マラソンは持久力のスポーツというイメージがあるかもしれませんが、記録を狙うようになってくると持久力だけではどうしても超えられない壁にぶつかります。どこに壁を感じるかはそれぞれの走力によって異なりますが、サブ3.5やサブ4の手前で足踏みしているランナーも多いハズ。
そんな人が壁を乗り越えていくのに必要になるのが「体の軽さ」と「筋力アップ」になります。この2つは相反するものでもあるのですが、この2つを意識するだけで壁だと感じていたタイムを軽々と超えていくことができます。そこで今回はマラソンと体重の関係、正しい減量方法について解説していきます。
筋力が同じなら体重が軽いほうが圧倒的に速い
まず結論からお伝えしますが、マラソンのタイムはほぼ体重で決まります。実際には当日の天候や自分のコンディション、練習量なども影響しますが、同じ走力で重たい自分と軽い自分を比較すれば、間違いなく軽いほうがいいタイムで走れます。
その理由は2つあります。1つは「体重1kgあたりの酸素摂取量」が増えることと、もうひとつは「足の出力に対して出せる速度が速くなる」ことが理由として挙げられます。子どもの頃にミニ四駆で遊んだ人は直感的にわかると思いますが、同じモーターなら軽いほうが物理的にも生理学的にも速くなります。
体内に取り込める酸素の量は限られているので、体重が軽いほうが酸素がより体内の隅々まで行き渡ります。そして、F=maという物理の公式を覚えているかと思いますが、加速度は出力に比例し、重さに反比例するので、軽いほうが加速度が上がってスピードを出しやすくなります。
どれくらい速くなるのかは、個人差があるので明確な数字はここでは挙げませんが、一般的には体重が1kg減るとフルマラソンのタイムが3分前後縮まるとされています。たとえば体重60kgの人がフルマラソンで3時間5分だった場合、あと2kg軽くなっていればサブ3を達成できたわけです。
サブ3を狙うレベルになってくると、フルマラソンで1分を縮めることがとても大変なのですが、体重を落としてしまえば練習内容も変えずに壁を乗り越えられてしまいます。実際にサブ3を達成するようなシリアスランナーの体つきは引き締まっており、体脂肪率も10%以下という人がほとんどです。
もちろん体が重たいからサブ3をできないというわけではありません。ただ、理屈として軽くなれば速くなるということだけは頭に入れておきましょう。
シリアスランナーの目標は適正体重の90%
マラソンランナーは軽ければ軽いほどタイムを出しやすくなりますが、ここで問題なのは目安がないとどこまでも体重を落とそうとしてしまうことにあります。実業団や箱根駅伝を目指す大学生ならともかく、一般のランナーが体重を落とすのであれば「限度」というものがあります。
ではどこが限度になるかというと、これも個人差がありますが、私が指導する場合には適正体重の90%を目標にしてもらっています。たとえば身長が170cmの人なら、適正体重は63.58kg(適正体重 = (身長m)2 ×22)になります。自分の適正体重を知りたい人はこちらを参考にしてください。
適正体重が63.58ですので、目標としてはその90%である57.2kgを目指しましょう。6kgも軽いのは痩せ過ぎでは?と思うかもしれませんが、これでもBMIは19.79あり、肥満度は「普通」となります。WHOの基準でいえば「痩せ気味」ですので、健康面でそこまで大きなマイナス要因にはなりません。
ちなみにトップレベルのランナーがどれくらいの体重なのか見ていきましょう。
身長 | 体重 | 適正体重 | 割合 | BMI | |
---|---|---|---|---|---|
大迫傑選手 | 170cm | 52kg | 63.58kg | 81.8% | 17.99 |
設楽悠太選手 | 170cm | 48kg | 63.58kg | 75.5% | 16.61 |
福士加代子選手 | 160cm | 47kg | 56.32kg | 83.5% | 18.36 |
平林清澄選手 | 168cm | 43kg | 62.09kg | 69.3% | 15.24 |
