
昨年、第1回大会が開催されたステアクライミングレース「太郎坊チャレンジ」。世界でも珍しい神社の階段を舞台に開催されるステアリングレースということで、今年はさらに注目度が上がり、全国から滋賀の太郎坊宮に500人を超えるステアクライマーが集いました。
なんと今年はスポーツ庁認定ということで、国も注目する大会になっており、会場の規模も大きくなっていました。さらに昨年大会を踏まえて、さまざまな改善があり、ここ最近のステアクライミングレースの中でも、飛び抜けて会場の一体感を感じられた大会になっていました。
ここではそんな「太郎坊チャレンジ2025」をレポートしていきます。
参加者大幅増加!活気が増した「太郎坊チャレンジ2025」

昨年の太郎坊チャレンジの評価が高かったこともあり、太郎坊チャレンジ2025は参加者数が78%も増加。なんと548名のエントリーがありました。そして大会参加者数が増えただけでなく、大会規模そのものが大きくなっていました。
たとえば閉会式(いきなり終わりのことですみません)。
これまでのステアクライミングレースの閉会式はエリートとその身内、もしくは表彰対象者だけが参加しており、ややさみしい感じになることが多々ありました。ところが今回は表彰式が盛り上がるように、レース種目の構成やスケジュール、会場のレイアウトがよく考えられていました。

たとえば、昨年はエリートの選手が複数の種目にエントリーして入賞していたことに対してネガティブな声も聞かれましたが、今年はそれができないようなスケジュールになっていました。しかも種目も増えたことで、より多くの人が表彰対象になっており、最後まで参加者が残るようになっていました。
前回との違いでいえば、今年は最寄駅の太郎坊宮前駅から太郎坊宮まで無料のシャトルも出ていました。太郎坊宮まで歩いても10分ちょっとなのです、歩いてもまったく問題ないのですが、小さいお子さんを連れてきている家族連れなどもいることを考えるとありがたいサービスです。

ちなみにこの日は「ガチャフェス」ということで、100円で近江鉄道に乗れます。昨年もそうだったので、おそらく太郎坊チャレンジとガチャフェスが連携しているのでしょう。地元を盛り上げるために、地域でコミュニケーションをとっているのが感じられます。
まだ2回目の開催ですが、ガチャフェスとの連携も含めて、さまざまなシーンで地元の人たちが盛り上げようとしているのが伝わってきます。そして、神社の階段を走れるというのは、私が想像しているよりもはるかに多くの人たちが関わり、知恵を出し合って大会を実現しているはずです。
それが参加者の増加という形で現れているのは、昨年の大会で太郎坊チャレンジを好きになった1人としては喜ばしいことです。あとはこのまま軌道に乗って、10年20年と続いていくことを願うばかり。今年からシニアの部もできて76歳の方も走られたようなので、私も20年連続、25年連続を目指したいところです(今年は連続出場者にステッカーが配布されました)。
石段コースだからこその楽しさと難しさ

太郎坊チャレンジのコースは379段の石段です。かなり整備されているため、走っていて足を滑らせたりする心配はまったくないのですが、自然の中にある階段なので、段差や歩幅が変化するため、一定のリズムで駆け上がることができません。
そんなことは1年前に体験していたはずなのに、完全に忘れていました。もしくは1年前は駆け上がるのに必死で、そこまで感じていなかった可能性もあります。いずれにしても屋内の階段とは違った難しさがあります。ただ、距離は短いのでスプリント勝負。

今年はコースレコードが更新され、46秒6で駆け上がった人もいたようですが、男性だと1分40秒くらいが平均。たったそれだけの時間で終わるなら楽ではないかと思うかもしれませんが、実は短い距離のステアクライミングには、短い距離なりの難しさがあります。
太郎坊チャレンジの場合は、残り60段くらいで急激に足が動かなくなります。頑張ればなんとかなるという次元ではなく、頑張りたくても脚がまったく動かない。止まらないように歩き続けるくらいしかできなくなります。エリートですら、後半になると苦しくなります。

それを回避するためにベースを落とすと、今度はタイムが伸びなくなります。私は1年前にペースを落として入ったのに、残り60段で脚が動かなくなったので、どうせ動かなくなるならと、今回は昨年よりも入りのペースを上げましたが、結局同じ場所で失速しました(結果的に6秒短縮しましたが)。
納得できる走りをするためには、この残り60段を走り切るためのトレーニングと戦略が必要になります。たとえば2分間の坂道ダッシュやトレイルでの登りをトレーニングに取り入れる。そういうことをしないと、乗り越えられない壁があります。
ただ、いまのところステアクライミングに正解はなく、トップレベルの選手でも日々試行錯誤して競技力向上を目指しています。完成していない競技だからこそ、誰にでも優勝するチャンスがあります。特に太郎坊チャレンジのように始まったばかりの大会においてはチャンスは平等にあり、トレーニングと工夫次第で上位入賞が可能です。

ビールもグルメも楽しめるEXPO会場が楽しい

今回の「太郎坊チャレンジ2025」で、私の中で高ポイントだったのがEXPO会場です。近江牛を使ったグルメや沖縄料理、クレープやコーヒーなどのお店が出店しており、レース前後の空腹を満たしてくれました。それも生ビールまで用意されています。
それくらいどの大会でもあると思うかもしれませんが、昨年はキッチンカーが1台(と記憶しています)だけで、しかも雨ということもあって、利用者がほとんどいない状況でした。それを踏まえると、今回は出店なしになってもおかしくないのに、今年はワークショップも含めて、11の出店がありました。

