ランニングシューズを紹介する文章で、最近良く見かけるのが「ロッカー構造」という言葉。「ロッカー構造を採用し、スムーズな足運びが可能に」といった感じで使われることがあるので、走りやすいのはなんとなく分かるものの、どういう構造なのか理解していない人も多いはず。
そこで、今回はランニングシューズの「ロッカー構造」とはどのような構造で、どんなメリットがあるのかなどを解説していきます。ロッカー構造のランニングシューズで走るときのポイントなども合わせてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ロッカー構造はソール面が曲線を描いている
まずはロッカー構造の基本的な考え方をお伝えします。ロッカー構造の「ロッカー」は英語のROCK(ロック)が語源です。岩……ではなく、揺り動かすの意味があります。ロッキングチェアの脚をイメージしてもらえればわかるかもしれませんが、脚が前後に反り上がっており、ゆりかごのように揺れることができます。
そのような形状を「ロッカー構造」と呼びます。ランニングシューズだけでなく、ゆりかごやスノーボードの板などにも採用されています。一般的なシューズのソールはフラットになっていて、接地するときに安定感があります。ただ、それだとランニングにおいてはロスが生まれます。
そこでランニングシューズの多くは前足部を反らせて、つま先が浮くような形状になっています。広い意味ではこれだけでも「ロッカー構造」になります。前足部に体重をかければ、足裏が転がるような推進力が生まれ、地面を強く蹴らなくても前に進めます。
これをさらに進化させたのが、踵部も反り上がった「ロッカー構造」で、こちらはアウトソール全体が曲面になっていて、まさにロッキングチェアの脚と同じ状態になります。全面が曲面になっているということは、足裏全体を使って転がすことができ、より多くの推進力が生まれます。
ロッカー構造は地面を蹴らなくても前に進む
ランニングのトレーナーから「地面を蹴らないように」と教わった人もいるかもしれませんが、マラソンのように長い距離を走るときに地面を蹴って走ると、脚を消耗しやすく、後半の失速につながるので、蹴るのではなく体重移動によって推進力を生み出すように指導されることがあります。
ただ体重移動するといっても、アウトソールがフラットになっていると地面とシューズが面で接触するため、足首をかなり上手に使わないと接地した瞬間にブレーキがかかってしまいます。ところがロッカー構造のランニングシューズは曲面になっているので、線で地面と接触します。
シューズを横から見ると点で地面と接触しており、少し重心を前に傾けるだけで踵から前足部に向けてスムーズに体重移動が行われます。走り出してしまえば重心を前に傾ける必要もなく、まるで自転車の車輪のように脚を回すだけでどんどん前に進めるようになります。
地面を蹴る必要がないので、筋力を使わずに消耗しないので、長い距離を走れるというわけです。最近流行りの厚底×カーボンプレートのシューズは、強い反発力を生み出して前に進みますが、ロッカー構造のシューズは足裏を転がすように走ることで前に進みます。
踵から着地して前足部に抜けていく
ランニングのトレーナーの多くがフォアフット信者で、「ケガをしたくなければフォアフット(前足部着地)で走りなさい」と指導します。これにはいろいろと理由があるのですが、ランニング雑誌などでも「ランニング=フォアフット」というような紹介をするので、結果的に日本はフォアフット大国になりました。
でも、ランニングの着地方法に正解はありません。確かにキロ3分前後で走るトップランナーの多くがフォアフットですが、これはフォアフットにしているのではなく、このスピード領域になると自然と「フォアフットになる」だけのことです。トップランナーもジョグはフラット気味に接地します。
フォアフットが広まったのは問題ないのですが、このとき「踵着地はNG」といった間違った教えも広まってしまいました。これがロッカー構造のシューズを履くときに悪さをします。「踵着地はNG」という意識があるので、ロッカー構造のシューズなのにフォアフットで走ろうとするわけです。