こちらも選手ごとに違いますが、男子選手で適正体重の80%よりも軽いくらいが一般的で、とにかく軽くないとキロ3分前後での走りができないことがわかります。ただし、この体重を一般のランナーが真似するのは健康上の理由でおすすめしません。
とくに女性アスリートは痩せすぎが問題になっており、必要以上に痩せることで女性が持つ機能が失われてしまうこともあるので、痩せすぎには注意してください。一般のランナーはあくまでも健康的な範囲内で痩せることを意識してください。
ランナーは「走って痩せる」が正解
体重が軽くないことには壁を乗り越えていけないとなると、「だったら食事制限をしよう」となりがちですが、基本的にランナーが食事制限で痩せるのはNGです。確かに食事制限は目に見えて痩せていくので手っ取り早いのですが、高確率でリバウンドします。
さらにランナーの中にも糖質制限をしている人もいますが、ランナーにとって糖質は重要なエネルギー源であり、これを減らすと十分な練習量を確保できません。そうなると軽くはなっても走力が落ちてタイムが伸びないどころか、不健康な体へと向かっていきます。
ランナーが痩せる方法として最適なのは、やはり「走る」ことです。走って消費するカロリーはとても小さいく、体重60kgの人が10km走ったところで、1回のランニングで600kcalしか消費しません。これを脂肪量に換算すると67gにしかなりません。
2週間くらい走ってようやく1kgほど体重が落ちます。1ヶ月で2kgの減量という計算になりますが、実際には運動した分だけ食べてしまうので1ヶ月で300km走ったところで、1kg落ちればいいところです。ランニングによる減量がいかに効率が悪いかがわかってもらえるかと思います。
でも、この方法で痩せた場合には、時間をかけて痩せていくのでリバウンドしにくいというメリットがあります。もちろん走るのをやめれば体重は戻ってしまうこともありますが、それでも食事制限よりも体に負担をかけることなく体脂肪を落としていけます。
しかも毎日10km走れば、毛細血管の拡張も行われるので持久力もアップします。目に見えて痩せないので継続するためのモチベーション確保が大変ですが、ランナーとして走れる体になりたいなら、小さな走り込みを積み重ねて体重を落としましょう。
体重管理をしっかりして自己ベスト更新を狙おう
体を絞ることの大切さ、どのようにして痩せればいいのかについて説明してきましたが、ここで大事になってくるのが、毎日体重を測定するということです。できれば推移も管理したいので、スマホ連携できるタイプの体組成計を購入しましょう。
予算に余裕があるならオムロンやタニタの1万円前後の体組成計を購入するのがおすすめですが、いま注目されているがプロスポーツチームも採用している、InFieldの体組成計です。価格は3,000円前後でもちろんスマホアプリにも対応しています。
それでいて13種類の健康項目(体重、BMI、体脂肪率、除脂肪体重、皮下脂肪、内臓脂肪、体水分率、骨格筋、筋肉量、ミネラル、タンパク質、基礎代謝、体内年齢)を測定できてしまいます。ここまで高機能で3,000円前後で、しかも日本人向けということでかなりおすすめの体組成計になります。
ちなみに体重や体脂肪率を計測するときに大事なのは、毎日同じタイミングで測るということです。ランナーの場合練習前後で体重が1kg以上変わることも珍しくありませんので、計測するタイミングを毎日変えていたのでは、何を測っているのかわかりません。
おすすめは朝起きてすぐか、お風呂に入る前です。理想は朝起きて体重を測り、そのあと朝ランに出かけるという流れですが、毎回同じタイミングで測れるなら朝にこだわる必要はありません。ただ、測定条件が安定するので朝に弱いタイプでなければ、起きてすぐに計測するのを習慣化しましょう。
いずれにしても大事なのは毎日計測するということ。現時点での体重を明確にすることで間食を食べるのをやめるようになるなど、自制心も働きます。さらに体重が減っていくことでモチベーションも上がります。体組成計でしっかり体重管理をして、徐々に体重を落としていきましょう。