日本一早いマラソンレポート「第58回愛媛マラソン」

日本一早いマラソンレポート「第58回愛媛マラソン」

かつてはRUNNETのランキング1位に輝いたことのある愛媛マラソン。ここ数年は、評価がゆっくりと右肩下がりになっています。

大会そのものの質が下がっているわけではなく、市民マラソンになってから10回以上の開催となり、質の高さにランナーが慣れてしまったのかもしれません。これはどの大会にもいえることですが、長く続けるとどうしても目新しさに欠けます。

愛媛マラソンの運営も危機感を持っていたであろう第58回大会。何が変わって何が従来通りだったのかをレポートしていきます。

愛媛マラソンの魅力は沿道の声援にあり

都市マラソンのほとんどが「途切れない声援」を売りにしていますが、愛媛マラソンのそれは、他の大会と少し違います。とにかく声が大きい。ボランティアスタッフの学生さんを中心に、全力で応援するので、つられて周りも声が出ます。

愛媛には真面目の人が多いのかもしれません。ランナーが背中を押してもらえるような声援が多く、この熱い応援は愛媛マラソンの目玉であり、伝統でもあります。お遍路文化が根付いているからか、誰かを応援する、誰かを支えるということに慣れているのかもしれません。

マラソンというのは、地元の人たちに不便な思いをさせて開催されるものです。実際に愛媛マラソンでも、不便な思いをしている人がたくさんいるのでしょうが、でもそういう部分がほとんど目につかず、少なくとも松山の冬の風物詩のひとつとして、きちんと受け入れられているように感じます。

沿道の応援があるから愛媛マラソンを走りたいというランナーも多く、今年は過去最大の申込者数だったとか。特に県外からのエントリーが多く、毎年この大会を楽しみにしている人も多いようです。

ボランティアスタッフのホスピタリティの素晴らしさ

沿道の声援の中心となっているのが、ボランティアスタッフの学生さんだとお伝えしましたが、ボランティアはきちんと統率されていながらも、それぞれが自分の役割プラスアルファの動きをしています。「どうすれば、もっと喜んでもらえるのか」を考えて動いてくれます。

もしかしたら部活として好んでいないけどボランティアをしている人もいるかもしれませんが、それでもそんな素振りを見せることなく、それぞれが自分なりのやり方で楽しんでいますし、喜んでもらえるために何をすべきかを、それぞれが考えています。

わたしが驚いたのは、預けた荷物の受け取りでした。荷物が末尾の数字ごとにテントが分かれて保管されていたのですが、自分のテントに向かうと、そこではすでは自分の荷物が用意されていました。テントエリアの少し手前でゼッケンをチェックして、それをテントに伝えて荷物を取り出していたんです。

こんな大会が他にあるでしょうか。

他にも初めて参加したラン仲間は、ゴール後にずっと続くハイタッチに感動したとのこと。その他にゴール後に振る舞われるお接待エリアでは、食べ物を持ってブースの人が食べ物を配って回っています。種類も量も多すぎるので、隣りにある有料の飲食ブースに人が並ぶことはほとんどなく……

あれでは飲食ブースは商売あがったりだと思いますが、飲食ブースはそれでも毎年参加してくれて、ランナー以外の一般の応援者を喜ばせ、大会そのものを盛り上げてくれるわけです。

県内ランナーは当選しにくいという噂

これは本当かどうかはわかりませんが、今年は県外ランナーが優先されていたのではないかと、いろいろなところで噂がありました。それくらい当たりにくく、人気の大会ということなのでしょう。実際には38.9%が県外からの参加で、昨年から0.8ポイント上がっています。

エントリー数がわからないと、どれくらい当たりやすいのかは分かりませんが、10人中4人が愛媛県外というのはやや多いかなという感じはあります。

県外から人がやってくれば街が潤いますし、経済効果も高くなります。なので、ホテルのキャパを考えて、出来るだけ県外参加者を呼び込みたいというのが、自治体の本心でしょう。だからこういった噂が立ちます。

ただ、県外からの参加者の1人としては、その噂もあながち嘘でもないかなという感覚もあります。私を除くラン仲間6人のエントリーで5人が当選しています。3倍を超える倍率にも関わらず。

マラソンはビジネスなので、このあたりの塩梅が難しいところです。地元が盛り上がらないことには、大会の存在意義が薄れますし、県外からも呼び込みたい。でも、コースのキャパが1万人。もしかしたら、今年はいつもと違うテストをしていたのかもしれません。

