAC型が心がけるケア方法
CC型とAC型は柔軟性が高いものの骨が弱い傾向にあります。ランニングと疲労骨折は相性が悪く、何度も足を地面に叩きつけるランニングは疲労骨折を呼び込みやすいという問題があります。柔軟性が高い人は疲労骨折を起こさないための工夫が必要です。
- クッション性の高いシューズを履く
- アスファルトだけでなく土の路面も走る
- 減量しすぎない(栄養補給は大切)
- オーバートレーニングに注意
こちらは気をつけるべきポイントが多いのですが、とにかく足を守ることです。長い距離を走るときはクッション性重視のシューズを履き、普段の練習でも意識して土の路面を走るようにしましょう。そうすることで足の疲労蓄積を回避できます。
なおかつ食べ物が重要です。避けたいのは減量。これでは骨が弱くなる一方です。カルシウムだけでなくタンパク質もしっかり摂って、女性ランナーはさらに貧血予防も行いましょう。鉄分をしっかり摂るだけでなく、アサイーを摂取して造血しておきましょう。
もちろんオーバートレーニングもNGです。程よく休みを入れましょう。
誰かと比較する必要はない
私たちランナーはみんな遺伝されているものが違います。なので生まれ持って速く走れる人もいれば、体は強いけどスピードは出せないという人もいます。100人いれば100通りの特性がありますので、プロランナーとして生計を立てているのでなければ、他の人と競い合う必要がありません。
ラン仲間の誰かと比較して、自分のタイムが伸びないことを悩んでも意味がなく、ライバルはいつだって自分自身だけということを忘れないようにしましょう。それができていないと、「もっと頑張らなきゃ」と思ってオーバートレーニングになりケガをします。
ランニングを続ける上で大事なのは自分の遺伝的な特長を理解すること。そしてその特長にあったトレーニングやケアをすることで、過去の自分を越えていくこと。間違っても「なんであの人に勝てないんだろう」なんて思わないことです。大事なのは自分なりにランニングと向き合うことです。
それがわかるとランニングはもっと楽しくなります。もちろん競争心があることが成長速度を引き上げることもあります。でも、オリンピックに出たいとか世界で戦いたいというのでなければ、自分のペースで成長すればいいんです。そのためにはケガをしないことです。
自分の体に適したトレーニングとケアを心掛けて、長く走り続けられる体作りを目指しましょう。