多くのマラソンファンが楽しみにしていたベルリンマラソン。今年はナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニットをベースにしたランニングシューズを履いたエリウド・キプチョゲが、世界最高記録を更新するのではないかという世界中が注目していました。
そして、キプチョゲはその期待にしっかりと答え、過去の世界最高記録を1分近くも縮めて独走での優勝を果たしました。
そんなエリウド・キプチョゲが世界最高記録を出したことへのインタビューを入手しましたので、そのインタビューを踏まえたうえで、わたしたち市民ランナーがどうすれば速くなれるのか、どうすれば目標を達成できるのかを考えていきましょう。
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Q:完璧なレースだったのでは?
ありがとう。そうです。最後 17km は独走でしたが、ひとりぼっちとは全く思いませんでした。最後の 1km ま でこのペースをキープしなくては、ということだけ考えていました。
【解説】
レースを走るとき、私たちは前半に貯金を作るか、前半を抑えて後半に勝負するという2つの考え方がありますが、キプチョゲは最初から最後まで同じペースで走ることだけを考えてレースに挑んでいるのが分かります。
2時間1分台というスピードで走ろうと思うと、駆け引きなどを考える余裕はなく、ただひたすらに設定したペースを守る。そのために、42kmをまったく同じフォームのまま走り続けます。日々の練習というのはそれを実行するためにあります。
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Q:マラソンが終わると、たくさんのランナーは痛々しい顔をします。あなたはそのような痛みにはどのよう に対処しますか、あるいは痛みを感じないのでしょうか?
マラソンを走ると、あらゆるところに痛みを感じます。しかし、そのような思いを取り払って、レースだけに集中し なくてはいけないのです。
【解説】
キプチョゲレベルの選手でも、レースになると痛みを感じます。でも、その痛みを気にしていたのではいい走りはできません。自分の体に無理な負荷をかけているのですから、レース終盤で痛みが出るのは当然です。
でもレース中にその痛みと向き合ってはいけません。集中力を高めて正しく足を動かすことだけを考えます。痛みは感情ですので集中力を高めることができれば、消すことも可能です。「痛くても気にしない」そういう図太さが私たち市民ランナーにも求められます。
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Q:あなたは自分が開発に関わったシューズを履いています。このシューズのおかげでどのくらいのタイム を削られたと思いますか?
実際のところ、このシューズは私だけのものではなく、ここにいる全てのランナーのためのものです。私はそのテ ストを行って、ナイキが私の意見を参考にしています。これまでのどのシューズよりも速いシューズを作ることに 私は協力しました。それでも、速く走るのはシューズではなくてランナーです。
【解説】
この質問はこれまで何度もされてきたのでしょう。シューズの力は認めてはいるものの、「走るのはシューズではなくランナー」ということを強調しています。ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニットを履いたら誰でも世界最高記録が出せるわけでないことは、他の選手のタイムを見れば分かります。
私たちも時として、いいタイムを出すのにアイテムに頼りたくなりますが、本当に大事なのは自分を信じて日々の練習を積み重ねることです。そこで十分なトレーニングができたランナーだけが、アイテムの恩恵を受けることができます。
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Q:マラソンを走るためにランナーに必要な 3 つの素養はなんでしょう?
継続的にトレーニングをすること、情熱、そして、自己管理です。自己管理とは、しっかりと集中し、シンプル な生活を送ることです。
【解説】
とてもシンプルな答えです。ランナーは練習をしなければマラソンを走ることはできません。そしてその練習を支えるのが、走ることや結果を出すための情熱であり、常にベストコンディションを出すための自己管理です。
ただ、難しいことは必要ありません。しっかり練習をして休養もする。走っていない時間をいかにリラックスして過ごすか。そのためには、毎日の生活に無駄なものを持ち込まない。そういった割り切りが必要になります。
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Q:初マラソンの練習をしている、趣味で走るランナーに向けてのアドバイスは?
