
フルマラソンくらいは裸足で走れますと言うと、驚きを通り越して引かれることが多々あるのですが、裸足で走っていると走りのクセがリセットされて、安定する感覚があります。でも、それはあくまでも感覚であり、実際に自分の足が理想的な状態になっているかどうかわかりません。
自分の足の個性を把握したい。そう考えていたところ、サポート・ケア製品ブランドのZAMSTが、足形計測・インソール成形体験会に招待してくださりました。感覚だけではわからない、自分の足に対する気付きなどもありましたので、今回は裸足ランナーとしてどのような発見があったのかをレポートしていきます。
3D足型計測サービス「MyFootcraft」で自分の足の個性をチェック

今回、ザムストの体験会で足形計測に利用したのが、全国の店舗で導入されることが発表された3D足型計測サービス「MyFootcraft(マイフットクラフト)」です。3Dスキャンによってアーチの高さやアライメントなど足の形状を最大13項目で高精度に計測してくれるので、自分の足の個性がわかります。
私の場合は「左足がハイアーチになっている」という計測結果に。これまで、何度か足型計測をしたことがあるのですが、ハイアーチを指摘されたのは初めてのことです。ただ、走り出す前に左足の薬指と中指の付け根が痛くなることが多々あり、それはもしかしたらハイアーチが影響しているのかもしれません。
普段の裸足ランニングが良い方向に影響したのか、課題として提示されたのは左足のハイアーチだけで、アライメントは左右ともに「ニュートラル」で、左右差もなくまっすぐに立てているとのこと。人によっては、アライメントの課題として「オーバープロネーション」や「スピネーション」であるという計測結果が出ます。

とりあえず、大きな問題を抱えているわけではないということで、裸足ランナーの面目躍如といったところでしょうか。ただ、ハイアーチであることで左右差が生まれているのは事実で、それが走りにどのような影響を与えているかは、後ほど詳しくご紹介します。
3D足型計測サービス「MyFootcraft」は、ただ足型計測をするだけでなく、足の個性や悩みに合わせておすすめのアイテムを紹介してくれます。今回は、測定後にオーダーメイドインソール ZAMST Footcraft CUSTOMシリーズを作成していただきました。
このオーダーメイドインソールは2024年7月に発売開始となったもので、足の分析からシューズに合わせるまで、10分で完了する画期的なアイテムになります。
オーダーメイドインソール ZAMST Footcraft CUSTOMシリーズ
https://www.zamst-online.jp/footcraft/custom

