60歳以上の男性ランナーは要注意!年齢層別心停止発生状況調査結果

マラソンは健康的なスポーツという印象を持っている人もいるかもしれませんが、フルマラソンを走るとなると必ずしも「健康」とは言い切れません。なぜなら、フルマラソンの大会では、毎年のように心停止が発生しており、中にはレース中に帰らぬ人になってしまうこともあります。

ただ、それだけで「フルマラソンは危険」とするのは、あまりにも乱暴な結論過ぎますよね。まずは現状把握が大事ということで、慶應義塾大学が発表した「年齢層別心停止発生状況」を参考にして、どのような年齢層が何に気をつければいいのかについて提案していきます。

目次

男性ランナーは年齢層が上がるほど心停止率が上がる

まずは慶應義塾大学が発表した内容について見ていきましょう。

上のグラフは、ランナー10万人あたりの心停止発生率になります。調査したのは日本陸連の医事委員会に所属する慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの真鍋知宏准教授、独立行政法人国立病院機構霞ヶ浦医療センターの加藤穣医師、丸紅健康開発センターの山澤文裕所長らの研究グループです。

2011年4月〜2019年3月に実施された日本陸連公認コースマラソン大会(42.195 km)において発生した心停止例を調査しています。その期間に開催されたフルマラソンは516大会、のべ約410万人が参加しています。このうち心停止が発生したのが69例(内、男性66例)でした。

幸いなことに68例で救命されていますが(救命率 98.6%)、参加者10万人あたりの心停止発生率は1.7もあり、マラソン大会において、心停止は必ず起こることであり、運営側はそれに対する備えが求められています(もちろん参加費にも影響しています)。

もう少し詳しく見ると、心停止発生率は年齢層別に次のようになっています。

40歳未満:0.9
40歳代 :0.9
50歳代 :2.6
60歳以上:5.5

年齢とともに発生率が上がっていることがわかります。これは男性ランナーで見られる傾向であり、女性ランナーの場合には年齢層が高くなっても発生率が増加する傾向は認められないというレポートが出されています。ただ、そもそもの心停止例が女性の場合には3例しかありませんので、女性だから安心というわけではありませんのでご注意ください。

いずれにしても、少なくとも男性ランナーは60代になると心停止リスクが上がることは明白であり、「マラソンは健康的なスポーツ」とは言えないことがわかります。

ただ、大切なのは結果を踏まえてどう対処していくかということですので、今回発表された内容を踏まえて、ランナーは年齢とどう向き合っていくべきかについて提案していきます。

参考:慶應義塾大学プレスリリース

そもそもマラソンは負荷が高いスポーツ

フルマラソンは心停止リスクがあるスポーツだというのは、慶應義塾大学の発表からも理解してもらえたかと思います。でもフルマラソンを走れるなら、それなりに健康なのでは?と疑問に感じる人もいるかもしれません。

確かにフルマラソンを走れるようになるには、それなりに健康体であることが前提になります。1日5kmしか走らないライト層の60代とフルマラソンを4時間台で走れるシリアス層の60代なら、シリアス層の60代のほうが健康であるように感じますし、見た目も若々しく感じられる傾向にあります。

でも、どちらが長生きするかというと、必ずしもシリアス層とはいえず、ライト層のランナーのほうが寿命が長くなるといった論文も発表されています。シリアスに走り込むランナーのほうが、体力もあるしイキイキとしているかもしれませんが、走れば走るほど体はゆっくりと壊れていくわけです。

その理由についてはここでは述べませんが、慶應義塾大学の調査結果からもわかりますように、フルマラソンは心臓に高い負荷をかける競技であり、それに向けて普段から心肺機能に高い負荷をかけていれば、その負荷が蓄積して体が弱っていくことは容易に想像がつくかと思います。

健康的なランニングをするなら、毎日5km程度をジョギングするのが理想とされています。それくらいが体にちょうどいい刺激であり、42.195kmも走るとなると、心臓だけでなく関節や筋肉にも大きな負荷をかけることになり、人によってはそれに耐えられなくなることもあるというわけです。