もちろんトレーニングは大切です。ただもっと大事なのは、ランニングに傾ける気持ちです。自分がそれだけの 距離を走れる、完走できると信じること。それがマラソンを走る秘訣です。
【解説】
マラソンで大事なのは自分を信じられるかどうかということです。自分で限界を作らずに、高みを目指すことができるかどうか。練習内容などいろいろ気にするランナーさんもいますが、そのベースに必要なのは自分を信じる気持ちです。
初めてフルマラソンを走る人は、不安とプレッシャーに押しつぶされそうになりますが、そのときに「大丈夫」と言えるだけの気持ちを持っておきましょう。根拠なんていりません。ただひたすらに自分を信じてください。
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Q:レースの前にストレスとか緊張とかを感じることはないのですか?
緊張はあります。緊張感がないと、チャンスも、レースに勝てる可能性もありません。
【解説】
これはメンタルトレーニングの分野になりますが、基本的にいい走りをするためには、ある程度の緊張感が必要になります。我を忘れるような緊張はいけませんが、自分をコントロール出来る範囲の緊張はいい結果につながります。
緊張していることを焦る必要はありません。むしろ自分が仕上がっている証拠だと思ってスタートラインに立ちましょう。
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Q:レースの初めから他のランナーをかなり離していきましたが、それも予定していたのですか?
他のランナーのことは全く考えていませんでした。唯一、自分が走りたいと思うペース配分で走れているかとい うことだけに集中しました。
【解説】
ここでも、ペースを守ることの重要性が伝わってきます。いいタイムで走るには周りの選手のことなんて気にする必要はありません。自分で目標タイムを決めて、そのタイムからペースを決めて、その通りに走るだけです。
この考え方はナイキのBREAKING2.0以降、世界的に主流になりつつある考え方です。設定タイム通りに走れば栄光を手にし、それができなければ脱落するだけ。もちろん、失速後の粘りも必要ですが、それはそもそも設定タイムが間違っていたわけです。
失速は自分を過大評価しすぎた結果です。自分を信じることも重要ですが、冷静に自分の能力を判断することも重要です。間違っても「今日は調子いい」という勘違いをして、設定タイム以上のペースで走らないようにしてください。
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Q:あなたはきついレースの時にもいつも笑顔です。今日も、印象的な笑顔ですが、そういう時は何を考 えているのですか?
マラソンは人生です。ハッピーになりたければ、人生を楽しまなくてはいけない。だから笑顔でいるのです。マラ ソンを走ることを楽しむのです。
【解説】
これはそのまま真似をしたいところです。私たち市民ランナーは誰かに指示されて走っているわけではありません。自分が走ることを楽しいと感じたから練習しますし、レースにも出場するわけです。
長くランナーをしていると、その楽しさという部分をときどき忘れてしまいがちです。でも世界最高記録を出したキプチョゲでさえ、楽しむことを大切にしているわけです。
楽しいなら笑顔で走ればいい。
これはレースタイムに関係なく、すべてのランナーにとってとても重要な指針になります。レース中に苦しくても少なくとも最後の1kmは最高の笑顔で走り切る。そうすれば、必ず「また走りたい」という気持ちになれます。
苦しいときほど笑顔を思い出して、いつだって笑顔の自己最高記録を更新するつもりで走ってみましょう。その気持ちが苦しい練習を乗り越えるエネルギーになるはずです。
まとめ
足元のシューズばかりが注目されているエリウド・キプチョゲ選手ですが、ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニットがいくら優れていても、彼のたゆまぬ努力がなければ、世界最高記録には届くことはありませんでした。
その根底にあるのが、走ることを楽しむ気持ちと自分を信じる気持ちです。この点に関しては、私たち市民ランナーにも通ずるものがあります。
速さは真似できなくても、そこに近づける自分を信じること。自分の目標に向かって諦めず、そして楽しみながら挑戦することが大切だと、エリウド・キプチョゲ選手は教えてくれます。
そして最高の準備をしたうえで、ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニットを履く。「走るのはシューズではなくランナー」この意味を理解できれば、過去の自分を超えていくことができるはずです。