世界のトップレベルの選手だけでなく、一般のランナーにも広がってきたアディダスの「ADIZERO」シリーズに対する大きな期待。新作が出るたびに、その注目度が上がっていますが、今回発売された「ADIZERO ADIOS PRO 4」は、すでに入手困難な状態になるほどの人気モデルとなっています。
その「ADIZERO ADIOS PRO 4」をアディダスに提供していただきましたので、前作と比較して、どのような点に変更があったのか、実際に履いて走った結果をレビューしていきます。今シーズンの勝負レースとして購入検討している方は、ぜひ参考にしてください。
「ADIZERO ADIOS PRO 4」と「ADIZERO ADIOS PRO 3」の比較
まずは多くの方が気にしているであろう、「ADIZERO ADIOS PRO 4」と「ADIZERO ADIOS PRO 3」の比較からしていきます。チェックポイントは次の5点です。
- 重量
- サイズ感・フィット感
- スピードの出しやすさ
- クッション性(衝撃吸収性)
- 価格
それぞれどのような変化があったのか見ていきましょう。
重量
ADIZERO ADIOS PRO 4を手にしたときに感じたのは「軽い」ということ。軽量化したという事前情報なしで手にしたこともあり、「アディオス プロってこんなに軽かったっけ?」となりましたが、実際に公表値て15gも軽くなっていて、私が履いている25.5cmでは20gも軽くなっています。
このレベルのスペックになると1g削るのが大変な作業になるのですが、ここまで軽量化しているのは驚きです。そして、厚底がトレンドになったときの「多少重たくてもクッション性が大事」とされていたものが、ここ数年で「厚底だけど軽量」がスタンダードになっていることを明確にする結果となりました。
シューズの種類 | 公表値(27.0cm) | 実測値(25.5cm) |
---|---|---|
ADIZERO ADIOS PRO 4 | 200g | 179g |
ADIZERO ADIOS PRO 3 | 215g | 199g |
サイズ感・フィット感
サイズ感は「ADIZERO ADIOS PRO 4」と「ADIZERO ADIOS PRO 3」でそれほど大きく変わりません。ただ、ここは個人差があり、しかもアッパー素材が新素材となったこともあり、「ADIZERO ADIOS PRO 4」のほうが小さく感じる人もいるかもしれません。
私はADIZEROシリーズは10年以上も25.5cmを選んでおり、それで違和感を感じたことがないため、前作や他のADIZEROシリーズと同じサイズを選べば間違いないはずです。シューズごとにサイズが変わるという人は、念のため店舗で試し履きしたほうがいいかもしれません。
フィット感は大幅に向上しています。「ADIZERO ADIOS PRO 3」は、リサイクル素材を使用したスタンダードなメッシュアッパーだったこともあり、どうしても素材そのものが硬くなっていましたが、「ADIZERO ADIOS PRO 4」は独自の軽量ストレッチ素材「LIGHTLOCK」を新たに採用。
これにより、まるでアッパーが肌になったかのような吸い付きがあります。アッパーと足の間に隙間が発生しないため、シューズの反応がわずかながら速くなるので、感覚派のランナーだとシューズが足の一部になったような感覚で走れるかもしれません。
個人的にはこのアッパーの変更が1番嬉しいポイントだったりします。
スピードの出しやすさ
「ADIZERO ADIOS PRO 4」と「ADIZERO ADIOS PRO 3」でどちらが速く走れるかというと、おそらく最高速度はどちらもそれほど変わりません。「ADIZERO ADIOS PRO 4」のほうが軽くてフィットする分だけ、最高速度が上がるかもしれませんが、マラソンシューズですので最高速度はそこまで重要ではありません。
大事なのは無理なくスピードに乗れるかどうかということで。この点でも「ADIZERO ADIOS PRO 4」が圧倒的です。外観はそれほど変わらないように見えますが、「ADIZERO ADIOS PRO 4」のほうが前足部の反り上がりが早いため、足裏全体を付けて立っているだけでも、前に進みそうになります。
従来モデルよりも前傾を強くしなくても走り出せるので、よりリラックスした姿勢でこれまでと同じスピードを出せるようになります。実際に「adidas ADIZERO EKIDEN COLLECTION 発表会」で、キロ3分ペースを体感したのですが、「キロ3分ってこんなにもゆっくり?」と勘違いするほど簡単にスピードが出ます。
ただ、人によっては走らされている感が高くなるので、そのスピードを活かせるかどうかは自分次第です。もしかしたら、スピードが出しやすいがゆえに、オーバーペースで後半に潰れてしまう可能性はあります。スピードを出せることと、そのスピードを維持できることは別問題ですので、その点は注意してください。
クッション性(衝撃吸収性)
「ADIZERO ADIOS PRO 4」を履いた瞬間のファーストインプレッションは「柔らかい」ということ。こんなに柔らかくて大丈夫なのかと感じるほどのクッション性で、着地したときの衝撃をしっかりと吸収してくれます。
そして吸収したエネルギーをきちんと反発にしてくれるので、わずかながら起伏のある代々木公園のランニングコースを走ったときには「ずっと下り坂」という感覚で走っていました。その反発も従来のような力強いものではなく、寄り添うように押してくれる感じがあります。
従来モデルの「ADIZERO ADIOS PRO 3」は、かなりしっかり踏み込まないと、反発力がそれほど高くならなかったのですが、「ADIZERO ADIOS PRO 4」はそこまでの踏み込みをせずに反発をもらえるので、トップレベルの選手だけでなく、サブ3を狙うレベルのランナーでも恩恵を受けられるように感じました。
