19回目となる湘南国際マラソンが、2024年12月1日に開催されました。大磯ロングビーチ近くの西湘バイパスをスタートして、江の島の手前で折り返す「湘南」を駆け抜けるマラソン大会で、「クリーンであること」を目指しているマラソン大会でもあります。
他のマラソン大会のように紙コップやプラカップでの給水ではなく、マイボトル・マイカップでの給水となって3回目の大会では、マラソン大会としては画期的な取り組みとして、衣類を預かってもらえる「クリーンスタートプラン」も今年から実験的にスタート。そんな「第19回湘南国際マラソン」についてレポートします。
オンリーワンの存在となった湘南国際マラソン【2024年レポート】
湘南国際マラソンは、大磯町、平塚市、茅ヶ崎市、藤沢市、二宮町をまたぐ、広範囲で開催されるフルマラソンの大会です。10kmのファンランなどもありますが、メインはなんといっても、湘南の海岸沿いに西湘バイパスと国道134号線を駆け抜けるフルマラソンです。
フルマラソンは19,500人の募集に対して18,223人のエントリーがあり、いわゆる定員割れをしている状態にありますが、全国各地でマラソン大会が開催されるタイミングで、1.8万人のランナーが集うだけでもすごいことです。そして、おそらく数年のうちに定員割れも解消されるのではないかと感じた大会へと進化していました。
2024年の湘南国際マラソンは最高のコンディションで開催
湘南国際マラソンは「寒さとの戦い」というイメージを持っている人もいるかもしれません。海沿いということもあり、年によっては冷たい風によって体温をどんどん奪われて、最後に歩くしかなくなったときに、寒い思いをしたという人もいるはずです。
ところが、近年は12月になっても気温が高い日が多く、2024年大会も最高気温が約17℃。やや暑さを感じるくらいの気温での開催となりました。脱水症状になるほど汗をかくわけではありませんので、マラソン初心者であれば、むしろベストコンディション。
自己ベスト更新を狙うランナーにすると気温が気になったかもしれませんが、それでも懸念されている冷たい風はなく、折り返してからは防風林が太陽を遮る区間も長く、思ったよりもいい結果になったという人もいたようです。
何よりも素晴らしいのは、箱根や富士山がしっかりと存在感を示していたこと。あれだけ美しい富士山があるわけですから、それがこれから口コミなどで広がることで、外国人ランナーが増えていくかもしれません。
湘南国際マラソンが始まったばかりは「どのあたりが国際?」みたいな声もありましたが、今回は会場内でのアナウンスも日本語だけでなく英語でも行われており、実際に会場で多くの外国人ランナーを見かけました。とはいえ、東京マラソンや富士山マラソンと比べれば、まだまだ日本人が圧倒しています。
マイボトル・マイカップ給水が定着
湘南国際マラソンといえばマイボトル・マイカップ給水。ランナーはマイボトルとマイカップを持って走るのですが、3回目の開催となり、「これが湘南国際マラソン」という雰囲気になっていました。初回は賛否がありましたが、実際にやってみるとメリットもあり、「これはこれであり」と感じている人のほうが多いのかもしれません。
詳しくは実際に10kmのコースを走らさせてもらったので、そのレポートと合わせてお伝えします。ただ、いまさらレポートする必要もないくらいに成熟されており、否定的な意見があっても、湘南国際マラソンはこのスタイルで続けていくという覚悟を感じました。
実際にゴミ排出量削減という大きな成果が出ており、2019大会では総量11,495kgのゴミが出ていたのに対して、2022年にはなんと3,447kgに減少しています。さらに2023年には3,094kgまで削減しており、日本一クリーンな大会と言っても過言ではないほど、どこにもゴミがない大会になっています。
湘南国際マラソンにはエコランナーという、ゴミ拾いをしながら走るランナーがいますが、どのランナーも拾ったゴミの量がとても少なく、そもそもコース上にゴミが落ちていない状態にまでなっています。1.8万人も走ってほとんどゴミが出ないというのは、「湘南国際マラソン=クリーン」という意識がランナーにも定着してきた結果です。
画期的な取り組み「クリーンスタートプラン」
「ゴミをもっと減らしたい。」
湘南国際マラソン事務局のクリーンに対する執着心は留まることがなく、2024年は「クリーンスタートプラン」という新しい試みをスタートさせました。これはスタートエリアまで着ていった防寒具を、専用のウェア回収バッグに入れてコース上で回収してもらい、ゴール後に戻してもらうという仕組みです。
このプランは利用料が2,200円(税込み・バッグ代込み)かかるということもあり、さらには今年の大会はスタート前から暖かい状態だったので、スタート待機エリアで防寒具が必要なかったのもあって、利用者があまり多くありませんでしたが、サービスそのものはかなり画期的です。
これまで古くなったウェアをリサイクル品として、スタートエリア付近で回収している大会はありましたが、自分の手元に戻ってくるというのは、そんなことができる可能性すら考えたこともありませんでした。