嬉しいのはほとんどがお手頃価格だったということ。おそらく、今回のために特別に安くしてくれたのだと思います。それは出店の負担なのか大会の負担なのかはわかりません。ただ、多くのメニューがワンコインで購入でき、私はレース前にカレーライス、レース後に近江牛入り焼きそばと生ビールをいただきました。
仲間と参加していたら、宴会が始まっていたかもしれません。「太郎坊チャレンジ2025」にはチームの部もあるので、ラン仲間とチームを作って出場するといった楽しみ方もできます。階段を駆け上がって、そのあと会場で乾杯。こんな素敵な休日はなかなかありません。

このようにさまざまな改善を行っていた「太郎坊チャレンジ2025」ですが、改善した結果、評価は上がったけど「本当にこれでいいの?」と感じるポイントもひとつありました。それが、フィニッシュエリアでの参加賞の受け渡しです。
昨年はフィニッシュエリアよりもさらに上にある本宮近くで参加賞の勝守りを渡していましたが、雨と誘導の不備もあって、勝守りを受け取れなかった人もいたようです。それを改善して、フィニッシュエリアで渡すようにしたわけですが、それにより、別の課題が生まれました。

今年は、走り終えて本宮を参拝する参加者が大幅に減ってしまいました。少なくとも一般男子の部では、本宮まで行かずに階段を降りて戻る人がほとんど(本宮まで行く人も少しはいましたが)。これでは太郎坊を走る意味が薄れてしまう気がします。
特別な場所を走らせてもらっているわけで、ステアクライマーの礼儀として、参拝して挨拶する流れがあると美しいかなと。ただ、これは心のあり方の話なのですし、大会運営がそれでよしとするなら、それでいいのでしょう。とはいえ、本宮からの風景を見ずに帰るというのももったいないので、そういうアナウンスがあっても良かったかもしれません。
今後参加される方は、足がもう動かなくなるほどキツくても、早く降りてビールを飲みたくても、無事完走できたのなら、できるだけ本宮まで登り、感謝の気持ちを伝えてください。フィニッシュエリアの先にも太郎坊宮の魅力がいくつもありますので。
過去の自分を超えていくことに意味がある

ステアクライミングという競技は、ランニングのひとつではありますが、マラソンとは違う種目です。トレーニングとしてはどちらも地道なジョグがベースになりますが、伸ばすべき能力や、求められる筋肉は必ずしも一致するわけではありません。
実際に「太郎坊チャレンジ2025」には、サッカーやラグビー、スキーをメインとしている参加者も多く、マラソン大会のようにランナーばかりが集まっているわけではありません。そのように普段は違う競技で活躍する人たちが集うのが「太郎坊チャレンジ」の魅力であり面白さでもあります。

ただ、ライバルはそういった周りの人たちではありません。参加者が戦うべきは「過去の自分」です。はじめての参加の場合、まずは自分の現状を知るために走り、そして2回目からは過去の自分を超えるために走る。たった1秒でもいいから過去の自分を超えていければ、そのチャレンジは成功です。
では過去の自分を超えられなければ失敗なのか。確かに短期的な視点で見れば、過去の自分に負けることはネガティブな結果ではありますが、その悔しさをバネに成長できるなら、必ずしも失敗とは言えません。そう、ステアクライミングに失敗などないのです。少なくとも成長することを諦めなければ。

今回の参加者の最高齢は76歳。その歳でもまだ挑戦し、成長できるのがステアクライミングの魅力です。77歳の自分が76歳の自分を超えていく。そんな痛快なことはそうそうありません。でも、ステアクライミングの世界では現実に起きます。
努力は必ずしも願った方法で報われるわけではありませんが、少なくともステアクライミングの世界では、努力がわかりやすく報われます。もちろん、順位という面では望んだ形で報われないかもしれませんが、努力もしくは適切なトレーニングで過去の自分を超えていけます。

今回の「太郎坊チャレンジ2025」はステアクライミングジャパンサーキット(SJC)の第3戦に組み込まれていましたが、男子の1位は初優勝で、女子も初めて表彰台に上がった選手がいました。女子の優勝者は第2戦の黒星をバネにして再び表彰台の真ん中に立ちました。
それぞれが自分に負けないようにトレーニングを積み、結果に繋げました。ただ、それはエリートだからできたというわけではありません。「過去の自分を超えていきたい」と本気で思うなら、誰でもその目標を叶えることができます。それがステアクライミングであり、太郎坊チャレンジでもあります。

あとは自分がそれを望むかどうか。成長をまだ諦めたくないのであれば、ステアクライミングは両手を広げて迎え入れてくれます。マラソンで伸び悩んでいるなら、成長を感じられずに燻っているなら、ぜひ「太郎坊チャレンジ」をはじめとしたステアクライミングレースに挑戦してみてください。
来月30日には大阪で「ステアクライミングチャレンジ大阪大会@ツイン21MIDタワー」も開催されます。まずは自分がどこまでやれるのか確認するに参加してみてはいかがでしょう。こちらは屋内レースですが、マラソンにはない楽しさや苦しさがあり、消えかけていた闘争心の炎を甦らせてくれるはず。
ステアクライミングチャレンジ大阪大会@ツイン21MIDタワー
https://sjc-kaidan.jp/scc/osaka/