
ランニングを始めたばかりの頃は、マラソン大会に出場するたびに自己ベスト更新して、自分はどこまでも速くなれるのではないかと思っていたのに、ある程度のところでタイムが向上しなくなる。それはランナーあるあるのひとつであり、ここを乗り越えられるかどうかでランニング人生が大きく変わってきます。
これまで自己流のトレーニングで速くなってきたランナーも、伸び悩みだしてからは理論的な練習方法が求められます。そこでここでは、マラソン大会で自己ベスト更新を狙うために、タイムを向上させる練習方法や理論についてわかりやすく解説していきます。
自己ベスト更新に必要な3つの要素

マラソンで自己ベストを更新するためには、練習量を増やすだけでは不十分です。大切なのはタイムを構成する要素を理解し、それぞれをバランスよく高めることです。ここでは、自己ベスト更新に欠かせない3つの要素について解説していきます。
持久力:42.195kmを支える土台
練習量を増やすだけでは伸びないとお伝えしましたが、42.195kmを走り切るための持久力を高めるにはとにかく走る必要があります。ひとつの目安となるのが1ヶ月600km。これだけの距離を走れば、持久力のポテンシャルを最大限に引き出せます。
実際にそこまで走るかどうかはともかくとして、1日20kmくらいは故障もなく問題なく走れる体になっていることが理想です。もちろんいきなりその距離を走れるわけもなく、段階を踏んで距離を延ばす必要があります。ただ、体を正しく鍛えていけば、1日20km、月間600kmまでは「走りすぎ」にはなりません。
マラソン大会のタイムは、ベースとなる持久力でほぼ決まります。ベースがないのにスピードを鍛えても自己ベスト更新には繋がりません。目指すタイムがどこなのかにもよりますが、伸び悩むランナーの多くが、走行距離が足りていません。
月間600kmとは言いませんが、壁を乗り越えていくために、少なくとも1週間に5日間は1日1時間のトレーニング時間を確保してください。
持久力を高めるためのトレーニング
- イージーラン(Eペース・ジョグ)
- LSD
- ロング走
Mペース耐性|目標ペースで走り続ける力
持久力という土台と同じくらい重要になるのが、Mペース(マラソンペース)で走り続けられる力です。たとえばサブ3を狙う場合のMペースは4分16秒/kmなので(スタートロスがあるので実際はもっと速いペースですが)、求められるのは4分16秒/kmで42.195kmを走り続ける力です。
自己ベスト更新を狙うランナーが、スピードを付けようとして、キロ3分台で短い距離を走ることがあります。この練習方法が間違っているとは言いませんが、それで身につくのはキロ3分台で短い距離を走る力であり、それはマラソンのタイムとはまったく別物になります。
スピードを出して追い込むのではなく、Mペースに慣れること、Mペースで余裕を持って走れるようになることを目指しましょう。
Mペース耐性を高めるためのトレーニング
- ペース走
- 目標ペースでのロング走
- ビルドアップ走
最大出力|効率よく走るための引き上げ役
マラソンのペースは、体重と筋力で決まります。「F=ma」という公式を物理の授業で学んだ記憶があると思いますが、ここでの「a」は加速力で、大雑把に言えばこれがペースになります。このとき「m」が体重で、「F」が筋力です。
公式を入れ替えると「a=F/m」となり、ペースを上げるには「筋力を上げる」もしくは「体重を落とす」必要があります。体重について説明すると長くなるので、ここでは割愛します。ここではマラソンのペースを上げるためには「筋力(最大出力)を上げる必要がある」と認識してください。
必要以上にスピードを出して走っても意味がないとお伝えしましたが、最大出力をあげて最大スピードを向上させれば、必然的にMペースが楽に感じるようになります。このため、自己ベスト更新を狙うなら、最大出力を上げるためのトレーニングが必要になるというわけです。
最大出力を高めるためのトレーニング
- インターバル走
- レペティション
- 坂ダッシュ
- 筋トレ
タイム向上に直結する基本トレーニング