オーダーメイドインソールを履いて走ってみた

完成したオーダーメイドインソールを履いたときのファーストインプレッションは、「足の指がしっかりと地面に着く」ということ。私は普段から「かかと・親指・小指」の3点をしっかり地面につけることを意識していますが、それゆえに人差し指から薬指まではあまり意識することがありません。
ところが、ZAMST Footcraft CUSTOMシリーズでつくった、オーダーメイドインソールを履いてみると、左右10本の指すべてに感覚があり、片足で立ったときの安定感が上がっているのを感じました。ただ、大きな変化というよりはかなりわずかな変化になります。
私はピラティスと裸足ランニングを組み合わせていることもあり、体幹が安定してるタイプのランナーで、インソールなしでもしっかり立てる、しっかり走れる自信があります。このため、オーダーメイドインソールを履いたからといって、劇的な変化を感じることはありませんでした(作っていただいたのに申し訳ない気持ちに……)。
ただ、走ってみると何かまた違った変化を感じられるのではないかと思い、「裸足・標準インソール・オーダーメイドインソール」の3つでどのような違いがあるのか、Runmetrixで比較しながら走ってみました。その結果を見ていきましょう。
ジョグペース
裸足 | 標準 インソール | オーダーメイド インソール | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
右 | 左 | 右 | 左 | 右 | 左 | |
スコア | 72 | 74 | 75 | |||
ペース | 5:56/km | 5:47/km | 5:55/km | |||
ピッチ [step/min] | 183 | 180 | 175 | 175 | 174 | 174 |
ストライド [m] | 0.92 | 0.93 | 0.99 | 0.99 | 0.97 | 0.97 |
ストライド身長比 | 0.57 | 0.58 | 0.61 | 0.61 | 0.60 | 0.60 |
体幹の後傾 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.1 | 0.0 | 0.1 |
上下動 [cm] | 7.7 | 8.4 | 8.2 | 9.4 | 8.2 | 9.3 |
上下動身長比 [%] | 4.8 | 5.2 | 5.1 | 5.8 | 5.0 | 5.7 |
腰の沈み込み [%] | 4.4 | 4.0 | 4.4 | 4.1 | 4.4 | 4.1 |
骨盤の左右の傾き [°] | 3.8 | 5.9 | 3.2 | 4.8 | 3.7 | 5.3 |
骨盤の引き上げ [°] | 2.8 | 1.5 | 4.5 | 2.7 | 4.2 | 2.4 |
骨盤の回転 [°] | 7.0 | 6.2 | 10.3 | 9.3 | 9.2 | 8.5 |
骨盤回転タイミング | 23 | 21 | 10 | 7 | 13 | 13 |
左右方向衝撃 [m/s2] | 20.9 | 24.2 | 28.2 | 32.9 | 25.7 | 31.0 |
蹴りだし時間 [ms] | 128 | 136 | 125 | 131 | 129 | 129 |
接地時間 [ms] | 241 | 239 | 236 | 234 | 239 | 236 |
接地時間率 [%] | 73 | 71 | 68 | 68 | 69 | 68 |
着地衝撃 [m/s2] | 22.2 | 15.5 | 20.1 | 16.5 | 20.0 | 16.0 |
蹴り出し加速度 [m/s2] | 38.8 | 47.2 | 42.5 | 51.8 | 40.5 | 50.6 |
減衰量 [m/s] | 0.39 | 0.29 | 0.36 | 0.30 | 0.35 | 0.28 |
スティフネス [kN/m・kg] | 0.28 | 0.32 | 0.30 | 0.32 | 0.30 | 0.32 |
まずはキロ6分程度のジョグペースの測定結果を見ていきましょう。裸足で走ったときには、左右の動きに大きな差が出ていることがわかります。脚全体をバネと見立てたときのバネの硬さ「スティフネス」も左右で0.04あり、やや左足主導になっていることがわかります。
インソールとは関係ありませんが、裸足の特筆すべきポイントは左右方向の安定性(左右方向衝撃 )が優れているという点で、キロ6分台なら目安が「35.1m/s2」なのですが、右足で「20.9m/s2」しかなく、走りが安定していることがわかります。面白いことに、この数値はシューズを履くと大きくなり、ジョグペースならオーダーメイドインソールにより、多少改善されているのがわかります。
また、裸足や標準インソールで見られた蹴り出し時間の左右差も、オーダーメイドインソールを履いたことで改善されています。さらに、シューズを履いたことで低下した骨盤回転タイミングも、オーダーメイドインソールにより裸足に近づいていることがわかります。
レースペース
裸足 | 標準 インソール | オーダーメイド インソール | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
右 | 左 | 右 | 左 | 右 | 左 | |
スコア | 77 | 76 | 75 | |||
ペース | 4:34/km | 4:24/km | 4:31/km | |||
ピッチ [step/min] | 195 | 187 | 183 | 182 | 183 | 182 |
ストライド [m] | 1.12 | 1.17 | 1.24 | 1.25 | 1.21 | 1.22 |
ストライド身長比 | 0.70 | 0.72 | 0.77 | 0.77 | 0.75 | 0.76 |
体幹の後傾 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
上下動 [cm] | 7.2 | 8.1 | 8.2 | 9.0 | 8.1 | 9.0 |
上下動身長比 [%] | 4.5 | 5.0 | 5.0 | 5.6 | 5.0 | 5.6 |
腰の沈み込み [%] | 3.9 | 3.7 | 3.9 | 3.6 | 3.9 | 3.6 |
骨盤の左右の傾き [°] | 3.9 | 5.2 | 3.5 | 4.2 | 4.0 | 4.6 |
骨盤の引き上げ [°] | 4.7 | 3.5 | 5.9 | 5.3 | 5.5 | 4.8 |
骨盤の回転 [°] | 8.6 | 7.4 | 11.4 | 10.4 | 10.6 | 9.7 |
骨盤回転タイミング | 25 | 26 | 10 | 9 | 12 | 11 |
左右方向衝撃 [m/s2] | 32.8 | 36.7 | 49.0 | 54.3 | 49.1 | 55.8 |
蹴りだし時間 [ms] | 111 | 119 | 110 | 119 | 112 | 120 |
接地時間 [ms] | 212 | 215 | 205 | 206 | 205 | 207 |
接地時間率 [%] | 69 | 67 | 62 | 62 | 62 | 62 |
着地衝撃 [m/s2] | 32.2 | 18.0 | 31.0 | 28.2 | 28.9 | 31.2 |
蹴り出し加速度 [m/s2] | 46.3 | 55.0 | 48.4 | 57.3 | 46.9 | 58.2 |
減衰量 [m/s] | 0.49 | 0.33 | 0.54 | 0.44 | 0.52 | 0.44 |
スティフネス [kN/m・kg] | 0.34 | 0.37 | 0.37 | 0.41 | 0.37 | 0.40 |
オーダーメイドインソールを履いてレースペースで走ってみた結果がこちらになります。レースペースになると動きが全体的にダイナミックになるため、標準インソールとオーダーメイドインソールの差が小さくなり、オーダーメイドインソールによる影響が薄くなることがわかります。
実際に走ってみたところ、着地の安定感は増したものの、推進力がまっすぐにならない感覚がありました。着地が安定したことにより、より多くの力を地面に伝えられるようになり、それゆえに左右方向への推進力も増してしまったのかもしれません。
興味深いのは、スピードを出したことで左足の着地衝撃が、右足の着地衝撃を上回っている点です。これをどう解釈すればいいのかの判断はとても難しいのですが、利き足ではない左足でもしっかり着地できた結果だと推定できます。
オーダーメイドインソールが走りに馴染むまでに時間がかかる