価格
シューズの種類 | 価格 |
---|---|
ADIZERO ADIOS PRO 4 | 28,600円(税込) |
ADIZERO ADIOS PRO 3 | 26,400円(税込) |
残念ながら「ADIZERO ADIOS PRO 4」は「ADIZERO ADIOS PRO 3」よりも価格が上がっています。世界的な物価高が続いているので、さすがに2年半前と同じ価格で生産というわけにはいかなかったのでしょう。
では、価格の安い「ADIZERO ADIOS PRO 3」を購入したほうがおトクかというとそうでもありません。「ADIZERO ADIOS PRO 4」には、この価格に見合うだけのスペックが備わっており、この程度の価格差であればまったくの許容範囲内。
ただ、「ADIZERO ADIOS PRO 3」が型遅れということもあって、かなり値引きされて販売されていることもあります。「ADIZERO ADIOS PRO 3」が気に入っていて、「ADIZERO ADIOS PRO 4」も型遅れになってからでいいやというのであれば、旧モデルを安く購入するのも選択肢のひとつです。
それでも財布の紐を緩められるのであれば、「ADIZERO ADIOS PRO 4」にすることを全力でおすすめします(「いやいや、そもそも品薄で買えないんだ」という声は承知の上で)。
「ADIZERO ADIOS PRO 4」で10kmのレースを走ってみた
「ADIZERO ADIOS PRO 4」は、長い距離を走らないと真価がわからないシューズですので、本来ならフルマラソンで試してレビューするべきなのでしょうが、ちょうど大会を入れていないタイミングでした。このため、湘南国際マラソンのファンラン10kmをメディアとして走らせていただいたので、そこで走ってみることにしました。
とはいえ、10kmでは何もわからないので、自宅から大会会場まで11kmの距離を走っていくことに。これで11km走った状態で10kmのスタートラインに立つことになります。
ただし、メディアとしての参加ということで、出しゃばって前にいくわけにもいかないため、最後尾からのスタート。このため、10kmを全力で走り切ることはできず、しかも何度も写真撮影のために立ち止まることもあったので、タイムは参考になりません。
最後尾からスタートで折り返すまでの5kmはひたすら渋滞。渋滞だけならいいのですが、後方のランナーは急に歩き出すこともあるので、スピードはかなり抑え気味になります。そして、前のランナーが歩いたり急に方向転換したときには、こちらもステップを踏んで回避するのですが、面白いくらいグリップします。
アウトソールに、新素材のLIGHTTRAXIONを採用しているのですが、これがおそろしく優秀でストップ&ゴーだけでなく、左右のステップにも対応していて、スピードを落とすことなく立ち止まったランナーを抜いていけます。
そして5kmを過ぎたところからは一気にペースアップ。ここ最近の10kmの自己ベストが41分前後でしたが、簡単にキロ4分を切るようなペースで走れてしまいます。8-9kmのラップが3分56秒。その気になれば、もっとペースアップできましたが、心肺機能がそろそろ限界だったので、キロ4分くらいでクルージングして終了しました。
レースを終えて、取材のために薄底シューズに履き替えたのですが、まったく感覚が違っていて、シューズに守られてきたんだということを実感。薄底は薄底でメリットもあって好きなのですが、レースで1秒を削りたいなら、やはり「ADIZERO ADIOS PRO 4」のような厚底一択です。
レースはここで終わったのですが、実は大会会場から帰るのに、バスに乗ろうと思ったら1時間待ちになるということで、帰りも11kmほど走って帰ることに。ここまでに薄底シューズも合わせて40km走っていましたが、それこそ厚底の強みが出るような気がして……
さすがに上り坂は歩いてしまいましたが、それでもフラットな道や下り坂はきちんと走れます。走れるというか、足を動かしているだけで前に進むという感覚で、無事自宅まで到着。コツコツ走り続けることもできるシューズだとわかったのも収穫になりました。「ADIZERO ADIOS PRO 4」はもしかしたらフルマラソンだけでなく、ウルトラマラソンにも適したシューズなのかもしれません。
タイムにこだわるなら「ADIZERO ADIOS PRO 4」はベストバイ
「ADIZERO ADIOS PRO 3」も完成度の高い1足でしたが、「ADIZERO ADIOS PRO 4」と比較すると、「過去のシューズのDNAを引き継いできた」感が強く残っているのだと再確認することになりました。「ADIZERO ADIOS PRO 4」は従来のシューズとはまったく違った系譜のように感じます。
積み重ねてきたものがあってこその突然変異。
フィット感も走りやすさも、従来のシューズとはまったくの別物です。ただ、繰り返しになりますが、自分の実力以上のものが出るわけではありません。多少の自己ベストはあるかもしれませんが、絶対的に大事なのが自分自身のベースアップです。
普段からしっかりと走り込み、筋トレなどもして走ることを真摯に向き合っていれば、それを100%引き出してくれますが、持っていないものを引き出してくれることはありません。むしろ、人によってはスピードをコントロールできずに後半に失速する可能性もあります。
それでも、「ADIZERO ADIOS PRO 4」はタイムにこだわる人にはぜひ選んでもらいたいシューズ。少なくともこれまでアディゼロを履いてきたランナーにとってはベストバイ。
現時点では入手性がよくないかもしれませんので、こまめにアディダスのサイトなどをチェックして、在庫が見つかったら躊躇することなくクリックすることをおすすめします。