川内優輝選手のボストンマラソンでの優勝が大きく取り上げられましたが、それから時間を空けずして開催されたロンドンマラソン。そこでは、信じられないような結果がマラソンの世界を大きく揺るがすことになりました。
それは男子1位〜7位までの選手と、女子の1位と3位の選手がすべてナイキ ヴェイパーフライを履いていたということです。(女子の2位はNike Zoom Streak)
昨年の発売以降、世界のメジャー大会を席巻してきたナイキ ヴェイパーフライですが、ここにきてシューズへの適合が出来始めたランナーが増え、さらに勝てるシューズの地位を確立しています。
その中でも注目されているのが、トップアスリートでもあるキプチョゲ選手の足を支えた最新シューズ「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリント(Nike Zoom Vaporfly Elite Flyprint)」でした。
このシューズは、昨年のベルリンマラソンで発覚した「雨に弱い」というヴェイパーフライ エリートを改善したモデルで、ポイントはアッパーを3Dプリントで製作したことにあります。
3Dプリンタというのは、溶かした素材を積層しながら立体形状を作っていく技術です。
数年前まではフィギュアを作ったり、ちょっとした部品を作るのに使われていましたが、そこから大幅に進化した結果、実際のプロダクトに使われるくらいの高品質製品を作り出すことができるようになっています。
これまでのランニングシューズアッパーは基本的に布や糸で作られていました。この場合、編み込みの密度を部分的に変えるのが難しいため、一般的にはいくつかのパーツに分けて作ります。
そうなると、接合部が発生するためシューズが重くなります。それを改善するためにニット素材のシューズも作られていますが、ニット素材ではアッパーの強度が足りず、トップランナーのシューズとしては向いていません。
接合のない1枚のアッパーで、強度を保ちながらも部分的に強度を変える。なおかつ通気性を高めて雨に負けないシューズにする。それを実現させたのがナイキの3Dプリント技術でした。
この技術を用いたことで、ナイキ・ヴェイパーフライは十分な強度と通気性を実現した上で、過去のモデルよりも11gの軽量化に成功しました。たった11gと思うかもしれませんが、最新のシューズはすでに限界まで軽くなっているため、1gを削ることさえ困難です。
それが11gも軽量化できたというのは、驚くべきことです。
3Dプリンタを使った技術のすごいことは、開発スピードの早さにあります。開発段階で製作されたプロトタイプをキプチョゲ選手に履いてもらい、ランナーとしての意見を出してもらっています。これが2018年2月28日のことです。
その意見を反映したモデルが、キプチョゲ選手の手元に届いたのが9日後の3月9日です。そこからさらにテストを重ねて、さらなるバージョンアップをしたモデルが、4月22日にロンドンマラソンでお披露目となりました。
最初のテストから2ヶ月もかからずに、レースに投入できるスピード感。これまでのシューズ開発では考えられない早さです。
そしてもっと驚くべきことは、キプチョゲ選手がナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントを履いて、2時間4分17秒という好タイムで優勝をしたということです。
世界記録には届きませんでしたが、体感気温が27℃だったことを考えれば尋常ではないタイムであることが分かるかと思います。
本来であれば1年以上かけておこなうシューズ開発が、3Dプリントによってたった2ヶ月という短期間で完了しました。もちろん、最初のプロトタイプができるまでの開発期間もありますが、このノウハウが確立されたことでシューズそのもののあり方が変わってきます。
3Dプリント技術を活用すれば、契約選手の1人1人にフィットしたランニングシューズを作ることができます。
人の足はそれぞれ形が違います。ところが、3Dプリント技術なら足型を計測することで、どの部分に補強を入れるべきかを計算し、さらに足の形に合ったアッパーをプリントアウトできます。
今回のようにプロトタイプを作り、そこからフィット感だけでなくカラーも好みに合わせてカスタマイズできます。
私たち市民ランナーがその恩恵を受けられるのは、おそらくもう少し未来になるかと思います。それでもナイキショップで足型の計測を行い、1週間後には自分の足に最適なシューズを手にすることができる未来が見えてきます。
50年後くらいには、スマホで測定したデータを送れば、それを元に作った世界でひとつだけのシューズが、翌日に家に送られてくるという時代がやってくるかもしれません。
ちなみに、このナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントはロンドンマラソンに合わせて、ナイキアプリを通じた販売が行われました。日本での発売予定はありませんが、いずれ限定発売などもされる可能性はあります。
足型の測定なしで販売されるナイキ ズーム ヴェイパーフライ エリート フライプリントには、その本当の魅力が半減してしまいますが、すでに発売されているヴェイパーフライ4%を超えるパフォーマンスが期待できます。
もうこれ以上の進化はないと思われたナイキ ズーム ヴェイパーフライですが、新しい技術の導入により、驚異的なランニングシューズが誕生しました。そして、これはまだスタートラインに過ぎないことを予感させられます。
ナイキ ズーム ヴェイパーフライはきっとさらなる進化を遂げて、2018年以降もマラソン界を席巻し続けることになるはずです。
履けば誰でもタイムが伸びるというシューズではなく、それに合わせたランニングフォームの改善や、結果を出すためにしっかりとした練習を積まなければ結果を出すことはできません。
ただし、それらの努力に見合っただけのリターンが得られるシューズでもあります。
市民ランナーである私たちは、しばらくフライプリントを入手できません。それどころかヴェイパーフライ4%ですら入手困難です。妥協というわけではありませんが、もしその技術に触れたいのであれば、ナイキ ズーム フライもおすすめです。
直営店やランニングショップなどで購入可能で、なおかつ価格もお手頃です。もちろんナイキの最新技術が詰め込まれた1足です。最高の走りをサポートしてくれるランニングシューズ。来シーズンの勝負シューズとしていかがでしょう?