まだ「とりあえずやってみよう」という感じでスタートしていたので、参加者の中にはそのようなサービスがあることを知らない人もいて、興味深く回収ボックスを覗き込んだり、写真を撮っている人もいましたが、これが定着すると、多くのランナーがスタート直後の寒さに悩まされることもなくなります。
スタートエリアでの防寒具の投げ捨ては、マラソン大会における大きな問題のひとつになっていますが、根本的な解決はほとんどの大会ができておらず、もしかすると「クリーンスタートプラン」は今後のスタンダードになるかもしれません。
湘南国際マラソンのマイボトル給水レポート(10kmファンラン)
今回は大会事務局のご厚意で、ファンラン10kmにメディアランナーとして参加させていただきました。タイム計測などはなく、他のランナーと一緒に走るだけということで、フルマラソンのスタートを西湘バイパスで見送ってから、会場に戻って最後尾からスタートしました。
フルマラソンの距離表示が小さな混乱を招く
湘南国際マラソンは西湘バイパスや134号線を使って開催するため、中央分離帯などによって、折り返せる場所に制限があります。このためフルマラソンと10kmではスタート位置が200〜300m程度奥になるのですが、フルマラソンと同じように、待機場所からスタート地点まで1kmくらい歩くことになります。
10kmは初めてのマラソン大会という人も多く、スタート位置まで「遠い」とこぼしている人もいましたが、こればっかりはどうしようもありません。これまでの開催で「これが最適解」と運営が判断したのですから、そこはもう「そういうもの」として受け入れるしかありません。
また、ファンランということもあり、スタートが少しあっけないというか、最後尾からスタートエリアに向かっていたら、いつの間にかぬるっとスタートしていました。フルマラソンの盛り上がりとはかなり違いがあり、この点はちょっと拍子抜けしてしまいました。
もしかしたらスタートセレモニーもしっかり行われたのかもしれませんが、離れた場所では何も聞こえず。
ただ、気になったのはそれよりも、フルマラソンの1kmと2kmの距離表示が残されていたこと。これにより10kmのランナーが少し混乱していました。ランニングウォッチの表示はまだ700〜800mくらいなのに、1kmの看板が立っている。10kmのランナーはスタート位置が違うという意識がないから、「?」となるわけです。
なぜ裏返さなかったのかはわかりませんが、フルマラソンの最後尾が通過したら、フルマラソンの距離表示は裏返すというのを徹底すべきかもしれません。そのことで、RUNNETの評価に「距離表示が不正確」と書かれてしまう可能性もあるので。
速さを競うなら5000人はキャパオーバーかも
10kmは5,000人のランナーが走りました。最後尾から走ったこともあって、とにかく混雑しているという感じが印象に残りました。折り返すまで混雑を抜け出すことができず、ずっと他のランナーの背中ばかりみている状態が続きます。
コースは2車線あるので、5,000人くらい何とかなると判断したのかもしれませんが、1人が転倒したら間違いなく周りを巻き込むことになります。ただし、これは「ファンラン」なので、そこまでシリアスに考える必要はなく、「みんなでワイワイ走ろう」がコンセプトなら、これで問題ありません。
実際に湘南国際マラソンは10kmもフルマラソンも、仲間で参加している人がかなり多く、10kmはマラソン大会というイベントを楽しんでいる人が大多数のように感じました。ただ、10kmも表彰があるというのが「ファンラン」との整合性がなく、この部分だけは大会を通じて数少ない疑問点となりました。
ファンランなら、順位はつけても競い合いではなく表彰も必要ないような気がします。そうしないと集客できないというのであれば表彰があってもいいのですが、速さを競うのであれば5000人はキャパオーバーです。走ることを楽しんでもらいたい。そのきっかけにしたい。そんな想いがあるなら「ファンラン」に徹してもいいような気がします。
マラソンの可能性を広げるマイボトル・マイカップ給水
湘南国際マラソンのフルマラソンはマイボトルが必須でマイカップは強く推奨ですが、10kmはマイカップが必須でマイボトルは推奨となっています。1時間以内に完走する人なら、10kmは給水なしでも走れる距離ですので、マイボトルを持っている人は見かけませんでした。
スタートしてから折り返しまでの約5kmは給水所がなく(混雑しているのもあって見落とした可能性もあります)、10kmの最初のエイドは折り返してすぐのところにありましたが、そこからはかなり短いスパンで給水ポイントが用意されていました。
フルマラソンの前半は少なめにして、後半に密集させるレイアウトにしたのだと思いますが、これまでのエイドとは違って、極端なことをいえば、当日の朝にレイアウトを変えることもできるというのが、湘南国際マラソンの給水システムの面白いところです。
そして、何よりもすごいのは、給水だけのエイドにボランティアスタッフを配置しなくても構わなくなったことにあります。湘南国際マラソンのボランティア数は約1,400人。大会の規模が違いますが、東京マラソンは1万人のボランティアが大会を支えていますが、それを考えると1,400人というのは驚きの人数です。