自己ベスト更新に必要な3つの要素は、どれかひとつだけを鍛えるのではなく、バランスよく鍛える必要があります。そして、それらをバランスよく鍛えるには、目的意識を持ったトレーニングを行わなくてはいけません。そこでここでは、タイム向上のために必要となる基本のトレーニング方法について解説していきます。
イージーラン(Eペース走・ジョグ)
ランニングトレーニングの90%はこのトレーニングです。強度は最大心拍数の65~78%で、会話して走れるくらいのペースで、30〜90分程度行います。
このトレーニングを行うことで、毛細血管が拡張され、筋肉(細胞)に対してより多くの酸素をすみやかに届けられるようになります。また、心筋も骨も強化されるので、長時間走り続けられる体づくりの土台となる、とても重要なトレーニングになります。
ペース:会話ができる余裕のある速さ
時間:30〜90分
頻度:週2〜4回
ロング走(距離走・時間走)
持久力を高めるためのトレーニングで、20〜30kmの距離を2〜3時間かけて走ります。ここで大事なのはスピードを出すのではなく、「走り続ける」こと。立ち止まるのはNGです。このため、河川敷や公園など信号がない場所でトレーニングを行う必要があります。
当然のことですが、最後まで無理なく走れる体ができていることが、トレーニングを実施するための大前提となります。いきなり長い距離で行うのではなく、まずは20kmからはじめて、10%ずつ距離を延ばしていきましょう。
距離:20〜30km
時間:2〜3時間
頻度:2〜3週間に1回
ペース走
マラソンの目標タイムからペースを算出し、そのペースで8〜15kmで走ります。まずはペースに慣れることが重要です。このため長い距離を走る必要はありません。走り終えて余裕が残っているくらいの距離からはじめて、10%ずつその距離を延ばしていきましょう。
ペース:目標マラソンペース〜やや遅め
距離:8〜15km
頻度:週1回
目標ペース入りロング走
ロング走の最後の10kmをMペースで走ります。体に疲労が溜まった状態でペース走を行うことになるので、レース後半でもペースを落とさないで走るためのトレーニングになります。
例
• 25km中、後半10kmを目標ペース
• 30km中、20km以降をビルドアップ
インターバル走
心肺機能と筋力アップのためのトレーニングです。ペースとレスト、本数の組み合わせによって、得られる効果は異なるため、本来は目的に合わせた内容で行う必要があります。ただ、共通しているのはMペースよりも速いペースで走るということです。
このとき重要なのが「全力で走らない」ことと、「フォームを意識する」ことです。フォームが崩れてきたら、目標としていた本数に達していなくても終了しましょう。
例
・1km × 3〜5本(5〜10kmのレースペース)
• レスト:ジョグ2〜3分
• 頻度:週1回
ビルドアップ走
10〜15kmの距離を徐々にペースを上げて走るトレーニングです。心肺機能やスピード持久力向上、効率的な持久力向上などの効果が期待できます。ただ、どれくらいのペースでどれくらいの距離を走ったらペースアップするのがベストなのか、どこまでペースを上げるのかを自分なりに体で覚えていく必要があります。
ペース:徐々にペースを上げる
距離:10〜15km
頻度:週1回
坂ダッシュ
反発力をもらえる走り方を身につけ、さらに心肺に対して高い負荷をかけられるトレーニングです。高負荷トレーニングですので、1本の距離は短くてもOK。頻度も1ヶ月に2〜3回程度で構いません。50〜100m程度の距離でダッシュを繰り返しましょう。
距離:50〜100m
本数:5〜8本
頻度:2週に1回程度
【目標別】おすすめ練習の組み立て例

ここでご紹介したトレーニングは、適当に組み合わせたのでは効果を最大化することができません。そこでここでは、サブ3.5とサブ4それぞれで、どのようにトレーニングメニューを組み立てればいいのか、その例をご紹介します。
サブ4(4時間切り)を目指すランナー向けメニュー例
マラソンペース:5分41秒/km
最重要課題:レース後半に歩かない脚づくり
| 曜日 | メニュー | 内容・ポイント |
|---|---|---|
| 月 | 休養 or イージーラン | 30〜40分ゆっくり |
| 火 | ペース走 | 8〜10km(5:45〜5:50/km) |
| 水 | イージーラン | 40〜60分 |
| 木 | ビルドアップ | 8〜12km(後半やや速く) |
| 金 | 休養 | 完全オフ |
| 土 | イージーラン | 30〜45分 |
| 日 | ロング走 | 20〜30km(6:10〜6:30/km) |
1週間の練習例(サブ4)
サブ3.5(3時間30分切り)を目指すランナー向けメニュー例
マラソンペース:4分58秒/km
最重要課題:レースペース耐性の強化
| 曜日 | メニュー | 内容・ポイント |
|---|---|---|
| 月 | 休養 or イージーラン | 30〜40分 |
| 火 | ペース走 | 10〜15km(5:00/km前後) |
| 水 | イージーラン | 60分 |
| 木 | インターバル | 1km×4〜6本(4:10〜4:20/km) |
| 金 | 休養 or ジョグ | 疲労次第 |
| 土 | イージーラン | 45〜60分 |
| 日 | ロング走 | 25〜32km(後半10kmをMペース) |
1週間の練習例(サブ3.5)
レース本番につなげる仕上げ方

