日本一早いマラソンレポート「奈良マラソン2017」

ゴールまで起こり5mのところで、無情にも1人のランナーが関門アウトになりました。並走していた有森裕子さんが、関門のテープをすり抜けさせてゴールさせようとしましたが、大会側はこれを認めずその女性はゴールできませんでした。

ここに奈良マラソンの魅力、奈良マラソンが多くのリピーターを抱えている理由を見ることができました。

最後まで走らせてあげればいいじゃないか。そう思うかもしれませんが、その言葉は「マラソンとは何か」という本質を忘れています。

マラソンとは自分との戦いです。トップアスリートは別として、基本的にはみんな誰かと競うのではなく、自分自身に負けないように走ります。むしろ周りにいるランナーたちは、同じ目的に向かっている仲間です。

1人では折れそうになる心。周りのみんなが頑張っているから自分も頑張れます。

奈良マラソンは、その気になればフラットなコースを作ることもできます。かなり南側まで奈良の大動脈を止めることになりますが、やろうと思えば高速コースを作れますが、奈良マラソンはそれを選びませんでした。

苦しいコースだからこそ挑みがいがあります。

自己ベストを出したいならフラットなコースを走っていればいいんです。でも奈良マラソンが伝えたいことはタイムなどではなく、走ること、挑戦することの素晴らしさなのではないでしょうか。

このコースはフルマラソンとしては驚くほどアップダウンがあります。全国のマラソン大会に出たわけではありませんが、これほどまでに厳しいコースは過去に経験したことがありません。

上っては下ってを繰り返すのですが、走りきるには絶対に下りで飛ばしすぎない強い気持ちが大切です。上りで顔を上げない忍耐力が求められます。ランナーは何度も何度も気持ちの強さを試されます。

難点を挙げるとするなら、コース幅の狭さくらいでしょうか。1万2千人が走る大会で、片側1車線しかないためすぐに前が詰まります。

それに対して、エイドの位置が見事なまでに絶妙な配置となっています。距離よりもコースに合わせて「今ここにあると助かる」という場所に設置されていて、それ以上長いとランナーが苦しくなるギリギリの場所です。

また、他の都市マラソンのように、地元の銘菓をいくつも並べたりはしません。ぜんざいがでるエイドと、三輪素麺のでるエイドがありますが、それ以外には特別なエイドはありません。

奈良ですので笹ずしくらい出てもおかしくないのですが、位置づけとして「これはマラソン大会だ」というところからブレないようにしているのでしょう。レース中のぜんざいと素麺というのも糖分と塩分、そして炭水化物とよく考えられています。

救護の人たちもきつくなったランナーに簡単には声をかけません。それは、仕事を放棄しているわけではなく、きちんと見守ってはいますが、必要以上に「大丈夫ですか」とは言いません。自分で乗り切るべき苦しみなのか、それとも本当に危険なのかを見極めて対応しています。

それには賛否があるかもしれませんが、マラソンは本来孤独な競技です。自分自身に何があっても自分でなんとかしなくてはいけません。マラトンからアテナイまで駆け抜けた兵士に、もちろんサポートはありませんでした。

必要最低限のサポートは全力で行う。「あとは自分自身と向き合ってなんとかしろ」それは突き放しているようですが、マラソンを愛するからこそ、そのようなスタンスを取るのでしょう。

助けることは簡単です。でもそれは本当にマラソンなのか?

フラットで走りやすくてタイムの出るコースを提供するのは、マラソンの本質から考えると、少しやりすぎのように感じます。もちろん、人間がどこまで速く走れるのかを知りたいという気持ちもあるのでしょうが、そんなコースばかり走っていると、ランナーは弱くなります。

スピードは速いかもしれませんが、人間としての強さはなくなります。

今回、レースで何人かのランナーがナイのヴェイパーフライ4%を履いていました。決して安易に「速く走れるから」という理由で選んだのではないと思いますが、シューズや道具でなんとかしようというのであれば、それは奈良マラソンのスタンスとはちょっとずれているような気がします。

いまの自分を超えていきたい。昨年までの自分を超えていきたい。ここに集まるランナーの多くは、きっとそんな想いを持ってスタートラインに並んでいるのではないでしょうか。

もし今年思うような走りができなければ、その悔しさをバネにして成長する。そしてまた1年後に、まったく変わった自分になって戻ってくる。奈良マラソンはそういう良い循環を期待している大会のように感じました。

ゴール直前、たった1人を見逃すことは簡単です。

でもそれはもうマラソンではありません。うまくいったことだけではなく、うまくいかないことも含めてマラソンです。完走できなかったなら、「次こそは」の気持ちを持ってもらうほうが、ランニング人生においては重要です。

少なくとも奈良マラソンはそう考えているように伝わってきました。それが絶対ではありません。もっと違うスタンスのマラソン大会があっても問題ありませんし、それでこそマラソン大会に幅が出てきます。

でも奈良マラソンの人気が高いのは、そのような厳しさと優しさが込められている大会だからではないでしょうか。マラソン大会に人を呼ぼうとすると、ついついランナーに優しい大会にしがちですが、その真逆でも成立させる方法があることを奈良マラソンが示しています。

ただ、厳しいだけでなく活気のあるEXPO会場や、全力で応援してくれる沿道の人たちやボランティアさん。レース前に配られるレインコートや、徹底したゴミの回収など、ホスピタリティの高さはさすが観光都市と思わされるところがいくつもあります。

レースは厳しく、サービスは温かく。

そこに惹かれてリピーターが増えていく大会。奈良マラソンは先着順ですが、しばらくは厳しいクリック合戦が続くような気がします。願わくば、ゴール直前で止められた彼女が、また来年もスタートラインに立ってもらいたい。

そして次は笑顔でゴールしてくれることも重ねて期待しています。

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