マラソンや駅伝など長距離選手のトップアスリートの体つきを見ると、今にも折れてしまいそうなくらいやせ細っています。ただし、必要な筋肉はしっかりついているので、不要なものをすべて削ぎ落とした体ともいえます。
一般的にマラソンは体重が軽いほど速く走れると言われています。福岡大学の田中教授の説によると「1kg軽くなるとフルマラソンで3分速くなる」そうです。もちろん個人差もありますし、その人がどれくらい体脂肪を備えているのかでも違います。
体重が減れば速く走れる根拠
ほとんどのランナーが経験的に「軽いほうが速い」というのを知っていると思いますが、もっと理論的にここでは体重とスピードの関係について説明していきます。といっても、計算はすでにみなさんが学校で習った物理の公式を使えば簡単にできます。
K=mv2/2
この計算式に見覚えはありませんか?物理が嫌いだった人はとっくに忘れてしまった公式かもしれません。Kは運動量エネルギー、mは質量、vは速度です。この公式を少し変えてみましょう。
v2=2K/m
スピードを出すには、運動エネルギーを上げるか質量を下げるかのどちらかになります。運動エネルギーを上げるというのは筋力をアップさせることで、質量を下げるのは体重を落とすことです。とてもシンプルですね。
実際には地面とシューズとの摩擦や、どれだけ長い時間力を出し続けられるかの筋持久力なども影響しますが、スピードに関してはそれらは微々たるものです。
「ちょっと待って、短距離ランナーは体が軽くはなさそうだけど速いよ」そう思う人もいるかもしれません。短距離ランナーはKを最大限まで上げることを目的にしてトレーニングをしています。
そのためにはmが少しくらい上がったところで、それ以上の出力を手に入れることができれば速く走れるというわけです。ただし、この場合は同じ出力を維持し続けることができないため、時間の経過とともに失速します。
体重を落としても筋力を落としてはいけない
物理的にも体重を落とすほうが、マラソンを速く走れるということを理解できたかと思いますが、大事なのは体重を落とすにしても筋力を落としてはいけないということです。もちろん筋力の低下を補えるほど体重が落ちれば速く走れますが。
インフルエンザなどで寝込むと体重が劇的に減りますが、そのときに走っても速くは走れません。運動をしていないので筋力が低下しているためです。
このため、長距離選手の減量は走り込みとセットにしなくてはいけません。走って筋力を維持するか向上させながら体重を落とすこと。これがランナーの目指す減量歩方向性です。
難しいことはありません。食事制限ではなく運動量を増やして体重を落とせば、自然と速くなります。そのためには、これまでよりも長く走るか、スピードを上げて高負荷にする必要があります。
注意したいのは、体重が下がってきたら練習の負荷を上げるということです。55kgだった体重が53kgになったら、同じ距離でも今までよりも確実に楽に走れます。そうなると消費カロリーも減り、筋肉にかかる負荷も減ります。
同じトレーニング内容を続けると、どんどんと負荷が足りなくなり、痩せにくくなりますし、タイムの伸びもなくなってしまいます。軽くなったらそれだけ練習の質を上げるようにしましょう。
痩せすぎることのデメリット
筋力を維持して痩せれば誰でも絶対に速く走れるようになります。ただし、そのことによるデメリットもあります。
- 体の免疫力の低下
- 関節や筋肉に掛かる負荷があがる
まず、気にしなくてはいけないのが体調管理です。体脂肪率が10%くらいなら問題ないのですが、1桁になるくらいまでの厳しいトレーニングを行うと免疫力も下がります。しっかりと体のケアをしておかないと簡単に風邪を引いてしまいます(体脂肪率が低すぎると免疫力が低下すると言われていますが、それを証明するエビデンスはありません)。
また、スピードが出るということは、関節や筋肉にかかる負荷が上がります。これまで以上に速く足を動かすことになりますので、負荷のかかる時間は短くなりますが、一歩一歩の負荷は大きくなります。
さらに女性ランナーが気をつけなければいけないのが、無月経と疲労骨折です。いま長距離陸上界では、痩せすぎによる10代の無月経と疲労骨折が問題になっています。とても重要なことですので、下記リンク先の記事をチェックしてください。
無月経、疲労骨折・・・10代女子選手の危機 – NHK クローズアップ現代+