3D足型計測サービス「MyFootcraft」では、左足だけがハイアーチの傾向にあるという結果になりましたが、それを証明するかのようなRunmetrixの計測結果になりました。ハイアーチが左右差の要因になっているのか、それとも左右差があるからハイアーチになっているのかはわかりません。
ただ、オーダーメイドインソールを履くことで、部分的にはその左右差が改善されていることもわかりました。悩ましいのは、左右差を解消したことで、走りがすぐに改善されるわけではないという点です。
本来であれば左右差の改善により、より効率のいい走りができるはずなのですが、そもそも左右差がある状態でずっと走り続けてきたので、自然とその左右差を埋めるような走り方が身についています。その状態で左右差がなくなった結果、「まっすぐ走れていない」状態に陥ってしまいました。
長い目で見れば、左右の偏りがなくなってケガのリスクが下がることが期待できますが、たとえばマラソン大会直前になってオーダーメイドインソールを作り、十分な走り込みをしないままレースで着用すると、思ったような走りにならずストレスを感じたり、完走タイムも落ちてしまう可能性があります。
ランニングフォームは3年かけて固めていくものですので、オーダーメイドインソールを導入直後は、これまでの走り方との衝突が起きてしまいます。もちろん、オーダーメイドインソールを使い続けることで、筋肉もフォームも左右バランスが整うので、上手く走れないと感じるのは一時的なものになります。
ただ、その「上手く走れない」時期に「オーダーメイドインソールは自分には合わない」と判断して、使用をやめてしまうことも考えられます。そうなるとまた、左右バランスが崩れた状態で走り続けることになります。
そうならないためにも、ZAMST Footcraft CUSTOMシリーズでオーダーメイドインソールを作ったら、できれば半年間、少なくとも3ヶ月もしくは1000kmくらい継続して使用し続けることをおすすめします。
また、オーダーメイドインソールを使い続けることで筋力バランスが変化してきますので、健康診断と同じように、1年に1回のペースでZAMSTの製品取扱店で足型計測をしてもらい、インソールを最適な形状に更新することをおすすめします。
ZAMST Footcraft CUSTOMシリーズのインソールは、かかと部の厚みは実測値(簡易計測)が約6.5mmとかなり厚みがあります。
ランニングシューズのインソールと交換すると3mm以上厚くなることもありますので、ソール厚さが37〜40mmのランニングシューズと組み合わせると、ソール厚さが40mmを超えてしまい、競技規則違反になる可能性があるためご注意ください。