
全国各地に広まりつつあるステアクライミングレース。2020年に完成した群馬県の八ッ場ダムでも、これまで2回のステアクライミングレース「やんばスカイラン」が開催されており、今回が第3回目が開催されるということで、階段好きとしては「行くしかない」ということで、エントリーして走ってきました。
駆け上がるのは八ッ場ダムのフーチング階段で、高さ79メートル、段数316段。このフーチング階段となっており想像を遥かに上回るテクニカルな階段コースを作り上げており、階段を駆け上がるパワーだけでなく、技術も必要になるということで、これまでと違う体験ができるのではないかとワクワクしながら会場に向かいました。
大きな段差と狭いコース幅のテクニカルな階段

八ッ場ダムへのアクセスは、関東圏からですと群馬県の高崎駅を目指し、そこから吾妻線で河原湯温泉駅を目指します。神奈川県の東側に住む私は、始発で新幹線を使っても開会式に間に合わないので、前日のうちに高崎に移動して、高崎に前泊しました。
同じ電車に参加者があまりいなかったので、ほとんどの参加者は車で会場入りしたのかもしれません。ちなみに、河原湯温泉駅は交通系ICカードに対応しておらず、乗車駅で切符を購入する必要があります。そんなことになっているとは気づかなかった私は、PASMOで入場し……帰りの下車駅で清算しました。
これから電車で向かうという人は同じことをしないように必ず切符を買って乗車しましょう。

さて、会場である八ッ場ダムですが、この夏の渇水でかなり水位が下がってはいたものの、新しいダムということもあって、それが今しか見ることのできない幻想的な雰囲気を作り出していました。ただ、階段はダムの反対側。こちらには吾妻峡がありますが、残念ながら階段からは見ることができません(歩いて見に行くことはできます)。
その階段はフーチング階段と呼ばれる階段で、堤体を地盤に定着させる「フーチング」に階段を組み付けています。ダムのエレベーターが止まってしまったときなどに、この階段を使って昇り降りするわけです。階段ありきではなく、フーチングありきで階段を付けているため、ステアクライミングレースで使われるビルの階段のように上りやすく作られていません。

具体的には階段の段差が大きく、そして幅もかなり狭くなっていて、大柄な人だと体を捻らないと進めないような場所もあります。そして階段そのものは30個あり、それぞれ段数が異なりますし、階段と階段の間の距離も違います。それゆえにコースの難易度はかなり高く、挑みがいのある階段になっています。
段数と高低差だけでは計り知れない難しさがあり、今回はステアクライミングのシリーズ戦であるSJC(STAIRCLIMBING JAPAN CIRCUIT)がやんばスカイランに組み込まれていましたが、トップレベルのエリート選手ですら攻略に頭を悩ませているようでした。
レースレポート:コース途中で動かなくなる脚

やんばスカイランの種目は1回だけ駆け上がるシングルアタックと2回のタイムを合計するダブルアタックがあります。シングルアタックが4,000円で、ダブルアタックが6,000円ということもあり、これはダブルアタックに……と思いましたが自重して、シングルアタックでエントリーしました。
初めてのコースですし、思うようにトレーニングできていなかったので結果的にはシングルアタックで正解でした。今年はいくつかのステアクライミングレースに出ていますが、いずれも心肺機能が追い込まれた感じが強く、フィニッシュ後は呼吸ができずに苦しみましたが、やんばスカイランはとにかく脚。

序盤は段差の大きさに戸惑いながらも、集中力が高く、それなりにリズミカルに駆け上がることができましたが、半分を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなってきます。そして2/3を過ぎたくらいで、歩くのも大変な状況に。心肺はまだまだ余裕があるのに、脚が動くのを拒否します。
ただ、群馬まで来て弱音を吐いている場合ではないので、動かない脚に鞭を打ち、何とか前へ進みます。そして3分21秒でフィニッシュ。3分切ればそこそこ速く、年代別入賞の可能性があるのですが、残念ながら入賞には届かず7位(17人中)。