要するに長距離選手が体重を落とすと、ケガや病気のリスクが上がってしまうというデメリットがあります。このためトップアスリートは痩せすぎないためにしっかりと食事を摂っています。それぞれに適正体重を見つけ出して、そこに収まるようにコントロールしています。
ランナーの適正体重の目安
それではランナーはどれくらいまで痩せればいいのでしょう。その目安となるのが体格指数のBMIです。BMIは次のような計算式から導かれます。
BMI = 体重(kg) ÷ {身長(m) × 身長(m)}
身長が161cmで体重が54kgなら、計算は次のようになります。
BMI = 54 ÷ {1.61 × 1.61 } = 20.83
自分で計算するのが面倒だと思う人は、こちらのサイトで計算してください。
トップアスリートのBMI値は18〜21くらいです。男子の場合は21を少し上回る選手もいますが、女性の場合は18以下という選手も珍しくありません。ただし、上で紹介した無月経はBMIが18〜19以下になると起こると言われています。
女性のトップアスリートはBMIがかなり低い人も多いのですが、彼女たちはある部分では女性であることを手放して走っています。普通の市民なランナーはそこまでする意味があるのかよく考えてください。
健康目的で走っている女性ランナーはBMIが22を下回らないようにしましょう。
男性ランナーも自分を追い込むならBMIは20前後くらいを目標として、健康目的なら21〜23くらいの範囲に収まるように体重を減らしてください。ちなみにBMI25が肥満の入口ですので、タイムを縮めたいのであればそれ以上にならないようにしてください。
体重を落とすなら食物繊維をしっかり摂ろう
体重を落とすと簡単に速く走れるようになります。このため、無理な減量をする人がたくさんいるのですが、減量をするときには必ず体のケアもしっかり行ってください。何も考えずに食べる量を減らすと、トレーニング中にエネルギー不足を起こしますし、リバウンドする確率も上がります。
おすすめなのは、食物繊維をしっかり摂るという方法です。
私たちの腸には腸内細菌がたくさん暮らしています。この腸内細菌にとって快適な腸内環境を整えてあげることで、痩せやすくなると言われています。その腸内環境を整えるというときに食物繊維が役立ちます。なぜなら食物繊維は腸内細菌にとっての食事になるためです。
ただ、食物繊維は普段の食生活の中ではなかなか摂取しにくいという問題があります。男性は1日に20g、女性で1日に18gの食物繊維の摂取が必要だとされていますが、40代男性で約14g、40代女性で13g程度しか食物繊維を摂れていません。
このため、自炊があまり得意でないという人は、食物繊維を多く含んた加工品を毎日の食事に利用しましょう。例えばファイバーリッチ ナッツグラノーラ なら1食で10gの食物繊維を補うことができます。強引に体重を落とすのではなく、ナチュラルに体重を落としたいという場合には、積極的に食物繊維を摂取しましょう。
まとめ
体重を落とせば、走るスピードは必ず上がります。ただ、単純に体重を落とそうとすると筋力も落ちてしまいます。しかも体のあちこちに不具合が発生しやすくなります。それは命を削って痩せているようなものですので、長距離選手は痩せるにしても適度に体重を落とすようにしましょう。
そのときに心がけて欲しいのは次の3点です。
- 体にいいものを3食食べる
- 体幹トレーニングで体の軸を調える
- 動的ストレッチで関節の可動域を広げる
速くなりたいなら食事には徹底してこだわってください。炭水化物やたんぱく質といった栄養素ももちろんですが、大事なのは良質な食事を摂るということです。できるだけ自炊をするようにして、ジャンクフードなどは手を出さないようにしましょう。
また、ケガのリスクを下げるためにピラティスなどで体幹を整えて、関節の可動域も広げるように動的ストレッチを取り入れてください。ただ体重を落とすだけでは、いずれケガをしてしまいます。
また厳しいトレーニングを繰り返すと、疲労が溜まって免疫力も低下していますので、電車や職場などではマスクをするなどして、ウイルス対策をしっかりしておきましょう。ここまでやっておけば、多少体重を落としても健康を損ねることなく速く走れるようになりますので、しっかりと頭に入れておいてください。