伸び悩むレベルまで走力が上がってくると、レースに向けての調整が結果に大きな影響を与えます。どれだけ質の高いトレーニングを行ってきても、ここでの練習方法を間違えると、すべてが水の泡になってしまいます。
そうならないためには、レース本番に向けて仕上げていく必要があります。そのときに重要な考え方が「量を減らして質を残す」ということです。量を減らすのは当然ですが、そのとき質まで落とさないようにしてください。
そして、疲労を抜くことに意識を集中させましょう。疲労が残っていたのでは、レースで本領発揮することが難しく、後半に失速する可能性が高まります。ただ、疲労を抜きつつも質の高いトレーニングは継続してください。
レース本番につなげる仕上げ方については、別記事でもっと詳しく解説していきますので、しばらくお待ち下さい。とりあえず現状では、「質を落とさず量を減らす」ことだけ頭に入れておきましょう。
タイムが伸びない人がやりがちな練習でのミス

練習方法がわかっても、実際にそれを取り組むのは人間ですので、ついつい自己流のやり方を導入したくなります。創意工夫はいいことですが、間違ったやり方をすることで、トレーニングが無駄になってしまうこともよくあります。
具体的にどのようなミスを練習でしてしまうのか、詳しく見ていきましょう。
設定よりも速いペースで走ってしまう
トレーニングの目的をきちんと把握していないランナーがやってしまいがちなミスなのが、「調子がいいから」「速く走りたい気分だから」といって設定ペースを無視して速く走ってしまうことです。それにより疲労が溜まってしまって、トレーニングの質が下がったり、ケガを招いたりして、トレーニング効果を下げてしまうことが多々あります。
イージーラン(ジョグ)は設定ペースよりも遅くなるのはOKですが、速くなるのは絶対にNG。そこに「がんばった感」は必要ありません。
また、トレーニングで設定ペースを守れないランナーは、レースでも設定ペースを守れず、後半になって失速します。自分をコントロールする力を付けるためにも、設定ペースは必ず守ってください。
練習内容が毎週ほぼ同じ
トレーニングメニューをいろいろ体験すると、自分の好きなメニューや嫌いなメニューが出てきます。ランナーも人間ですから嫌いなメニューを避けて好きなメニューだけを行い、結果的に毎週ほぼ同じ練習内容になってしまいがちです。
そうなると体が刺激に慣れてしまい、トレーニング効果が下がってしまいます。週ごとにポイント練習の内容を変えたり、イージーランのコースを変えたりするなどして、トレーニングの刺激を新鮮なものにしていきましょう。
ロング走をやりすぎる
月間走行距離が長いほど走力が上がります。ただ、距離はイージーランで延ばすものであり、負荷の高いロング走で距離を稼ぐのはNGです。ロング走は1ヶ月に1〜2回が限度。それ以上は疲労が溜まってトレーニング全体の質が下がってしまい、ロング走をしないほうが走力が上がるなんてことにもなりかねません。
さらに頻度の高いロング走はケガのリスクも高まります。月間走行距離を延ばしたいなら、距離を延ばすのではなく、トレーニング回数を増やしてください。
回復を軽視してトレーニングしている
たくさん走っていないと不安になって、睡眠時間を削って走っているランナーもいますが、まったく意味のないことをしているだけです。トレーニングと睡眠は常にセットで、眠る時間がないならトレーニングをしてはいけません。
また、疲労感があるのに、決めたことだからと無理してポイント練習を行うのもNGです。疲労を翌週に持ち越さないというのがトレーニングの基本となります。「回復していないならトレーニングしない」を意識して、必要に応じて走らない日、リカバリーに全振りする日を作ってください。
データに振り回されすぎる
データを重視してトレーニングするのは大切なスタンスですが、それはトレーニングの振り返りをするときの話で、トレーニング中はデータよりも感覚を大切にしましょう。設定ペースを出すのが苦しいと感じたらペースを下げてみる。心拍数そのものよりも、苦しさの感覚を重視する。
ランニングウォッチに表示されているデータに振り回されないこと。大事なのは自分の感覚です。きちんと体と対話をして、臨機応変に調整しながらトレーニングメニューをこなしていきましょう。

まとめ|目的を意識したトレーニングメニューで自己ベストを更新しよう
マラソンで自己ベストを更新するために必要なのは、闇雲に走り続けることではありません。大切なのは走力アップのための3つの要素を意識してトレーニングメニューを組むことです。
- フルマラソンを走りきれる持久力を土台として作る
- レースペース耐性を高める
- 最大出力を上げて走りの効率を引き上げる
この3つをバランスよく積み重ねましょう。
そのうえで、目的に合わせたトレーニングを行ってください。このとき、体に疲労が残らないようにするのも重要です。自分の走力に見合った負荷のトレーニングを行い、ゆっくり時間をかけて走れる体を作っていきましょう。