60歳以上のランナーは体調次第でDNSも選択肢に入れる

フルマラソンは体に大きな負荷をかけるスポーツですが、一方で心に大きな満足感や達成感を与えてくれるスポーツでもあります。42.195kmを走りきったことで涙を流すランナーもいるほど、とても素晴らしい体験をすることができます。

寿命の長さだけが人生ではなく、大事なのはどれだけ充実した時間を過ごすかが大事。それもひとつの人生論であり、その考え方を否定できる人はどこにもいません。ただ、それは生きているからこその考えであり、「命を落とすかもしれない」ことを上手くイメージできていないからこその考えでもあります。

60代になると、10万人に5.5人が心停止を起こしています。0.0055%しかないといえばそれまでですが、年末ジャンボ宝くじで3等の100万円が当たる確率が0.002%です。決して低い数字でないことはわかってもらえるかと思います。

基本的な考え方としては60代でも、しっかりと日々のトレーニングを積んで、心拍数が上がりすぎないように注意しながらペースを守って走れば心停止リスクはそれほど高くありません。反対に直前に風邪をひいたり、インフルエンザにかかったりして、体力が落ちているような状態で頑張って走ると、リスクが膨れ上がります。

「自分だけは大丈夫」みんなそう思ってしまいますが、60代になったなら、いい準備ができなかったときにはDNSを選択する勇気も持ってください。心停止が起きなかったとしても、コンディションが悪い状態で走るフルマラソンは、いつも以上の負荷を体に与えてしまいます。

そうなると2度とフルマラソンを走れなくなることもあります。DNSすれば、そのリスクを回避できるわけです。もっともこの考え方は40代でも50代でも同じなのです。むしろ40代や50代で無理して完走したという成功体験が、60代でも同じことをやってしまう要因になることも考えられます。

ただ、健康であってこそのフルマラソンです。家族や大会関係者に迷惑をかけないためにも、60代になったら、レース直前に健康に不安を感じるような状況になったら、思い切ってDNSするように心がけてください。

年齢に見合った距離にシフトしていこう

日本人は「フルマラソンこそマラソンだ」という、フルマラソン至上主義の感覚が強い傾向にあります。どうせ走るならフルマラソンを走りたい。そういう感覚の人が多く、それが日本におけるマラソン文化の土台になっています。多くの人がフルマラソンに挑戦できるから、高いレベルを維持できています。

ただ、すでにお伝えしましたように、フルマラソンは想像以上に体への負荷が大きく、決して健康的なスポーツとはいえません。むしろ60代になると、フルマラソンでの心停止リスクが高まり、取り返しのつかないことになってしまう可能性すらあります。

そこで提案なのですが、60代になったら短い距離に種目を変えてみてはいかがでしょう。たとえばハーフマラソンを自分のフィールドにすることで、体にかかる負担をかなり減らすことができます。

それを都落ちと考えるか、積極的なランニング人生戦略と考えるかは人それぞれですが、フルマラソンだけがマラソンではなく、短い距離には短い距離の楽しみ方というものがあります。そもそも、マラソン大会に出るのをやめるという選択肢もあります。

距離を短くするのもいいし、スピードを求められない旅ランを楽しむのもいいでしょう。もちろん年齢に抗うのもありですが、苦しさに耐えるだけがマラソンではありません。年齢に見合った距離を選び、年齢相応の走りをする。それもマラソンのひとつです。

まずは、60代になったら、自分がこれからどこを目指すのか時間をかけて考えていきましょう。その答えがフルマラソンをフィールドに走り続けるというのであれば、それを止めたりはしません。ただ、自分なりにリスクを見積もって、本当にフルマラソンでいいのかについては繰り返し自問自答し続けてください。

短い距離だから見える景色、できるチャレンジがあります。「フルマラソンはもういいかな」と思えたなら、ハーフマラソンや10kmなど、短い距離を自分のフィールドにしましょう。

著:マーク・ハイマン, 翻訳:中里京子
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