東京マラソンは事前受付があるので単純比較はできませんが、ボランティアが少なくなれば経費を抑えられます。経費を抑えることは、参加費を抑えることにつながりますし、運営が赤字にならないことで、持続可能な大会にも繋がっていきます。
実際に使ってみて、給水のロスは数秒でしたし、足を止めることになりますが、給水ポイントが多いので自分のタイミングで給水できるのはかなり魅力的でした。ただフルマラソンの後半、給水ポイントで足を止めることがレースを諦めることに繋がった人もいると思うので、すべての人に恩恵があるわけではありません。
それでも、マイボトル給水は間違いなくマラソン大会の可能性を広げており、このスタイルの大会がこれから増えていく可能性があります。
これからの湘南国際マラソンに期待すること
マイボトル・マイカップについての賛否の議論は、もう少し続く可能性があります。ただ、それは湘南国際マラソンが未来に繋いでいくために選んだ結果であり、おそらくこれからもクリーンな大会にするために、様々な取り組みを増やしていくはずです。
そして、それを10年続ければ、それはひとつの文化になります。「湘南国際マラソンはクリーンなマラソン大会」というイメージが広がれば、それだけで参加する価値がでてきます。ただ、キャパオーバーだと感じたことも含めて、参加検討する人に知っておいてもらいたいこともあります。
今後の課題はバス待ちの行列
湘南国際マラソン最大の課題は「会場である大磯プリンスホテルのアクセス」にあります。これは大磯プリンスホテルが会場になった年から抱えている課題のひとつで、以前のことを知らない人は驚くかもしれませんが、かつての湘南国際マラソンは、大磯プリンスホテルで前日受付がありました。
前日受付のために、大磯駅や二宮駅から大会前日に歩いていたわけです。それが前日受付の廃止で楽になり、そしてシャトルバスの運用により、前日やスタート前に疲労が溜まるという課題も解決しました(朝のバスはかなり大変なことになっていたようですが)。
それよりも悩ましいのが、走ったあとのバス待ちの行列。バスに乗るのに1時間も待ったという声もあり、私も1時間も待つならと、会場から自宅までの11kmを走って帰りました(そもそも電車だけでも1時間かかるややこしい位置関係にあるので)。
これを改善するのはかなり難しく、どうやっても分散できないようにも思えます。ただ、大会として素晴らしいのに、イメージダウンになってしまいます。今年は暖かかったからいいのですが、雨でも降ったら大きなトラブルになる可能性もあります。
ではどうすればいいか?そのアイデアが思い浮かびませんが、「クリーンスタートプラン」を思いついた大会事務局です。きっと参加者をバラけさせる方法を思いつくはずです。会場での滞在時間を伸ばすために、大磯プリンスホテルでのシャワーサービスや、帰る時間を遅らせるために数百円の飲食チケットを配布するとか。
アクセスが大変という課題さえ解決すれば、湘南国際マラソンは間違いなくかつてのクリック合戦の時代が戻ってきます。それくらい魅力的な大会なので、クリーン化と合わせて議論を進めてもらいたいところです。
湘南国際マラソンの独自路線がマラソン大会の未来を築く
久しぶりに湘南国際マラソンの会場に足を運んで感じたのは、大会の印象が完全に変わったという点です。メインスポンサーが変わったことが影響しているのでしょうが、やはりクリーンを推進していることで、まったく違う大会の雰囲気になっています。
以前は華やかさがあり、会場がちょっとしたフェスのようになっていました。それはそれで魅力的でしたが、今回はシンプルさを感じました。ゴミを出さないために、スタートゲートもかなり簡素化していましたが、そこにセンスの良さを感じました。
その他の部分でも、派手さを抑えつつも、必要なものはすべてあるという状態になっており、若者の大会から大人の大会に成熟した雰囲気を感じました。それにより、すべてに落ち着きがあり、大きなストレスを感じることなく過ごすことができました。
もしかしたら湘南国際マラソンは、他と比べることを完全に手放したのかもしれません。自分たちがどこを目指すのかを徹底して議論して、他のマラソン大会と比べるのではなく、理想を実現するために何をすべきかを考えて、ただひたすら真っ直ぐに進んでいるように感じます。
その結果、湘南国際マラソンが合わなくなる人もいるはずです。でもそこをすべて拾うのではなく、共感してくれる人との繋がりを大切にしていく。そして、マラソン大会の未来を自分たちで作っていくという気持ちが伝わってくるので、湘南国際マラソンを好きなる人が増えていく。
このまま独自路線を突き進み、最終的にどこにたどり着くのかとても興味があります。これからもきっと、いい意味で予想を大きく裏切ってくれるはず。そんな期待を抱いてしまうくらい、数年ぶりに参加した湘南国際マラソンは素晴らしい大会へと変貌していました。
湘南国際マラソン:https://www.shonan-kokusai.jp