練習不足であることを考慮すれば、それなりに頑張ったほうなのかもしれませんが、ステアクライミングで大事なのは順位ではありません。誰かと比べて速いというのはエリートの選手に任せて、私はいつも過去の自分に勝つことを目標に掲げています。
そういう意味では、途中で失速した私の走りは、決して褒められたことではありません。ただ、筋肉的には久しぶりにオールアウトしたことによる喜びがありました。結果には満足していないけど気持ちいい。これこそがステアクライミングの罠。私がステアクライミングにどんどんハマっていく理由のひとつでもあります。
圧倒的なスピードで駆け上がるSJCのエリート選手

今回はエリート選手による年間シリーズ戦であるSJC(STAIRCLIMBING JAPAN CIRCUIT)も行われ、エリート選手は男女ともにダブルアタックによる合計タイムで競い合いました。すでにお伝えしましたように、変則的な階段ということもあり、エリートといえどもかなり苦戦したように感じました。
ただ、それでも男子は全員が1本目に2分台を叩き出します。ステアクライミングで勝つために日々トレーニングを積み重ねているその体は徹底して絞られており、それでいて鋼のような精神力で苦しくなってもペースをできるだけ落とさずゴールを目指します。

それを支えている練習量やステアクライミングに対する真摯な想い。すべてのエリート選手がステアクライミングで勝つことだけにこだわってトレーニングできるわけではなく、それぞれに背負っている背景も違います。ただ、階段を目の前にしたときの高い集中力や、気持ちの強さは流石と感じるものがあります。
ただ、そこは勝負の世界でもあり、勝者もいれば敗者もいます。しかもテクニカルなコースということもあり、いつもの階段とは違った順位になっており、ここにも階段レースの面白さが現れていました。こうやってコースごとに勝者が変わることが選手の成長にもつながります。

高層ビルの階段が得意な選手もいれば、屋外コースになると活躍する選手がいる。絶対的王者が君臨し、周りを引っ張っていく時代から、群雄割拠となり、それぞれが自分の強みを把握してそれを武器に切磋琢磨していく時代へと移り変わる。やんばスカイランはそのきっかけになったかもしれません。
SJCは残り2戦。そのうちのひとつは太郎坊チャレンジの短距離レース。もしかしたら更なる波乱が起きる可能性もあります。とはいえ、やんばスカイランで思うように走れなかった選手も巻き返してくるのは間違いありません。そんな太郎坊チャレンジは9月19日までエントリー可能です。ぜひ自分の限界に挑み、そしてエリートたちの戦いを現地で楽しんでください。
太郎坊チャレンジ
https://tarobo-challenge.com

河原湯温泉に前後泊しての参加がおすすめ

今回、私は大会に出場するために高崎に前泊し、表彰式後は急いで駅に向かいましたが、おすすめなのは、河原湯温泉に前後泊するというスケジュールです。温泉宿なので1人では泊まるには贅沢すぎますが、家族やラン仲間と一緒に泊まって、温泉をリラックスする。
もちろん前泊だけでも後泊だけでも構いません。八ッ場ダムのある長野原町は、町の一部がダムの底に沈ん過去があります。それも、昔の話ではなく、つい最近のこと。大切な土地を失うことになった苦しさは、本人たちにしかわかりません。

ただ、時間は流れており、新しい生活も始まっています。それを支援するというのはおこがましいかもしれませんが、ステアクライミングを愛する者だからできることはあります。やんばスカイランを楽しみ、長野原町を楽しむ。それがまた、やんばスカイランの更なる盛り上がりにも繋がります。
長野原町には温泉があり、美しい風景もあります。水にも恵まれていて、水に恵まれている土地にはもれなく美味しいグルメがあります。実は長野原町にはクラフトビールもあり、バンジージャンプやカヌー、キャンプ場など楽しめるアクティビティも充実しています。
長野原町 OFFICIAL GUIDE
https://naganohara.com
その上でステアクライミングも楽しむ。とても1泊2日では遊びきれない気がしますよね。次回以降にやんばスカイランに出場するなら、ぜひ前後泊で長野原町を満喫してください。ちなみに、新宿から河原湯温泉までJRバスが出ています(上州ゆめぐり号)。今回参加された方も、やんばスカイランをきっかけに長野原町に遊びに行ってみてはいかがでしょう。