ただ、繰り返しになりますが、これは噂でしかありません。でも火のない所に煙は立ちませんので、愛媛マラソンをより良いものにするために、事務局はかなり頭を悩ませていて、現状維持ではなくさらに1歩先を目指していることだけは伝わってきます。

最高のコンディションと悪魔の北風

今年の愛媛マラソンは1週間前に雨予報になっていましたが、天気予報が二転三転し、気温が12℃以上になるという予報があったにも関わらず、当日は最高気温が9℃以下。ただし快晴という、誰もが予想もしない最高のマラソン日和。

ただひとつだけ大きな問題がありました。それが毎年のようにランナーを苦しめる北風が、暖冬の今年も健在だったということです。気温が低かったというのもあるのですが、ほとんどのランナーが往路の強い向かい風に悩まされます。

体温を奪われますし、何よりも必要以上に力を使ってしまいます。コンディションはいいから記録を狙えそうなのに、向かい風がそれを拒みます。ここで無理をしなければ、後半は追い風になりますが、記録を狙うランナーはそうもいきません。

コースはそれほど難しくないのに、北風ひとつで思い通りに走れなくなくなる。愛媛マラソンにはもう何度も出場していますが、この北風が強い年はいい走りができていないような気がします。もちろん、それも含めてマラソン大会なわけですが。

結果的に思い通りの走りができず、「次回こそは」となるから、リピーターが増えていく。これはマラソン大会の理想とする形です。

「また走りたい」に向けて正面突破した愛媛マラソン

マラソン大会への評価が下がってきたとき、ほとんどのマラソン大会はコース変更をしたり、前日受付をやめたりと、大きな変更を行います。抜本的な改革をしなければ改善はできないと感じて、そういう危機感を持つのでしょう。

でも、愛媛マラソンはそういう分かりやすい変更を加えませんでした。エイドのフードを多少変更したというくらいはしていますが、基本的な路線はまったく変えることなく、現在のやり方をさらに洗練させる道を選びました。

それは意図的なのか偶然なのかはわかりません。予算がなかったので抜本的な改革ができなかっただけかもしれません。今年の愛媛マラソンは交通規制の看板が昨年の使い回しでした。開催日と年数の部分だけ今年用に張り替えています。予算を少しでも抑えようとしたのでしょう。

お金をかけずに、そしてリスクをできるだけ下げて、愛媛マラソンをより良いものにするにはどうすればいいのか。それを追求したのが今年の第58回だったように感じます。それも試験的な位置づけで。

これも推測ですが、おそらく第60回大会には愛媛マラソンの完成形を見せてくれるのではないかと感じています。もちろん、そこで終わりというわけではないでしょうが、ひとつのゴールがあり、そこに向けて改善を積み重ねている。

愛媛マラソンはランナーなら1度は走ってもらいたい大会

私が愛媛マラソンが好きだというのもあり、べた褒めな感じになってしまいましたが、私以上に楽しんでくれたのが、今年始めて愛媛マラソンを走ったというラン仲間でした。慣れすぎていた私にはない視点での、愛媛マラソンのいいところを伝えてくれました。

そして、やっぱり良い大会なんだと再認識しています。

ここ数年は天候にも恵まれていて、北風以外には走りやすい条件が整っています。スタート直後に混雑して、スタートブロックによってはストレスを感じるかもしれませんが、純粋に走ることを楽しみたいなら、こんな魅力的な大会はなかなかありません。

もし参加するときには、コスプレとまでは言いませんが、できるだけ個性的で目立つウェアをおすすめします。そういう人のほうがたくさんの声援をもらえますから。もちろん、そうでなくても楽しめるのが愛媛マラソンです。

間違いなくランナーなら1度は走ってもらいたいところですが、そうすると倍率が上がり……それも愛媛マラソンの正当な評価として受け入れるしかないですよね。倍率が上がるほどスポンサーも集まりやすくなりますので、大会が長続きするには重要なことです。

どうしても毎年出たいなら、男子は3時間30分以内、女子は4時間以内でアスリート枠という優先エントリー枠をもらえます。毎年走りたいなら、そのレベルを狙ってみるというのもいいかもしれません。

簡単ではないですが、ハードルが高いほど燃えるのがランナーですよね。ぜひ来年の大会にエントリーして、当選した暁にはぜひアスリート枠を狙って挑戦の場として愛媛マラソンを活用してみましょう。

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