マラソンと同じ陸上競技でありながら、まるで違う競技のようなトラック競技。そのオリンピック選考会を兼ねたセイコーゴールデングランプリ陸上2016が川崎の等々力競技場で開催されました。
2万人の観客は日本のトップランナーがオリンピック出場のために競い合う場としては少しさみしい数字です。
しかしながら正直なところもっとガラガラになるのではないかと予想していましたので、想像以上の陸上人気に驚きもあります。
最も安いB席の半分は中学生や高校生の陸上部です。陸上部関係の動員もあったのかもしれません。
この大会は派遣設定記録を突破することがほとんどの日本人参加者の目標設定になるため、喜びのない優勝や駆け引きのない純粋な競技としての陸上競技がここにはあります。
良く表現するなら「高潔なアマチュアリズム」といったところでしょうか。
優勝することにそれほどの意味がないため、選手は競い合うのではなく自分と向き合い、自分の世界へと集中力を高めていきます。
そのためでしょうか、会場は熱狂することはなく、どことなく淡々とタイムテーブルを消化していく、学生時代の運動会のようでもあります。
オリンピックへの派遣を決めた選手と、記録を出せずに散っていった選手。その光と影のコントラストが思った以上に薄いことも意外な一面でした。
派遣設定記録を突破しても冷静な選手たち。そして、派遣設定記録を越えることが出来なくても感情を表に出さない選手たち。
例えばサッカーの日本代表がオリンピック出場を決めたときのような溢れ出る喜びはここにはありませんでした。
オリンピックが貴族の遊びだったころの名残が何世紀も経ていまだ残っているのでしょうか。多くの選手が礼儀正しく、取り乱すことも感情を爆発させることもありません。
日本において「陸上」という道を選ぶ人たちは、どことなく真面目な人たちなのかもしれません。もちろん市民ランナーの世界においてもその傾向があります。
いまの若くて有望な陸上選手は、食事を含めた生活のすべてが徹底した管理の下にあるそうです。
100mの日本記録保持者である伊東浩司さんが、「今の時代だったら、私に陸上はできない」というニュアンスのことをトークショーで言っていました。
もっと野性的でもいいのにな。今回のセイコーグランプリ陸上を観戦して最も強く感じたことです。
とはいえ100mに関して言えば9秒台に手が届きそうな若者が数名います。今日は風が強かったため、記録は平凡でしたが、それでも世界のトップランナーに対して手も足も出ないという走りではありません。
陸上界は男子の100mとリレーを中心にオリンピックでは盛り上がりを見せ、そしてそれに刺激を受けた若者がまた陸上で世界を目指すといういいサイクルが生まれるかもしれません。
さてマラソンはどうでしょう。
過去の栄光があるとはいえ、マラソンもいまはトラック競技と同じように世界との間に大きな壁ができています。その壁をどうやって突破していくか。
トラック競技もマラソンもこれから現れる天才をただ待つだけなのか。それとも陸上をもっと魅力的なものにして、競技人口を増やす努力をしていくのか。
セイコーゴールデングランプリ陸上2016を観る限り、そこにまだ方向性は感じられませんでした。
日本の陸上界はこれからどこへ向かっていくのでしょう。願わくばまた日本人が世界の舞台で活躍する姿に熱狂したい。東京オリンピックでは日本人アスリートが実力で世界を驚かせてほしい。
あと4年ある?もう4年しかない?
RUNNING STREET 365ではマラソンに限らず、日本陸上界が東京オリンピックに向けてどのような旗を振るのかこれから注目し、その経過を今後も情報発信していく予定です。
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