これではロッカー構造の利点を活かすことができません。ナチュラルな推進力を生み出したいなら、踵から着地して前足部に向けて足裏を転がすのが、このタイプのランニングシューズの走り方になります。踵から着地したら衝撃が大きくてケガをするのでは?と思うかもしれませんが、しっかり脚を回せればむしろ衝撃はほとんどありません。
この「脚を回す」という感覚がとても大切で、これまでフォアフットで走っていた人は違和感があるかもしれません。でもその感覚で走れないと、ロッカー構造のシューズを選ぶ意味がありません。フォームを変えるか、ロッカー構造のシューズを諦めるかどちらかを選びましょう。
初心者やウルトラマラソンなどに適している
ロッカー構造のランニングシューズは初心者ランナーに適しているとされていますが、キロ4分前後ならロッカー構造のシューズでも無理なく出せます。キロ4分ということはサブ3を狙えるスピード領域です。そうなると初心者だけでなく上級者でも使えることになります。
実際にホカ オネオネやアシックス、サロモンなどはサブ3を狙えるシューズにもロッカー構造を採用しています。ただし、サブ3レベルのランナーの場合、フォアフットでの着地が体に染み付いているので、ロッカー構造のシューズを履くと「走りにくい」と感じてしまいます。
ところが初心者だと踵着地をするランナーが多く、自然とロッカー構造のシューズを履きこなせたりします。しかもロッカー構造は地面を蹴らないで走るので、膝への負担が小さくなりケガをしにくくなります。このため筋力が足りていない初心者ほど効果を発揮します。
また、ウルトラマラソンを走る人にもロッカー構造は最適です。ウルトラランナーにホカ オネオネのランニングシューズが人気なのも、ロッカー構造(メタロッカー構造)を採用して走りやすいためです。このように使う人や競技を選ぶ傾向にありますが、2021年はちょっとしたトレンドになりそうな気がします。
手軽にロッカー構造を体感したいなら、以前レビューをしたワークマン「アスレシューズ ドリブンソール」がおすすめです。1,900円でロッカー構造のシューズが手に入りますので、蹴らないで体重移動で走る感覚が欲しい人、ゆっくり長い距離を走りたい人はぜひチェックしてみてください。
ロッカー構造を採用したランニングシューズ
最後にロッカー構造を採用したランニングシューズをいくつかご紹介しておきます。
HOKA ONE ONE
ホカ オネオネのランニングシューズは全般的にロッカー構造を採用しています。ロッカー構造の先駆者といっても過言ではありません。クッション性の高いランニングシューズを求めるならホカ オネオネのラインナップから選びましょう。
アシックス「ENERGY SAVING SERIES」
アシックスのENERGY SAVING SERIESもロッカー構造を採用しています。
- メタライド
- グリッドライド
- エボライド
この3種類がラインナップされ、それぞれシューズのサポート力が違います。初心者向けがメタライド、サブ3を狙うシューズがエボライドになります。日本人ランナーの足に合いやすく、ストレスなく長い距離を走れます。
サロモン「S/LAB PHANTASM」
今年注目の1足、サロモンのエスラボ ファンタズムもロッカー構造を採用したランニングシューズです。アスリートが開発に携わり、片足200g以下と超軽量でグリップ力もクッション性も高いレーシングシューズとなっています。
ナイキ「リアクト インフィニティラン」
ケガをしないためのランニングシューズとして注目されている1足です。ケガをしにくいのはロッカー構造を採用し、膝がねじれないようになっているためです。このことからもロッカー構造がいかに体に優しい構造なのか、分かってもらえるかと思います。
ワークマン「アスレシューズ ドリブンソール」
1,900円という圧倒的低価格でロッカー構造を体感できるランニングシューズです。やや重たいという弱点はありますが、コストパフォーマンスは高く、キロ5分くらいまでは問題なく出せる1足です。初めてのロッカー構造シューズとしておすすめです。